諸疳『小児薬証直訣』より

疳という病について

現代でも「疳」という言葉は見聞きします。「疳の虫」「疳が強い子」といった表現は一般的にも用いられるものです。しかし、現代での「疳」は、伝統医学に用いられる「疳」とは異なった意味合いで解釈されているようであります。

伝統医学を学ぶ小児はり師としては、本来の「疳」の意味をしっかり理解しておく必要はあると思います。それでは「諸疳」章の本文を読んでいきましょう。


※画像は『類証注釈銭氏小児方訣』京都大学付属図書館より引用させていただきました。

※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

『類証注釈銭氏小児方訣』 諸疳 第二十二

書き下し文・『類証注釈銭氏小児方訣』 諸疳 第二十二

疳、内に在るときは、目腫れ腹脹れ、利色は常無し、或いは沫青白、漸く痩せ弱る、此れ冷証也。

疳、外に在るときは、鼻の下赤く爛れ、自ら鼻を揉む、頭上に瘡有り、痂は著かず、漸く耳に遶り瘡を生ず。鼻の瘡爛を治するに蘭香散(二十七)。諸瘡(を治する)には白粉散(二十八)之を主る。

肝疳、白膜が睛を遮る。当に補肝すべし。地黄丸(五)これを主る。
心疳、面黄頰赤して、身壮熱す。当に補心すべし。安神丸(十五)之を主る。
脾疳、体黄腹大して、泥土を食す。当に補脾すべし。益黄散(九)之を主る。
腎疳、極痩し、身に瘡疥あり。当に補腎すべし。地黄丸(五)之を主る。
筋疳、血を瀉し而して痩せる。当に補肝すべし、地黄丸(五)之を主る。
肺疳、氣喘、口鼻に瘡を生ず。当に補肺脾すべし。益黄散(九)之を主る。
骨疳、冷地に臥するを喜ぶ。当に補腎すべし。地黄丸(五)之を主る。
諸疳、皆な本臓に依る。其の母を補い、及び治疳薬を与える。冷なれば則ち木香丸(二十五)。熱なれば則ち胡黄連丸(二十六)之を主る。

疳は皆な脾胃の病、津液の亡して之作する所也。
大病、或いは吐瀉後、(或いは)薬を以て吐下するに因りて、脾胃虚弱、亡津液を致す。

且つ小児が疳を病むは、皆な愚医の害する所。病、仮に潮熱の如し、是れ脾臓の虚。一臓実し而して内に虚熱を発する也。法は当に母を補い而して本臓を瀉するときは則ち愈ゆるべし。

仮に日中にして潮熱を発しむれば、是れ心の虚熱也。肝は心母と為す、則ち宜しく先ず補肝す、肝実し而して後に瀉心すべし。心、母氣を得れば則ち内平し而して潮熱は愈ゆる也。医、潮熱を見て、妄りに其れを実と謂う、乃ち以大黄・牙硝(馬牙硝・芒硝)の輩は、諸々の冷薬これを利す。利すること既に多し。禁約すること能わずして津液は内亡す。即ち疳と成る也。

又、癖を病むこと有り。其の病、発して寒熱を作し、水を飲みて脇下に形有りて硬痛す(癖とは積也。僻側、両の肋間に在り。或いは右、或いは左。時有りて痛む也)。治癖の法、当に漸く消磨すべし。医反て以巴豆・䃃砂(硇砂?)之を下せば、小児は虚し易く実し易し。之を下すに既に過ぎれば、胃中の津液は耗損し、漸くにして疳痩せしむる。

又、傷寒を病むこと有り。五六日間に下証あり、冷薬を以て之を下すこと太過せば、脾胃津液少を致す。即ち引飲して止まず而して熱を生じせしむる也(引飲とは渇する也)。熱氣内耗し、肌肉外消す、(さらに)他邪相干して、証変すること諸端なり。

亦た疳を成すに因りて、多くは又は吐瀉久病あり。或いは医妄りに之を下す。其の虚は益々甚しく、津液燥損し、亦た能く疳を成す。

又、肥疳あり。(これは)即ち脾疳なり。身痩黄し皮乾きて瘡疥あり。其の候は一ならず。種種異端にして、今は略して綱紀に挙げる。目渋し或いは白膜を生ず。唇赤く身黄乾或いは黒く、喜みて冷地に臥す。或いは泥土を食し、身に瘡疥あり。青白黄沫水を瀉し、痢色は変易す。腹満、身耳鼻に皆な瘡ありて、髪鬢は穂と作す(音は遂、禾苗の秀と成る貌)、頭大項細、極痩し飲水す、皆ば其の証也。

大抵の疳病は、当に冷熱肥痩を弁ずるべし。其の初病なる者、肥熱疳と為す。病の久しき者は痩冷疳を為す。冷疳の者は木香丸(二十五)。熱疳の者は黄連丸(“胡”の一字を落する)(二十六)之を主る。冷熱の疳、尤も如聖丸(七十一)に宜し。
故に小児の臓腑の柔弱なりて、痛撃大下すべからず必ず津液を亡いて疳を成す。凡そ下すべき(証)有れば、其の大小虚実を量りて之を下すときは、則ち疳を為すに至らざる也。

初め疳を病み、津液少なき者は、当に胃の津液を生ずるべし。白朮散(十一)之を主る。唯だ之を多服するときは則ち妙なり。余は熱不可下の條に見よ。

子どもの疳について

疳証に関する情報として以下のように総括されています。

疳在内、目腫腹脹、利色無常、或沫青白、漸痩弱、此冷証也。
疳在外、鼻下赤爛、自揉鼻、頭上有瘡、不著痂、漸遶耳生瘡……

以上の文からは、“カンシャク”のような所見は見受けられません。「腫・脹」「爛れ」「瘡」などの皮膚症状が目立ちます。さらには「冷証」「痩弱」といった文言からは虚証を示す情報もあります。

疳証の本質的な病因・病理としては、以下の文にあるとおりです。

疳皆脾胃病、亡津液之所作也。因大病或吐瀉後、以薬吐下、致脾胃虚弱、亡津液。且小児病疳、皆愚医之所害、病仮如潮熱、是脾臓虚。一臓実而内発虚熱也。法当補母而瀉本臓則愈。

「疳症はみな脾胃の病である」としています。「亡津液」という言葉からは、脾胃の陰虚といえる段階でしょう。きっかけとなる要因としては具体的な事例が書かれています。

そのうちの一例として「誤治(皆愚医之所害)」が挙げられています。

「小児易虚易実、下之既過、胃中津液耗損、漸令疳痩。」
「因亦成疳、多又有吐瀉久病、或医妄下之、其虚益甚、津液燥損、亦能成疳。」

“過度に下す”ことや“妄りに下す(誤下)”ことで、脾胃虚損を引き起こします。脾胃虚損により、津液損耗(陰虚)にまで及び、生育発育にまで悪影響を及ぼすことで「疳症」となるのです。

疳症の大法として「大抵疳病、当弁冷熱肥痩」と指針が示されています。
「其初病者為肥熱疳、久病者為痩冷疳。」この文では、疳症における初期と慢性期に分けてその治療方針が示されています。

以上、非常に簡潔ではありますが、小児の疳症についてまとめました。少なくとも現代の一般的にいう「疳の虫(=カンシャク)」と疳症は全くの別物ということは分かるかと思います。

吐瀉腎祛失音咳嗽 ≪ 黄疸相似 ≪ 諸疳 ≫≫≫ 小児薬方その1 ≫ 小児薬方その2 ≫ 小児薬方その3 ≫≫

鍼道五経会 足立繁久

原文 『類證注釋錢氏小兒方訣』諸疳 第二十二

■原文 『類證注釋錢氏小兒方訣』諸疳 第二十二

疳在内、目腫腹脹、利色無常、或沫青白、漸痩弱、此冷證也。
疳在外、鼻下赤爛、自揉鼻、頭上有瘡、不著痂、漸遶耳生瘡、治鼻瘡爛、蘭香散二十七。諸瘡、白粉散主之二十八。
肝疳、白瘼遮睛、當補肝、地黄丸主之五。
心疳、面黄頰赤、身壯熱、當補心、安神丸主之十五。
脾疳、體黄腹大、食泥土、當補脾、益黄散主之九。
腎疳、極痩、身有瘡疥、當補腎、地黄丸主之五。
筋疳、瀉血而痩、當補肝、地黄丸主之五。
肺疳、氣喘口鼻生瘡、當補肺脾、益黄散主之九。
骨疳、喜臥冷地、當補腎、地黄丸主之五。
諸疳皆依本藏、補其母、及與治疳藥、冷則木香丸二十五。熱則胡黄丸主之二十六。
疳皆脾胃病、亾津液之所作也。因大病或吐瀉後、以藥吐下、致脾胃虚弱、亾津液。且小兒病疳、皆愚醫之所害、病假如潮熱、是脾藏虚。一藏實而内發虚熱也。法當補母而瀉本藏則愈。假令日中發潮熱、是心虚熱也。肝為心母、則冝先補肝、肝實而後瀉心。心得母氣則内平而潮熱愈也。醫見潮熱、𡚶謂其實、乃以大黄牙硝輩、諸冷藥利之。利旣多矣。不能禁約而津液内亾、即成疳也。又有病癖、其病發作寒熱飲水、脇下有形硬痛(癖者、積也。僻側在兩肋間、或右或左、有時而痛也)。治癖之法、當漸消磨、醫反以巴豆䃃砂輩下之。小兒易虚易實、下之既過、胃中津液耗損、漸令疳痩。又有病傷寒、五六日間有下證、以冷藥下之太過、致脾胃津液少、即使引飲不止而生熱也(引飲渇也)。熱氣内耗、肌肉外消、他邪相干、證變諸端。因亦成疳、多又有吐瀉久病、或醫𡚶下之、其虚益甚、津液燥損、亦能成疳。又有肥疳、即脾疳也。身痩黄皮乾而有瘡疥、其候不一、種種異端、今畧擧綱紀。目澁或生白膜、唇赤身黄乾或黒、喜臥冷地、或食泥土、身有瘡疥、瀉青白黄沫水、痢色變易、腹滿身耳鼻皆有瘡、髪鬢作穂(音遂、禾苗成秀貌)、頭大項細、極痩飲水、皆其證也。
大抵疳病、當辨冷熱肥痩、其初病者、為肥熱疳、久病者為痩冷疳。冷者木香丸二十。熱者黄連(落一胡字)丸主之二十六。冷熱之疳、尤冝如聖丸七十一。故小兒藏府柔弱、不可痛撃大下必亾津液而成疳。凢有可下、量其大小虚實而下之、則不至為疳也。初病疳、津液少者、當生胃之津液、白朮散主之十一。唯多服之則妙。餘見熱不可下條。

 

 

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