清暑益気湯について 『内外傷弁惑論』暑傷胃氣論より

清暑益気湯について

酷暑・猛暑が続きます。昨今は熱中症や脱水症状の注意喚起が主となり、“夏バテ”という言葉も遠い昔の言葉のように感じます。
この昔の言葉(?)夏バテに処方される定番といえば“清暑益気湯”ではないでしょうか。

清暑益気湯は李東垣が考案した処方です。李東垣の医学を伝える『内外傷弁惑論』(1247年)、『脾胃論』(1249年序)にもそれぞれ章を立てて清暑益気湯について詳解しています。

現在、エキス剤などで使用される清暑益気湯は、その生薬構成は李東垣のものと異なり、明代の『医学六要』(1585年 張三錫 著)の新定方だとされています。李東垣の清暑益気湯は15生薬が用いられるのに対し、張三錫の新定方は9生薬〔人参・黄耆・甘草・蒼朮・陳皮・当帰・黄柏・麦門冬・五味子〕です。

この李東垣のオリジナルから張三錫の新定方に至る経緯は不明ですが、まずは清暑益気湯の起源である李東垣の論説をみてみましょう。


画像:『内外傷弁惑論』暑傷胃氣論(足立鍼灸治療院 蔵書)

書き下し文・暑は胃氣を傷るの論

暑は胃氣を傷るの論

刺志論に云う、氣虚身熱するは、これを傷暑に得たり、熱は氣を傷る故也。
痿論に云う、遠行する所あり、労倦して、大熱に逢いて渇す。渇するときは則ち陽氣内に伐す、内伐するときは則ち熱は腎に舎る。腎は水藏也。今水 火に勝つこと能わざれば、則ち骨枯れ髓虚す。故に足は身に任せず、発して骨痿と為す。故に『下経』曰く、骨痿なる者、大熱に於いて生ずる也。
これ湿熱は痿を成し、人をして骨乏しく無力せしむる、故に痿を治するときは独り陽明を取る。
時 長夏に当りて、湿熱大いに勝ち、蒸蒸として熾なる。人これに感ずれば多くは四肢困倦し、精神短少にして、動作において懶(だる)く、胸満氣促、肢節沈疼す。
或いは氣高して喘、身熱して煩、心下膨痞し、小便黄にして少、大便溏にして頻。
或いは痢に黄糜を出し、或いは泔色の如し。
或いは渇し或いは渇せず、飲食を思わず、自汗体重く。
或いは汗少なき者は、血先に病みて氣病まず也。
その脈中に洪緩を得て、若し湿氣相い搏てば、必ずこれを加るに遅を以ってす。
遅は病 互換し少差と雖も、その天の暑湿の令は則ち一つ也。宜しく清燥の剤を以ってこれを治すべし、これを名づけて清暑益氣湯と曰いこれを主る。

清暑益氣湯
黄耆(汗少なき者は五分減ず)、蒼朮(泔に浸し皮を去る)已上は各一銭五分、升麻(一銭)、人参(蘆を去る)、白朮、橘皮、神麯(炒)、澤瀉(已上、各五分)、甘草(炙)、黄檗(酒に浸す)、當歸身、麦門冬(心を去る)、青皮(白を去る)、葛根(已上各三分)、五味子(九箇)

『内経』に云う、陽氣は、外を衛りて固めを為す也。炅(あつき)ときは則ち氣泄す、今暑邪、衛を干す、故に身熱自汗す。
黄耆、人参、甘草を以って、中を補い氣を益すの君と為す、
甘草、橘皮、當歸身の甘辛微温にて、胃氣を養い、血脈を和するを臣と為す。
蒼朮、白朮、澤瀉の滲利し湿を除き、升麻、葛根の苦甘平は、善く肌熱を解し、又、風を以って湿に勝つ也。
湿勝てば則ち食(湿)消せずして痞満を作す、故に炒麯の甘辛、青皮の辛温は食を消し氣を快くす。
腎は燥を悪む、急に辛を食して以ってこれを潤す、故に黄檗の苦辛寒を以って、甘味を借りて熱を瀉し水虚の者を補う。
その化源を滋するに、五味子、麦門冬の酸甘微寒を以って、天暑の庚金への傷を救うことを佐と為す也。」

清暑益気湯の構成生薬と方意について

前述しましたように、現在エキス剤などで用いられる清暑益気湯(張三錫の新定方)の生薬構成は9生薬〔人参・黄耆・甘草・蒼朮・陳皮・当帰・黄柏・麦門冬・五味子〕。
李東垣の清暑益気湯は15生薬が用いられるのに対し、〔人参・黄耆・甘草・蒼朮・白朮神麹沢瀉・橘皮・青皮升麻・当帰・葛根・黄柏・麦門冬・五味子〕です。
 ※生薬の並び・順番は筆者の主観によります。
 ※青文字の生薬は張三錫新定方にはない生薬です
 ※正確には陳皮と橘皮は異なります。


画像:清暑益気湯方『内外傷弁惑論』暑傷胃氣論より

➣ 黄耆・人参・甘草の三薬を君薬
➣ 甘草・橘皮・当帰の三薬を臣薬
➣ 五味子・麦門冬の二薬を佐薬
としています。

また李東垣が記す方意を以下の引用します。

黄耆・人参・甘草によって「中焦を補い氣を益す」とあり、補中益気を行います。
甘草・橘皮・当帰により「胃氣を養い」「血脈を和する」
蒼朮・白朮・澤瀉により「滲利して湿を除く」。
升麻、葛根の二薬にて「肌熱を解す」
炒麯・青皮の二薬にて「食(痞満)を消し氣を快く」します。
黄柏の一味は(甘味を借りて)、「熱を瀉し」かつ「水虚を補」います。
五味子・麦門冬の二薬は暑邪により傷害された庚金(金陽)を救います。
清暑益気湯の方意において、この“庚金を救う”という要素は非常に重要です。

補中益気湯の構成は〔黄耆・甘草・人参・当帰・橘皮(陳皮)・升麻・柴胡・白朮〕の8生薬。
(※『脾胃論』飲食労倦所傷始為熱中論では橘皮、『内外傷弁惑論』立方本旨では陳皮と記載されている)

すなわち清暑益気湯は、補中益気湯から柴胡一味を去り、蒼朮・沢瀉・葛根・神麹・青皮・黄柏・麦門冬・五味子の八味を加えた構成となっています。

清暑益気湯の適応症に関する詳しい病態像は『脾胃論』長夏濕熱胃困尤甚用清暑益氣湯論に詳しいです。

鍼道五経会 足立繁久

原文 暑傷胃氣論

■原文 暑傷胃氣論

刺志論云、氣虚身熱、得之傷暑、熱傷氣故也。
痿論云、有所遠行勞倦、逢大熱而渇、渇則陽氣内伐、内伐則熱舎於腎。腎者水藏也。今水不能勝火、則骨枯而髓虚。故足不任身、発為骨痿。故『下経』曰、骨痿者、生於大熱也。
此湿熱成痿、令人骨乏無力、故治痿獨取陽明。
時當長夏、湿熱大勝、蒸蒸而熾、人感之多四肢困倦、精神短少、懶於動作、胸満氣促、肢節沈疼。或氣高而喘、身熱而煩、心下膨痞、小便黄而少、大便溏而頻、或痢出黄糜、或如泔色。
或渇或不渇、不思飲食、自汗體重。或汗少者、血先病而氣不病也。
其脉中得洪緩、若湿氣相搏、必加之以遅、遅病雖互換少差、其天暑湿令則一也。宜以清燥之剤治之、名之曰清暑益氣主之。清暑益氣湯
黄芪(汗少者減五分)、蒼朮(泔浸去皮)已上各一銭五分 升麻(一銭)、人参(去蘆)、白朮、橘皮、神麯(炒)、澤瀉(已上、各五分)、甘草(炙)、黄檗(酒浸)、當歸身、麦門冬(去心)、青皮(去白)、葛根(已上各三分)、五味子(九个)『内経』云、陽氣者、衛外而為固也。炅則氣泄、今暑邪干衛、故身熱自汗。以黄芪、人参、甘草、補中益氣為君、甘草、橘皮、當歸身甘辛微温、養胃氣、和血脉為臣。蒼朮、白朮、澤瀉滲利除湿、升麻、葛根苦甘平、善解肌熱、又以風勝湿也。
湿勝則食不消而作痞満、故炒麯甘辛、青皮辛温、消食快氣。
腎悪燥、急食辛以潤之、故以黄檗苦辛寒、借甘味瀉熱補水虚者。滋其化源、以五味子、麦門冬酸甘微寒、救天暑之傷庚金為佐也。」

です

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