奇経八脉篇『十四経発揮和語鈔』より《後編》

十四経発揮和語鈔

陽蹻脈


写真:『十四経発揮和語鈔』より 陽蹻脈篇
※以下の文章では、大きな字が原本(十四経発揮)、小さな字が岡本一抱による註釈である。

陽蹻脉 蹻は蹻捷(きょうしょう)超越の義也。人の足をあげて疾(すみやか)に歩行するの用は、この陰陽蹻脉によれり。

陽蹻の脉は跟中に起こり、外踝を循り、上行し、風池に入る。陽蹻の脉は跟(くびす)の中に自然と起こりて、それより足の太陽の流れと従いて外踝を循り、上って風池の穴に入る也。以上は二十八難の文。

其の病たるや、此の陽蹻の病を致す時は 人をして陰緩而陽急ならしむ。陰は内踝以上を云い、陽は外踝以上を云う。内踝以上の病は緩くして、陽蹻の行く處の外踝以上の病は急に有る也。瘡腫痛痒寒熱、皆 緩急あり。以上、二十九難の文也。
両足の蹻脉は太陽の別に本(もとづ)き、両足の陽蹻脉は本(もと)足太陽経の別脉なり 太陽に於いて合し、 足太陽膀胱経 其の氣上行す、上行して内眥睛明の穴に入る 氣、并せて相い還るときは則ち目を濡すことを為す。氣、營せざるときは則ち目合わず。陰蹻陽蹻俱に内眥睛明穴に行く。故に陰陽蹻脉の氣、相い並びて還る時は、其の目を濡(うるお)して、晝(ひる)明らかに夜は合す。凡そ目を開くは陽蹻、閉ずるは陰蹻にあずかる也。故に両の蹻脉の氣逆して、営運せざる時は晝夜俱に目合わず。
男子は其の陽を数え、女子は其の陰を数う。此の陰陽蹻脉の男女に従いて互いに経絡となることを云う。男子は陽躰、故に陽蹻を数え入れ、女子は陰躰、故に陰蹻を数に入るるなり 数に當る者を経と為す。男子は陽蹻 数に當る。故に陽蹻を以って、経とし、女子は陰蹻 数に當る故に陰蹻を以って経とす 数に當らざる者を絡と為す。男子は陰蹻 数に當らず、故に陰蹻を以って絡とす。女子は陽蹻 数に當らず、故に陽蹻を以って絡とする也。
蹻脉は長さ八尺。以上は皆、脉度篇の文也。蹻脉は足より頭面に至れば七尺五寸有るべきこと也。如何となれば、人の長さは七尺五寸とするが骨度の法也。八尺とは大概を云う。二十三難には直に七尺五寸に作る。
発する所の穴、凡そ奇経の八脉は周身に流れて自然の経也。故に其の穴所、躰に充つ。陽蹻の脉の起発するところの穴は 申脉に於いて生ず。外踝の下、足太陽経に属す 此の陽蹻の跟中に起きて始めて生ずる所の穴也。
輔陽(輔を)跗の字に改むべし を以って郄 外踝の上 と為し、郄は孔郄也。跗陽は足の太陽の穴 僕参 跟骨の下 に本づき 陽蹻の氣、此に本づくなり。僕参は足太陽の穴 足少陰 陽の字に改むべし と居髎に於いて會す。章門の下
又、手陽明と肩髃及び巨骨 並びに肩端に在り に於いて會す。
又、手足 足の字、衍文の也 太陽、陽維と、臑腧 肩髎の後、胛骨の上廉 に會す。
手足の陽明と地倉 口吻の両旁 に會す。
又、手 手の字、衍文 足の陽明と巨髎 鼻の両旁 に會す。
又、任脉、足陽明と承泣 目下七分 に會す。以上の諸穴は前に詳らかに和解あり。
以上を陽蹻脉の発する所と為す。凡て二十穴、陽蹻脉の病は宜しく之を刺すべし。陽蹻脉の病ある者は、以上の諸穴の中に於いて、其の取るべき者を釋(えらび)て鍼刺するなり。

 

陰蹻脈


写真:『十四経発揮和語鈔』より 陰蹻脈篇
陰蹻脉
は、亦 跟中に於いて起こり、内踝を循りて、上行し、咽喉に至り、衝脉に交貫す。以上、二十八難の文。〇此の脉も亦 陽蹻と同じく、跟の中に自然と起こりて、それより足少陰腎経と並びて、内踝を循り、上りて咽喉に至りて、衝脉の腎経と並びて、腹の右を上りて咽喉に會し、唇口を絡う所の者と相い交わり貫くなり。

此の病たる者は、人をして陽緩而陰急ならしむ。以上は二十九難の文也。〇陰蹻、病をなせば、外踝以上の病は緩くして、内踝以上の病は急なり。詳解、右(上記)の陽蹻に見たり。
故に曰く、以下、脉度篇 蹻脉は少陰 足少陰腎経 之別、別脉 然谷の後に於いて別れる。然谷は前(十四経発揮の●巻)の腎経に和解あり。以下、皆 腎経の流れと従いて行く 内踝の上に上り、直上して陰股を循り、陰 陰毛際也 に入り、上りて胸裏に循り、鈌盆に入り、上りて人迎の前に出て、人迎は胃経の穴 鼻に入り、鼻の左右 目の内眥に属し、睛明の穴 太陽に於いて合す。足の太陽膀胱経と睛明で合す
女子は之を以って経と為し、男子は之を以って絡と為す。前の陽蹻脉に「當数者為経、不當数者為絡」とあると同じ。女子は陰躰、故に此の陰蹻を以って経とし、男子は陽躰、故に此の陰蹻を以って絡とする也。 両足の蹻脉 陰蹻の脉也 長さ八尺 二十三難。七尺五寸に作る 而して陰蹻の郄は 郄は孔郄也。経脉の流れの深くして血のたまるを郄と云う交信 内踝の上、二寸 に在り、腎経の穴なり 陰蹻の脉の病は此れを取る。交信の穴に於いて鍼治す。

衝脈

衝脉 衝は通也。此の経、足に行き、頭に行き、盡(ことごと)く十二経に達す。故に其の頭足上下周(あまね)く十二経に通ずるを以って衝と云う。

衝脉は任脉と皆 胞中 胞宮の中 に於いて起こり、上りて脊裏を循りて、経絡の海と為る。此れ衝脉の背を流れる者、此れの如し。
其の外に於いて浮かぶ者は腹を循りて、内経には腹の右に作る 上行して、咽喉に於いて會し、別れて唇口を絡う。以上は五音五味篇の文也。此れ衝脉の腹を流れる者、此れの如し。夫れ任督衝の三脉は本(もと)一源一躰にして只、三岐とするのみ。故に此の脊裏を循ると云う者は督也。腹を循ると云う者は任也。此の義、前に已に和解あり。
故に曰く 以下は骨空論 衝脉は氣衝 足陽明胃経の穴 に於いて起こり、足少陰の経に並び 氣衝より少陰腎経と相い並びて上り行くぞ 臍を侠みて上行し、胸中に至りて而して散ず。胸中にして自然に細くなりて散布して終わるぞ

此の病為す、以下は二十九難の文 人をして逆氣 此の経、氣衝より上る故 裏急 此の経は胸中にして終わる。是を以って逆氣、経に従い上りて胸中に衝くが故に胸の裏、急痛する也 せしむる。
難経に則ち曰く、二十八難 足陽明の経に並ぶと。内経には衝脉は足少陰経に並ぶとあるに、難経には又、此の如くあるぞ 穴を以って之を攷るに、滑氏、足少陰と足陽明とに繋る所の穴を以って之を攷(かんがえ)るに 足陽明は臍の左右、各々二寸を侠みて上行し、足少陰は臍の左右、各々五分を侠みて上行す。以上は前に已に見えたり 『針経』 針経は甲乙経、銅人を云う 載せる所、衝脉と督脉と同じく會陰に起こる。其の腹に在るや、衝脉の腹に流るるに於いて以下の穴を歴(へ)る 幽門、通谷、陰都、石関、商門、肓兪、中注、四満、氣穴、大赫、横骨、凡せて二十二穴を行く。以上の穴は皆、足少陰腎経の穴也
皆、足少陰の分也。然るときは則ち衝脉は足少陰の経に並ぶこと明らけし。此れを以って見れば、腎経と並行に極まりたるぞ。

陽維脈

陽維脉 陰陽の維脉は周身に発して諸陽諸陰の脉を維(つな)ぎ絡う者なり。

陽維は陽に於いて維す。 諸陽の脉を維ぎ絡う 其の脉、諸陽の會に於いて起こり、諸の陽脉の會穴に起こるなり 〇以上は二十八難の文 陰維と皆 、身を維絡する。陰維は諸陰を維ぎ、陽維は諸陽を維ぎて、相い共に周身を維ぎ絡すぞ 若し 以下は二十九難の文  陽維を云う  諸陽の脉 を維すること能わざるときは則ち、溶々として 緩慢の貌也。力なきを云う 自ら収持すること能わざる。陽維は外を主りて氣に属す。故に此の病は外形に於いて痿軟の用(はたらき)ありて、一身溶々と緩(ゆるま)り慢(おこたり)て力なく、自ら其の身を収持(おさめたもつ)こと能わざる也。

其の脉氣、陽維の脉氣 発する所は金門 足の外踝下に在り、太陽の郄 郄は孔郄 に別れ、 別れ始まる 陽交 膽経の穴 を以って郄と為す 外踝の上、七寸に在り 。手足の 足の字、衍文 太陽及び蹻脉 陽蹻 と、臑腧 肩の後胛の上廉  小腸経の穴 に會し、手足の 足の字、甲乙経になし 少陽、天髎 鈌盆の上に在り  三焦経の穴 に會し、又、肩井 肩の上 膽経の穴 に會す。

其の頭に在るや、足の少陽と、陽白 眉上に在り に會し、本神及び臨泣に上り、上りて正營に至り、脳空を循り、下りて風池に至る。以上皆 膽経の穴
其の督脉と會するときは則ち、風府及び瘂門に在り。以上、皆 諸陽の分に起こる者なり 難経 二十九難 に云く、陽維の病たる、寒熱に苦しむ。陽維は氣に属して、外を主る。故に悪寒発熱往来を苦しみて、表疾を患うなり 此れ陽維の脉氣の発する所、凡えて二十四穴。

陰維脈

陰維脉 陽維脉の下に和解す

陰維は 以下は二十八難の文 陰を維す。諸陰の脉 其の脉 陰維の脉氣は 諸陰の交わりに於いて起こる。諸々の陰脉の交會する處に起こる
若し 以下は二十九難の文  陰維の脉  諸陰の脉 を維すること能わざるときは則ち、悵然として 驚恐の貌 志を失す。陰維は内を主る故に、陰維病むときは則ち内氣祛(つたなく)して妄りに驚恐して志をとり失う。

其の脉氣の発する所の者は、陰維の脉氣の発する處 陰維の郄 孔郄なり を名けて築賓と曰う。足少陰に見えたり
足の太陰と腹哀、大横に會し、又、足太陰厥陰 足の厥陰 と府舎 足の太陰の本穴 、期門 足の厥陰の本穴 に會し、任脉と天突、廉泉に會す。
難経に 二十九難 云く、陰維の病たる、心痛を苦しむ。 陰維は内を主りて、血に属す。血は心の主る所。故に心痛を苦しむぞ
此れ陰維の脉氣の発する所、凡えて十二穴。

帯脈

帯脉 此の経、腰を一周して帯したる状(かたち)に似たればなり。

帯脉は季脇に於いて起こり、季脇の証は前の膽経に見えたり 身を回ること一周 季脇の下一寸八分の帯脉の穴に起こりて、身を束(つかね)回(めぐる)こと一周して、人の帯したるが如し

其の病たるや、腰腹 小腹 縦容して 緩慢にして力なき貌 嚢水の状の如し。腰小腹、腫満して嚢に水を盛り包みたる状の如しと也。『甲乙経』此れと同じ。難経に水中に坐するるが若し(若坐水中)に作る 〇以上は二十八難の文

其の脉氣 帯脉の氣 発する所は、季脇の下一寸八分に在り。その穴名を 正に帯脉と名づく。帯脉の穴と云う
其の身を回ること一周して帯の如くなるを以って也。帯脉の穴に起こりて、身を回(めぐ)り束ねること一周して、帯したる状に似たればなり
又、足少陽と維道に會す。章門の下五寸三分にあり。帯脉維道俱に足少陽膽経の穴

此れ帯脉の発する所、凡えて四穴。左右合して四穴也。〇以上、奇経八脉の主る所の諸穴は盡(ことごと)く前の十四経に詳らかなり。

以上、右(上記)の奇経八脉の一篇を指す 素問を雑え取り、此れ素問を十八巻の總名として云う。素問の中の内経鍼経とす。鍼経は霊枢也。今は内経を以って總名とする者也。難経 越人の八十一難経 甲乙経 西晋の皇甫 士安(皇甫 謐、字が士安)が著す所の十巻の甲乙経なり 聖濟總録の 宋の徽宗皇帝、天下に紹(みことのり)して此の書を製せらる。政和聖濟總録と云う。巻凡えて二百 中を 此れ等の諸書の中より其の要たる者を雑(まじえ)取り集め 参合して篇を為す。彼れ是れ参合して此の奇経八脉の一篇を為(つく)れる者なり。

十四経絡発揮和解巻之六 終

以上、滑伯仁が著した『十四経発揮』について、岡本一抱が詳解註文を加えた和語鈔を、現代文に直した。
さすが岡本氏、ややくどいとも思える詳解ぶりであるが、伝統医学に疎い現代日本人にはこれくらい手取り足取り詳しく解説してくれている方が良いのかもしれない。

十四経に陽蹻、陰蹻を加えると?

十四経とは言うまでもなく、十二正経に任脈と督脈を加えた概念である。

なぜ十四とするのか?
その理由としては、固有の経穴を有するためとよく説明されている。
しかし、もう一つ理解しておきたい概念がある。

二十八脈である。
『霊枢』脈度篇を踏まえると、十二正経に蹻脉を加えて左右(×2)で二十六脈、これに任督を加えた二十八脈である。

この二十八脈には寸法があり、言い換えると氣の流れ(氣行)の距離である。
そして氣の流れ・氣行には一日(24時間・100刻)の中での定数がある。
この内容は『霊枢』五十営篇に詳しいが、当会記事「経脈を流れる氣の速さと呼吸」を参照されたし。

鍼灸師にとって脈度(経脈の寸法)と氣行(氣のめぐり)は本来理解すべき必須の知識なのである。

 

鍼道五経会 足立繁久

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