『此事難知』 一治各有五 五五二十五治 如火之属衰于戌 金之属衰于辰 是也について

以前『中医臨床』(171号 vol.43-No.4)にて王好古(王海蔵)の鍼法「海蔵拨原法」を紹介したが、その記事を書く際にメモとして書き出した『此事難知』のいくつかの章を当サイトの記事に紹介しておこう。もちろん漢方医だけでなく、鍼灸師にとっても大いに学びになる内容である。

王好古の治療戦略

本章の五治(和・取・従・折・属)は、前章「三法五治論」の五治にあたる内容である。三法(初治・中治・末治)と併せて理解しておきたい治療戦略である。鍼灸治療にも通ずることは言うまでもない。

※『此事難知』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

此事難知 一治各有五 五五二十五治 如火之属衰于戌 金之属衰于辰 是也。の書き下し文

書き下し文・一治に各々五有り。五五二十五治、火の属は戌に衰え、金の属は辰に衰えるが如し、是也。

一治は和と曰う。
仮令(たとえば)小熱の病は、當に涼薬を以てこれを和すべし。これを和して已えずば、次に“取”を用る。

二治は取と曰う。
熱勢、稍(やや)大を為さば、當に寒薬を以てこれを取る、これを取りて已えずは、次に“従”を取る。

三治は従と曰う。勢い既に甚しきことを為さば、當に温薬を以てこれに従いて、薬氣の温に為(おさ)むる也、味は為(おさ)むる所に随う。或いは寒因に熱用を以てす、味は用いる所に通ず。或いは寒せば温用を以てし、或いは発汗を以てす。これ已えずば、又再び折(くじ)く。

四治とは折を曰う。病勢極めて甚しきを為せば、當に之を逆制するを以てすべし。之を逆制して已えずば、當に之を下奪するを以てすべし。之を下奪して已えずば、又、属を用ゆ。

五治とは属を曰う。其の属を求めて以て之を衰ろうことを為す。熱の深く陥りて骨髄の間に在るに縁りて、出す可き法無し。鍼薬の及ぶこと能わざる所なり。故に其の属を求めて以て之を衰ろう。
属の法に縁るとは、是れ同声相応、同気相求なり。
経に曰く、陥下する者は之を衰ろう。夫れ衰熱の法は前に云う所に同じ。火は戌に衰えて、金は辰に衰えるの類是れ也。如(も)し或いは又 已ざるは、當に其の法を広くして、之を治すべし。
譬えば孫子の兵を用いるが如し、若し山谷に在るときは則ち淵泉を塞ぎ、水陸に在るときは則ち渡口を把り、平川広野に在るときは、青野千里に當る。
淵泉を塞ぐとは、兪穴を刺す。
渡口を把るとは、病の発する時より前を奪う。
青野千里とは肌羸痩弱の宜しく大薬を広服して以て正を養うべきが如し。

夫れ病に中外有れば、治に緩急有り。内に在る者は、内治法を以て之を和す。
氣微(すくな)く和せざるは、調氣の法を以て之を調う。
外に在る者は外治法を以て之を和す。
其の次大なる者は平氣の法を以て之を平ぐ。
盛甚にして已まざるときは則ち其の氣を奪いて、其れ衰えせしむる也。

故に経に曰く、調氣の方は必ず陰陽を別ち、其の中外を定めて、各々其の郷を守る。

内なる者は内治。外なる者は外治。
微なる者は調治。其の次には平治。
盛んなる者は之を奪い。汗者は之を下す。
寒熱温涼之を衰うには、属を以て其の攸利するに随う。

三法と五治

まずは三法五治について整理しよう、三法は「初治」「中治」「末治」であり、五治の名称は「和」「取」「従」「折」「属」である。

「三法」の治は初・中・末とあるが、病気の初期~末期をいうのではなく、病勢に対する治法であることは前記事にて触れておいた。
この「五治」は治療の性質である。一見したところ治療の強弱にもみえるが、病勢に対して薬性を以って対応している。

本文を抜き出すと「和-涼薬」「取-寒薬」「従-温薬」「折-逆制・下奪」「属-同気同性」となる。

熱病・熱邪に対して「涼薬」から「寒薬」へと薬性を強調していく「和」から「取」への段階は分かりやすい。しかし寒涼薬でも効かないような強い病勢の熱に対して、一転して温薬で対応せよ(「…當以温藥従之、為藥氣温也。」)とある。さながら「押してダメなら引いてみよ」の格言にあるようである。
「和」「取」が病邪に対する治法であるのに対し、「従」は駆邪排邪のベクトルを利用して病を治めようとしているのであろうか。

「折」とは“くじく”とも読める。甚だ勢いの強い病に対して真っ向勝負・正攻法では勝ち目がない。その場合、違い方向から対処することを言う。下奪という表現はわかりやすい。例えば、高熱に苦しむ場合、清熱や発表がセオリーだとしても、緊急的に下法や瀉血によって急を凌ぐ手もある。このような変法も知っておく必要がある。

「属」とは駆邪排邪できない深い病位・ややこしい病位に伏する病邪に対する治法のようである。積極的に駆邪できないため、邪の減少・縮小を図る一手のようである。その手段として「同気同性」を利用せよとある。おそらくは“水には水を以って”“血には血を以て”“毒には毒を以て”ということであろうか。

ちなみに「火衰于戌、金衰于辰」の意味は浅学にしてよく分からない。
『五行大義』論生死所では「木受氣於申、胎於酉、養於戌、生於亥、沐浴於子、冠帯於丑、臨官於寅、王於卯、衰於辰、病於巳、死於午、葬於未。
火受氣於亥、胎於子、養於丑、生於寅、沐浴於卯、冠帶於辰、臨官於巳、王於午、衰於未、病於申、死於酉、葬於戌。
金受氣於寅、胎於卯、養於辰、生於巳、沐浴於午、冠帶於未、臨官於申、王於酉、衰於戌、病於亥、死於子、葬於丑。」とあるが、どうも違うようである。

いずれにせよ「和」「取」は病邪に対する治法の強弱であり、
「従」は駆邪のベクトルを利用する観点
「折」とは正攻法を避けた変法としての観点
「属」とは治療が及ばない病位に伏する邪の削り方
…といった治療戦略を念頭におくべし、といった内容であろう。

鍼道五経会 足立繁久

三法五治論 ≪ 一治各有五 五五二十五治 如火之属衰于戌 金之属衰于辰 是也 ≫ 面部形色図

原文 此事難知 一治各有五五二十五治、如火之属衰于戌、金之属衰于辰、是也

■原文 此事難知 一治各有五五二十五治、如火之属衰于戌、金之属衰于辰、是也。

一治曰和。假令小熱之病、當以涼藥和之。和之不已、次用取。
二治曰取。為熱勢稍大、當以寒藥取之、取之不已、次用従。
三治曰従。為勢既甚當以温藥従之、為藥氣温也。味随所為或以寒因熱用、味通所用。或寒以温用、或以発汗之不已、又再折。
四治曰折。為病勢極甚、當以逆制之。逆制之不已、當以下奪之。下奪之不已、又用屬。
五治曰屬。為求其屬、以衰之、縁熱深陥在骨髄間、無法可出鍼藥所不能及故求其屬以衰之。縁屬之法、是同聲相應、同氣相求。経曰陥下者衰之。夫衰熱之法、同前所云。火衰于戌、金衰于辰之類是也。如或又不已、當廣其法、而治之。

譬如孫子之用兵、若在山谷則塞淵泉、在水陸則把渡口、在平川廣野、當青野千里。塞淵泉者、刺兪穴。把渡口者、奪病発時前。青野千里者、如肌羸痩弱、宜廣服大藥、以養正。

夫病有中外、治有緩急。在内者、以内治法和之。
氣微不和以調氣法調之
在外者以外治法和之。
其次大者以平氣法平之。
盛甚不已則奪其氣、令其衰也。

故經曰、調氣之方必別陰陽、定其中外、各守其郷。
内者内治。外者外治。
微者調治。其次平治。
盛者奪之。汗者下之。
寒熱温涼衰之、以屬随其攸利。

難経 六十七難

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