利水薬を学ぶ-沢瀉と猪苓-

水タイプの鍼灸師にとって必須

前半記事『利水薬を学ぶ-白朮と茯苓-』の続きです。
生薬薬理を理解することは鍼灸師にとっても重要なことです。なぜなら東医的な治療イメージをより具体的にできるからです。

まずは利水薬について学んでみましょう。前半記事と併せて、朮・茯苓・沢瀉・猪苓の薬能を比較しつつ理解を深めていきましょう。
利水のイメージが詳細になるほどに、鍼灸による水へのアプローチもまた精密になります。水タイプの鍼灸師にとっては必須の素養とも言えます。

沢瀉について


画像:サジオモダカの花(阿野美也子氏 2019年9月 大阪市内某所にて撮影)

『本草綱目』沢瀉

※『本草綱目』からの引用は要所を抜き出しており、独断にて一部省略しております。この点ご容赦ください。
※前半に書き下し文・後半に原文を引用しております。

『本草綱目』草部 第十九巻 草之八 水草類 沢瀉

[釈名]…(略)…
[集解]…(略)…

[修治]…(略)…
[氣味]甘、寒、無毒。
『名医別録』に曰く鹹。
甄権が曰く、苦。
張元素が曰く、甘平、沈にして降、陰なり。
李杲が曰く、甘鹹、寒、降、陰也。
王好古が曰く、陰中の微陽、入足太陽少陰経に入る。
扁鵲が曰く、多服すれば人眼を病む。
徐之才が曰く、海蛤、文蛤を畏る。
[主治]風寒湿痺、乳難(を治し)五臓を養い、氣力を益し、肥健し、水を消す。久しく服すれば、耳目聡明、飢えず年を延べ、身を軽く面に光を生じ、能く水上を行く(『神農本草経』)
虚損を補い、五臓痞滿(を治し)、陰気を起こし、洩精消渇淋瀝を止め、膀胱三焦の停水を逐う。(『名医別録』)
腎虚して精自ら出るを主り、五淋を治し、水道を宣通す。(甄權)
頭旋耳虚鳴、筋骨攣縮を主り、小腸を通じ、尿血を止め、難産を主り、女人血海を補い、人をして子を有らしむる。(大明)
腎経に入り、旧水を去り新水を養い、小便を利し、腫脹を消し、滲洩止渇す。(張元素)
脬中の留垢、心下の水痞を去る。(李杲)
湿熱を滲み、痰飲を行らし、嘔吐瀉痢、疝痛脚氣を止める。(李時珍)
[発明]蘇頌が曰く、『素問』(病能第四十六)には酒風、身熱汗出を治するに、沢瀉・朮を用う。深師が方に支飲を治するにも亦、沢瀉・朮を用いる。但だ煮法に小別あるのみ。張仲景は雑病の心下有支飲、苦冒するを治するに、沢瀉湯あり。傷寒を治するに大小沢瀉湯、五苓散輩あり。皆な沢瀉を用いて停水を行利するの、最要薬と為す
張元素が曰く、沢瀉は乃ち除湿の聖薬、腎経に入りて小便淋瀝を治し、陰間の汗を去る、此の疾無くして之を服せば、人をして目盲せしむ。
寇宗奭が曰く、沢瀉の功、行水に於いて長ずる。張仲景、水蓄渇煩、小便不利、或いは吐し或いは瀉するを治するに、五苓散之を主る。方に沢瀉を用ゆ。故に其の行水に長じることを知る。本草、扁鵲を引きて云う、多く服せば人眼を病む。誠に其の水を行去するが為なり。凡そ沢瀉散を服するに、人未だ、小便多くならざる者有らず。小便既に多きは、腎気焉んぞ復た実するを得ん。今、人の洩精を止める、多くは敢えて之を用いず。仲景八味丸これを用いる者は、亦た桂附等を引接し腎経に帰就するに過ぎず。別に他意無し。
王好古が曰く、『神農本草経』には久服すれば明目すと云い、扁鵲は多服すれば昏目すと云う。何ぞ也?易老(張潔古)云く、脬中の留垢を去るは、其の味の鹹を以て能く伏水を瀉する故なり。伏水を瀉し、留垢を去る、故に明目す。小便利して、腎気虚する、故に昏目す。
王履が曰く、寇宗奭の説は、王好古の之に韙する。竊かに謂く、八味丸は地黄を以て君と為し、余薬が之を佐する。止(ただ)血を補するのみに非ず、補氣を兼ねる也。所謂(いわゆる)陽旺すれば則ち能く陰血を生ずる也。地黄・山茱萸・茯苓・牡丹皮、皆な腎経の薬、附子官桂は乃ち右腎命門の薬、皆な沢瀉の接引して后に至るを待たざる也。則ち八味丸の此れを用いるは、蓋し其の瀉腎邪、養五臓、益氣力、起陰氣、補虚損五労の功を取るのみ。能く腎を瀉すると雖も、諸々補薬群衆の中に於いて従うときは、則ち亦た瀉すること能わず。
李時珍が曰く、沢瀉は氣平、味甘にして淡。淡は能く洩を滲む。氣味は俱に薄し、水を利して洩下する所以。脾胃に湿熱あるときは、則ち頭重くして目昏み、耳鳴す。沢瀉、その湿を滲去するときは、則ち熱亦た随い去りて土気は令を得る、清気は上行して、天気は明爽なる、故に沢瀉には養五臓、益気力、治頭旋、聡明耳目の功あり。若し久服すれば則ち令の大過を降ろし、清気は升らず、真陰は潜耗す。安んぞ目昏せざるを得んや。仲景地黄丸に茯苓・沢瀉を用いる者、乃ちその膀胱の邪氣を瀉するに取り、引接するに非ざる也。古人、補薬を用いるに必ず瀉邪を兼ねる。邪去れば則ち補薬は力を得、一闢一闔、此れ乃ち玄妙なり。後世の人、此の理を知らず、補に於いて専一なり。久服すれば必ず至偏勝の害に至る所以なり。
〔正誤〕…(略)…
[附方]…(略)…
葉…(略)…
實…(略)…

■原文
澤瀉
[釈名]…(略)…
[集解]…(略)…

[修治]…(略)…
[氣味]甘寒無毒。『別録』曰鹹。權曰、苦。元素曰、甘平、沈而降、陰也。杲曰、甘鹹寒、降陰也。好古曰、陰中微陽、入足太陽少陰經。扁鵲曰、多服、病人眼。之才曰、畏海蛤、文蛤。

[主治]風寒湿痹、乳難、養五藏、益氣力、肥健、消水。久服、耳目聰明、不饑延年、輕身面生光、能行水上(本經) 補虚損、五臓痞滿、起陰氣、止洩精消渇淋瀝、逐膀胱三焦停水。(別録) 主腎虚精自出、治五淋、宣通水道。(甄權) 主頭旋耳虚鳴、筋骨攣縮、通小腸、止尿血。主難産、補女人血海、令人有子。(大明) 入腎經、去舊水養新水、利小便、消腫脹、滲洩止渇。(元素) 去脬中留垢、心下水痞。(李杲)滲濕熱、行痰飲、止嘔吐瀉痢、疝痛脚氣(時珍)
[發明]頌曰、素問治酒風身熱汗出、用澤瀉朮、深師方治支飲。亦用澤瀉朮。但煮法小別耳。張仲景、治雜病心下有支飲苦冒、有澤瀉湯。治傷寒有大小澤瀉湯、五苓散輩。皆用澤瀉行利停水、為最要藥。 元素曰、澤瀉乃除濕之聖藥、入腎經治小便淋瀝、去陰間汗、無此疾服之、令人目盲。 宗奭曰、澤瀉之功、長於行水。張仲景治水蓄渇煩、小便不利、或吐或瀉、五苓散主之。方用澤瀉、故知其長於行水。本草引扁鵲云、多服病人眼。誠為行去其水也。凡服澤瀉散、人未有不小便多者。小便既多、腎氣焉得復實。今、人止洩精、多不敢用之。仲景八味丸用之者、亦不過引接桂附等歸就腎經、別無他意。 好古曰、本經云、久服明目。扁鵲云多服昏目、何也。易老云、去脬中留垢、以其味鹹能瀉伏水故也。瀉伏水、去留垢、故明目。小便利、腎氣虚、故昏目。 王履曰、寇宗奭之説、王好古韙之、竊謂八味丸以地黄爲君、餘藥佐之、非止補血、兼補氣也。所謂陽旺則能生陰血也。地黄山茱萸茯苓牡丹皮皆腎經之藥、附子官桂乃右腎命門之藥。皆不待澤瀉之接引而后至也。則八味丸之用此、蓋取其瀉腎邪、養五臓、益氣力、起陰氣、補虚損五勞之功而已。雖能瀉腎、従于諸補藥群衆之中、則亦不能瀉矣。
時珍曰、澤瀉氣平味甘而淡。淡能滲洩。氣味俱薄、所以利水而洩下。脾胃有濕熱、則頭重而目昏、耳鳴。澤瀉滲去其濕、則熱亦隨去而土氣得令、清氣上行、天氣明爽、故澤瀉有養五臓、益氣力、治頭旋、聰明耳目之功。若久服則降令大過。清氣不升、真陰潜耗。安得不目昏耶。仲景地黄丸用茯苓、澤瀉者、乃取其瀉膀胱之邪氣、非引接也。古人用補藥必兼瀉邪。邪去則補藥得力、一闢一闔、此乃玄妙。
后世不知此理、専一于補。所以久服必至偏勝之害也。
〔正誤〕…(略)…
[附方]…(略)…
葉…(略)…
實…(略)…

沢瀉の性質を医家が言及しています。

「皆用澤瀉行利停水為最要藥」(蘇頌)
「澤瀉乃除濕之聖藥」(張元素)
「澤瀉之功、長於行水」(寇宗奭)
と、このように沢瀉は利水を施す上で重要な役割を果たす生薬であることが分かります。中でもとくに蘇頌の言葉にある「停水を行利する」といった表現はより沢瀉の特性を示しているのではないでしょうか。

また李東垣の言葉、「脾胃有濕熱…(中略)…。澤瀉滲去其濕、則熱亦隨去而土氣得令、清氣上行、天氣明爽。」
これも臨床現場でよく行う治療方針であります。このように文献知識と現場の治療とを繋ぐことは非常に大切です。


画像:サジオモダカの花(阿野美也子氏 2020年8月 大阪市内某所にて撮影)

『薬能方法弁』沢瀉

※引用文はできる限り原文引用しておりますが、ヿや𪜈などの合略仮名は現代仮名に変換しています。この点ご容赦ください。

『古訓医伝』薬能方法弁 沢瀉

水気を通利し、渇を止め、小便を利するの功、猪苓と同じと雖、然れども沢瀉は上より推降すの意なく、但能水を内より引下げ通ずる者也。又其乾燥を滋潤するの功、猪苓にまされり。且其合する㪽の薬品に囙(因り)て、内の力を助くるの功あり。左(下)に㪽辨を観て、猪苓沢瀉、其功相似て、別あるを察すべし。

五苓散、沢瀉一両六銖半。此方沢瀉を以て主とす。水気上行して、胃中乾燥し、消渇、小便不利する外行の水を引下げ、内に帰せしむ。これ沢瀉の能なり。猪苓の上に在る水を推し降すと、少しく辨別あり。然れども猪苓、沢瀉、相合して水気の裏内に下降せしむるなり。
五苓散の条、都て皆然り。先脉浮、小便不利、微熱、消渇の条。発汗已、脉浮数、煩渇の条。本以下之故、心下痞、与泻心湯、痞不觧。其人渇而口燥煩、小便不利の条。陽明病、汗出多而渇者、不可与猪苓湯の条。五苓散を繋がずと雖、其症五苓散の正面目なり。霍乱病、熱多欲飮水の条、痩人𦜝下有悸、吐涎沫而癲眩するの条、黄疸病篇、茵蔯五苓散の条に至るまで、其病状少しく出入有と雖、其主たる症、皆同じきが故に、五苓散を繋ぎたり。猪苓の条と、併せ観るべし。
又、猪苓湯、沢瀉一両。其辨已に猪苓の条に詳なり。
又、牡蛎沢瀉散、沢瀉等分。大病差後、從腰以下、有水気者を主るときは、其方法、唯下部の水気を行らし、小便を通ずるに在。此亦澤瀉の猪苓に異なる㪽を観るべし。
又、八味丸、沢瀉三両。此症下部の陽気衰乏、血気不順なるが故に、水これが為に流行することを得ず。但利水の功、沢瀉茯苓の二味に在。是以脚気入少腹、而不仁する者、虚労、腰痛、少腹拘急、小便不利者、男子消渇、小便反多、以飮一斗者、轉胞、小便不利する者等を治す。此皆上に辨ずる㪽より来れり。故に八味丸を以主る者なり。
又、沢瀉湯、沢瀉五両。此心下の支飲にして、水、心胸に在て不動、其餘勢にて苦冒眩者也。故に其人の字を以て、冒眩の主に非るを示せり。この沢瀉湯と猪苓湯とを併せ観て、各主とする㪽を詳にすべし。
又、茯苓沢瀉湯、沢瀉四両。此方分量異りと雖、苓桂朮甘湯に沢瀉生姜を加たる者也。胃煩、吐而渇、欲飲水者を治す。水逆の五苓散に似て、辨別あり。其猪苓なきを以て、沢瀉の繋る㪽、五苓散と異なるを察すべし。外臺に消渇、脉絶、胃反、吐食を治すと云も、脉絶の五苓散の脉浮に異なるを知るべし。
又、當皈芍薬散、沢瀉半斤。此方、腹中水血不和して㽲痛するを治す。并に婦人腹中諸疾痛を主ると云り。然れども婦人にかぎらず、男子も亦此症多し、其他活用至て博し。詳に緯篇の本条に辨ぜり。
又、儒門事親 神助散、𦾔名葶藶散、沢瀉三両。此亦猪苓沢瀉相合するを察すべし。
已上、澤瀉の功、大畧如此。然れども、猪苓沢瀉の功、大同小異なり。唯猪苓は上より水を推降すと、沢瀉は下より水を引下げるとの理を演るのみにして、其微細に至りては、短筆の及ばざる㪽なれば、学者の其能を推究るに任すのみ。

宇津木昆台先生が的確に沢瀉と猪苓の共通点とその差違について明示してくれています。

「水気を通利し、渇を止め、小便を利するの功」は沢瀉と猪苓と同じである。
しかし、沢瀉には上より推し降ろすの意(薬能)は無い、とのこと。沢瀉は「水を内より引下げ通ずるもの」である。又
そして「乾燥を滋潤するの功」については猪苓に勝るとのこと。

このように両生薬の薬能を比較し、共通点と差違を示してくれるのはありがたいですね。

猪苓について

『本草綱目』猪苓

※『本草綱目』からの引用は要所を抜き出しており、独断にて一部省略しております。この点ご容赦ください。
※前半に書き下し文・後半に原文を引用しております。

『本草綱目』木部 第三十七巻 木之四 寓木類 猪苓

[釈名]…(略)…
[集解]…(略)…
[修治]…(略)…
[氣味]甘、平、無毒。
『呉普本草』に曰く、神農は甘。雷公は苦、無毒。
甄権が曰く、微熱。
張元素が曰く、氣平、味甘、気味俱に薄し。升りて微しく降す、茯苓と同じ。
李杲が曰く、淡甘、平、降也、陽中の陰也。
王好古が曰く、甘は苦より重し、陽也。足太陽、足少陰経に入る。
[主治]痎瘧、解毒蟲㾏不祥(を主治し)、水道を利する。久服すれば身を軽く老に耐える。(『神農本草経』)
傷寒、温疫、大熱を解し、汗を発し、腫脹満腹急痛を主る。(甄權)
渇を治し湿を除き、心中懊憹を去る。(張元素)
瀉膀胱を瀉する。(王好古)
開腠理を開き、淋腫脚気、白濁帯下、妊娠子淋胎腫、小便不利を治する。(李時珍)
[発明]蘇頌が曰く、張仲景は消渇、脉浮、小便利せず、微熱の者を治するに、猪苓散その汗を発する。病みて水を飲まんと欲して復た吐く、名を水逆と為す。冬時に寒嗽して瘧状の如くなつ者にも、亦た猪苓を与う、此れ即ち五苓散なり。猪苓・茯苓・朮、各三両、沢瀉五分、桂二分、細かく搗き篩いて、水にて方寸匕を服すること、日に三たび。多く暖水にて飲む、汗出れば即ち愈ゆる。水道を利する諸々の湯剤、此の若き快するときは無し。今の人、皆これを用う。
李杲が曰く、苦は以て滞を泄し、甘は以て陽を助け、淡は以て竅を利す。故に能く湿を除き小便を利する。
寇宗奭が曰く、猪苓は水を引くの功多し。久服すれば必ず腎気を損じ、人目を昏ずる。久服する者は宜しく之を詳審すべし。
張元素が曰く、猪苓の淡滲、大燥にして津液を亡す、湿証の無き者はこれを服すること勿れ
李時珍が曰く、猪苓の淡滲、気升りて又能く降ろす、故に能く腠理を開き、小便を利する、茯苓と功を同じくす。但だ補薬に入れること茯苓に如からざる也
[附方]…(略)…

[附方]…(略)…

■原文
猪苓

[釈名]…(略)…
[集解]…(略)…
[修治]…(略)…
[氣味]甘平無毒。普曰、神農、甘。雷公、苦、無毒。權曰、微熱。元素曰、氣平味甘、氣味俱薄。升而微降、與茯苓同。杲曰、淡甘平、降也、陽中陰也。好古
曰、甘重于苦、陽也。入足太陽、足少陰經。
[主治]痎瘧、解毒蠱㾏不祥、利水道。久服輕身耐老。(本經) 解傷寒溫疫大熱、發汗、主腫脹滿腹急痛。(甄權) 治渇除濕、去心中懊憹(元素) 瀉膀胱。(好古) 開腠理、治淋腫脚氣、白濁帯下、妊娠子淋胎腫、小便不利(時珍)
[發明]頌曰、張仲景治消渇脉浮、小便不利、微熱者、猪苓散發其汗。病欲飲水而復吐、名爲水逆。冬時寒嗽如瘧状者、亦與猪苓、此即五苓散也。猪苓、茯苓、朮、各三両、澤瀉五分、桂二分。細搗篩、水服方寸匕、日三。多飲煖水、汗出即愈。利水道諸湯劑、無若此駃。今人皆用之。 杲曰、苦以泄滞、甘以助陽、淡以利竅。故能除濕利小便。 宗奭曰、猪苓引水之功多。久服必損腎氣、昏人目。久服者宜詳審之。 元素曰、猪苓淡滲、大燥亡津液、無濕證者勿服之。 時珍曰、猪苓淡滲、氣升而又能降、故能開腠理、利小便、與茯苓同功。但入補藥不如茯苓也。

[附方]…(略)…

猪苓は朮・茯苓・沢瀉に比べるとその文量が少ないですね。それだけに細かな説明が不足しているようにも感じます。

しかし寇宗奭・張元素・李時珍の言葉から猪苓の性質が見えてきます。

「猪苓引水之功多。久服必損腎氣、昏人目。」(寇宗奭)
「猪苓淡滲、大燥亡津液、無濕證者勿服之。」(張元素)
「猪苓淡滲、氣升而又能降、故能開腠理、利小便、與茯苓同功。但入補藥不如茯苓也。」(李時珍)

寇宗奭の指摘「久服すれば腎気を損じ」て目にくるゾという“使用上の注意”は茯苓にもありました。薬の力で腎気を消費しながら水を利するのですから、素体が腎虚の人やそもそも水を利する必要のない人にとっては腎虚水虚に陥りやすいので注意を要するわけです。

しかし、李時珍の「入補藥不如茯苓也(補薬に入れるのなら茯苓には及ばない)」という言葉からも、猪苓の利水行水の力を察することができます。

『薬能方法弁』猪苓

※引用文はできる限り原文引用しておりますが、ヿや𪜈などの合略仮名は現代仮名に変換しています。この点ご容赦ください。

『古訓医伝』薬能方法弁 猪苓

水気を下降し、滞を泄し、竅を利し、湿を通じ、水を行らす茯苓に似て滋潤の能なく、但渇を止め、腫を消す。故に水道を利し、膀胱を䟽す。沢瀉と同くして少しく差異あり。左(下)に辨ずる㪽を観て、其能を知べし。

五苓散、猪苓十八銖。此症胃気上行し、津液外に漏る。故に消渇、小便不利、煩燥、不得眠者也。猪苓、能飲㪽の水を胃中に推降すときは、渇止て、小便利する也。沢瀉と功を同くして、上下の差別あり。後(本記事では前述)の沢瀉の条と併せ観て知るべし。然れども沢瀉苓朮と合して、以て其力を助くる也。
又其次の五苓散、并に水逆の条、霍乱病、痰飲欬嗽篇等の五苓散皆同じ。気道の上迫外行を帯て、水気の上外に漏るを、下降する方也。
又、猪苓湯、猪苓一両。此方、内陽脱せんとして、水気上外に滞り、血分行らずして、水と和合せざる者也。故に方中、阿膠滑石有て、水血を和合せしむ。故に五苓散と猪苓湯と同く、渇欲飲水、小𠊳不利に繋ると雖、其中各方法の別あり。五苓散は胃中の津液、外に漏て渇し、血分の變なし。猪苓湯は血分津液を失うて、水気偏滞して、気道の變なし。少陰篇の猪苓湯、皆同じ。
又、猪苓散、三味等分。嘔吐而病在膈上、後思水者を治す。猪苓、能膈上に在の水飲を推降すときは、思水者、自ら愈るなり。此方、苓朮の助けありと雖、水飲を推降すを以て主となすが故に、猪苓散と名けしならん。
又、儒門事親神助散、舊名葶藶散、猪苓二両。此亦其功を察すべし。
已上、五苓散、猪苓湯、猪苓散、少しく辨別あれども、皆水気上行して、下降せざるの致す㪽也。更に其方法を歴観して、一味の能、各差別あるを察すべし。

とあります。

宇津木先生は猪苓の薬能を「水気を下降し、滞を泄し、竅を利し、湿を通じ、水を行らす」とし、“茯苓に似るも滋潤の薬能は無い”としています。

また猪苓と沢瀉の効能比較については「(沢瀉は)外行の水を引下げ、内に帰せしむ。」とし、猪苓は「上に在る水を推し降す」と、沢瀉の項にて明記しています。そして猪苓の項の記述「水道を利し、膀胱を䟽す」と繋げることで、猪苓の薬能がかなりイメージしやすくなると思います。

この他にも猪苓湯における、阿膠・滑石と猪苓が力を合わせて「水血を和合」するという薬能も要チェックです。

各方剤についても詳細に読む必要はありますが、本記事ではここまで。当会講座にてより詳しく検討する予定です。

鍼道五経会 足立繁久

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