『一本堂行余医言』の按腹について

『一本堂行余医言』について

一本堂の流儀では、腹診を六診の要としています。本章では腹診の細かな作法を記しています。しかし、腹診と呼ばずに「按腹」と称している点も興味深いです。本章には“按摩”の要素を以て按腹を説している点にも注目すべきなのでしょう。

※本文は早稲田大学図書館所蔵の『一本堂行余医言』より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

『一本堂行余医言』 按腹

書き下し文・『一本堂行余医言』按腹

吾門、按腹を以て六診の要務と為す。何となれば則ち大概腹部を按診して、以て人の強弱を弁すべき也。
凡そ之を按するに、腹皮厚く、腹部廓大、柔而有力、上低下豊、臍凹入、任脈低く両傍高く、塊物無く、動氣無し、此れを無病の人と為し、強と為す。病人に在りても、亦た此れら数項あれば、易治と為す。
凡そ之を按するに、腹皮薄く、腹部隘狹、力無く或いは堅硬、上高く脹り下低く鬆く、臍浅く露にして、任脈高く両傍低く、塊物多く、動氣ありて、筋攣急、虚里の動高し。此れ弱と為し、病人の腹と為す。病中に在りて、若し此れら数項あれば、難治と為す。此れ其の大略也。
其の余、深微の意味有り。但だ口を以て伝うべし、書を以て示すべからず。敢えて秘するに非ざる也。

凡そ小児は四五歳より、十三四に至る(まで)、筋肉は猶未だ強壮ならず。故に腹皮の多くは薄く、虚里胸脈の多くは動ず。此れ亦た預り知るべき所也。

凡そ腹裏の癥及び疝、上下・左右及び中、大小・長短・円扁・硬軟、手一たび按著して、直に的識すべし。邪熱か肌熱かを、弁別すべし。腫脹、捜知すべし。潤澤枯索、満堆低減、肥痩張弛、皆な候察すべし。

虚里、候うべし。
動氣の上下左右及び中、掌に応じ即ち覚す。
妊胎か血塊かを試むべし。
胸骨の痩、循じて知るべし。
此れ按腹の必ず為さざるはあるべからざる所以にて、而して治事において大いに益ある也。

凡そ腹の甚だ堅硬なる者は治し難し、甚だ軟鬆なる者は癒え難し。

按腹の法、凡そ腹を按するは専ら左手を尚とす。右も亦た不可に非ず。唯だ左を使うを佳と為す。
先ず将に左手掌をして、上は鳩尾に齊える。魚肉は右肋端に当り、掌後側肉は左肋端に当り、指根肉は中脘に当たる。始めは軽軽に按過し、漸漸に重く押す。三肉逓(たがい)に推し、左に旋し右に還る。按動して休み無し。少しも移すこと宜しからず。良久して掌中と腹皮とを相い合摩す。其の間、以て熱に似て熱に非ず、温潤して汗に似るを度と為す。是の如くなるときは則ち、掌下腹裏(にある)滞結の氣は融和解散す。猶、開雲見日の如き也。唯だ久按し静守すること半時許(ばかり)を以て妙と為す。
若し夫れ苦手温和掌は賢者の富貴と謂うべきにして此れ固より天資に係る。強いて求めるに非ず、何ぞ之を必とせん乎

『霊枢』(官能篇第七十三)に云う、「緩節柔筋而心和調者、可使導引行氣。(節を緩め筋を柔にして心を和調する者、導引行氣せしむべし。)」「爪苦手毒為事善傷者、可使按積抑痹。(爪苦く手毒に事を為して善く傷る者は、積を按じ痹を抑しむるべし)」(官能篇○「苦手温和掌」は『玉枢経』に見る)

近時、推挐の法あり、即ち按腹の法。(『願體集』に見る)此れ乃ち古人の導引按蹻の遺意(なり)。但だ導引按蹻は、篤疾の術に治むるに非ずと雖も、亦た以て療病の末助と為すに足る。古に熊経鳥伸と称す、即ち華佗五禽の戯。其の後、坐功と称する、是也。此れ皆な自行の術耳。今の導引家、固より是れ無学の瞽賤。間、苦手・温和掌の者あり、幸いに奇貨に頼り効を得る。元、術の善き者に非ず。故に導引按蹻を行しめんと欲する者は、手掌を試むるべし、而して後に之を為さしめよ。是の如くなるときは則ち術無きと雖も効を得るべし。

或いは腹を按じて癥を抑え、或いは手足十指を屈伸し、或いは背腰股関節を摩動して、氣を散じ、体を和し、腹裏を按穏せしむ。此れ按摩の小益あるの所以也。

奥深し、腹診

「吾門以按腹為六診之要務。何則大槩按診腹部、可以辨人之强弱也。」

香川一門では「望診」「聞声(聞診)」「問証(問診)」「切脈(脈診)」「按腹(腹診)」「視背(背候診)」の六診のうち、この「腹診(按腹)」が最も要としているそうです。
“腹診を要とする”ということから、一門の主要な対象疾患群が想像できるかもしれません。

さて本章には、腹診のポイントがいくつも挙げられています。別記事にも紹介しましたが、本記事に挙げておきましょう。
「腹皮」「腹形」「腹力」「上下のバランス」「臍」「任脈と胃経」「塊物」「動氣」の八項目です。これらの情報を集める手段として腹診を行います。これらの腹診項目を知るまでは「(各部位の)虚実」「寒熱」を診るに制限されていましたが、さらに腹診法の視野が広がったように思います。

やはり奥深し、腹診

「良久掌中與腹皮相合摩、其間以似熱非熱、温潤似汗為度。如是則、掌下腹裏、滯結之氣、融和解散、莫不猶開雲見日也。」

手掌と腹部を合摩する際の反応について、興味深くも奥深い表現が記されています。手掌の下に温熱を感じるも、それは「熱に似て熱に非ず」と解説されています。そのポイントは「温潤」であるといいます。陽氣が交流することで津液が浮かび上がるということなのでしょう。

この状態になれば「猶開雲見日也」の境地に至ることも頷けるのです。

行余医言序診候・望診問証聞声切脈 ≪ 按腹 ≫ 視背

鍼道五経会 足立繁久

原文 『一本堂行餘醫言』 按腹

■原文 『一本堂行餘醫言』按腹

吾門以按腹為六診之要務。何則大槩按診腹部、可以辨人之强弱也。凡按之、腹皮厚、腹部廓大、柔而有力、上低下豊、臍凹入、任脉低兩旁高、無塊物、無動氣、此為無病之人、為强。在病人、亦有此數項、為易治。
凡按之、腹皮薄、腹部隘狹、無力、或堅硬、上高脹下低鬆、臍淺露、任脉髙兩旁低、多塊物、有動氣、筋攣急、虚里動高、此為弱、為病人之腹。在病中、若有此數項、為難治。此其大畧也。
其餘有㴱微意味。但可以口傳、不可以書示。非敢秘也。
凡小児自四五歳、至十三四、筋肉猶未强壮、故腹皮多薄、虚里胸脉多動、此亦㪽可預知也。
凡腹裏之癥及疝、上下左右及中、大小長短圓扁硬軟、手一按著、可直的識。邪熱肌熱、可辨別。腫脹可捜知、潤澤枯索、滿堆低減、肥痩張弛、可皆候察。
虚里可候、動氣上下左右及中、應掌即覺。妊胎血塊可試。胸骨之痩、可循而知。此按腹之㪽以不可不必為、而有大益于治事也。
凡腹甚堅硬者難治、甚軟鬆者難癒。
按腹法、凡按腹専尚左手、右亦非不可、唯使左為佳。先将左手掌、上齊鳩尾。魚肉當右肋端、掌後側肉、當左肋端、指根肉、當中脘。始輕輕按過、漸漸重押、三肉逓推、左旋右還、按動無休、不宜少移。良久掌中與腹皮相合摩、其間以似熱非熱、温潤似汗為度。如是則、掌下腹裏、滯結之氣、融和解散、莫不猶開雲見日也。唯以久按靜守半時許為妙。若夫苦手溫和掌可謂賢者之富貴矣、而此固係于天資、非可强求何必之乎。
靈樞云、緩節柔筋而心和調者、可使導引行氣。爪苦手毒為事善傷者、可使按積抑痹。(官能篇○苦手温和掌見玉樞經)
近時有推挐法、即按腹之法。(見願體集)此乃古人導引按蹻之遺意。但導引按蹻、雖非治篤疾之術、亦足以為療病之末助。古稱熊經鳥伸、即華佗五禽之戯、其後稱坐功、是也。此皆自行之術耳。今之導引家、固是無學之瞽賤、閒有苦手温和掌者、幸頼奇貨得効。元非術之善者、故欲使行導引按蹻者、可試手掌而後使為之。如是則雖無術可得効。或按腹抑癥、或屈伸手足十指、或摩動背腰股關節、使氣散、體和、腹裏按穏。此按摩之㪽以有小益也。

 

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