蚊に刺されるということ ー虫刺されを東医的にー

 

ヤツラのシーズンがやってきた

 

キャンプや釣りなどのアウトドアのシーズンになりました。アウトドアといえば避けられないのが虫刺され。

特に山野では蚊(カ)や虻(アブ)がまとわりついてきたり、いつの間にか刺されていたりします。蚊(カ)にも刺されやすい人とそうでない人がいます。

東医的にみると、蚊に刺されやすい人は“熱がこもっている体質”と表現できます。
体内の熱量が多い人、言い換えると内熱体質です。普段から運動不足の人、お子さんなどがこれに相当します。

運動しないと放熱されませんので、体内に熱は蓄積します。加えて実際には飲食不節(湿熱)やストレス(気滞内熱)なども加わります。熱の蓄積はけっこうなモノになるでしょう。
またお子さんの体質は元来 熱量が盛んです。そのため「お子さんは蚊に刺されやすい」というのは一般的にも良く言われていることです。

身近なケース、蚊を刺された場合を例に東医的に考えてみましょう。蚊に刺されると痒み・発赤・浮腫が起こります。

虫刺されを考えよう


蚊に刺されると【発赤】【痒み】【浮腫(腫れ)】といった症状が現れます。

これを東洋医学で見直してみましょう。
そもそも蟲に刺されるということは、異物(たいていは毒)が体内に入ることになります。
蚊をはじめとする虻やブヨはその唾液中に血液の凝固を妨げる成分があり、体にとっては異物(毒素)となります。毒という点では蜂やムカデに刺咬されるのは分かりやすいですね。毒素がより強いほど【痛み】という症状も加わります。

【発赤】【痒み】の2症状は東医的には火・熱の表われです。
この現象は異物・毒に対して正氣が反応します。氣が集まった結果、局所的な氣滞が起こり熱を生じます。
異物に対する人体の気の反応は石坂流『鍼灸茗話』に分かりやすく説かれています。

さらには聚まった氣、生じた熱に呼応するように水が集まり浮腫が起こります。
「火は水を呼ぶ」のです。
蟲刺されの反応には熱と水の要素が含まれているのです。

痒みが生じて掻くということは…

そして虫刺されのもう一つの要素【掻く】という行為についても注目する必要があります。

結論からいうと、掻くことで邪を排出しているのだと思います。
掻くとは、爪など先端の鋭いもので皮膚表面を“強くこすること”です。また掻破することで血液や滲出液も漏出することに結びつきます。

皮膚を強くこするで、皮膚の発赤はより強くなります。これは皮膚の気分の邪を追い出す行為でもあります。
また掻破による出血は血中に邪毒を排出することになります。

虫を使った療法

虫に刺されて痒みを生じ、掻破するという一連の流れの中で起こっている現象をまとめると以下のようになります。
【蟲の刺咬→毒・異物の侵入→正氣が集まる→邪正相争→熱化→浮腫→掻破→結果的に解表・発表・出血による駆邪】

特に蚊の毒(蚊の唾液)程度の軽い物であれば、以上のプロセスに合致させやすいです。次に近しいイメージとしてミツバチの針を使った蜂針療法が挙げられるのではないでしょうか。
ミツバチの針を使って有意に異物を皮膚内に入れ、正氣を賦活させて皮膚・肌肉内の伏邪を発散させる治療法なのではないか?と個人的には想定しています。(※実際には自身で体験したことはなく、映像で何度か見ただけであります)

蟲の毒という点では、斑蝥(ハンミョウ)も上記機序に近しい目的で用いられています。
ハンミョウには毒性があります。このハンミョウを粉末にして、皮膚に塗ることで炎症さらには排膿させることで癰を治療する方があります。(『本草綱目』巻四十虫部 斑蝥の附方を参照のこと)
また打膿灸も同様の療法として挙げることができるでしょう。毒ではなく火熱を用いて炎症と排膿を促す方法ですが、本質的に治療目的は共通しているといえるでしょう。

但し、以上の療法は現代では実施しにくい点があります。
一つは医療法規的に故意に炎症を起こし化膿させるという点で、患者さんだけでなく術者や院にとって危険であること。
もう一つは化膿させ排膿させる意義が伝わらない点。(鍼灸師側も理解していない可能性もあり)

そしてもう一つ、患者さんの素体もこれらの療法にあまり適していない可能性があります。

元々の体質を考慮に入れる

一旦、虫刺されに話を戻しましょう。虫刺されの過程では「異物・毒」と「体質的なベース」がポイントとなります。体質的なベースとは伏邪を指します。

伏熱の強い人が蟲に刺されると、持ち前の伏熱のためにその反応も強くなります。そして内熱にもそれぞれの層があります。気分の熱、湿熱、血熱と、その層によって順に反応も強くなります。

つまり症状が強くなる要因は毒性の強さに加えて、元々の伏邪の質と量にも依るのです。

例えば蚊に刺されることは、毒素という観点からするとごく軽度の毒であると思われます。
しかし蚊に刺されると上記のように【発赤】【痒み】【浮腫】の3所見があらわれます。しかしこの3所見にも個人差があります。

毒素は量の多少はあれども、蚊によって毒素が変わるわけではありません。最も変動率が大きいのは個々の体質だと言えるのではないでしょうか。

小児でも1~2歳の子は蚊に刺されると通常より過剰に赤く腫れて、通常よりも長く虫刺されの反応が続くケースがあります。
蚊刺過敏症の可能性も考慮すべきでしょうが、そこまで(潰瘍・水疱・リンパ節の腫脹…など)は起こらないケースです。私の3人の子どもにも生後初めての夏に見られましたが、翌年翌々年には普通の虫刺され反応に移行していました。

【写真】眼瞼上部の腫れ

また反対にの例として、義父は蚊に刺されてもさほど痒くなりません。夏は夕涼みがてら外のベンチで寝ています。(やぶ蚊をものともせずに…)
毎日、外で汗水流して農作業している結果ではないか?と以上のような仮説に至るわけなのです。

さらに蛇足ではありますが、アナフィラキシー・ショックも同様の機序が絡んでいるのではと考えています。
一度蜂に刺されて、二度目にはアナフィラキシー・ショックが起こるとするならば、私自身とうの昔に故人となっています。アシナガバチには3~4回、ミツバチに至っては10回以上は刺されていますから。

さて、以上の仮説の是非は一旦置いておくとして、伏邪を溜めこまない、深い層にまで至らせないというケアが大事であることは間違いのないことだと言えるでしょう。

 

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