樋屋奇応丸の効能を知ることで小児はりが変わる

鍼道五経会の足立です。

先日の講座【生老病死を学ぶ】では、小児はり概論その1を行いました。

関西ではおなじみの樋屋奇応丸

その時に話題に出たのが樋屋奇応丸(ひやきおうがん)。樋屋奇応丸を知らない人もいて世代の違い?を感じました。

子どもの時には「赤ちゃん 夜泣きで困ったな かんむし ちちはき 弱ったな ひやひや ひやの ひやきおーがん」というCMソングをよく目にしたものですが…
これが樋屋奇応丸の懐かしCM

小児はりの臨床でよくあること・大事なこと

さて、講座で話したことは・・・
☞小児はりでよく遭遇する症状に“夜泣き” “かんのむし”があること。
☞鍼灸院に来院される前に“樋屋奇応丸”を試してみたという親御さんも少なくないこと。
☞でも樋屋奇応丸を試しても効かなかった…という例もあること。
だから小児はりを試してみようという話になるのですけどね。

でも、ここで大事なのは“樋屋奇応丸が効かなかった”ということではありません。
樋屋奇応丸に合わない夜泣き・かんのむしだったということです。

☞まず樋屋奇応丸の効能を知る
☞樋屋奇応丸の証とは異なるタイプの夜泣き・かんむしと診断できる
☞その証に従って小児はりを行えば良い

ということです。

樋屋奇応丸に使われる主な生薬は5つ

では樋屋奇応丸の効能・性質を考察しましょう。そうなると知っておくべきことは「樋屋奇応丸に使われている生薬に何があるか?」です。
樋屋奇応丸に使用される生薬は主に5種類。

「沈香・麝香・牛黄・人参・熊胆」という生薬です。

詳しい分量までは挙げませんが、特に多く含まれているのは人参で約52㎎、次いで沈香の18㎎です。他に添加物として米粉、龍脳、蜂蜜(加熱済)、パラベン、金箔が含まれています。

以上の5つの生薬の効能を、鍼灸学生さんにも分かりやすいように中医学的に挙げていきましょう。内容は『中医臨床のための中薬学』(神戸中医学研究会 編著)を参考にさせていただきました。

■沈香(じんこう)
沈香とはジンチョウゲ科のジンコウのという樹。香道にも使われ、特に樹脂を含む部位を用いる。
中医学的には行気・理気の薬としての分類されています。
気を行(めぐ)らせて、痛みなどの症状を散らしつつも、気を降ろすという方向性もあるとのこと。上亢した火を下元・腎に降ろす性質もあるようですね。それだけに小児に使用することにも適しているのでしょう。
■麝香(じゃこう)
麝香とはジャコウジカの雄の分泌物を乾燥したもの(だそうです)
中医学的には開竅薬として分類されており、十二経を一気に開通させる勢いを持っているとのこと。なので、強壮薬や気付け薬(きつけぐすり)としても使われることもあるようです。
樋屋奇応丸としては、気付けや強壮というよりも、鬱滞(イライラ・カンシャクの元)を一気に散らして晴らすといった作用を意図しているのではないか?と考えています。
■牛黄(ごおう)
牛黄とは牛の胆のう内に生じた石(胆のう結石ですね)
開竅薬に分類されており、清熱解毒の作用も持っています。
そのため、イライラ・カンシャクの熱を清する狙いもあるのでしょう。
また一説には、胎毒を解する作用もあるとのことなので、胎毒由来の夜泣き・かんしゃくにも効果を狙っているのではないでしょうか?
■人参(にんじん)
人参とは言うまでもなく薬用人参(いわゆる高麗人参、朝鮮人参です)
その効能は補中(中焦を補う)の効能が良く知られています。補中益気湯や四君子湯、六君子湯などの中焦を和し補う漢方・湯液に主力として使われる生薬です。
一般的にも補的なイメージが強い生薬なのではないでしょうか?
しかし、中焦だけでなく、精神を安定させるという効能が人参にはあります。
さらに私見ですが、和胃の結果、上亢する気の動きも緩めることもできるでしょう。
おそらく樋屋奇応丸にはこちらの効能も意図して組み立てられたのではないでしょうか。
■熊胆(ゆうたん)
熊胆とはクマの胆のう(くまのい)ですね。
中医学的には清熱薬として分類され、清熱解毒の作用を持っています。また清熱止痙の作用もあり、小児の癇やひきつけにも効果があるでしょう。清熱により火を鎮め、止痙は風木の症状を抑えるという流れでしょうか。
そのため樋屋奇応丸の意図に沿う効能を持っている生薬なのでしょう。

写真は『和漢三才図会』より引用させていただきました。

さて、以上 5種の生薬の性質を総合して考えると、降火あり、行気あり、開竅あり、補中あり、安神あり、清熱ありとなかなか多方面にわたる効能を樋屋奇応丸は有しているのでは?と思えます。(分量を考えるとまた違ってくるでしょうが)
五行をベースにした治療が得意な方は、五行(五方)ベースでの薬能のベクトルを考えるのも面白いでしょう。

実際に樋屋奇応丸を大人が飲んでみると…

実際に講座では、参加メンバーで樋屋奇応丸を服用しましたが、服用したメンバー全員の脈が浮いてきました。
このような変化を考えると、行気や開竅の方向性が強いのではないか?と考えています。
麝香・牛黄・沈香の開竅・行気という比較的強い作用に対して、人参の和胃・補中により緩める作用を強調したいがための52㎎なのかもしれません。

主軸となる効能が開竅・行気かどうかは考察段階ではありますが、樋屋奇応丸には無い体の動かし方もあります。

この樋屋奇応丸には無い効能を考えることで、“樋屋奇応丸を飲んでも効果が無かったというお子さん”に対してどのような小児はりをすれば良いのか?が見えてくるのです。ある処方、ある治療が無効だったということは、実に有益な情報になるのです。

少なくとも私は臨床では、そのように問診情報から小児はりの治療を組み立てています。
この治療の組み立てに関しては、夜泣き・カンシャク(かんのむし)の各論で紹介しますね。

【続編】鍼灸師ならもっと知っておきたい樋屋奇応丸のこともあります。

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