『保赤全書』氣血 第二

明代の痘瘡医学書のひとつ『保赤全書』(管橓 著)を紹介する記事第二弾です。前章と同様に本章も魏直先生リスペクトの様相が強い内容となっています。


※『保赤全書』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

書き下し文・氣血 第二

『保赤全書』氣血 第二

氣血 第二

夫れ人身は氣血に由りて生ず。火毒も亦た氣血に由りて、而して中り、而して発し、而して解する。
故に痘は氣血を仮りて以てその形を成す者也。然して氣は脈外を衛し、血は脈内を栄する。而して元氣は又、栄衛の主たり。故に元氣盛んなるときは則ち氣血は五内百骸を運行し、周流して息まず。諸疾は自ら作すること無し。
痘毒、感発すと雖も、而して氣には領逐の能あり、血には負載の力あり。氣は拘(かかえ)血は附き、並び行(めぐ)りて毒を祛る。痘瘡、必ず斯に応じて而して開落す。
苟しくも元氣をして一たび虧るときは則ち氣血の交会不足す。
氣は内に在り、而して外を固せざれば、血は即ち毒を載せて以て出で、而して外剝を為す。
氣は外に在り、而して内に続せざれば、血は即ち毒を載せて以て入り、而して内攻を為す。
諸症は変作し、真元は益々損す。斯の毒を化すること能わざれば、危亡立ちどころに至る。
譬如(たとえば)元氣とは主帥なり、氣血とは卒徒なり、痘毒は敵人なり。主将、人を得るときは則ち卒徒に命を用い、而して敵は之が為(ため)に自ら破る。然らざれば、吾が土地に肆害(しがい)せざる者有ること解(すくなし)。氣血の盛衰に於いて、痘に圓陥栄枯あることを観るに、信(まこと)に験(こころむ)る可し。
故に智者は必ず真元を補益し、栄衛を調理する。誠に賊を攻むの上策也。然して氣血盛んなる故に能く毒を逐う。
而して火毒の盛んなるは亦た能く其の氣血を損ずる。急なるときは則ち標を治し(火毒を清す)、緩なるときは則ち本を治す(氣血を補う)。
医者、尤も知らずんばあるべからず。
『心鑑(博愛心鑑)』に曰く、氣に生血の功あり、血には益氣の理なし。是れ故に氣は虧くべからず。虧くときは則ち陽会の及ばず。而して員暈(えんうん)の形が成らず、血は盈するべからず。盈するときは則ち陰が陽位に乗じて、倒陥の禍い立ちごころに至る。
此れを観れば必ず先ず氣を益す。氣盈するときは則ち能く血を引き、以て其の毒を逐うこと、水の必ず風を得て、而して後に舟楫の行くこと自ら順なるが如し也。
苟しくも或いは益血に過ぎるときは、則ち必ず毒を載せて泛溢す。久しくなれば大逆を為すなり。
此れ陽を扶け陰を抑するの大道也。況んや氣は無形、而して血は有形。無形の者は一時に於いて旺すること可なり、有形の者は須く平素に於いて養うべし。故に保元の剤、専ら氣を守るに在り。
前人の製方、亦た見ること有りと為す。偏を以て執擬するべからざる也。医に善なる者は能く自ら之を得たり。
又曰く、氣以て痘の形を成す、而して氣充つるときは則ち頂起(ちょうき)圓暈(えんうん)す。血は以て痘の色を華する、而して血盛んなるときは則ち根窠(こんか)紅活す。是れ血氣の交会と為す。
苟しくも氣が過盛なるときは則ち泡と為す、氣虚するときは則ち頂䧟を為し、痒塌を為し、自汗を為し、皮薄く軟を為し、寒戦を為し、吐瀉を為し、灰白色と為す。血が過盛なるときは則ち斑丹と為す。血失職するときは則ち滞を為し、紫黒を為し、倒靨を為す。血虚するときは則ち淡と為し、根窠に暈無きことを為す。手を以て抹過すれども紅色見われず。是れ皆な交会の不足也。
若し夫れ根焦がし紫黒なる者は血熱也。頂陥して紫黒なる者は血熱にして氣滞也。以て氣虚として温剤を用いるべからず。但だ涼血解毒を主と為す。血が活すれば則ち氣は行る也。

※頂起・圓暈…痘の形状。これによって氣血虚実を鑑別していた。いうなれば痘瘡における望診である。

『博愛心鑑』の内容と酷似

もうこの章の冒頭部から『博愛心鑑』と酷似した内容が続きます。

「痘毒、感発すと雖も、氣には領逐の能があり、血には負載の力がある。氣は拘(かかえ)血は附き、並び行りて毒を祛る。」

この文の内容は魏直先生のいう「気は血が載せた毒を化する能を持つ」という内容そのものであり、続く文「元氣をして一たび虧けるときは則ち氣血の交会不足す。」も同様です。

「氣は内に在りて外を固せざれば、血は即ち毒を載せて以て出でて外剝を為す。」
「氣は外に在りて内に続せざれば、血は即ち毒を載せて以て入りて内攻を為す。」
この文もまた外剝・内攻の機序をそのまま説明している文だといえます。

「必ず先ず氣を益す。氣盈するときは則ち能く血を引き、以て其の毒を逐う」という治療方針もまた魏直先生の受け売りです。(『博愛心鑑』に曰く…と書いていますし。)
反対に「益血に過ぎれば則ち必ず毒を載せて泛溢す。久しくなれば大逆を為す。」とあり、如何に「血載毒)(痘毒)」を氣の力で制するか、を重要な治療の要諦とし、栄血の勢いが過ぎないよう戒めています。
それ故に『博愛心鑑』では元氣を益すことを主眼とした保元湯を強く推していたのです。もちろん管橓先生も保元湯を推しています。

氣血の虚盛と痘瘡の形質

また「氣を以て痘の形を成す」「血は以て痘色を華する。」とあり、氣血の充実度で痘疹・痘瘡の形が変わるとされているのが興味深いですね。以下に本文内容を引用します。

➢ 氣充つれば頂起(ちょうき)圓暈(えんうん)する。
➢ 血盛んなれば則ち根窠(こんか)紅活す。是れ血氣交会と為す。

・氣が過盛なれば泡と為す
・氣虚すれば頂䧟を為し、痒塌を為す。
・血が過盛なれば斑丹と為す。
・血失職するときは滞・紫黒・倒靨を為す。
・血虚するときは淡・根窠に暈無きを為す。手を以て抹過すれども紅色見われず。

とあり、氣血の盈虧により氣血交会が左右される。氣血交会が正常になされると、血中痘毒はスムーズに処理され、痘瘡の病態も治癒へのプロセスも順調に運ばれるのであります。そして氣血交会が不足すれば、血中痘毒の処理がうまく行かずに外剝・内攻の事態を招くことになります。

鍼道五経会 足立繁久

原痘 ≪ 氣血 ≫ 辨痘症以傷寒 ≫ 痘症伝変

原文 『保赤全書』氣血 第二

■原文 『保赤全書』氣血 第二
氣血 第二

夫人身由氣血而生。火毒亦由氣血、而中、而發、而解。故痘者假氣血以成其形者也。然氣衛於脉外、血榮於脉内。而元氣者、又爲榮衛之主。故元氣盛則氣血運行五内百骸周流不息。諸疾無自而作
雖痘毒感發、而氣有領逐之能、血有負載之力。氣拘血附、竝行祛毒。痘瘡必應斯而開落。
苟使元氣一虧則氣血交會不足。氣在内而外不固、血即載毒以出、而爲外剝。氣在外、而内不續、血即載毒以入、而爲内攻。諸症變作、眞元益損。斯毒不能化而危亡立至矣。
譬如元氣者主帥也、氣血者卒徒也、痘毒者敵人也。主將得人則卒徒用命、而敵爲之自破。不然觧有不肆害於吾之土地者。觀於氣血之盛衰、而痘有員䧟榮枯、信可驗矣。
故智者必補益眞元、調理栄衛。誠攻賊之上策也。然氣血盛故能逐毒而火毒盛亦能損其氣血。急則治標(清火毒)、緩則治本(補氣血)。醫者尤不可不知。
心鑑曰、氣有生血之功、血無益氣之理。是故氣不可虧。虧則陽會不及、而員暈之形不成血不可盈。盈則陰乗陽位、而倒䧟之禍立至。觀此必先益氣、氣盈則能引血、以逐其毒如水必得風、而後舟楫之行自順也。苟或過於益血、則必載毒泛溢、久爲大逆矣。
此扶陽抑陰之大道也。況氣無形、而血有形。無形者可旺於一時、有形者須養於平素。故保元之劑、専在守氣。
前人之製方、亦爲有見。不可以偏執擬也。善醫者能自得之。
又曰、氣以成痘之形、而氣充則頂起員暈。血以華痘之色、而血盛則根窠紅活、是爲血氣交會。苟氣過盛則爲泡、氣虚則爲頂䧟、爲痒塌、爲自汗、爲皮薄而軟、爲寒戰、爲吐瀉、爲灰白色。血過盛則爲班丹。血失職則爲滞、爲紫黒、爲倒靨。血虚則爲淡白、爲根窠無暈。以手抹過、而紅色不見。是皆交會不足也。
若夫根焦紫黑者、血熱也。頂䧟紫黑者、血熱而氣滞也。不可以氣虚而用温劑。但涼血解毒爲主。血活則氣行也。

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