コロナ禍でおこる身体的変化
このコロナ禍の影響で運動不足に陥っている人が増えました。
職場はオンラインの普及で在宅に代わり、通勤そのものが減少しました。当然、出張も激減。
休日も外出を控えることになり、密を避けるなどの理由でスポーツ・ジムに通う人も減ったことと思います。
結果として「体脂肪の増加」に「筋肉の質・量ともに減少」という切実な問題に直面している人は少なくないと思われます。
かくいう私自身がこの2年前からこのような状態にあります。
ちょうどコロナ騒動が始まったのが2020年の年頭でした。私自身も2019年末~2021年度始めの頃はちょうど文献の調べものや勉強会の講義準備などに今まで以上に注力し始めた頃です。
その当時は『ちょうど良い、しっかりと勉強して力を蓄えよう』と思っていたのですが、夏を過ぎた頃に随分と体力の低下を実感しました。
ちょっと走っても息切れし、すぐに立ち止まろうとする…など、体力はおろか気力まで低下している自分に気づきました。
実際に同じような変化を実感している人は多いのではないでしょうか?
しかし私は何でも試したみたい!確かめてみたい!…と、こんな性分なもので『これも実験できるんじゃないか!?』と思ってしまったのです。
何を実験しようと思ったのか、それは…
疑似的老化現象を体験
そこで思ったのが『ちょうどイイ、どこまで体力低下するのか、見てみよう。擬似的な老化体験ができるゾ。』と不埒なことを思いついてしまったのです。
そこからさらに一年半以上(実質2019年12月~2021年9月の約22カ月)、鍼する以外は座るだけのほぼ引きこもり。週一回の大阪大学への通勤も車を使うようになったのも好都合でした。積極的な運動・筋トレなどはせず鍼と箸・茶碗以上の重いものは持たず、グータラ貴族のような有様でした。
順調に体重は増えてゆき…60~61kg → 64~65kgへ。私は元々体重変動しにくい方なので、その数字の変化は大きなものに感じました。自分の体に起こった筋肉の低下(≒身体的フレイル)と脂肪組織の増加が容易に想像できる数字の推移です。
なにより実感できたのは腹部の存在感と臀部痛でした。
段々畑のようになった腹部は言わずもがな。問題は臀部痛です。これは臀筋群の減少のためでしょう、久坐(長時間座ること)で臀痛が起こるようになり、あの“タマゴが落ちても割れないクッション”を購入しなければならなくなりました。
さらに腰下肢痛が顕著になると、次は睡眠時の痛みです。
夜間、就寝時に同じ姿勢でいることがつらくなり、夜間覚醒も2度以上。これはもう立派な老化現象、加齢によってみられる症状パターンの一つです。
またメンタル面での変化も確認できました。
『そろそろ体を動かして筋肉を取り戻さないといけない!』と分かっているのに『今はその時ではない…』『もう少ししてから…』『今忙しいから…』と、なんだかんだ言い訳して運動再開を後回しにしている自分にも驚きました。(元々私は体を動かすのは好きな方なのです)
運動に対するモチベーションの低下(≒精神的フレイル)、これもまた老化した患者さんにしばしばみられる現象です。
以上が全体的に観察できた心身の変化です。
とくに勉強になったのは筋肉の落ちかた
臀筋群が低下した中でも、注目すべきでは少陽経エリアでした。この領域における筋低下と、腰下肢の少陽位における鈍痛・酸疼・重痛などの症状が顕著に現れました。経穴として表現するならば環跳・居髎・風市・中瀆・膝陽関・陽陵泉にあたります。
そしてこのエリアの筋低下および鈍痛・酸疼は少陽周辺の関連部位にも波及しました。
例えば、疼痛は膝外側(膝陽関・陽陵泉)から、膝内側へとシフトします。この膝関節痛の痛みの流れが実体験できたのも得難い経験でした。治療に活かせる経験でしたし、治療効果にも当然反映しています。
他にも少陽エリアから腰部、腰陽関を中心とした疼痛、組織の硬化も体験できました。
このおかげで腰陽関(一行線)の刺鍼の仕方や、他経穴との連携などの治療の組み立ても変わりました。腰陽関を中心とした経穴における病伝が理解できたからです。
以上の体験を踏まえて考察するに、やはり少陽位は人生の転機で病態変化のハブとなる存在だと思います。
ここでいうハブとは経穴経絡的な病態変化だけでなく、精神的な病態すなわち心理的な老化にもつながるものだとみています。
精神面での木気の重要性
五行でいうと少陽は木に属します。木とは条達を主り、生長の気を意味します。
若々しさを維持するには、ある程度の木気は不可欠です。実際に手っ取り早く木気を伸ばすには木に属する器官(たとえば筋)を盛んに使用することです。
一般的にも「筋トレがメンタルに良好な効果がある(ストレス発散・ポジティブ思考・自信がつく…など)」と言われるのも、木気という観点からみても是だと思います。
既にアラフィフ世代にある私が、実験とはいえ老化を加速させてしまったことは(今後ことを考えると)心身にとって実に大きな損失だったと考えられます。
若さを取り戻すため(年齢相応に戻るため)筋トレや運動を早急にかつ積極的に行う必要があります。(もちろん若い世代にとっても筋トレ・運動は健全な心身を養うために必要だ)
ところで腰下肢の少陽といえば…
ちなみに少陽エリアの経穴(環跳・居髎・風市・中瀆・膝陽関・陽陵泉)を列挙しましたが、これらは寒邪、湿痰、瘀血が潜伏・蓄積しやすい部位です。
言うまでもなく、腰下肢は下半身に属しますので陰のエリアです。そして股関節・膝関節という大関節には気の停滞が生じやすいもの。そして少陽位は太陽位や陽明位ほどの陽気の勢いや熱量はありません(三陽病の熱型から推測する)。
また、陰邪の性質からみても外邪は下から侵入し、内伏の陰邪は下に流れ下り沈殿し、正気の流れの穏やかなこの少陽というすき間に蓄積するのです。その結果、伏寒、湿痰、瘀血が蓄積するのです。
以上のように部位でみると病位、病邪でみると病性の両要素から理解することで治療に応用すること可能となるのです。
【後編】へつづく
鍼道五経会 足立繁久