Contents
2つの大接経の違いとは?
本記事では王好古の「大接経」なる鍼法を紹介しよう。大接経には「従陽引陰」と「従陰引陽」との二項目に分けて記載されている。しかしその内容は十二経の井穴に関する情報であり、一見したところ両者の違いはあまり感じられない。
しかしよく読むと十二経の記載する順序が違う。ここに王好古の深意があるのではないか?と考察してみた。まずは本文を読んでみよう。
※『此事難知』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。
此事難知 大接経 従陽引陰の書き下し文
書き下し文・大接経、従陽引陰
足太陽膀胱経の脈は至陰より出づ。小指外側を爪甲角を去ること韮葉の如し、井金を為す。足小指の端也。(十呼)
足少陰腎の脈は湧泉足心也。小指の下に於いて起こり、斜めに趣く(三呼)
手厥陰心包の脈は其の直なる者は、中指を循り其の端に出づ。爪甲を去ること韮葉の如し。陥中を中衝の穴と為す也。其の支なる者は掌中に別れて小指次指を循り其の端に出づる。
手少陽三焦の脈は小指次指の端に於いて起き、爪甲の角を去ること韮葉の如し、井と為す(三呼)
足少陽胆の脈は竅陰に於いて起こる、小指次指の端、爪甲を去ること韮葉の如し、井と為す。
其の支なる者は上りて大指岐骨の内に入りて其の端に出づる、還りて爪甲を貫きて三毛に出づ(三呼二十呼)
足厥陰の脈は大指の端に於いて起き、聚毛の際に入る、爪甲を去ること韮葉の如し、井と為す、大敦穴也。及び三毛中(十呼六呼)。
手太陰肺経の脈は大指の端に於いて起き、少商に於いて出づる、大指の内側也。爪甲を去ること韮葉の如し。井と為す。
其の支なる者は次指の内膁に出で其の端に出づる。
手陽明大腸の脈は大指次指の端に於いて起き、次指の内側に入る。爪甲角を去ること韮葉の如し。井と為す(二呼)。中指の内に交わる(三呼)
足陽明胃の脈は大指次指の端に於いて起こる、爪甲を去ること韮葉の如し。井と為す。
其の支なる者は大指の間、其の端に出づ(一呼)
足太陰脾の脈は足大指の端に於いて起きる、指内一側を循りて爪甲角を去ること韮葉の如し。井と為す、隠白也。
手少陰心の脈は手小指の内に於いて起こる、其の端に出で、指の内膁の端を循り、爪甲角を去ること韮葉の如し、井と為す(三呼)
手太陽小腸の脈は小指の端に起きる。指端を循り、爪甲を去ること一分。陥かなる中、井と為す(五呼)
続いて「大接経・従陰引陽」を紹介しよう。
此事難知 大接経 従陰引陽の書き下し文
書き下し文・大接経 従陰引陽
手太陰の脈は大指の端に起き、少商に出づる、大指の内側也。爪甲角を去ること韮葉の如し。井と為す。
其の支なる者は次指の内膁に出で、其の端に出でる。
手陽明大腸の脈は大指次指の端に起き、次指内側に入る。爪甲を去ること韮葉の如し。井と為す(一呼)
足陽明胃の脈は大指次指の端に起き、爪甲を去ること韮葉の如し。井と為す(一呼)
其の支なる者は大指、その端に出づる。
足太陰脾の脈は足大指の端に起こる、指の内側を循り、爪甲角を去ること韮葉の如し。井と為す、隠白也。
手少陰心の脈は小指の内に起こる、その端に出で、指の内膁の端を循る。爪甲角を去ること韮葉の如し。井と為す。
手太陽小腸の脈は小指の端に起こる、爪甲を去ること下一分、陥かなる中、井と為す。
足太陽膀胱の脈は至陰に出づる。小指の外側、爪甲角を去ること韮葉の如し。井金と為す、足小指の端也。
足少陰腎の脈は小指の下に起こる。井と為す、湧泉穴也。
手厥陰心包の脈、其の直なる者は中指を循りて其の端に出づる、爪甲角を去ること韮葉の如し、陥かなる中を井と為す、中衝穴也。
其の支なる者は、掌中に別れて、小指次指を循りて其の端に出づる。
手少陽三焦の脈は小指次指の端に起きる、爪甲角を去ること韮葉の如し。井と為す。
足少陽胆の脈は竅陰に起こる。足小指次指の端、韮葉の如し。井と為す。
其の支なる者は、上りて大指岐骨の内に入り、其の端に出で、還りて爪甲を貫き三毛に出づる。
足厥陰肝の脈は大指の端に起こる。聚毛の端に入りて爪甲を去ること韮葉の如し、井と為す。大敦及び三毛中(六呼)
凡そ此れら大接経は、陰より陽を引き、陽より陰を引く(従陰引陽、従陽引陰)。
東垣二十五論、後に録す。
「従陰引陽」と「従陽引陰」は同じ内容にみえるが…
さて大接経とは経脈をまたは経気を接ぐ(つなぐ)鍼法である。その特徴は井穴にフォーカスを当てている点である。井穴は経脈の終始であると共に、表裏にある経脈と連絡する点でもある。その特徴に注目して接経すなわち経脈をつなぐことを治療の眼目としている。
経脈を基盤とした人体観で治療する鍼灸師は知っておくべき鍼法といえよう。
しかしの大接経にも大きく二種に分類されている。それは従陽引陰と従陰引陽である。どちらも十二経の井穴の説明であり、両法の違いは明記されていないようにみえる。しかし、記載される経脈の順や「従陽引陰・従陰引陽」という技法名の違いを考えると王好古の言わんとすることが見えてくるようである。
一つ一つ丁寧にピックアップしてみよう。本記事の「従陽引陰」は以下の通りである。
「足太陽膀胱経-足少陰腎経」
「手厥陰心包経-手少陽三焦経」
「足少陽胆経-足厥陰肝経」
「手太陰肺経-手陽明大腸経」
「足陽明胃経-足太陰脾経」
「手少陰心経-手太陽小腸経」
これはいわゆる経脈流注の順番を意識したものにもみえる。
しかし中焦より起こる太陰肺経からスタートする順ではない。太陰肺経より順に記されるのは、次の「従陰引陽」である。
つまり足太陽膀胱経を首経として紹介される「従陽引陰」との違いは、「肺手太陰之脈、起於中焦…」(『霊枢』経脈篇より)との記述にあるのだろう。
では「従陰引陽」を挙げてみよう。
「手太陰肺経-手陽明大腸経」
「足陽明胃経-足太陰脾経」
「手少陰心経-手太陽小腸経」
「足太陽膀胱経-足少陰腎経」
「手厥陰心包経ー手少陽三焦経」
「足少陽胆経-足厥陰肝経」の組合わせが順に記載されている。
この順には、鍼灸師なら誰しも覚えがあるだろう。『霊枢』経脈篇に記される経脈流注の順である。
両者の違いは何を意味しているのか?
前述したように、井穴を用いる鍼術であること、そして経脈記載の順、さらに「従陽引陰」「従陰引陽」という名称から、何を対象とする接経法であるのかがみえてくる。
『中医臨床』には易水派の接経鍼法に関する論考を提出する予定である。
鍼道五経会 足立繁久
天元図・地元図ふたたび ≪ 大接経 ≫ 諸経頭痛
原文 此事難知 大接経 従陽引陰
■原文 此事難知 大接経 従陽引陰
足太陽膀胱経之脉、出于至陰小指外側去爪甲角、如韮葉、為井金。足小指之端也。(十呼)
足少陰腎之脉、湧泉足心也。起于小指之下、斜趣(三呼)
手厥陰心包脉、其直者、循中指出其端去爪甲、如韮葉陥中、為中衝穴也。其支者別掌中循小指次指出其端。
手少陽三焦之脉、起于小指次指之端、去爪甲角如韮葉為井(三呼)
足少陰(少陽)膽之脉起于竅陰、小指次指之端、去爪甲如韮葉、為井。其支者上入大指岐骨内出其端、還貫爪甲出三毛(三呼二十呼)
足厥陰之脉起于大指之端入聚毛之際、去爪甲如韮葉為井、大敦穴也。及三毛中(十呼六呼)。
手太陰肺経之脉、起于大指之端出于少商、大指内側也。去爪甲如韮葉為井。其支者出次指内膁出其端。
手陽明大腸之脉、起于大指次指之端、入次指之内側去爪甲角如韮葉為井(二呼)。中指内交(三呼)
足陽明胃之脉、起于大指次指之端、去爪甲如韮葉為井。其支者大指間出其端(一呼)
足太陰脾之脉、起于足大指端、循指内一側去爪甲角如韮葉為井、隠白也。
手少陰心之脉、起于手小指内出其端、循指内膁之端去爪甲角如韮葉為井(三呼)
手太陽小腸之脉、起于小指之端循指之端去爪甲一分陥中、為井(五呼)
原文 此事難知 大接経 従陰引陽
■原文 此事難知 大接経 従陰引陽
手太陰之脉、起于大指端出于少商、大指内側也。去爪甲角如韮葉為井。其支者出次指内膁出其端。
手陽明大腸之脉、起于大指次指之端、入次指内側去爪甲如韮葉為井(一呼)
足陽明胃之脉、起于大指次指之端、去爪甲如韮葉為井(一呼)其支者大指出其端。
足太陰脾之脉、起于足大指端、循指内側去爪甲角如韮葉為井、隠白也。
手少陰心之脉、起于小指内、出其端、循指内膁之端、去爪甲角如韮葉為井。
手太陽小腸之脉、起于小指之端、去爪甲下一分陥中為井。
足太陽膀胱之脉、出于至陰。小指外側去爪甲角如韮葉為井金、足小指之端也。
足少陰腎之脉、起于小指之下為井、湧泉穴也。
手厥陰心包之脉、其直者循中指出其端、去爪甲角如韮葉、陥中為井、中衝穴也。其支者、別掌中、循小指次指出其端。
手少陽三焦之脉、起于小指次指之端、去爪甲角如韮葉為井。
足少陽膽之脉、出于竅陰。足小指次指之端、如韮葉為井。其支者、上入大指岐骨内出其端還貫爪甲出三毛。
足厥陰肝之脉、起于大指之端。入聚毛之端去爪甲如韮葉為井。大敦及三毛中(六呼)
凡此大接経、従陰引陽、従陽引陰。
東垣二十五論後録。

TOP