『杉山流三部書 医学節要集』には、杉山流医学の生理学が記されており、当会講座『医書五経を読む』でもテキストとして使用したことがあります。
杉山流医学は明代医学を多く取り込んだ形跡も窺え、伝統医学・伝統鍼灸を学ぶ鍼灸師は目を通しておくべき医書と言えます。
本章では「三焦」について、杉山流医学の三焦論について垣間見ることができます。
Contents
三焦のこと

※画像は『医学節要集』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。
『医学節要集』 三焦のこと
書き下し文・『医学節要集』 三焦のこと
夫れ三焦は水穀の道筋(みちすじ)を主りて、食物を墾(こな)す、則ち上焦・中焦・下焦の三つを合して三焦と云う。其の上焦・中焦・下焦の三に分くる事は、天地人の三才のある意(こころ)也。然る則(とき)は、腎間の動氣は天に日月有るが如し。日月有るが如しとは、譬えば草木滋(うるおい)出(いで)、物の日に干して乾くと云うも、是れ日月の恵みに非ずや。
前に書き記す所は、燈火(ともしび)を以て腎間の動氣の事を云う。
爰(ここ)に専ら三焦を言う所以(ゆえん)にして日月を以て諭(たとえ)とす。
然る則は燈火有りて其の座敷を明らかなりと云うも亦た日月の恵みに因りて草木滋(うるおい)出(いで)、物の日に干して燥くと云も同意(おなじこころ)なり。
案ずるに、三焦と腎間の動氣とは元一体也と雖も、分れたる所を以て是れを譬えるに、燈火有りて、其の座敷明らかなる所、又日月の恵みに因りて草木潤い、物の日に干して乾く所、是れ則ち三焦也。故に三焦遍満の氣と云う。
『難経』に曰く、三焦は名有りて状(かたち)無し。泡の如く霧の如しと言いしも、此の意(こころ)にて非ずや。
三焦は医道第一の口伝なれば、其の理博(ひろく)して限りなし。故に大抵を記すなり。
『霊枢』十八篇、又は『難経』三十一の難を見る則は審らかに知るべし。此の三焦と云うは、畢竟下焦が根本也。下焦は直に腎間の部也。
生命を理解するということ・その4
三焦は水穀の道路
第一章・第二章、そして前章(第四章)に続く“生命を理解するということ・その4”です。本章では、三焦について説かれています。
歴代の医家たちが論議してきた「三焦」について、杉山流ではどのような三焦論を採用してきたのでしょうか?
「三焦は水穀の道路」であることは『難経』三十一難の記述です。水穀の道路とは、摂取した飲食を“消化” “吸収” “代謝” する機能を指しているとみて良いでしょう。
しかし、消化・吸収・代謝の一連の活動だけでは(脾胃の機能として説明可ではあるが)三焦そのものを説き明かすことはできません。
三焦は名有りて形無し
三焦は「有名而無形」である。この言葉もよく知られていますね。この記述は『難経』三十八難に記されています。
三焦という名称はあるが、形を有するものではない。つまり機能としてみるべき一面を持っているとも解釈できます。
この点についての詳しくは本記事では割愛します。
三焦と腎間動氣
「案ずるに、三焦と腎間の動氣とは元一体也…」という説は、杉山流が採用した三焦観を明確に示す一節だといえるでしょう。
三焦は「水穀の道路」でもあり、「腎間動氣」とは分かたれた存在とはいえ、同じ相火を有する生命活動の原動力でもあります。それ故に「三焦遍満の氣」という言葉は重要なキーワードとなります。
私見ですが、以上の三焦観を共有している江戸期の日本医学諸派は多いように感じます。この点については、今後調べていきたいところです。
鍼道五経会 足立繁久
腹の見様のこと・前半 ≪ 腹の見様のこと・後半 ≪ 食物胃腑へ受け消化道理のこと ≪ 三焦のこと ≫ 井栄兪経合のこと
原文 『醫學節要集』三焦之事
■原文 『醫學節要集』三焦之事
夫れ三焦は水穀の道筋を主て食物を墾す則ち上焦中焦下焦の三を合して三焦と云。其上焦中焦下焦の三に分る事は天地人の三才のある意也。然る則は腎間の動氣は天に日月有が如し。日月有が如しとは譬ば草木滋出物の日に干て乾くと云も是日月の惠みに非ずや。前に書記す所は燈火を以て腎間の動氣の事を云。爰に専ら三焦を言所以にして日月を以て諭とす。然る則は燈火有て其座敷を明かなりと云も亦日月の惠みに因て草木滋出物の日に干て燥くと云も同意なり。
案ずるに三焦と腎間の動氣とは元一體也と雖𪜈分れたる所を以て是を譬るに燈火有て、其座敷明かなる所、又日月の惠に因て草木潤ひ、物の日に干て乾く所、是則三焦也。故に三焦遍滿の氣と云。
難經に曰く三焦は名有て狀無し。泡の如く霧の如しと言しも、此意にて非ずや。三焦は醫道第一の口傳なれば其理博して限なし。故に大底を記すなり。靈樞十八篇又は難經三十一の難を見る則は審かに知べし。此三焦と云は畢竟下焦が根本也。下焦は直に腎間の部也。
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