奇経八脉篇『十四経発揮和語鈔』より《前編》

十四経発揮巻下


写真:『十四経発揮和語鈔』より奇経八脈篇
※以下の文章では、大きな字が原本(十四経発揮)、小さな字が岡本一抱による註釈である。

奇経八脈概論

奇経八脉の篇 此の篇に於いて常経に異なる奇経の八脉を記せり。

脉は奇常有り。以下は奇経八脉の總論なり。奇は異なり。十二経は營衛の常道なれば、此れを常経と云う。彼の八脉は十二経に餘る所の血氣を受け。營衛の常に拘わらざる者たるを以って奇経と云う也。

十二経は常経也。營氣の常に運る所の者なれば、十二経を常経と云う。
奇経八脉は則ち常に於いて拘わらず。十二経の如くに血氣常に此の八脉に拘わらざるなり。
故にこれを奇経と謂う。奇は異也。此の如くこの八脉は常に血氣の拘わらざる者なれば、十二の常経と異なるを以って奇経と云うなり。

蓋し以 おもんみるに 人の氣血は常に十二経脉を行く。其の諸経、満溢するときは則ち流れて奇経に入る焉。人の營血衛氣は常に十二経脉を流れ行く。若し其の十二の諸経に血氣が満ち溢るる時は十二経より餘(あまり)て彼の奇経八脉に入る。此の如く十二経の如く常に血氣の拘り行らざる所の者なり。

奇経に八脉有り。其の奇経に八脉あり。

督脉は、後に於いて督し、督は後背に行きて諸陽の脉を都督(ととく)し、
任脉は、前に於いて任す。任は前腹に行きて諸陰の脉を任養(にんよう)す。
衝脉は、諸脉の海たり。衝脉は前にして諸陰の脉に合し、後にしては諸陽の脉に合して、諸脉の血海となる者也。

写真:『十四経発揮和語鈔』より任脈督脈衝脈などの説明

陽維は則ち諸陽を維絡し、陰維は則り諸陰を維絡し、陰陽自ら相い維持するときは則ち諸経は常に調う。維は絡也。綱也。つなぎまとうの義也。陽維脉は諸陽の脉を維絡し、陰維脉は諸陰の脉を維絡す。陰維陽維の脉が諸陰諸陽の脉を維持する時は諸経よく常に調うるなり。

維脉の外に帯脉と云う者有り。二つの維脉の外に帯脉と云う者あり。
之を束ねること猶 帯の如し。此の一経は身の腰を束絡(つかねまとう)すること一繞(めぐり)して帯したる形の如し。故に帯脉と云う。

両足に於いて蹻脉に至るにも、陰有り陽有り。両の足に蹻脉と云う者ありて、此れにも陰蹻陽蹻の二つありとなり。
陽蹻は諸太陽の別 足の太陽膀胱の別絡 に行き、陰蹻は諸少陰の別 足の少陰腎の別絡 に本づく。

譬えば、猶 聖人の溝渠 二字俱にミゾなり。 を圖設(はかりもうけ)し、以って水潦に備うが如し。雨水の盛んに路の上り流れ溢れる者を云う。
斯に濫溢(らんいつ)の患い無し。人の奇経有るも亦、是の如き也。此の奇経の脉あるは、譬えば上古聖人のかねて溝渠を圖設して以て雨水盛んに路上に溢れる所の水潦の為に備えけり。雨水盛んなる時は、彼の溝渠に流れ入りて、地上に水の氾濫満溢する所の患いなからしむ。人の奇経有るも亦、是の若し。十二経に血氣濫溢する時は、奇経の脉に入りて十二経をたすくる也。

今、奇経八脉の発する所の者の氣穴の處所を總集して、共に一篇と成し、これを発揮の後に附して、以て通攷に備うと云う。今、此の奇経八脉の発起する所の氣穴の其の處所を總集して此の一篇を成して。右の十四経発揮の後に附録して前の十四経と相通じて共に攷させんが為也と云う。

督脉

督脉は小腹に起こり、小腹の内、子宮に起こり出て 以て骨の中央に下り、子宮より横骨の正中に下り 女子は以て廷孔の端に繋り、溺出る孔(あな)を廷孔と云う。横骨より下りて女子は前陰の廷孔の端に繋り付く 其の絡は陰器を循りて簒間 纂に作るべし に合し、簒後 又、纂に作るべし 別れて臀繞り、少陰と巨陽中絡 巨は太也、太陽を云う の者とに至り。少陰の腹内の後廉に上り、脊を貫き腎に属す。 其の別絡たる者は、廷孔の端より陰器を絡して、それより両陰の間、纂の分に合し、纂の後を繞りて臀を繞りて足少陰腎経の股内の後廉に上り、長強に出る者と、足太陽膀胱経の髀枢より別れ下る所の中行の絡脉とに至りて、足の少陰腎経の股内の後廉を上る者に合して脊を貫きて腎に属す
〇「腹内に上る」の腹の字は股の字の誤りなり。纂の義は督脉経に於いて詳らかに和解あり。
写真:『十四経発揮和語鈔』より 督脈篇

太陽と目の内眥に起こり、又、足太陽膀胱経と、目の内眥睛明の穴に起こりて太陽経と並び行く。〇以下、皆、前の足太陽経の行と同じ。 額に上り、巓上に交わり入りて脳を絡い、還り出て別れて項に下り、肩髆の内に循り、脊を挟みて、腰中に抵り、入りて膂を循りて、腎を絡う。

其の男子は莖下を循り、簒 纂に作るべし に至る。女子と等し。前に女子、廷孔の端に繋るとある故、男子は陰莖の下を循りて纂間に至る。前の女子の循ると同じ事也。

其の少腹より直ちに上る者は、 此れより以下は任脉の腹の中行を流れる者を云う。前に解する如く、任督衝の三脉は倶に子宮より起こりて三岐となる、實は一躰也。故に任にしては督の脉を云い、督にしては任の脉を云い、衝にしては任督の脉をも云う。故に骨空論の王が註に云く、任脉衝脉督脉は一源而三岐。故に経に衝脉を謂いて督脉と為す者或(あ)る也。何を以ってこれを明かせば、今『甲乙経』及び右(上記)の経脉流注圖経に、任脉 脊を循る者を以って之を督脉と謂う。少腹より直ちに上る者を之を任脉と謂い、亦 之を督脉と謂う。是 則ち背腹の陰陽を以って別れて名目を為す爾(のみ)。

臍の中央を貫き、上りて心を貫き、喉に入り、頤に上りて唇を環り、上りて両目の中に系(かか)る。此の病の生ずるや、 右(上記)の少腹より直に上る所に病を生ずる時は 少腹従(よ)り上りて心に衝(つ)き而して痛み、経脉が少腹より上る故、逆氣少腹より逆上して心に衝きかけて心痛するぞ。前後することを得ず、此の経は陰器を環り纂後に行く、故に前は小便、後は大便、倶に通ずること得ざるなり。衝疝を為し、逆氣心に衝くの疝を云う。

其の女子は孕まず、此の経、子宮に起こる故ぞ  小便閉じて通ぜずを云う  尻の痔瘡也 遺溺 覚えずして溺(いばり)の通ずるを云う 嗌乾 此れ皆、此の経の行く處に生ず 、治は督脉に在り。以上の督脉の病を治するには、曲骨の穴に於いて治す。甚しき者は陰交の穴に治するを云う。以上は『素問』骨空論の文を以って記せり。

〇督脉の別を名づけて長強と曰う。督脉の別絡の繋る處を名づけて長強と云う。膂を挟みて、膂は脊を指して云う。長強より別れて膂を挟みて流れ上り 項に上り、上頭に散じ、内経には頭上に作る 下りて肩胛に當りて、膏肓の穴の旁らに在る片骨を云う。頭上より又、肩胛の左右へ下るぞ 左右に別れて太陽に走り、足太陽膀胱経の三行と成る者に走る 入りて膂を貫く、此の膂は脊の左右の膂肉を云う。太陽の二行に走りて膂肉を貫き流れる。實するときは則ち脊強ばり、此の経、脊骨を挟む故に邪氣實すれば、脊が強ばることぞ。虚するときは則ち頭重し、正氣虚すれば脊の氣力薄きが故に自ら頭重きことを覚ゆ。之を別れる所に取る。以上の病は督脉の別るる処の長強に於いて治する也。〇以上は経脉篇の文を以って記せり。

故に難経 二十八難 に曰く、督脉は下極の腧に於いて起こり、脊裏に並びて上り風府に至り、入りて脳に属し、 此の詳解、前に在り。巓に上り、額を循りて鼻柱に至る。陽脉の海に属す也。此れ『甲乙経』の文也。此の詳解前にあり。

此の病たる 以上の経に病を生ずる所の形を云う。以下、骨空論の文 人をして脊強ばり、此の経、脊裏に並ぶ故ぞ 反折 そりかえるを云う せしむ。

〇督脉、頭より脊骨を循りて骶に入る。尾骶骨、カメノオの骨を云う。督脉は下より流れ上ると雖も、此の経の長さを量る故に頭より云う也 長さ四尺五寸。凡て二十七穴。穴、前に見えたり。 以上、脉度篇、又は二十三難に見えたり
按するに、此れより滑氏の語也 内経『素問』氣府論を指して云う 督脉発する所の者、二十八穴 此れの如く氣府論に見えたり 法に據るに 此の所の王(王冰)が次註に其の二十七穴を数えたる法によりて考え見れば 十椎の下の一穴、中枢と名づく。十椎の下に中枢と云う一穴有り 陰尾骨 カメノオの骨を云う の両傍の二穴を長強と名づく。長強は傳寫の誤りなり。會陽の二穴なり 共に二十九穴。王(王冰)が註に中枢と會陽と共に督脉氣の発する穴の中へ数え入れて、共に二十九穴有る也。
今、齗交の一穴多くして、氣府論では此の一穴を任脉の中へ数え入るれども、今考えて此の一穴を督脉の中へ多く入れる 中枢の一穴を少なく、王が註に在る中枢の一穴は『甲乙経』になき故、此の穴を除けり 會陽の二穴は 王が註に督脉氣の発する中へ入れたる此の二穴は 則ち督脉の別絡に係り、少陽 大の字に改むべし と會す。督脉の別絡に係るといえども、實は足太陽の本穴。故に此の二穴を除いて此の書には止(ただ)二十七穴を載す。
故に止、二十七穴を載す。穴は已に前に見えたり。

 

任脈

任脉は衝脉と皆 胞中に於いて起こる。 任は衝と俱に同じく胞官の中に起き発す 脊裏を循りて、経絡の海と為す。此れも亦 督脉の行りを以って任脉とす。此の解、前に在り。経絡の海とは、諸陰諸陽の経と合して、諸の血脉を受く。故に十二経の血海と云う。

写真:『十四経発揮和語鈔』より 任脈篇

其の浮かびて外なる者は、前は脊裏を行く。此の経は浅く浮かびて外を行くなり 腹を循りて上行し、腹の中行を流れ上り 咽喉に於いて會し、咽は食の道、喉は氣の道 別れて唇口を絡う、咽喉より別れて唇口を環り絡う 血氣盛んなるときは則ち 任衝の血氣盛んに満ちる時は 肌肉熱し、陰血内に満ち、陽氣外に盛んなる故 血獨盛んなるときは則ち 血のみ盛んなれば 皮膚に滲灌し、其の血が表へ向きて滲灌(シンカン・もれそそぎ)て 毫毛を生ず。毫毛は長毛也。和訓サヲゲ。俗にブシマウゲ 婦人は氣に餘有りて血に不足す。婦人は血氣の中にては、氣は足りて血は不足す。 其の月事を以って 月水を云う 数 下りて任衝並びに傷るを以っての故也。毎月、月水数(しばしば)下り漏れて任衝二経の血分并(ならび)に傷(やぶ)るが故に、血に不足するなり

任衝の交脉、其の口唇を營せず。月水の下るに由りて、任衝の血分、衰うる故に、任衝二脉の口唇に交わり絡う所の血脉が不足して、その口唇を営運営養せざる故に、婦人は髭鬚(シシュ・ひげ)生ぜざるなり 故に髭鬚生ぜず。髭は唇の上に生ずるひげ、鬚は頤に生ずるひげを云う。以上、五音五味篇の文。
是を以って 以下は骨空論の文なり 任脉の病たる、男子は内結、此の経、腹を行く故、腹内結積の病をなす。七疝、疝も亦 腹内氣結の病たれば也。七疝は五藏の疝と狐疝、㿉疝と也 女子は帯下、俗に云うコシケ也。此れ胞宮の病たれば也 瘕聚す。女子の月水調わざるに由りて、腹中に塊を生ずるを瘕聚と云う。乃ち癥瘕積聚の病なすなり。

故に難経 二十八難 に曰く、任脉、中極の下に於いて起こり、以って毛際に上り、腹裏を循り、関元に上り、咽喉に至り、頤に上り、面を循りて、目に入る。陰脉の海に属す。以上の五字(属陰脉之海)は経になし。右の経行の解は前に在り。

〇凡そ此の任脉の行り、胞中 胞宮の中 より上って目に注ぐ。両目の中央に繋る
長さ四尺五寸、總べて二十四穴 穴は前に見えたり 以上は脉度篇の文なり
按するに、此れより滑氏の語也 内経に云く、 氣府論 任脉、発する所の者、二十八穴。此れまで経文なり 経に一穴を闕く。氣府論に二十八穴とあれども、其の所の王が注文を以って数え見れば一穴闕(か)いて二十七穴ならではなし。
實に二十七穴有り。内、齗交の一穴は督脉に属す。其の二十七穴の中に齗交の一穴あれども、此れ本(もと)督脉に属するの穴 承泣の二穴は足陽明蹻脈に属す。其の二十七穴の中に承泣の二穴あれども、此れ足陽明胃経の本穴にして陽蹻脉の會する所たり。然れば齗交と承泣とのみ三穴を除けば、止(ただ)二十四穴なり。
故に止、二十四穴を載す。穴は已に前に見えたり。

任督衝を理解する試み

任脈・督脈・衝脈はよく知られた奇経・経脈であり、実はあまり理解されていない経脈でもある。
特に本書で解説されてある任督衝の解説は、表面的な知識ではないエッセンスがさらっと記されている。
任督衝は多面的な奇経イメージを要する概念であると思う。

経穴の数

督脉の経穴数と、任脉の経穴の数について各書の記載を交えて詳解されている。
興味のない人には『どうでもいいことをクドクドと書いてるなー…』程度の感想しかでないのではないだろうか?

督脈の保有穴は21穴であり、任脈の保有穴は24穴である。

この数字に意味があり、ロマンを感じるのだ。経穴は星なのである。

 

鍼道五経会 足立繁久

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