昆虫食の御三家(イナゴ・カイコ・ハチの子)について

最近、ネットで昆虫食に関する情報をよくみかけます。(ちなみに私は“昆虫食には興味ある派”です)
ということで、まずは往時の日本における昆虫食について情報を調べてみましょう!
参考書は、東医系の人でなくても知ってる江戸期の百科事典『和漢三才図絵』です。

とくに日本の昆虫食の御三家ともいえる「イナゴ」「ハチの子」「蚕の子」について、当時の日本においてどのように理解をされていたのか?についてレポートします。

イナゴについて

まずは昆虫食の王さま「蝗・イナゴ」から。

※写真は『和漢三才圖會』(日本隨筆大成刊行會 発行)より引用させていただきました。

『和漢三才圖會』巻五十三 化生類

䘀螽 いなご
和名、……以奈古萬呂 俗云、以奈古。但し下略也。

本綱、䘀螽(蠉同)總名也。有數種、在草上者曰草螽(負蠜)、在土中者曰土螽(蠰螇)、似草螽面大者曰螽斯(蜈蝑)、似螽斯而細長者曰蟿螽(蚚螇)。數種皆類蝗、而大小不一、方首長角修股善跳有青黒斑數色、亦能害稼。五月動股作聲至冬入土穴中。夷人炙食之、辛有毒。其類乳于土中深埋其卵、至夏始出。……

△按䘀螽、方首形似莎雞、而小青白色生田稲、夜在株朝上於梢、呑稲露。故名稲子。取之炙食味甘美如子蝦。
形同而灰色在田野而跳地者即土螽也。其大者灰皀色斑而大於莎雞作聲如曰吉吉(似螽蚚聲而不清也)……。

䘀螽 いなご
和名、……以奈古萬呂(いなこまろ) 俗に云う、以奈古(いなこ)。但し下(萬呂)を略す也。

本草綱目、䘀螽(蠉に同じ)総名なり。数種あり、草の上に在る者を草螽(負蠜)と曰い、土中に在る者を土螽(蠰螇)と曰い、草螽に似て面の大きな者を螽斯(蜈蝑)と曰い、螽斯に似て細長き者を蟿螽(蚚螇)と曰う。これら数種は皆な蝗の類にして、大小一ならず。方なる首、長き角、修股(ながい足)で善く跳ねる。青黒い斑の数色ありて、亦た能く稼(農業)を害する。五月には股を動じて声を作し、冬至りて土穴中に入る。
夷人は炙りて之を食す、辛にして毒あり。其の類は、土中に乳(こうむ・子生む)深く其の卵を宇埋づめ、夏に至りて出始める。……
△䘀螽を按ずるに、方なる首の形は莎雞に似て小さく、青白色にして田稲に生ず。夜は株に在りて、朝になると梢に上り、稲露を呑む。故に稲子(いなこ)と名づく。之を取りて炙りて食す、味わい甘美にて子蝦(小エビ)の如し。……

まずはイナゴ・バッタを表す言葉に「䘀螽」「草螽」「負蠜」「土螽」「蠰螇」「螽斯」「蜈蝑」「蟿螽」「蚚螇」と、これだけの言葉の種類があることに驚きです。さすが『虫めづる姫君』(『堤中納言物語』)の記された国、Zipangriです。

そして昆虫食系の情報としては次のようにあります。
「之を取りて炙りて食す、味わい甘美にて子蝦(小エビ)の如し(取之炙食味甘美如子蝦)」という誉め言葉。実際にイナゴの佃煮を食すとまさに“エビの佃煮”と大差ない味わいに『ホッ…』と安堵、そして感動した人も多いでしょう。

しかし以下のような注意書きもあります。
「夷人は炙りて之を食す、辛にして毒あり。(夷人炙食之、辛有毒。)」
この“毒(有毒)”という表現に一般の人は目が行くでしょうね。

しかし本草学系の「毒あり」とは、一概に中毒症状を呈する食材や生薬を意味するものではありません。

ちなみに“毒あり”とされる意外な食材には次のようなものがあります。
「キジ(野鶏・雉)、雉肉は酸微寒であるが、春夏は不可食。爲其食蟲蟻及與蛇交變化有毒也。とのこと」。山鳥も「其肉皆美于雉、有小毒…とのこと」、どっちも美味しいのに…。
「カジカ・ゴリ(黄顙魚)、甘平微毒」「ヤツメウナギ(鱧)、甘寒小毒」などなど
植物では「もも(桃肉)、辛酸甘熱 微毒」「ニンニク(こひる・尓牟尓久・蒜)、辛温有小毒」「大蒜、辛温有毒」など、現在にありがたく食される美味珍味系のもので、毒の記載があるものを一部ピックアップしました。
このようにしてみると「“有毒”と書かれてるから、食べちゃダメッ!」と安易に決めつけるべきではないことがわかると思います。

カイコについて

次は天から与えられた虫、おカイコさんです。

※写真は『和漢三才圖會』(日本隨筆大成刊行會 発行)より引用させていただきました。

『和漢三才圖會』巻五十三 卵生類

蠶 かいこ
和名、加以古 俗作蚕字非也、蚕音腆蚯蚓之名也。

本綱、蠶病風死其色白故自死者名白殭蠶(死而不朽曰殭)、再養者曰原蠶(奈都古)蠶之屎曰沙、皮曰脱、甕曰繭(末由)、蛹曰螝(音龜)、蛾曰羅、卵曰●(虫へんに允?)、蠶初出曰䖢(音苗)、蠶紙曰連。
其種類甚多、有大小白烏斑色之異、屬陽喜燥惡濕、食而不飲、三眠三起、二十七日而老、自卵出而爲䖢。自䖢蛻而爲蠶。蠶而繭、繭而蛹、蛹而䖸。䖸而卵、卵而復䖢。
又有胎生。蠶與母同老、蓋神蟲也。凡諸草木皆有蚅蠋之類、食葉吐絲、不如蠶絲可以衣被天下、故莫得並稱。

白殭蠶 ○鹹辛 微温 惡桔梗茯苓伏神萆薢
主治小兒驚風夜啼撮口臍風中風失音喉痺。

原蠶…

蠶 かいこ
和名、加以古(かいこ) 俗に蚕の字を作するも非なり。蚕、音は腆、蚯蚓の名なり。

本草

本草綱目、蠶(かいこ)風を病みて死す、其の色白し。故に自死の者の名を白殭蠶(死して朽ちずを殭と曰う)、再び養する者を原蠶(奈都古・なつこ)と曰う。蠶の屎を沙と曰い、皮を脱と曰い、甕を繭(末由・まゆ)と曰い、蛹を螝(音龜・き)と曰い、蛾を羅と曰い、卵を(虫へんに允?)と曰い、蠶の初めて出でたるを䖢(音苗・びょう、みょう)と曰い、蠶紙を連と曰う。
その種類は甚だ多し、大小白烏斑色の異なり有り。陽に属し燥を喜み湿を悪み、食して飲まず、三たび眠り三たび起く。二十七日にして老す。卵より出で而して䖢と為る。䖢より蛻けて蠶と為る。蠶にして繭、繭にして蛹、蛹にして蛾。䖸にして卵、卵にして復た䖢。
又、胎生の蠶有り。母と老を同じくす。
蓋し神蟲なり。凡そ諸草木、皆な蚅蠋の類有り、葉を食して絲を吐く蚕糸の以て天下に衣被す可きに如かず、故に並び称すること得ること莫し。

白殭蠶 ○鹹辛 微温 桔梗・茯苓・茯神・萆薢を悪む。
小児の驚風・夜啼・撮口・臍風、中風・失音・喉痺を主治す。

原蠶……

蚕という字は元々は蚯蚓(ミミズ)を指す字だったとか。正しくは蠶の字がカイコを意味するものだったようです。“天から与えられた虫”と言いたいところですが、本来の字も知っておくべきでしょう。

またカイコの幼虫は白殭蠶として、生薬に使われています。
その性質は引用文の後半には、その性質が簡潔に記されています。風症を鎮める性質、木旺を制する金氣を帯びた性が想像できます。

ハチの子について

山の珍味、クリーミーな味わいと言われるハチの子です。
※写真は『和漢三才圖會』(日本隨筆大成刊行會 発行)より引用させていただきました。

『和漢三才圖會』巻五十二 卵生類

蜂 はち
和名、波知(はち)

本草綱目云、蜂尾垂鋒、故字従峯、蜂有君臣之禮範。故一名曰●(范の下に虫)有三種。
野蜂 在林木、或土穴中作房。
家蜂 人家似器収養(以上二種)並小而微黄。蜜皆濃美。
山蜂 在山巌髙峻處作房、即石蜜也。其蜂黑色似牛虻。
……
蜂子 氣味 甘平 微寒

土蜂 ゆするはち 蜚零 蟺蜂 馬蜂 和名、由須留波知(ゆするはち)
本綱、土蜂、山谷穴居作房、赤黒色最大、螫人至死。亦能
醸蜜、其子亦大白。

木蜂 和名、美加波知(みかはち)
本綱、木蜂、似土蜂而小、在樹上作房。人亦食其子。
蜜蜂土蜂木蜂黄蜂子、俱可食。

……

蜂 はち
和名、波知(はち)

本草綱目に云く、蜂の尾、鋒を垂れる。故に字、峯に従う。蜂に君臣の礼範有り。故に一名を●(范の下に虫)と曰う。三種あり。
野蜂 林木、或いは土穴の中に在りて房を作る。
家蜂 人家に器に似て収養す(以上二種)並びに小にして微し黄。蜜は皆な濃美なり。
山蜂 山巌髙峻の處に在りて房を作る、即ち石蜜なり。其の蜂、黒色にして牛虻に似たり。
……
蜂子 氣味 甘平 微寒

土蜂 ゆするはち 蜚零 蟺蜂 馬蜂 和名、由須留波知(ゆするはち)
本草綱目、土蜂、山谷に穴居して房を作る、赤黒色にして最大、人を螫して死に至る。亦た能く蜜を醸す、其の子も亦た大きく白し。

木蜂 和名、美加波知(みかはち)
本草綱目、木蜂、土蜂に似て小なり、樹上に在りて房を作す。人、亦た其の子を食する。
蜜蜂、土蜂、木蜂、黄蜂の子、俱に食う可し

『和漢三才図会』における土蜂(当時の呼称はユスルハチ)はどうやらオオスズメバチのことを指すようです。土蜂とくればクロスズメバチ(他にもジガバチなど)を連想しますが、オオスズメバチも土中や木の洞に営巣しますので「山谷穴居作房」との特徴に一致します。なにより「赤黒色最大、螫人至死」との記述が決定的ではないでしょうか。とはいえ「亦能醸蜜」はどうだろ…とも思いますが。

当時はハチの種類に限らずハチの子を食していたようです。その性質は「甘平 微寒」とだけあります。シンプル過ぎる情報ですが、限定情報が少ないという点では食材として適しているともいえるでしょう。

※写真は『和漢三才圖會』(日本隨筆大成刊行會 発行)より引用させていただきました。

とはいえ、情報が少ないと不安になるもの。なので『本草綱目』のハチの子情報にも目を通しておきましょう。

※『重刊本草綱目』京都大学付属図書館より引用させていただきました。

蜜蜂(本經上品)……
蜂子
【氣味】甘平、微寒、無毒。 〔大明曰〕涼有毒。食之者須以冬瓜苦蕒生姜紫蘇制其毒。〔之才曰〕畏黄芩芍薬牡蠣白藥前。
【主治】頭瘋除蟲毒。補虚羸傷中、久服令人光澤好顔色、不老。(本經)○〔弘景曰〕酒漬傳面、令人悦白。
軽身益氣、治心腹痛、面目黄、大人小兒腹中五蟲従口吐出者(別録)主丹毒風𤺋腹内留熱、利大小便澀、去浮血下乳汁、婦人帯下病(藏器)大風癘疾(時珍)
【發明】〔時珍曰〕蜂子、古人以充饌品。故本經別録著其功効、而聖濟總録治大風疾兼用諸蜂子。蓋亦足陽明太陰之藥也。
【附方】…(畧)…

蜂子
【氣味】甘平、微寒、毒無し
〔大明曰く〕涼、毒有り。之を食する者、須らく冬瓜・苦蕒・生姜・紫蘇を以てその毒を制すべし。
〔之才曰く〕黄芩・芍薬・牡蠣・白藥前を畏る。
【主治】頭瘋、蟲毒を除き、虚羸傷中を補う。久しく服すれば人をして光沢ならしめ顔色を好くし、老いず。(本経)
○〔弘景が曰く〕酒に漬け面に傳く、人をして悦白ならしむる。
身を軽くし氣を益す。心腹痛、面目黄、大人小児の腹中五蟲口より吐出する者を治す(別録)
丹毒・風𤺋・腹内留熱を主り、大小便の澀るを利し、浮血を去り乳汁を下す、婦人帯下病(藏器)
大風癘疾(時珍)
【發明】〔時珍曰く〕蜂子、古人は以て饌品に充つ。故に『本経』『別録』にその功効を著す。而して『聖済総録』には大風疾を治するに諸蜂子を兼ねて用ゆ。蓋し亦た足陽明太陰の薬なり。
【附方】…(畧)…

「補虚羸傷中、久服令人光澤好顔色、不老。」といった霊薬的な効能から、「風疾」に対する処方、そして「足陽明胃経太陰脾経の薬」としての性質が挙げられています。とはいえ、これはミツバチの幼虫の効能。
市販されるハチの子の多くはクロスズメバチの幼虫ですので、それに近いハチの幼虫(蜂子)を探してみましょう。次に引用するのは「土蜂」の項目です。


※『重刊本草綱目』京都大学付属図書館より引用させていただきました。

土蜂
【集解】…
〔藏器曰〕土蜂穴居作房、赤黒色最大、螫人至死。亦能醸蜜、其子亦大而白。
〔頌曰〕土蜂子、江東人亦啖之。又有木蜂似土蜂、人亦食其子。然則蜜蜂土蜂木蜂黄蜂子俱可食。大抵蜂類同科、其性効不相遠矣。
蜂子
【氣味】
甘平有毒
〔大明曰〕同蜜蜂。○畏亦同也。
【主治】
癰腫(本經)嗌痛(別録)利大小便、治婦人帯下(日華)功同蜜蜂子(藏器)酒浸傳面、令人悦白(時珍)
【附方】…略…

(土蜂の)蜂子…
【集解】…
〔藏器に曰く〕土蜂、穴居して房を作す。赤黒色にして最も大なり。人を螫し死に至る。亦た能く蜜を醸す、その子も亦た大にして白し。
〔頌が曰く〕土蜂の子、江東人も亦た之を啖ふ。又、木蜂有り。土蜂に似たり。人亦たその子も食ふ。然るときは則ち蜜蜂・土蜂・木蜂・黄蜂の子は俱に可食。大抵、蜂の類は科同じ、その性効、相い遠からず。…
【氣味】甘平、毒有り
〔大明に曰く〕蜜蜂に同じ。○畏も亦た同じ也。
【主治】癰腫(本経)
嗌痛(別録)
大小便を利し、婦人帯下を治す(日華)
功、蜜蜂子に同じ(藏器)
酒に浸して面に傳く、人をして悦白ならしむ(時珍)
【附方】…略…

とあり、基本的にミツバチの幼虫の効能と同じとのこと。
蜜蜂・土蜂・木蜂・黄蜂の幼虫であろうが、土蜂の幼虫であろうがハチの子は全般的に薬能は共通していることです。

鍼道五経会 足立繫久

参考資料
『和漢三才圖會』(日本隨筆大成刊行會 発行)
『重刊本草綱目』京都大学付属図書館 所蔵
『本草綱目』(明清名医全書集成『李時珍医学全書』収録.中国中医薬出版社)

 

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