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儒門事親とは
儒門事親にも三陽頭痛に関する記述がある。
王好古・羅天益・李時珍・劉完素と、金元時代を代表する医家たちの頭痛論について調べてきた。ここで金元四大家のひとり張子和(張従正)の医書『儒門事親』についても調べておきたい。
張子和は金元四大家の中で“攻下派”とも称され、攻下すなわち駆邪を重視する医家として知られている。以下に紹介する「雷頭」「頭痛不止」「両目暴赤」「目腫」「病目経年」「風衝泣下」の六項目からも、張子和の治病スタイル、そして彼の医学の自在さが感じ取れるだろう。

※『儒門事親』(京都大学付属図書館)より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。
書き下し文・雷頭 三十六
書き下し文・雷頭 三十六
夫れ“雷頭懶子”とは、乃ち俗の謬名也。此の疾、是れ胸中に寒痰に有りて、多沐するの然ることを致す也。可茶調散を以て之を吐すべし。冷痰三二升を吐し訖(おわ)りて、次に神芎丸を用いて下すこと三五行。然る後、“愈風餠子”を服すれば則ち愈える。
雷頭とは、是れ頭上の赤腫核、或いは生姜片、酸棗の状の如し。䤵鍼(鈹鍼)を用いて刺して血を出だすべし。永く根本を除く也。
雷頭について
劉完素が『素問病機氣宜保命集』に記していたことは「夫治雷頭風者、諸薬不効、為与証不相対也。夫雷頭風者、震卦主之。……」である。
この文には、具体的な病態については触れられていない。「諸薬不効」「与証不相対也」という。
張子和(従正)は「此疾是胸中有寒痰、多沐之致然也。」として、具体的に病位・病邪を指摘しており、それに対する処方まで明記している。
この違いはなぜか?
やはり張子和の治病スタイルに目を向けたい。因たる病邪・病位を明確にし、それを駆邪することに主眼においている。故に本章「雷頭」においても、その治法に「吐法」「出血」とあり、体外に駆邪することが明確となっている。
書き下し文・頭痛不止 三十七
書き下し文・頭痛不止 三十七
夫れ頭痛止まざるは、乃ち三陽の病を受くる也。三陽は、各々部分に分かつ。
頭と項と痛む者、足太陽膀胱の経也。攅竹痛、俗に眉稜痛と呼ぶ者、是れ也。
額角上の痛むは、俗に呼びて偏頭痛と為す者、是れ少陽経也。
如(も)し痛み久しく已えざれば、則ち人をして目を喪わしむ。
三陽の受病、皆な胸膈の宿痰有るの然ることを致すを以て也。
先ず茶調散を以て之を吐し、後に香薷散、白虎湯を以て之を投ずれば則ち愈る。
然して頭痛の止まざるは、将に葱白鬚豆鼓湯をして之を吐すべし。吐し訖(おわ)りて、川芎・薄荷の辛涼を服して上を清すべし。捜風丸・香芎散の類。
仲景が曰く、葱根豆鼓、亦た傷寒頭痛を吐す。
叔和が云く、寸脈急而して頭痛む是れ也。
頭痛を三陽に分類
「頭痛不止」の章では、頭痛の病位を三陽に区分している。
本文では「太陽」「少陽」の二陽が記されており、陽明の名はみえない。
頭痛については「攅竹痛・眉稜痛(太陽経)」「偏頭痛(少陽経)」の二種が記されており、陽明頭痛については記されていない。しかし「頭與項痛者、足太陽膀胱之經也。」とあるように、他二経(少陽・陽明)についても推して知るべしであろう。
書き下し文・両目暴赤 三十八
書き下し文・両目暴赤 三十八
夫れ両目暴赤、痛を発し止まず、長流水を以て鹽湯を煎じて之を吐すべし。次に神芎丸、四物湯の類を服す。
『内経』に曰く、暴病は皆な火に属す也。
又曰く、治病に緩急あり、急とは則ち其の標を治す、緩とは則ち其の本を治す。標とは赤腫也。本とは火熱也。草茎を以て鼻中に血を出だす。最も妙なり。
治療の緩急と病の標本
治療の緩急について、治療の緩急と病の標本について分かりやすく説明されている。
草の茎を用いて鼻出血を起こし、頭目から血熱を出だす捷法から、張子和の医学の自在であるさまが伝わる。
書き下し文・目腫 三十九
書き下し文・目腫 三十九
夫れ目暴赤腫痛し、開くこと能わざる者、清金散を以て鼻内に之を搐す。鼻内出血すれば更に捷し。
鼻から出血させるということ
ここでも鼻出血を治療に応用している。ここから鼻出血の意義、頭・脳という部位がもつ特殊性・治病の限定性がみえてくる。そして頭痛という症状の複雑さもみえてくることだろう。
書き下し文・病目経年 四十
書き下し文・病目経年 四十
夫れ赤目を病みて、年を経て愈えざる者は、是れ頭風が之に加うる所、人をして頭痛せしむる。
独聖散・八正散の類を用うべし。赤目腫を作するは、是れ足厥陰肝経の有熱。小便を利すれば能く肝経風熱を去る也。
病位を知りつつも、駆邪の方向を考える
病位・病邪については「厥陰肝経有熱」を説いているが、その治法・駆邪法として、利小便を指定している点が興味深い。このことは鍼灸師にとっても有益な情報である。
書き下し文・風衝泣下 四十一
書き下し文・風衝泣下 四十一
夫れ風衝泣下とは、俗に風冷泪と呼ぶ者、是れ也。
『内経』に曰う、太陽経の禁固せざる也。
又曰く、熱すれば則ち五液皆な出でる。
肝熱す故に泪出でる。風は外に衝き、火は内に発す。風火相い搏てば、此に由りて泣下する也。
之を治するに貝母一枚を以てす。白膩なる者は、胡椒七粒、不犯銅鐵、細く研す。臨卧に之を点す、愈ゆる。
目から涙が出ること
「風衝泣下」とは見慣れない症候名である。この風衝泣下は「風冷泪」ともいう。おそらくは「迎風流涙」のこれに類するものであろうか。
いずれにしても肝木の証に属する。肝熱に対して貝母を用い、貝母がもつ清熱を利用している。他にも胡椒・銅鐵(鋼鉄の記載もあるが)を用いる点も参考にすべきであろうか。
鍼道五経会 足立繁久
原文 儒門事親巻四 三十六~四十一
■原文 儒門事親 巻四
雷頭 三十六
夫雷頭懶子、乃俗之謬名也。此疾是胸中有寒痰、多沐之致然也。可以茶調散吐之。吐訖冷痰三二升。次用神芎丸、下三五行、然後服愈風餠子則愈矣。雷頭者、是頭上赤腫核、或如生薑片、酸棗之状。可用䤵針刺而出血、永除根本也。
頭痛不止 三十七
夫頭痛不止、乃三陽之受病也。三陽者、各分部分。頭與項痛者、足太陽膀胱之經也。攅竹痛、俗呼爲眉稜痛者是也。額角上痛、俗呼爲偏頭痛者、是少陽經也。如痛久不已、則令人䘮目。以三陽受病、皆胸膈有宿痰之致然也。先以茶調散吐之、後以香薷散、白虎湯投之則愈。然頭痛不止、可將葱白鬚豆鼓湯吐之、吐訖、可服川芎薄荷辛涼清上、捜風丸香芎散之類。仲景曰、葱根豆鼓、亦吐傷寒頭痛。叔和云、寸脉急而頭痛是也。
兩目暴赤 三十八
夫兩目暴赤、發痛不止、可以長流水煎鹽湯吐之、次服神芎丸、四物湯之類。内経曰、暴病皆属火也。又曰、治病有緩急、急則治其標、緩則治其本。標者、赤腫也。本者、火熱也。以草莖鼻中、出血最妙。
目腫 三十九
夫目暴赤腫痛、不能開者、以清金散鼻内搐之。鼻内出血更捷。
病目經年 四十
夫病赤目、經年不愈者、是頭風所加之、令人頭痛。可用獨聖散、八正散之類。赤目腫作、是足厥陰肝經有熱。利小便能去肝經風熱也。
風衝泣下 四十一
夫風衝泣下者、俗呼風冷泪者是也。内經曰、太陽經不禁固也。又曰、熱則五液皆出。肝熱、故泪出。風衝於外、火發於内、風火相搏、由此而泣下也。治之以貝母一枚、白膩者、胡椒七粒、不犯銅鐵、研細、臨卧点之、愈。
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