名のある交会穴を知る

異名・ふたつ名を持つ交会穴

鍼灸師たる者、経脈流注を把握し、各経穴の部位を知ることは必須の素養です。(もちろんそれ以外にも必要な知識はたくさんあります)その経脈流注と経穴知識に重なる情報に「交会穴」があります。一穴に複数経が関与する特殊な経穴です。
人体における経脈は正経奇経ともに複雑に連絡しあっている。

例えば鍼灸学校で習う交会穴に三陰交があります。足の三陰経(脾経・肝経・腎経)が交会する経穴、故に三陰交であると。肝脾腎の三経脈が交会するため、精(腎)血(肝脾)にも深く関わる故に“婦人の三里”という別名もあります。

と、このように別名・異名・ふたつ名を持つ交会穴というのは他にもあります。

三陰交に似た名に「三結交(さんけっこう)」があります。他にも三陽五会(さんようごえ)もふたつ名と呼べるでしょう。

三結交とは

三結交とは関元のこと。

関元穴は任脈を本経として、足三陰経(肝経・脾経・腎経)と交会しています。
見かたを変えると、肝経・脾経・腎経の足三陰経は三陰交と関元の3点で交会しているといえます。三陰経が結ぼれ交会している故にこの名、三結交なのでしょう。

しかし関元は任脈を本経として足三陰経と交会する以外にも知っておくべき情報があります。

小腸の募穴という情報ももちろん知っておくべきですが、他にもあります。

それは陽明との関係です。
「三結交者、陽明太陰也。臍下三寸、関元也。」という記述が『霊枢』寒熱病編にあります。おそらくこの陽明とは足太陰と表裏関係にある足陽明胃経を指しているものだと推察します。

つまり関元穴は、任脈・腎経・胃経・脾経・肝経の五脈が交会し、さらに募穴として小腸腑に関わる特殊な経穴であるといえます。

…と、このような情報を知っておくだけで関元穴の立体的な理解というものはずいぶんと変わるはずです。当然、臨床応用にも反映することは言うまでもありません。

三陽五会とは

三陽五会とは百会穴のこと。

百会穴は督脈を本経として、手足三陽経(膀胱経・三焦経・胆経)と関与しています。三陽とは足太陽膀胱経(経脈篇)・手少陽之正(経別篇)、足少陽之筋(経筋篇)の三経です。それに加えて足厥陰肝経(経脈篇)が巓(百会穴)にて会しています。

本経である督脈に加え、肝経、そして足太陽膀胱経・足少陽胆経筋・手少陽三焦との五脈が百会にあつまるため「三陽五会」というふたつ名が与えられたのです。

「陽脈の海」である督脈上にあり頭部頂点に位置する百会穴、さらに足太陽経、手足少陽経が集まる交会穴としてみると、陽の性質を強く持つことも想像できます。
太陽膀胱経流注をみると「その直なる者は、巓より入りて脳に絡う…(其直者、從巓入絡腦…)」とあり、百会の部にて脳(髄海)にも関わっていることが『霊枢』経脈篇に明記されています。

また足厥陰肝経が百会に関わるという点も興味深いですね。厥陰といえば陰の極みでもあります。その陰性の強い経脈が陽の部である頭頂部に至るという点は「陰極まれば陽に転ず」の言葉を体現した構造でもあります。また体の下部(陰位)から上部(陽位)を結び、氣血を交流させる経路(器官)として足厥陰肝経は必要であると生理学的にみてもうなづけます。

このように見ると、百会の臨床応用はかなり多岐に渡ると考えられますね。

命の門、睛明穴

目の内眥にある経穴、睛明穴も多数経脈が交会する経穴です。

本経を足太陽膀胱経とし、足陽明胃経と手太陽小腸経さらに陰蹻脈・陽蹻脈が交会しています。とくに足太陽膀胱経と足陽明胃経の起始点にも相当します。

「胃足陽明の脈、鼻の交頞中に起こり、勞(旁ら)太陽の脈を納(い)れ、下りて鼻外を循る…(胃足陽明之脈、起於鼻之交頞中、勞納太陽之脈、下循鼻外…)」(『霊枢』経脈篇)とあり、胃経と膀胱経とはお互いの起始部が接近しています。実際には重なり合っているともいえ、経脈篇では胃経は「旁ら太陽の脈を納れ」とあり、頞(あつ)部とその傍らにある内眥・睛明とを包括した見かたを採っているようです。

頞は「鼻すじ・鼻の付け根」に当たり、膀胱経・胃経は眼疾患のみならず鼻疾患にも応用できるのはそのためでしょう。

眼疾患に焦点を当てるならば、陰陽蹻脈の存在は外せません。陰陽蹻脈は「瞋目」「瞑目」「不瞑」「不眠」などの病症にも関わる経脈です。陰蹻脈・陽蹻脈の二脈はともに跟中に起こり上行して、目の内眥・睛明に入ります。この陰陽蹻脈が形成する小循環も、奇経治療を行うならば必須の人体観といえるでしょう。

参考記事:「陰陽蹻脈が構築する小循環」「奇経と目と脳の関係」「医家の知る陰蹻脈とは」

これらの情報を踏まえ、陰陽蹻脈の関与を考えると命門という名称も納得できるのではないでしょうか。

人体の急所のひとつ・人中

私事ですが、昔したたかに人中を強打したことがあります。駅前だったので恥ずかしさが勝ち、立ち上がってすぐに電車に飛び乗ったのですが、ホッとした途端に強い吐き気・眩暈・倦怠感・息苦しさに襲われ、立っていられなく、途中下車して駅ホームのベンチでぐったりしたことを強く覚えています。

この時『人中は急所ってホントなんだな~』と身をもって体験したのです。

この人中は特殊な構造を有しています。

まず人中に当たる部位は水溝穴に当たります。上唇の中央(人中窩)の表面にある経穴が水溝。そして上唇の下の上歯齦の中央にあるのが齦交穴です。水溝穴・齦交穴は共に督脈に所属する経穴で、とくに齦交穴は督脈の終点に当たります。
そして齗交穴は督脈と任脈の交会穴でもあります。つまり会陰と齗交で督脈・任脈は繋がっているのです。

それだけではありません。
水溝穴には督脈・手陽明大腸経・足陽明胃経が、齗交穴には督脈・任脈・足陽明胃経が交会するとあります。(下記引用文を参照のこと)

「水溝(即ち人中)を経て手足陽明に会する。……齗交(上歯の縫中)に入り、任脈、足陽明と交会して終る。(水溝(即人中)會手足陽明。……入齗交(上歯縫中)與任脉、足陽明交會而終。)」(『奇経八脈攷』督脈について より)
「承漿を循り、手足陽明と督脉とに会する(唇下陥中)。唇を環りて、上り下齗交に至る。(循承漿、與手足陽明、督脉會(唇下陥中)。環唇、上至下齗交。)」(『奇経八脈攷』任脈について より)
上記のように任督両脈は唇を環り、齗交にて交会すると記されている。ここで下齗交と敢えて解釈したが、齗交と下齗交に関する考察はコチラの記事「奇経循環の歪な如環無端 -齗交の扱い-」を参考にされたし。

また人中に限局せずに唇という組織に目を広げると、さらに上記の任督だけでなく関与する経脈はさらに広がります。
足厥陰肝経の流注をみると「肝足厥陰之脈……其支者、從目系下頬裏、環唇内。」(『霊枢』経脈篇より)
そして唇といえば思い出されるのは衝脈と鬚の関係です。衝脈は口唇部にも流れ注いでいるため、男女における鬚の有無についても衝脈が関わっているのです。
「霊枢経曰、衝任皆起於胞中、上循背裏、為経絡之海。其浮而外者、循腹右、上行會於咽喉、別而絡唇口。」(『奇経八脈攷』衝脈より)
さらに口唇ではなく口吻と表現をとりますが陽蹻脈もこの部を流れます。
「…上人迎夾口吻、會手足陽明 任脉於地倉…」と、口吻を挟み、地倉穴にて任脈と足陽明胃経と交会するとのこと(『奇経八脈攷』陽蹻脈より)
蛇足ながら督脈流注記載でも、人中のみならず唇に触れている「…入喉上頤、環唇…」(『奇経八脈攷』督脈より)

このようにみると、人中部位には督脈・任脈・手陽明大腸経・足陽明胃経が交会し、(人中を含む)口唇部という広い目でみると、さらに足厥陰肝経・衝脈・陽蹻脈の流注関与が推察できます。

参考記事:「奇経循環の歪な如環無端 -齗交の扱い-」

鍼道五経会 足立繁久

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