清暑益気湯について 『脾胃論』長夏湿熱胃困尤甚用清暑益気湯論

『脾胃論』における清暑益気湯

前記事『清暑益気湯について 『内外傷弁惑論』暑傷胃氣論より』では清暑益気湯について、その構成生薬と方意について紹介しました。
本記事では『脾胃論』の長夏湿熱胃困尤甚用清暑益気湯論から、清暑益気湯・適応症の病態(以下、清暑益気湯証)について少し触れてみたいと思います。

本論を読むと、清暑益気湯証が陰火病態を基盤としていることが分かると思います。


画像:『脾胃論』長夏湿熱胃困尤甚用清暑益気湯論(足立鍼灸治療院 蔵書)

書き下し文 長夏の湿熱、胃困じること尤も甚し清暑益気湯を用いるの論

長夏の湿熱、胃困じること尤も甚し清暑益気湯を用いるの論

『内経』刺志論に云、氣虚身熱するは之を傷暑に得たり。熱は氣を傷る故也。
『内経』痿論に云う、遠行労倦する所有り、大熱に逢いて渇す。渇するときは則ち陽氣内に伐す、内伐するときは則ち熱は腎に舎る。腎は水臓也。今、水は火に勝つこと能わず、則ち骨枯れて髓は虚する。故に足は身を任ぜず、発して骨痿を為す。故に『下経』に曰く、骨痿とは大熱に於いて生ずる也。
此れ湿熱は痿を成す、人をして骨乏しく無力にせしむ、故に痿を治するには独り陽明に於いて取る。
時、長夏に当り、湿熱大いに勝ちて蒸蒸として熾んなり。人は之に感じ多くは四肢困倦し、精神短少、動作に懶(ものうし)、胸満氣促し、肢節沈疼す。或いは氣高くして喘、身熱して煩、心下膨痞し、小便黄にして数(※脾胃論と内外傷弁惑論では数と少と異なる)、大便溏にして頻なり。或いは痢出て黄にして糜の如く、或いは泔色の如し。
或いは渇し、或は渇せず、飲食を思わず、自汗、体重し。或いは汗少なき者は、血先に病みて氣病まず也。其の脈中に洪緩を得る。若し湿と氣と相い搏てば、必ず之を加うるに遅を以てす。遅は病むこと互換と雖も少差あり。其の天暑、湿令は則ち一つ也。宜しく清燥の剤を以て之を治すべし。

『内経』に曰く、陽氣は衛外にして固と為す也。炅なるときは則ち氣泄れる。今、暑邪が衛を干かす、故に身熱し自汗す。黄耆の甘温を以て之を補うを君と為す。
人参・橘皮・当帰・甘草が甘微温、中を補うを氣を益すを臣と為す。蒼朮・白朮・沢瀉が滲利して湿除く。升麻・葛根が甘苦平は善く肌熱を解す。
又、風は湿に勝つを以て也。湿勝つときは則ち食消さずして痞満を作す。故に炒麹の甘辛、青皮の辛温、食を消し氣を快す。
腎は燥を悪む。急に辛を食して以て之を潤う。故に黄柏の苦辛寒を以て、甘味を借りて熱を瀉し水を補う。虚する者は其の化源を滋する、人参・五味子・麦門冬の酸甘微寒を以て、天暑が庚金に於いて傷るを救うを佐と為す、名を清暑益氣湯と曰う。

清暑益氣湯
黄耆(汗少きには五分減ず)、蒼朮(泔に浸し皮を去る)、升麻(以上各一銭)、人参(蘆を去る)、沢瀉、神麹(炒黃)、橘皮、白朮(以上各五分)、麦門冬(心を去る)、当帰身、炙甘草(以上各三分)、青皮(白を去る、二分半)、黄柏(酒洗し皮を去る、二分、或いは三分)、葛根(二分)、五味子(九枚)
右件(上記)同じくして㕮咀し都(すべて)一服に作す。水二大盞を煎じ一盞に至る、相(粗)を去り、大温して食遠に服す。剤の多少は、病に臨んで斟酌せよ。
此の病、皆な飲食労倦に由り、その脾胃を損じ、天暑に乗じて病を作する也①但だ薬中に沢瀉・猪苓・茯苓・燈心草・通草・木通の澹滲して小便を利するの類に犯さんは、皆な時令の旺氣に従い、以て脾胃の客邪を瀉し、而して金水の不及を補する也。此れ正方已に是、権に従いて之を立つ。若し時病湿熱脾旺の証の無きに於いて、或いは小便已に数、腎肝は邪を受けざる者、誤りて之を用いれば必ず大いに真陰を瀉する。腎水を竭絶せば、先ずその両目を損じる也。復た変証を立てて後ろに加減法(記す)。

〇心火が脾に乗ずれば、乃ち血は火邪を受け、而して陽氣を升発すること能わず、地中に於いて復(伏?※後に記す加減法4を参照のこと)する。地は人の脾也。必ず当帰を用いて血を和する、少しく黄柏を用いて以て真陰を益する。

〇脾胃不足の証、須らく少しく升麻を用う、乃ち足陽明太陰経の薬也。陽道を行らせしめ、脾胃の中より右遷し、少陽は春令を行い、萬化の根蔕を生じる也。更に少しく柴胡を加えて諸経をして右遷せしめ、陰陽の氣を生発し、以て春の和氣を滋する也。

〇脾虚は心火亢甚してその土を乗じるに縁る也。その次は肺氣が邪を受け熱の為に傷る所、必ず須く黄耆を用いること最も多く、甘草が之に次ぎ、人参も又これに次ぐ。三者は皆な甘温の陽薬也。脾、始虚すれば肺氣先に絶す。故に黄耆の甘温を用い以て皮毛の氣を益し、而して腠理を閉じる。自汗してその元氣を損じることをせしめざる也。上喘、氣短、懶語には、須らく人参を用いて以て之を補う。
心火が脾に乗じるは須らく炙甘草を用い、以て火熱を瀉し、脾胃の中の元氣を補う。甘草最も少なきは資満を恐る也。若し脾胃の急痛、并びに脾胃大虚すれば、腹中急縮す。腹皮急縮する者は、却て宜しく多く之を用うべし。経(『内経』藏氣法時論)に云う、急なる者は之を緩む。権に従いて必ず升麻を加え、以て之を□(方刂)するが若し。左遷の邪が堅盛にして、卒かに肯退せず、反て項上及び臀尻に致し肉添して反して陰道を行ることを恐る。故に之を引き、以て陽道に行らせる。清氣をして之を地より出だしめ、右遷して上行させ、以て陰陽の氣を和さしめる也。若し中満する者は、甘草を去る。咳の甚しき者は、人参を去る。如(も)し口乾嗌乾する者は、乾葛を加う。

〇脾胃既に虚して升浮すること能わず、陰火の為にその生発の氣を傷る。栄血は大いに虧け、栄氣は地中に伏する。陰火熾盛にして、日に漸漸して熬し、血氣虧少する。且つ心包と心は血を主る。血減ずれば則ち心の養う所無く、心乱して煩せしむることを致す。病、名けて悗と曰う。悗とは心惑いて煩悶して安からず也。是れ清氣升らず、濁氣降らず。清濁相い干かして、胸中に於いて乱るる。使周身をして氣血逆行し乱れる。
『内経』に云う、下より上る者は引きて之を去る。故に當に辛温甘温の剤を加えて陽を生ずる、陽生ずれば則ち陰長ずる。已に甘温の三味の論有り。

或る人の曰く、甘温の何れが能く血を生ずるか?又、血薬に非ざる也?
曰く、仲景の法、血虚には人参を以て之を補う。陽旺するときは則ち能く陰血を生ずる也。更に当帰を加えて血を和する。又、宜しく少し黄柏を加え、以て腎水を救う。蓋し甘寒は熱火を瀉する、火減ずるときは則ち心氣は平を得て安ずる也。如(も)し煩乱猶お止むこと能わざる如きは、少しく黄連を加え以て之を去る。盖し将に腎水を補わんとするに、腎水をして旺ぜしめれば、而して心火は自ら降り、地中の陽氣を扶持するなり

〇如し氣浮かび心乱れるときは、則ち硃砂安神丸を以て、之を鎮固す。煩の減ずるを得れば再服する勿れ、以て陽氣を瀉して之が反て陷るを防ぐ也。
如し心下痞せば、亦た少しく黄連を加う。氣の胸に乱れて、為清濁相干するを為す、故に橘皮を以て之を理する。又、能く陽氣の升を助け、而して滞氣を散ずる。又、諸(薬)の甘辛を助くるを用と為す也。

〇長夏に湿土客邪大いに旺ずるは、可権に従いて蒼朮白朮沢瀉を加う可し、その湿熱の氣を上下に分消する也。湿氣大いに勝ちて食の消化せざるを主る、故に食減じて穀味を知らず。炒麹を加えて、以て之を消す。復た五味子・麦門冬・人参を加え、火を瀉し肺氣を益して、秋損を助くる也。此れ三伏の中、長夏正旺の時の薬也。

『脾胃論』と『内外傷弁惑論』との違い

本論「長夏の湿熱、胃困じること尤も甚し清暑益気湯を用いるの論(長夏濕熱胃困尤甚用清暑益氣湯論)」(名前、長すぎッ!)の冒頭、『素問』志刺論第五十三、痿論第四十四の引用は『内外傷弁惑論』と同じです。

また諸症状「四肢困倦」「精神短少」「懶於動作」「胸満氣促」「肢節沈疼」…「身熱而煩」「心下膨痞」…「或渇或不渇」「不思飲食」「自汗体重」(途中いくつかの症は略す)など、夏バテにも通じるような症状群も『内外傷弁惑論』と一致しています。

両書の違いといえば、君・臣・佐の違いでしょうか。
『脾胃論』長夏湿熱胃困尤甚用清暑益気湯論では、
➣ 君薬は〔黄耆〕のみ
➣ 臣薬は〔人参・橘皮・当帰・甘草〕
➣ 佐薬を〔人参・五味子・麦門冬〕
としており、『内外傷弁惑論』暑傷胃氣論に記す君臣佐とは少し異なります。

とはいえ、各生薬の役割り(方意・薬能)については大きな違いはないようですので、それぞれの役割りと君臣佐の説明を照らし合わせて理解すると良いかと思います。

 


画像:清暑益気湯方『脾胃論』より

次に清暑益気湯証の病態についてみてみましょう。

清暑益気湯の病態をよむ

「この病、みな飲食労倦により、その脾胃を損じ、天暑に乗じて病を作する也」(下線部①)にあるように「飲食労倦」「損其脾胃」これは補中益気湯にも通ずる病因です。

ここで注意して読みたい点は、脾胃を損じたからといって単なる脾虚・胃虚とみてはいけません。
李東垣の医学観からみて、また後文の分脈から判断しても陰火の存在が関与しているとみることができます。すなわち「飲食労倦」および「脾胃を損傷」によって「中氣不足」に陥り陰火(心火)が発生します。
ここまでの流れは清暑益気湯証においても共通の病理のようです。この状態に天の氣(暑氣・湿熱)が加わることで、補中益気湯証とは異なる病態に進行していくわけです。

さらに詳しい病態進行の様子は、各生薬の薬能および後半に附記されている加減法の文章から明瞭に読み取ることができます。しかしその内容は講義内容に当たるため本記事では伏せておきます。

鍼道五経会 足立繁久

原文 長夏濕熱胃困尤甚用清暑益氣湯論

■原文 長夏濕熱胃困尤甚用清暑益氣湯論

刺志論云、氣虚身熱得之傷暑、熱傷氣故也。
痿論云、有所遠行勞倦、逢大熱而渇。渇則陽氣内伐、内伐則熱舎於腎。腎者水藏也。今水不能勝火、則骨枯而髓虚。故足不任身、發為骨痿。故下経曰、骨痿者、生於大熱也。
此濕熱成痿、令人骨乏無力、故治痿獨取於陽明。
時當長夏、濕熱大勝、蒸蒸而熾、人感之多四肢困倦、精神短少、懶於動作、胷満氣促、肢節沉疼。或氣髙而喘、身熱而煩、心下膨痞、小便黄而數、大便溏而頻、或痢出黄如糜、或如泔色。
或渇或不渇、不思飮食、自汗體重。或汗少者、血先病而氣不病也。其脉中得洪緩、若濕氣相搏、必加之、以遅。遅、病雖互換少差。其天暑濕令則一也。宜以清燥之劑治之。
内經曰、陽氣者衛外而爲固也。炅則氣泄。今暑邪干衛、故身熱自汗、以黄芪甘温補之爲君。人參橘皮當歸甘草甘微温、補中益氣爲臣。蒼朮白朮澤瀉滲利而除濕。升麻葛根、甘苦平善解肌熱。又以風勝濕也。濕勝則食不消而作痞滿。故炒麴甘辛、青皮辛温、消食快氣。腎惡燥急食辛以潤之。故以黄檗苦辛寒借甘味瀉熱、補水虚者滋其化源、以人參五味子麥門冬酸甘微寒、救天暑之傷於庚金爲佐、名曰清暑益氣湯。
清暑益氣湯
黄芪(汗少減五分)、蒼朮(泔浸去皮)、升麻(已上各一銭)、人參(去蘆)、澤瀉、神麯(炒黃)、橘皮、白朮(已上各五分)、麥門冬(去心)、當歸身、炙甘草(已上各三分)、青皮(去白二分半)、黄檗(酒洗去皮二分、或三分)、葛根(二分)、五味子(九枚)
右件同㕮咀都作一服水二大盞煎至一盞去相、大温服食遠劑之多少、臨病斟酌。此病皆由飲食勞倦損其脾胃乗天暑而病作也。但藥中犯澤瀉猪苓茯苓燈心通草木通、澹滲利小便之類、皆從時令之旺氣、以瀉脾胃之客邪、而補金水之不及也。此正方已是從權而立之。若於無時病濕熱脾旺之證。或小便已數、腎肝不受邪者、誤用之必大瀉真陰。竭絶腎水、先損其兩目也。復立變證加減法于後。

〇心火乗脾、乃血受火邪而不能升發陽氣復於地中。地者人之脾也。必用當歸和血、少用黄檗以益真陰。

〇脾胃不足之證、須少用升麻、乃足陽明太陰引經之藥也。使行陽道、自脾胃中右遷少陽行春令、生萬化之根蔕也。更少加柴胡使諸經右遷、生發陰陽之氣、以滋春之和氣也。

〇脾虚縁心火亢甚而乗其土也。其次肺氣受邪為熱所傷、必須用黄耆最多、甘草次之、人參又次之。三者皆甘温之陽藥也。脾始虚肺氣先絶。故用黄耆之甘温以益皮毛之氣、而閉腠理。不令自汗而損其元氣也。上喘氣短懶語、須用人參以補之。心火乗脾須用炙甘草、以瀉火熱而補脾胃中元氣。甘草最少恐資滿也。若脾胃之急痛、并脾胃大虚、腹中急縮。腹皮急縮者、却宜多用之。經云、急者緩之。若從權必加升麻以□(方刂)之。恐左遷之邪堅盛、卒不肯退、反致項上及臀尻肉添而反行陰道。故使引之以行陽道。使清氣之出地右遷而上行、以和陰陽之氣也。若中滿者、去甘草。咳甚者、去人參。如口乾嗌乾者、加乾葛。

〇脾胃既虚不能升浮、為陰火傷其生發之氣。榮血大虧、榮氣伏於地中。陰火熾盛、日漸漸熬、血氣虧少。且心包與心主血。血減則心無所養、致使心亂而煩。病名曰悗。悗者心惑而煩悶不安也。是清氣不升、濁氣不降。清濁相干、亂於胷中。使周身氣血逆行而亂。
内経云、從下上者引而去之。故當加辛温甘温之劑生陽、陽生則陰長。已有甘温三味之論。
或曰甘温何能生血。又非血藥也。
曰、仲景之法、血虚以人參補之。陽旺則能生陰血也。更加當歸和血。又宜少加黄檗、以救腎水。蓋甘寒瀉熱火、火減則心氣得平而安也。如煩亂猶不能止、少加黄連以去之。盖將補腎水、使腎水旺而心火自降、扶持地中陽氣矣。

〇如氣浮心亂、則以硃砂安神丸、鎮固之。得煩減勿再服、以防瀉陽氣之反䧟也。如心下痞、亦少加黄連。氣亂於胷、為清濁相干、故以橘皮理之。又能助陽氣之升而散滞氣。又助諸甘辛為用也。

〇長夏濕土客邪大旺、可從權加蒼朮白朮澤瀉、上下分消其濕熱之氣也。濕氣大勝主食不消化、故食減不知穀味。加炒麴、以消之。復加五味子麥門冬人參、瀉火益肺氣、助秋損也。此三伏中長夏正旺之時藥也。

です

 

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