吐瀉『小児薬証直訣』より

『小児薬証直訣』について

本記事では『小児薬証直訣』の吐瀉について紹介しています。子どものあげ下し(嘔吐下痢)は切実な問題です。現代ではノロウイルス・ロタウイルスなどの感染性胃腸炎が思い浮かびます。このような疾患の治療のために、鍼灸院を訪れる親子さんは少ないでしょうが、小児はりを実践する鍼灸師にとって、全くの無関係な症候とはいえません。それでは吐瀉の本文を読んでいきましょう。


※画像は『類証注釈銭氏小児方訣』京都大学付属図書館より引用させていただきました。

※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

『類証注釈銭氏小児方訣』 吐瀉

書き下し文・『類証注釈銭氏小児方訣』 吐瀉 第十八

初生三日の内、吐瀉、壮熱、乳食を思わず、大便乳食不消、或いは白色、是れ傷食なり。当に之を下し、後に胃を和すべし。下すには白餅子(十九)を用い、胃を和するには益黄散(九)之が主る。
初生三日以上から十日に至るまで、吐瀉し、身温涼、乳食を思わず、大便青白色、乳食不消、此れ上実下虚也。
更に見証を兼ねること有り。 肺(肺証)は睡して睛を露わし喘氣す。 心(心証)は驚悸し飲水す 脾(脾証)は困倦し饒睡 肝(肝証)は呵欠し頓悶す 腎(証)は不語畏明なり 当に瀉(一作には“當に先に”)児の臓証を兼ねるを見て、脾を補う益黄散(九)之が主る。此の二証、多くは秋夏に於いて病む也。

下吐を生じ、初生が(産まれ)下るとき、児の口中の穢悪を拭掠するも尽くさず、喉中に咽入す、故に吐する。木瓜丸(十四)之が主る。初生、急ぎ須らく口中を拭掠して浄せしむる。若し啼声を一たび発するとき、則ち嚥下し、多くは諸病を生ず。

五月二十五日以後(夏至後十日也)に、吐瀉して、身壮熱は、此れ熱也。小児臓腑、十分中九分は熱也。或いは熱乳食に傷れる因る。吐乳して消さず、深黄色を瀉する、玉露散(三十八)之を主る(予、竹筎湯を用いても亦た良し)。

六月十五日以後(大暑節の後)吐瀉して、身温して熱に似る、臓腑六分は熱、四分は冷也。吐嘔して乳食消さず、黄白色を瀉す、渇に似る、或いは食乳、或いは不食乳、食前に少し益黄散(九)を服す。食後に多く玉露散(三十八)を服す、之を主る(予、竹筎湯五苓散去桂を用う)。

七月七日以後(立秋後、七日也)、吐瀉、身温涼、三分熱七分冷也。食乳すること能わず、多くは睡するに似て悶乱す、哽氣して長出氣、睡して睛を露わす、唇白く、多く噦す、大便(せんこと)を欲し、渇せず。食前に多く益黄散(九)服し、食後に少しく玉露散(三十八)を服す(予、嘗て二氣散(百九)を用い、吐止後に異功散(六十九)を服す)。

ハ月十五日以後(秋分の後也)、吐瀉、身冷え無陽也。食乳すること能わず、乾噦、青褐水を瀉する。当に脾を補うべし。益黄散(九)之を主る。下すべからず也(理中丸(百五十二)良し、異功散(六十九)も亦た良し)

吐乳し瀉黄するは、熱乳に傷れる也。吐乳し瀉青するは、冷乳に傷れる也。皆な当に下すべし(下すには白餅子(十九)用う。熱乳に傷れる者は玉露散、竹筎湯。冷乳に傷れる者は、益黄散、温中丸、並びに下後に之を服す。亦た下を用いず而して但だ此の薬を服し而して愈えること有り)。

虚羸するは、脾胃の不和、食乳すること能わず、肌痩を致す、亦た大病に因る。或いは吐瀉後、脾胃尚(なお)弱く、穀氣を伝化すること能わざる也。
冷有る者、時時下利し、唇口青白し。熱有る者、温壮身熱し、肌肉は微黄、此れ冷熱虚羸也。
冷ある者は、木瓜丸(二十五)之を主る。夏月には服するべからず。如(も)し証有るときは則ち少し之を服する。
熱ある者は、胡黄連丸(二十六)之を主る。冬月には服するべからず。如(も)し証有るときは則ち少しく之を服す(予、嘗て謂う、冷者には温中丸・益黄散を服すべし。熱者は白朮散・藿香散を服すべし)。

小児の吐瀉について

この章では、吐瀉症状を病証と治法を詳細に分類しています。

生後3日以内の吐瀉、生後3日~10日の吐瀉の鑑別から始まり、五臓の特徴的な随症についても記されています。
さらに興味深いのは、胎毒について触れられいる点です。「胎毒」については、前記事「瘡疹候」にて「児在胎食濁」という表現が相当しますが、本文にある「口中穢悪」を嚥下することも胎毒の一つです。胎毒について詳しくは『中医臨床』175号(Vol.44-No.4)~179号(Vol.45-No.4)まで、連載記事として論考にまとめています。興味のある方は『中医臨床』バックナンバーをご覧ください。

節気ごとの吐瀉

夏至後・大暑節・立秋節・秋分節ごとの時節を分けて、時候の病としての吐瀉(嘔吐下痢)についても触れています。

夏至節の後、十分中九分熱
大暑節の後、六分熱四分冷
立秋節の後、三分熱七分冷
秋分節の後、身冷無陽

このようにしてみると、天の陽氣がピークである夏至の日では、ほとんどの場合が熱証であるといいます。そして天の陰氣が尽きてくる秋分の日には、陽証熱証ではないとされています。
この時代では、病理の中に“天行の氣”が強く影響してきます。衛生環境も含めての外的要因としてみることも必要なのかもしれません。

とにかく吐瀉は脾胃を著しく損傷する病です。脾胃の弱りは、慢驚風や疳症をはじめ諸病の起点となる体質です。とにかく丁寧に診察し、適切な治療を行うことが肝要であり、このことは時代に関係なく共通している理でもあります。

傷風風温潮熱相似傷寒瘡疹同異瘡疹候 ≪ 吐瀉 ≫ 腎祛失音咳嗽 ≫ 黄疸相似

鍼道五経会 足立繁久

原文 『類證注釋錢氏小兒方訣』吐瀉

■原文 『類證注釋錢氏小兒方訣』吐瀉 第十八

初生三日内、吐瀉壯熱、不思乳食、大便乳食不消、或白色、是傷食。當下之。後和胃。下用白餅子十九、和胃用益黄散九主之。初生三日已上至十日、吐瀉身温涼、不思乳食、大便青白色、乳食不消、此上實下虚也。更有兼見證。 肺睡露睛喘氣 心驚悸飲水 脾困倦饒睡 肝呵欠頓悶 腎不語畏明 當瀉(一作當先)見兒兼藏補脾益黄散九主之。此二證多病於秋夏也。
生下吐、初生下、拭掠兒口中穢悪不盡、咽入喉中、故吐、木瓜丸十四主之。初生急須拭掠口中令浄、若啼聲一發、則嚥下、多生諸病。
五月二十五日已後(夏至後十日也)、吐瀉身壯熱、此熱也。小兒臓腑十分中九分熱也。或因傷熱乳食。吐乳不消、瀉深黄色、玉露散三十八主之(予用竹筎湯亦良)
六月十五日以後(大暑節後)吐瀉身温似熱、藏腑六分熱四分冷也。吐嘔乳食不消、瀉黄白色、似渇、或食乳、或不食乳、食前少服益黄散九。食後多服玉露散三十八主之(予用竹筎湯五苓散去桂)。七月七日已後(立秋後七日也)、吐瀉身温涼、三分熱七分冷也。不能食乳、多似睡悶亂、哽氣長出氣、睡露睛、唇白多噦、欲大便、不渇、食前多服益黄散九。食後少服玉露散三十八(予嘗用、二氣散百九、吐止後服異功散六十九)
ハ月十五日已後(秋分後也)吐瀉身冷無陽也。不能食乳、乾噦、瀉青褐水、當補脾、益黄散九主之。不可下也(理中丸良百五十二、異功散亦良六十九)
吐乳瀉黄、傷熱乳也。吐乳瀉青、傷冷乳也。皆當下(下用白餅子十九、傷熱乳者、玉露散、竹筎湯。傷冷乳者、益黄散、温中丸、並下後服之。亦有不用下。而但服此藥而愈)。
虚羸、脾胃不和、不能食乳、致肌痩、亦因大病。或吐瀉後、脾胃尚弱、不能傳化穀氣也。有冷者、時時下利、唇口青白。有熱者、温壯身熱、肌肉微黄、此冷熱虚羸也。冷者、木瓜丸二十五主之。夏月不可服、如有證則少服之。熱者、胡黄連丸二十六主之。冬月不可服。如有證則少服之(予嘗謂、冷者可服温中丸益黄散。熱者可服白朮散藿香散)。

 

 

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