王羲之の黄庭経

黄庭経をご存じだろうか?

『“黄色い帝”は知っていても“黄色い庭”は知らないなぁ』という鍼灸師は多いのではないだろうか?
かく言う私もそう詳しくはない。詳しくないから勉強しよう!

…ということで、王義之が書いた『黄庭経』を稚拙ながらも書き下し文にしてみた。
(専門とされる方からみると恥ずかしいレベルだと思われるが…)

黄庭とはいったい何か?

黄といえば五行思想になじみのある鍼灸師であれば、脾胃を連想するのではないだろうか?
しかし『黄庭経』では「上に黄庭あり、下に関元あり」として、人体の上部に位置する器官として挙げられている。この時点で「黄庭脾」という解釈がなされる。
関元との対比となる部位ということから、上丹田との解釈もできるだろう。実際には上丹田の他にも様々な説がある。

命門についても鍼灸師ならばチェックしたい

「後に幽闕あり、前に命門あり。」とある。
命門穴といえば、十四椎下(腰椎第2第3の棘突起間)にある督脈のツボを真っ先に思い浮かべる鍼灸師が大部分ではないだろうか。
しかし『黄庭経』では後ろの腰部にはなく、前にあるという。
体の前にある命門といえば、他にもある。睛明穴である。『霊枢』根結第五を参考にされたし。

王義之と『黄庭経』

王義之とは書の世界では有名人であり人気者である。書家として有名である一方、王義之は道教を好んだこともよく知られている。


写真:『魏晋唐小楷集 中国法書選』より引用
書き下し文は以下になります

黄庭経
上に黄庭あり、下に関元あり。後に幽闕あり、前に命門あり。
廬外に嘘吸(呼吸)し、丹田に入る。審らかに能くこれを行なえば(行らせば)、長存すべし。黄庭中人は朱衣を衣し、關(関)門壮籥(そうやく)は両扉に蓋う。幽闕これを挟んで高くして魏々たり。
丹田の中、精氣微かなり。玉池の清水、上に肥を生じ、霊根堅固にして志衰えず。中池に士あり、赤朱を服す。横下三寸は神の居る所。中外 相い距(へだ)てて重ねてこれを閉じ、神廬の中、務めて修治する。
玄雍(げんよう)の氣管 精を受けるの符、急に子が精を固め以って自持せよ(急に子精を固め以て自持せん)。
宅中に士有り。常に絳(こう)を衣(き)る。子、能く之を見れば病まざる可し。横理の長尺 其の上を約す。子、能く之を守らば恙無かる可し。
廬間に呼翕(口へんに翕)して以て自ら償い、保守完堅ならば、身 慶を受く。
方寸の中 蓋蔵を謹み、精神還帰すれば老いて復た壮なり。侠(さしはさ)に幽闕を以てし流下に竟(つ)く。
子が玉樹を養いて杖(扶)く可からしむ。
至道は煩ならず旁迕(ぼうご)ならず、靈臺は天に通じ(通天)、中野に臨む。
方寸の中 関下に至り、玉房の中 神の門戸、既に是の公子 我に教える者なり。
明堂四達すれば法海 源(員・まどか)なり。真人 子丹 我が前に當たり、三關(関)の間、精氣深し。子 死せんと欲すれば崑崙を脩(修)めよ。
絳宮重楼十二級、宮室の中 五采集まり。赤神の子、中池に立つ。
下に長城玄谷の邑有り。長生要眇 房中急なり。淫欲を棄捐(きえん)して精を専守する。寸田尺宅 生を治する可し。子の長流するを繋げれば志は安寧。志を観て神を流し三奇靈 閑暇 事無く、心は太平。常に玉房を存すれば視明達。
時に大倉を念えば飢渇せず。六丁を役使する。神女謁し、子の精路を閇(閉)し、長活する可し。

正室の中、神の居る所、洗心して 自ら治める敢えて汙(汚)すること無し。
五藏を歴観し、節度を視る。六府脩治して潔きこと素の如し。虚無自然たる道の故なり。
物に自然有りて事に煩ならず。垂拱無為ならば心 自ずと安んじ、體(体)虚無の居は廉間に在り。

寂寞(せきばく)曠然(こうぜん)として口言わず。
恬淡無為にして徳園に遊び、精を積み、香 潔ければ玉女存する。
道を作(な)して優柔 身は獨居。性命を扶養して虚無を守り、恬淡無為にして何を思慮するや。

羽翼 以て成れば、正に扶䟽(䟽を扶ける?)、長生久視すれば乃(すなわ)ち飛去する。
五行 参差するも根節を同じくし、三五 氣を合するも、本の一なるを要とす。
誰と之を共にし、日月升らん。
珠を抱き玉を懐(いだ)き、子 室に和し、子 自ら之有りて持して失うこと無かれ。
即ち不死を得んとすれば、金室に蔵せよ。
月を出し日を入る。是、吾が道。
天七地三 回りて相い守る。
五行を升降し一は九に合し、玉石落々たり。是吾が寶(宝)。
子 自ら之を有して何ぞ守らざる。
心に根帶(こんたい)を暁かにし、華采を養い、天に服し地に順じ、精を合蔵するべし。
七日の奇 五(吾と解釈されている)相合を連らねる。

崑崙の性、迷誤せず。九源の山 何ぞ亭々たる。
中に真人有り使令する可し。蔽うに紫宮丹城楼を以てし、日月 明珠なる如くを以てす。
萬歳昭々として期有るに非ず。
外は三陽に本づき、神 自ずから来たる。
内は三神を養い長生す可し。
魂は天に上らんと欲し、魄は淵に還らんす。
還魂反魄 道の自然なり。

璣を旋(めぐら)し珠を懸(か)け、環に端無く、玉石戸金籥 身は完堅。
載地玄天 乾坤を(に)廻り、四時を以て象り、赤きこと丹の如し。

前は仰ぎ後は卑き各々門を異にする。
還丹と玄泉とを以て送り、象亀 氣を引き、靈根を致す。
中に真人有り。
金巾を巾し、甲を負い符を持して七門を開く。此れ枝葉に非ず。實(実)は是根なり。
晝(昼)夜 之を思えば、長存する可し。
仙人道士 神とす可きに非ず。
積精の致す所、専年と為し、人皆穀と五味を食し、獨(独)り大和陰陽の氣を食す。
故に能く死せず、天相既(つ)く。

心は國(国)主と為し五蔵の王(と為る)。
意を受けて動静の氣 行くを得て、道 自ずから我を守り、精神光る。
晝日昭々として、夜自ら守る。
渇すれば自ずと飲を得、飢えれば自ずと飽く。
六府を経歴し、卯酉を蔵し、陽を轉(転)じ陰に之(ゆ)き、九に於いて蔵す。
常に能く之を行えば、老を知らず。

肝の氣為(た)るや、調して且つ長ず。
五蔵を羅列して三光を生ず。
上は三焦に合し、道は醤漿を飲み、我が神魂魄、中央に在り。
鼻に随い上下して肥香を知り、懸雍に於いて明堂に通ず。
玄門に伏して、天道を候い、近くは身に於いて在り還りて自ら守る。
精神上下して分理を關(関)し、天地長生の道に通じ利す。

七孔 已に通ずれば老を知らず。
還りて陰陽天門に坐し、陰陽を候い、嚨喉に下り、神明に通じ、華蓋を過ぎ清くして且つ涼し。
清冷淵に入り、吾が形を見て、期して還丹を成して長生する可し。
還りて華池を過ぎ、腎精を動じ、明堂に於いて立ち、丹田に臨む。
将に諸神をして命門を開かせしめ、天道を通利し、天道、靈根に至る。
陰陽 列布すること流星の如し。

肺の氣と為すや、三焦に起こり、上は天門に服伏して、故道を候い、天地を闚視して童子を存する。
精華を調和し、髪歯を理し、顔色潤澤にして白を復さず(復た白からず)。
嚨喉に于いて下り何ぞ落々たる。
諸神皆な會(会)し相い求索する。
下に絳宮紫華の色有り。
隠に華蓋在り、神廬に通じ専ら心神を守り相い呼するに轉(転)じる。
我が諸神を観じて、耶(邪)を辟除する。

脾神還帰して大家に依り、胃管に於いて至り虚無に通じ、命門を閉塞すること玉都の如し。
壽(寿)、萬歳を専らとし、将に有餘すべし。
脾中の神は中宮に舎り、上は命門に伏し明堂に合し、六府に通利し、五行を調える。
金木水火土を王と為す(金木水火は土を王と為す)。
日月列宿は陰陽を張る。二神 相い得て、玉英を下す。

五蔵の主と為す腎は㝡(最)も尊い。
太陰に伏し、その形を成して、二竅に出入して、黄庭に舎する。
呼吸虚無にして、吾が形強きを見て、我が筋骨血脉盛んとなる(吾が形を見て、我が筋骨を強くすれば、血脉盛んなり)。
怳惚として清靈が過ぎるを見ず、恬惔無欲 遂に生を得る。
七門に於いて還り、大淵を飲み、我が玄雍を導いて清靈過ぎり、我が仙道と奇方を問う。
頭に白素を載せ、丹田を距(へだ)て、華池に沐浴し、靈根を生ず。
被髪して之を行えば、長存する可し。
三府相い得て、命門を開く。
五味皆な至り開きて善く氣還る。常に能く之を行えば長生する可し。

永和十二年 五月 廿四日 五山陰縣(県)冩(写)す

詩的な表現・道教の専門用語が多く、正しく書き下しにできたか心許ないですが、この点ご容赦ください。

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