先補後瀉の呪縛

「先補後瀉」という言葉

鍼灸師ならよく知っている言葉ですね。

「先に虚を補い、その後に実を瀉する。」この治療方針は鉄則とも言えますし、私も臨床でよく用いています。

しかし、この鉄則を守らない場合もあります。

ということで、今回は先補後瀉をテーマに書いてみましょう。

まずは難経を振り返ることから。七十六難です。
 七十六難陰陽補瀉之図(『鍥王氏秘伝図註八十一難経評林捷径統宗』難経古註集成3 東洋医学研究会 発行 より引用させていただきました)

難経七十六難に曰く、何を補瀉というか?
当にこれを補うべき時、何れの所より氣を取り、
当にこれを瀉すべき時、何れの所から氣を置くのか?
然り。
当にこれを補うべき時は衛に従い氣を取り、
当にこれを瀉すべき時は榮に従い氣を置く。
それ陽氣不足、陰氣有余には、当に先にその陽を補い、後にその陰を瀉すべし。
陰氣不足、陽氣有余には、当に先にその陰を補い、後にその陽を瀉すべし。
榮衛通行、これその要なり。

霊枢にも近い記述があります。参考までに…

終始篇第九
・・・(略)・・・
陰盛にして陽虚には、先にその陽を補い、後にその陰を瀉し、これを和せ。
陰虚にして陽盛には、先にその陰を補い、後にその陽を瀉し、これを和せ。
・・・(略)・・・

 

先補後瀉は東洋医学的、伝統鍼灸的な治療をする鍼灸師なら、この鉄則を固く守っている先生も多いはずです。

もちろん私も先補後瀉を意識して治療しますが、これに反する場合もあります。

先瀉後補のケースもある

これは当会の講座でも中級者によく話すことですが“瀉法を優先すべきケースも実際にはある”のです。

症状が緩やかな症状、いわゆる慢性病に対して鍼灸をしていると、先瀉の必要性を感じることは少ないと思います。

しかし、症状が激しいものや急性病には先瀉の必要を大いに感じます。

というよりも先補してしまうと治療の切れ味が落ちてしまう場合もあり得るのです。

しかし先瀉の必要性を説いてもなかなか納得してもらえないこともしばしばあります。

「でも、いきなり瀉法するのはコワイです。」
「だって、患者さんを悪化させたくないし…」

このようなやり取りをしてると“先補後瀉の呪縛”に囚われてしまってるなーと思わずにはいられません。

呪縛の原因は思考停止?

しかし先瀉後補を拒む理由を考えていくと、詰まるところ“思考停止が原因”ではないか?と思うのです。

「瀉法はコワイ」「悪化させたくない」

これはどれも主観の言葉です。そこに診断という要素はありません。

病理を考えると、先瀉が必要であるということは理解できるはずです。

道理で考えることが大事

二日酔いを例に考えてみましょう。
 

「深夜または未明まで痛飲・アルコールを目一杯摂取して、吐き気が収まらず、今にも吐きそうだ!」

そんな人を治療するのに先補後瀉・先瀉後補…どちらを選択するでしょうか?

先補後瀉派の意見を採るならば、深夜未明まで起きていたということは睡眠不足!
「だから先に滋陰・補腎せねば!!」となるのではないでしょうか。

ですが、このような状況に及んでしまうと、睡眠を摂るよりも補うよりも、さっさと吐かせる方が楽になります。
(完全にアルコールが吸収され、腑を通過してしまうとまた別の手を考えないといけませんが…)

そして瀉す(吐かせる)べきは酒毒・湿熱です。

もちろん虚も存在しますが、飲酒による酒毒・湿熱が症状に強く関与しており、体も邪を排除するしようと懸命になっています。

病因に対する体の方向性・ベクトルを理解することが大事であり、それが八綱弁証でいう陰証陽証に近いのではないか?と私は仮定しています。

いずれにせよ体のベクトル・方向性を見極め、鍼灸の補瀉を選択することが大事です。

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