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ゴケイメシではないけれど…芋栗南瓜
「イモ・クリ・ナンキン」といえば、秋の味覚であり、女性に好まれる食材の代表としてもよく挙げられます。先日は栗の食物本草情報を紹介しましたが、残りの芋・南瓜に関する食物本草情報も記事にしておきましょう。それらの本草情報も臨床での食養生アドバイスの一助にもなることでしょう。

写真:大阪万博2025 静けさの森に出店したらぽっぽさんの店先にて
そんなイモ(さつまいも)・クリ(栗)・南瓜(かぼちゃ)もまた食物本草書にその効能は記されています。それらの本草情報を確認しておきましょう。臨床での食養生アドバイスの一助にもなることでしょう。
出典資料は『閲甫食物本草』(名古屋玄医 1669年序)、『公益本草大成』(岡本一抱 著 1698年)、『和漢三才図会』(寺島良安 刊 1712年)、『日養食鑑』(石川元混 著 1819年)、の年代順で紹介していきます。
イモ(さつまいも)の食物本草能について
まずサツマイモの食物本草ですが、江戸期のサツマイモ情報を調べるには少し骨が折れます。サツマイモといえば「甘藷(かんしょ)」と思うところですが、これが諸説あるようでして…
まず名古屋玄医の『閲甫食物本草』では「甘藷」を“ツクネイモ”として呼んでいます。ツクネイモはヤマイモ科の一種。サツマイモではなくヤマノイモの仲間のようです。それ故に玄医先生による「甘藷」情報は薯蕷と同じ効能として整理されています。
『閲甫食物本草』に記される甘藷(かんしょ)の効能
甘藷 豆久称伊毛
氣味甘平、無毒
李時珍が曰く、虚乏を補い、氣力を益し、脾胃を健かにし、腎陰を強くす。功、薯蕷に同じ。
■原文
栗 久里
氣味氣味甘平無毒
時珍曰、補虚乏益氣力健脾胃强腎陰、功同薯蕷。
「補虚、益氣、健脾、補腎」の効能を記していますが、この効能は“つくねいも(ヤマイモの仲間)”の効能。現代のサツマイモのものではないといえるでしょう。
次に岡本一抱先生の『公益本草大成』の甘藷情報をみてみましょう。
『公益本草大成』にある甘藷(かんしょ)の効能
『公益本草大成』も『閲甫食物本草』と同じく、甘藷をヤマイモの仲間である“ツクネイモ”と同類とみています。そのため食物本草能も、薯蕷(山藥)と同じであるとしていますね。
次に江戸期の百科事典『和漢三才図会』をみてみましょう。寺島先生は甘藷を「りゅうきゅういも」としており、サツマイモに相当する品種について記されています。
『和漢三才図会』に記されるさつまいもの効能
さつまいも りゅうきゅういも
朱薯、紅山薬、蕃薯(『閩書』に見る)
今に云う赤芋。俗に云う琉球芋。又云う長崎芋。
『本草綱目』甘藷は交広に出づ。南方の民家は二月を以て種し、十月に之を収む。其の根は芋に似る、亦た巨なる魁(かしら)あり。大なる者は鵞卵の如し、小なる者は鶏鴨の卵の如し。紫皮を剥けば、肌肉は正白にして肌の如し。南人は米穀果に当てて食う。蒸し炙りて皆な香美なり。
初時は甚しく甜く、久に経ちて風を得て稍た淡き也。其の功は薯蕷に同じ。海中の人、多寿なるも亦た由りて五穀を食せず而して甘藷を食する故也。
△甘藷を按するに、蔓葉は薯蕷と同じく而して初生の葉は紫色、長ずれば則ち緑色。薯蕷に如かず潤沢にして、其の蔓を地に埋めれば、即ち処処にて根を生ず。其の根は大抵長さ四五寸、周り二三寸、両頭窄(すぼく)而して皮赤紫、肉正白色。生にて之を食するに淡く甘く脆く烏茈の氣味あり。煮て之を食えば甚だ甜く南瓜の氣味あり。琉球国に多く之有り、薩州及び肥州、長崎にも亦た多く之を種す。其の鵞卵鶏卵の如き丸なる者は乃ち魁也。色も亦た鮮ならず、又黄白色なる者もあり共に甜過ぎて飽き易し。
■原文
甘藷 里うきういも・カンチュイ
朱薯、紅山藥、蕃薯(見閩書)
今云赤芋、俗云琉球芋、又云長嵜芋
本綱甘藷出交廣、南方民家以二月種十月収之。其根似芋、亦有巨魁。大者如鵞卵、小者如雞鴨卵。剝紫皮肌肉正白如肌。南人當米穀果食𮐹炙皆香美。初時甚甜經久得風稍淡也。其功同薯蕷。海中人多壽亦由不食五穀而食甘藷故也。
△按甘藷、蔓葉同薯蕷而初生葉紫色長則緑色。不如薯蕷潤澤其蔓埋地、即處處生根。其根大抵長四五寸周二三寸、兩頭窄而皮赤紫肉正白色。生食之淡甘脆有烏茈氣味、煮食之甚甜有南瓜氣味。琉球國多有之、薩州及肥州長崎亦多種之。其如鵞卵雞卵圓者乃魁也。色亦不鮮又有黄白色者共甜過飽易。
『和漢三才図会』では、甘藷をツクネイモではなくリュウキュウイモ(さつまいも)としながらも、「その功は薯蕷に同じ」としています。
「海中人多壽亦由不食五穀而食甘藷故也。」ここにある「海中の人」を琉球人と解釈するとして「琉球(現、沖縄県)では、サツマイモを主食とするため長寿である」という説を記載しています。
沖縄県の方々が長寿であることは江戸期からも注目されていたのですね。ひと昔前にも、沖縄県が長寿県である原因として、豚肉や長命草などが挙げられていましたが、300年ほど前では甘藷(リュウキュウイモ)が長寿要因としてノミネートされていたのです。
次に石川元混先生による『日養食鑑』をみてみましょう。元混先生も『和漢三才図会』と同じく甘藷を「りゅうきゅういも」としています。
『日養食鑑』に記されるさつまいもの効能
さつまいも 又、りゅうきゅういも
甘平、毒なし。
百病に妨げなし。
▲金柑、熊の胆と差し合い。
■原文
さつまいも 又里うきういも
甘平毒なし百病に妨げなし。
▲きんかん、熊の井と差合
ここにきて三書とは異なる意見が登場しました。
これまでは薯蕷(山薬)と同じとする効能を示していましたが、『日養食鑑』では「甘平、無毒。百病に妨げなし」とあります。
この「無毒。百病に妨げなし」という効能は、一見すると平凡なようにみえます。しかし、それは“日常の食事に用いられる食材”であることがわかります。そのためツクネイモのような“補虚益氣能”ではないのです。
ちなみに『閲甫食物本草』、『公益本草大成』、『和漢三才図会』が出典としている『本草綱目』(1596年 李時珍)における甘藷の情報を付記しておきます。
『本草綱目』に記される甘藷の効能
甘藷
[集解]李時珍曰く、按ずるに陳祈暢が『異物志』に云う、甘藷は交広南方に出づ。民家は二月を以て種(う)ゆ、十月に之を収む。其の根は芋に似、亦た巨魁あり。大なる者は鵞卵の如し、小なる者は鶏鴨卵の如し。紫皮を剥き去る、肌肉は正白にして肌の如し。
南人、用いて米穀果に当てて食す、蒸し炙りて皆な香美なり。初時甚だ甜し、久を経て風を得て稍(ようや)く淡し也。
又、按ずるに嵇含が『草木状(南方草木状)』に云う、甘藷、薯蕷の類。或る人が云く芋類也。根葉亦た芋の如し。根の大きさは拳の如く、瓯にて蒸し煮て之を食す、味は薯蕷と同じく、性は甚だ冷ならず。
珠厓の耕を業とせざる者は惟だ此れを種(うえ)て、蒸し切り晒らし収め、以て糧糗に充つ、蕷糧(薯粮)と名づく。海中の人の多寿なるも、亦た五穀を食せざるに由りて甘藷を食する故也。
[氣味]甘平無毒
[主治]補虚乏、益氣力、健脾胃、强腎陰。功同薯蕷。(時珍)。
■原文
甘藷
[集解]時珍曰、按陳祈暢異物志云、甘藷出交廣南方。民家以二月種、十月収之。其根似芋、亦有巨魁。大者如鵞卵、小者如雞鴨卵。剝去紫皮、肌肉正白如肌。
南人用當米穀果食、𮐹炙皆香美。初時甚甜、經久得風稍淡也。
又按嵇含草木狀云、甘藷、薯蕷之類、或云芋類也。根葉亦如芋。根大如拳、瓯蒸煑食之、味同薯蕷。性不甚冷。珠厓之不業耕者惟種此。蒸切晒収、以充糧糗、名蕷糧(薯粮)。海中之人多壽、亦由不食五穀、而食甘藷故也。
[氣味]甘平無毒
[主治]補虚乏、益氣力、健脾胃、强腎陰。功同薯蕷。(時珍)。
大きさを見る限り、その大きさは鵞卵大~鶏卵大と、サツマイモのサイズとしてはずいぶんと小ぶりのように思えます。色としては表面が紫、中身は白色とサツマイモカラーなのですが…ツクネイモにも紫ツクネイモという品種もありますが、中も紫色が入っているようです。この『本草綱目』でいう甘藷はちょっと謎のままですね。
また『和漢三才図会』にある「海中人多壽亦由不食五穀而食甘藷故也。」は『本草綱目』の一節から引用しているようです。故に「海中の人」を琉球人と解釈するのは早計でしたね。
江戸期における“甘藷”の歴史については、以下の論文【『甘藷』の名称に関する一考察(続編)】が参考になります。
かぼちゃの食物本草能について
次にかぼちゃ(南瓜)の食物本草情報を紹介しましょう。実は“かぼちゃ”の名称にも、その由来があります。

写真:大阪万博2025 カンボジア・パビリオンにあった黄金のカボチャ
かぼちゃの由来は「カンボジアから渡来した瓜であるから」という説が有名です。他にも「南瓜」「ボーブラ」という名称もあるのです。
南瓜の名の由来は「南京から長崎にその種が」伝わったと『和漢三才図会』にあります。また「ボーブラ(ボウブラ)」はポルトガル語の「abóbora (ウリ科を示す)」が由来となっているそうです。
それでは、まずは玄医先生の『閲甫食物本草』からカボチャ情報をみてみましょう。・・・と言いたいところですが、『閲甫食物本草』には南瓜(カボチャ)に関する情報は見つけられません。
ですので岡本一抱先生の『公益本草大成』に南瓜(カボチャ)情報から紹介します。
『公益本草大成』にあるかぼちゃ(南瓜)の効能
南瓜 甘温
中を補い、氣を益す。多食すれば脚氣・黄疸を発す。
■原文
南瓜 甘温
補中益氣、多食發脚氣黄疸。
『公益本草大成』には、「補中益氣」という効能が記されています。さらに「多食すれば脚氣・黄疸を発す。」という情報があります。このことについては後述しましょう。
『和漢三才図会』に記されるかぼちゃの効能
南瓜 ぼうぶら ナンクハア
俗に云う“保宇不良(ぼーぶら)”
形色は阿古陀瓜に似る。阿古陀は煮食せず菰果の類也。
『本草綱目』には此の種、南蛮に出る、故に南瓜と名づく。今は処処に之有り。三月に種を下す、沙沃地に宜し。四月に苗を生じて、蔓を引くこと甚だ繁し。一蔓に十余丈に延ぶべし。節々に根あり、地に近きは即ち着く。其の茎中は空(うつろ)、其の葉の状は如蜀葵而大如荷葉。八九月開黄花如西瓜花、結瓜正圓、大如西瓜、皮上有綾如甜瓜、一本可結數十顆。其色或綠或黄或紅經霜収、置暖處可留、至春其子如冬瓜子。其肉厚色黄、不可生食。惟去皮穰、㵸食其味如山藥、同猪肉煑食更良。亦可蜜煎。
陰瓜 出淅中宜陰地種之、秋熟色黄如金。皮膚稍厚可藏至春食之。如新疑此卽南瓜。
南瓜 甘温 補中益氣。然多食發脚氣黄疸。
■原文
南瓜 ぼうぶら ナンクハア
俗云保宇不良
形色似阿古陀瓜。阿古陀不煮食菰果之類也。
本綱此種出南番、故名南瓜。今處處有之。三月下種宜沙沃地、四月生苗引蔓、甚繁、一蔓可延十餘丈、節節有根、近地卽着。其莖中空、其葉狀如蜀葵而大如荷葉。八九月開黄花如西瓜花、結瓜正圓、大如西瓜、皮上有綾如甜瓜、一本可結數十顆。其色或綠或黄或紅經霜収、置暖處可留、至春其子如冬瓜子。其肉厚色黄、不可生食。惟去皮穰、㵸食其味如山藥、同猪肉煑食更良。亦可蜜煎。
陰瓜 出淅中宜陰地種之、秋熟色黄如金。皮膚稍厚可藏至春食之。如新疑此卽南瓜。
南瓜 甘温 補中益氣。然多食發脚氣黄疸。
南京瓜 なんきん 柬埔寨瓜 唐茄子 共俗稱。
按南京瓜、本綱南瓜下所謂陰瓜是也。乃南瓜之屬而出於浙江。浙江隣于南京。故自南京得種於長崎。……(略)…
『和漢三才図会』においては、その呼び名「南瓜」「保宇不良(ボウブラ)」が記されています。
さてその効能はというと「補中益氣」とあり、やはり「多食すれば脚氣・黄疸を発す。」と注意書きが記されています。この情報からも、カボチャの「補中益氣」能の強さが伝わってきます。
また「黄疸・脚気」という病症からは、脾胃にかける負担や過度に摂取すると、湿痰を生じる可能性を示唆しています。それだけに味付けや食べ合わせにも注意を要することでしょう。
次に元混先生の『日養食鑑』から栗の食物本草情報をみてみましょう。
『日養食鑑』に記される栗(くり)の効能
かぼちゃ 番南瓜
甘温、毒なし
多食すべからず。
■原文
かぼちゃ 番南瓜
甘温毒なし。多食すべからず
『日養食鑑』ではシンプルです。食物本草能は記されず、ただ「多食すべからず」とあるのみです。
以上、先日の栗(クリ)情報と併せて、「いも・くり・なんきん」の食物本草情報の紹介となりました。「多食すべからず」という戒めを忘れてはいけない芋・栗・南瓜でした。
「薬膳」という言葉は見慣れていますが、それぞれの食材の性質を理解することで、より薬膳のことがわかるかと思います。
鍼道五経会 足立繁久
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