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『小児薬証直訣』について
本記事では『診病奇侅』の小児腹診について紹介しています。小児はりを実践する鍼灸師にとって、この小児腹診というのも知っておくべき情報でしょう。それでは『診病奇侅』の本文を読んでいきましょう。

※画像は『類証注釈銭氏小児方訣』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。
『類証注釈銭氏小児方訣』 五臓所主
書き下し文・『類証注釈銭氏小児方訣』 五臓の主る所 第二
心は驚を主る。
実すれば則ち呌哭発熱、水を飲みて搐す。(導赤散八、瀉心湯十七)
虚すれば則ち困臥、悸動して安せず。(粉紅丸三)
肝は風を主る。
実すれば則ち目直、大いに呌び呵欠し、項急頓悶す。(瀉肝散四)
虚すれば則ち咬牙多欠。氣熱するときは則ち外に生じ、氣温するときは則ち内生ず。(地黄丸五)
脾は困を主る。
実すれば則ち困睡、身熱し飲水す。(瀉黄散十)
虚すれば則ち吐瀉、生風す。(異功散六十九、益黄散九)
肺は喘を主る。
実すれば則ち悶乱、喘促す。水を飲む者もあり、水を飲まざる者もあり。(瀉白散)
虚すれば則ち哽氣、氣を長出す、(阿膠散七)
腎は虚を主り、実すること無き也。惟だ瘡疹の際は実して黒陥す。(百祥圓三十九、牛李膏四十)
更に當に虚実の証を別つべし。
仮に如し肺病なるとき、又、肝証の咬牙し呵欠の多きを見わす者は治し易し。肝虚して肺に勝つこと能わざる故也。
若し目直、大呌哭し、項急頓悶する者は治し難し。蓋し肺は久病なるときは則ち虚冷す。肝は強く実して反て肺に勝つ也。
(咬牙呵欠する者、肝証と雖も而して虚する也。故に肺に勝つこと能わず、易治なる所以なり。若し肝証の盛んなる日多く、直視・項急・大呌・悶乱する者は則ち肺病久しく虚して肝は以て之に勝を得、難治なる所以也。)
病の虚実を視て、虚するときは則ち母を補い、実するときは則ち子を瀉す。
(仮に如し肺金の病にして実すれば、當に腎水を瀉すべし。子をして来らしめ母に食を求む(さすれば)則ち肺の実を得て平するなり。肺の虚は、當に脾土を補うべし、母をして来らしめ子を生ずる、(さすれば)則ち肺の虚は得て平するなり。)
小児病態の特徴を把握する
「心主驚」「肝主風」「脾主困」「肺主喘」「腎主虚」という言葉で、五臓と小児病態との関係を端的に示しています。
この「驚」「風」「困」「喘」「虚」といった小児病態は、現代の子どもたちへの治療にも通ずるものがあります。本章に挙げられる具体的な病症に囚われることなく、冷静に子どもの生理病理を理解することが肝要です。
腎は虚を主る
「腎主虚、無實也。惟瘡疹實黒陷。」という一節が目を引きます。現代の鍼灸でも「腎は実せず」という考え方がありますが(これはあくまで原則的なものでありますが…)、とくに小児においては「腎」を守るという考え方が重要になります。
腎は先天の原氣を蔵する器官です。そして、その先天の原氣は子どもの成長・発育に不可欠なものです。日夜、時々刻々と成長を続ける小児の身体において、腎は常に虚しやすい傾向にあるのです。
腎だって実するときがある
しかし「腎に実なし」というセオリーが常に通じるかというと、そうではありません。
ここで書かれている「惟瘡疹實黒陷」という一節にも注目です。
瘡疹・痘瘡という病
「瘡疹」これは痘瘡(天然痘)を意味します。天然痘は1980年にその撲滅宣言が成され、現代では存在しないとされる疾患です。しかし、伝統医学の小児科医書には「瘡疹」「癍疹」「痘瘡」…などの名前で専門の章が記されています。子どもの命を守るためにも「瘡疹・痘瘡」は、なんとかして乗り越えるべき病であったのです。
ちなみに中国医学で、最初に天然痘に関する記載が認められたのが『肘後備急方』(東晋)に記される「虜瘡」であったと言われています。
本書『小児薬証直訣』にも「瘡疹」との名で解説されています。詳しい病理は瘡疹を通して学ぶとして、腎氣が旺する状態(腎実)の症候も皆無ではないということです。
とはいえ、「腎に実なし」ということが全くの是か?というとそうではないと思います。これは子どもだけでなく、大人でも同様です。分かりやすい一例を挙げれば、腎の藏は虚しても、少陰腎経が実するというパターンも勿論あります。
とはいえ、小児科では腎氣を安易に動かすことは避けたいため、やはり「腎主虚」という言葉は一つのセオリーとして知っておくべきでしょう。
病の虚実をみることの大事
本章では“五臓と小児病態との原則”を示すだけでなく、臨床的なケーススタディも示してくれています。
「更當別虚實證」小児の治療に臨んで、虚実の鑑別が大事である…といいます。
「肺の病の場合、肝証として「咬牙・多呵欠」も併発している場合、この肺の疾患は治し易い。しかし「目直・大呌哭・項急・頓悶」を併発した場合は難治である(假如肺病、又見肝證咬牙多呵欠者、易治。若目直大呌哭、項急頓悶者、難治。」
前述のように「咬牙・多呵欠」という病症は肝虚を意味します。肝が虚するなら“木乗金”を起こすことができませんが、肝実なるときは“木乗金”の状態に発展し得る病態でもあります。こうなると肺は自病のみならず、多方面から攻められることとなり(五邪でいう微邪)治し難しとなるのです。
また、肺病は慢性化すると、虚証寒証に陥りやすい傾向にあります。虚証に転じた場合、常であれば乗じていた相手にも簡単に侮られること(五邪でいう「従所勝来者」)になります。
(「肝虚不能勝肺故也。蓋肺久病則虚冷。肝强實而反勝肺也。」)
小児病は“動きや変化が早い”というのが特徴です。“変化が早い”という特徴は、小児病においてはその“病態悪化”に対して細心の注意を払う必要があります。
このことから、病態悪化に備え、速やかに病伝を察知し、適切な治病を行うためにも、五行・五臓の病態を理解し、虚実の組合わせを把握することが臨床において実に要となることが本章には伝えられているのです。
序 ≪ 小児脈法 ≪ 五臓所主 ≫ 五臓病証 ≫ 面上証・目内証 ≫ 五臓虚実冷熱 ≫
鍼道五経会 足立繁久
原文 『類證注釋錢氏小兒方訣』五臓所主
■原文 『類證注釋錢氏小兒方訣』五臓所主 第二
心主驚。實則呌哭發熱、飲水而搐。(導赤散八、瀉心湯十七)虚則困臥、悸動不安。(粉紅丸三)
肝主風。實則目直大呌呵欠、項急頓悶。(瀉肝散四)虚則咬牙多欠、氣熱則外生氣温則内生。(地黄丸五)
脾主困。實則困睡、身熱飲水。(瀉黄散十)虚則吐瀉生風。(異功散六十九、益黄散九)
肺主喘。實則悶亂喘促有飲水者、有不飲水者。(瀉白散)虚則哽氣長出氣、(阿膠散七)
腎主虚、無實也。惟瘡疹實黒陷。(百祥圓三十九、牛李膏四十)
更當別虚實證、假如肺病、又見肝證咬牙多呵欠者、易治。肝虚不能勝肺故也。若目直大呌哭、項急頓悶者、難治。蓋肺久病則虚冷。肝强實而反勝肺也。
(咬牙呵欠者、雖肝之証而虚也。故不能勝肺所以易治。若肝証之盛日多、直視項急大呌悶乱者、則肺病久虚而肝得以勝之、所以難治也。)視病之虚實、虚則補母、實則瀉子。(假如肺金之病而實、當瀉腎水、使子来求食於母、則肺之實可得而平矣。肺之虚、當補脾土、使母来生子、則肺之虚、可得而平矣。)
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