2023最後のゴケイメシは、烏骨鶏と人参と鳩

2023忘年会のゴケイメシは・・・

昨日、日曜日は今年最後の講座【医書五経を読む】でした。当然、忘年会にも気合いが入ります。蒼流庵 庵主の濱口先生をお招きしての忘年会を開催しました。
この日のゴケイメシは参鶏湯(サムゲタン)。一年の疲れを癒すメニューとして相応しい料理でしょう。しかも使用する鶏は烏骨鶏(ウコッケイ)。補気力の強い鶏として一般的にも有名です。

烏骨鶏(ウコッケイ)の参鶏湯(サムゲタン)レシピ

サムゲタンのレシピはネット上にたくさん上がっています。が、一応、簡単にレシピMEMOを残しておきます。

烏骨鶏の参鶏湯のレシピ・MEMO

■ 材料

・烏骨鶏 1羽(約900g)
・人参 (長白山人参3本、高麗参1本)
・もち米 一合弱(0.8合くらい?)
・大棗 6個
・生薑 2/3個
・大蒜 5~6個
・長葱 1本
・栗 (大3個)
・鷹の爪 (2本)

1,もち米を研いで、水に浸しておきます。(1時間)

2,烏骨鶏の処理

中抜き(内臓処理済)、頭有りだったので、頭および頚部を落とします。
手先・足も肘・膝部から落としておきます。(出汁とりに使います)

3,諸々の具材準備を済ませて、烏骨鶏の中に詰めていきます。
まずはもち米、1/4ほど詰めたら、人参を詰め込み、もち米、さらに残りの具材を詰めて、最後にまたもち米…といった手順で具材を詰めました。

4,具材が漏れ出ないように、肛門部と食道部を串で縫い刺しします。

5,土なべにて煮込みます。
たっぷりの水で煮込むこと2時間。
途中ひっくり返して、左右ともにムラなく火を通します。

6,火が取ったら、完成。食べる時に鶏をバラシて、中の具材と鶏肉とスープとを混ぜて参鶏湯としていただきました。

完成!参鶏湯(サムゲタン)


写真:完成した烏骨鶏の参鶏湯。とても美味しゅうございました。

なにしろ作るのも食べるのも初めてのサムゲタン。
完成形が見えないまま、手探りの調理でしたが、川合先生と楽しくクッキングしていました。

気になるお味は満場一致で「美味い!!」とのこと。土鍋一杯にスープを作ったので、おかわり3~4杯イケましたね。そして人参や生薑・大蒜の効果なのでしょう。食べ始めるとほぼ全員が発汗し始め、ポカポカに。温まる速度が非常に速いという印象を受けました。

濱口先生いわく「参鶏湯には漆も入れる」そうです。漆は用意できなかった…。
『そもそも漆のどこを食べるのだろう?新芽?まさか…ウルシの樹液?』とそんな話題でも盛り上がりましたね。

とはいえ参鶏湯なので、基本的にスープ。もち米が入っているとはいえ、一合にも満たない量なので、お腹いっぱいになるメニューではありません。

参鶏湯では満腹にならないだろうと、もう一羽 用意していた鳥があります。
それが・・・コレ。

ハト(鳩)です

鳩(ハト)をさばきます

鳩も楽天さまで購入できます。この鳩は羽根・羽毛処理済みですが、内臓は残っています。
この“内臓を残したまま”というのがウリらしいです。〆た後の処理が迅速かつ適切であること、そして血抜きしない方が旨味が増すとのこと。なのでYoutubeで鳩のさばき方を予習してハト料理開始です。

一応、簡単にレシピMEMOを残しておきます。

鳩(ハト)の捌き方ポイント・MEMO

・残っている羽根の毛根を毛抜きで抜きます。
・頭部の羽毛をバーナーで焼きます。
・頚を落として、気管・肺を抜き取ります(肺はうまくとれなかった…)
・肛門部を切り落とし、そのままボンジリ(三角)部分も落とします。
・直腸部から指を入れて、内臓(腸胃・肝臓・砂肝・心臓)を抜いていきます。

こんな感じ。鳥を捌くのもだいぶ慣れてきました。
・飼育条件や鳩を〆る前の管理が良いのでしょう、胃腸の中の内容物がなく、キレイな状態でした。(砂肝の中にだけ飼料が残っていました)腸管がキレイなので、これも出汁とりに使いました。

もも肉・手羽・むね肉に分け、残りはすべて出汁とりに。

香辛料(塩・胡椒・ローズマリー)を振りかけてオリーブオイルで揚げます。
肉質はキレイな赤身、それでいて柔らかく、血の気が多い味わいでしたね。ただ、1羽を6人で食べるのは無理があったので、スーパーで購入した鶏肉でから揚げで小腹を満たしました。(揚げは川合先生担当)

参鶏湯(スープ)に鳩(ハト)1羽…やっぱり基本的にお腹がふくれる献立ではありません。さらにもう一品用意しておきました。腹を満たすには…やはり麺!なんといっても麺!です。

鳩(ハト)のガラで取った出汁に塩・醤油で味を調え、中華そば(4~5袋)とハムを投入!
世にも珍しい鳩だしラーメンです。
画像:ハトガラで出汁をとった鳩出汁ラーメン、これも人気の一品でした。

川合先生と阿野先生のコンビにお願いしたので(私は酒呑みモード真っ只中)、レシピは分かりませんが、やさしくも旨味がしっかりでているお味でした。「おかわり!」続出の品でしたね。

そしてそしてさらに雑炊まで作り、トリ(烏骨鶏・鶏肉・鳩)と炭水化物(もち米・麺・ご飯)という、ハイバード・ハイカーボな宴でした。
それでは恒例の食物本草情報です。今回の食物本草情報は人参と烏骨鶏と鳩です。

人参に関する本草情報

人参はいわゆる薬用人参、一般的には高麗人参で知られています。近頃は紅参(こうじん、商品名として“べにさん”と呼ばれていることもある)の名もよく目にします。まずは本草書で有名な『本草綱目』で調べてみましょう。


写真:左の濃色の人参は若林先生にいただいた高麗人参、左の白い人参はネット通販の長白山ブランドの人参

今回のサムゲタンでは2種類の人参を使用しました。1つはネット通販で購入した人参。もう1つは当会東京講座の若林先生にいただいた人参です。

『本草綱目』人参

『本草綱目』(李時珍 著 1590年序)から以下の引用です。

『本草綱目』人參
人参
…(略)…
根[気味]甘、微寒、無毒
〔名医別録に曰く〕微温。
〔普が曰く〕神農は小寒。桐君雷公は苦。黄帝岐伯は甘無毒。
〔張元素が曰く〕性温、味甘微苦、氣味は俱に薄し、浮にして升る、陽中の陽也。又曰く、陽中の微陰。
〔徐之才が曰く〕茯苓、馬藺は之の使と為す。溲疏鹵鹹を悪む、藜蘆に反す。一に云う、五霊脂を畏れ、皂莢・黒豆を悪み、紫石英を動ず。
〔張元素が曰く〕人参は升麻を得て、引用し上焦の元氣を補い、肺中の火を瀉す。茯苓を得て引用し下焦の元氣を補し、腎中の火を瀉する。麦門冬を得て則ち脈を生ず。乾姜を得て則ち気を補う。
〔李杲が曰く〕(人参は)黄耆・甘草を得て乃ち甘温、大熱を除き、陰火を瀉し、元氣を補う。又、瘡家の聖薬と為す。
〔朱震亨が曰く〕人参は手太陰に入り、藜蘆と相い反す。人参一両を服するに藜蘆一銭を入れれば、其の功は悉く廃する也。
〔言聞が曰く〕東垣李氏、脾胃を理して陰火を瀉する。交泰丸の内に人参・皂莢を用うる、是れ悪みて悪まず也。古方にて月閉を療する、四物湯に人参五霊脂を加える、是れも畏れて畏れざる也。又、痰の胸膈に在るを療するに、以人参・藜蘆を以て、同じく用いて涌越を取る。是れ其の怒性を激す也。此れら皆な精微妙奥、権衡に達する者に非ずんば知ること能わず。

[主治]
五臓を補い、精神を安んじ、魂魄を定め、驚悸を止め、邪氣を除き、目を明にし、心を開き、智を益する。久服すれば身を軽く年を延ぶる。(神農本草経)
腸胃中の冷、心腹鼓痛、胸脇逆満、霍乱吐逆を療す。中を調え、消渇を止め、血脈を通じ、堅積を破り。人をして忘せしめず。(名医別録)
五労七傷、虚損痰弱を主る。嘔噦を止め、五臓六腑を補い、中を保ち神を守る。胸中の痰を消す。肺痿及び癇疾、冷氣の逆上、傷寒、食の下さざるを治する。凡そ虚して多夢紛紛たる者に之を加う。(甄權)
煩躁を止め、酸水を変ずる。(李珣)
食を消し、胃を開き、中を調え、氣を治め、金石の薬毒を殺する。(大明)
肺胃の陽氣不足、肺氣の虚促短氣少氣を治す。中を補い中を緩め、心肺脾胃の中の火邪を瀉し、渇を止め津液を生ずる(張元素)
男婦一切の虚証、発熱、自汗、眩暈、頭痛、反胃、吐食、痎瘧、滑瀉、久痢、小便頻数、瘰癧、労倦、内傷、中風、中暑、痿痺、吐血、嗽血、下血、血淋、血崩、胎前産後諸病を治する。(李時珍)

[発明]
〔陶弘景曰く〕人参の薬の切要たるや、甘草と功を同じくす。
〔李杲曰く〕人参の甘温にして能く肺中元氣を補う。肺氣旺すれば則ち四臓の氣は皆な旺し、精は自ら生じて形自ら盛んなり。肺は諸氣を主る故也。張仲景の云く、病人汗して後に身熱亡血して脈の沈遅なる者、下痢身涼脈微にして血虚なる者には、並びに人参を加う。古人は血脱する者に気を益す。蓋し血は自ら生ぜず、須らく陽氣を生ずるの薬を得て、乃ち生ず。陽生ずるときは則ち陰長じ、血も乃ち旺ずる也。若し単えに補血薬のみを用いるときは、血は由りて生ずること無きなり。素問に言う、陽の無きときは則ち陰は以て生ずること無し、陰の無きときは則ち陽は以て化すること無し。故に氣を補するに須らく人参を用うべし、血虚の者にも亦た須らく之を用うべし。本草十剤に云く、補は弱を去るべし。人参・羊肉の属が是なり。蓋し人参は気を補い、羊肉は形を補う。形気は有無の象り也。
〔王好古が曰く〕潔古老人が言く、沙参を以て人参に代える、其の味の甘きを取る也。然れども人参は五臓の陽を補う、沙参は五臓の陰を補う。安んぞ異なることの無きことを得んや。五臓を補うと云うと雖も亦た須らく各々本臓の薬を用いて、相い佐使して之を引くべし。
〔言聞が曰く〕人参は生にて用いれば気涼、熟にて用いれば気温なり。味は甘にして陽を補い、微苦は陰を補う。氣は生物を主りて天に本づく、味は成物を主りて地に本づく。氣味とは生成陰陽の造化なり。涼は高秋清粛の気、天の陰なり、其の性は降。温は陽春生発の氣、天の陽なり、其の性は升。甘(※版によって存と作する)は湿土化成の味、地の陽なり、其の性は浮。微苦は火土相生の味、地の陰なり、其の性は沈。人参の氣味は俱に薄し、氣の薄き者は、生は降り熟は升る。味の薄き者は、生は升り熟は降る。土虚火旺の病の如きは、則ち生人参涼薄の氣に宜し、以て火を瀉して土を補う。是れ純に其の氣を用うる也。脾虚肺祛の病は、則ち熟人参甘温の味に宜し、以て土を補いて金を生ず。是れ純に其の味を用うる也。東垣は以(おもえらく)相火が脾に乗じて、身熱して煩し、氣高して喘し、頭痛して渇する、脈の洪大なる者には、黄柏を用い人参を佐する。孫真人(孫思邈)は、夏月に熱の元氣を傷り、人汗大いに泄れ、痿厥を成さんと欲するを治するに、生脈散を用い、以て熱火を瀉し、而して金水を救う。君は人参の甘寒を以てし、火を瀉して元氣を補う、臣は麦門冬の苦甘寒を以て、金を清して水源を滋する。佐は五味子の酸温を以て、腎精を生じて収耗氣を収する。此れ皆な天元の真気を補する、補熱火を補うに非ざる也。白飛霞が云く、人参を膏に錬り服して元気を於無何有の郷に於いて回する。凡そ病後の氣虚及び肺虚嗽する者、並びに之に宜しい。若し氣虚して火の有る者には、天門冬膏を合して対して之を服せ。
[正誤]……(後略)……

■ 原文
…(略)…
根[氣味]甘微寒無毒
〔別録曰〕微温。〔普曰〕神農、小寒。桐君、雷公、苦。黄帝岐伯、甘無毒。〔元素曰〕性温、味甘微苦、氣味俱薄、浮而升、陽中之陽也。又曰、陽中微陰。〔之才曰〕茯苓馬藺爲之使。惡溲疏鹵鹹、反藜蘆。一云、畏五靈脂、惡皂莢黒豆、動紫石英。〔元素曰〕人参得升麻引用補上焦之元氣、瀉肺中之火。得茯苓引用補下焦之元氣、瀉腎中之火。得麥門冬則生脉。得乾薑則補氣。〔杲曰〕得黄耆甘草乃甘温除大熱、瀉陰火、補元氣。又爲瘡家聖藥。〔震亨曰〕人参入手太陰、與藜蘆相反。服参一兩入藜蘆一錢、其功盡廢也。
〔言聞曰〕東垣李氏、理脾胃瀉陰火。交泰丸内用人参皂莢、是惡而不惡也。古方療月閉、四物湯加人参五靈脂、是畏而不畏也。又療痰在胸膈、以人参藜蘆、同用而取涌越。是激其怒性也。此皆精微妙奥非達權衡者不能知。
[主治]補五臓、安精神、定魂魄、止驚悸、除邪氣、明目、開心、益智。久服輕身延年。(本經)
療腸胃中冷心腹鼓痛、胸脇逆滿、霍亂吐逆。調中、止消渇、通血脉、破堅積。令人不忘。(別録)
主五勞七傷、虚損痰弱。止嘔噦。補五臓六腑。保中守神。消胸中痰、治肺痿及癇疾、冷氣逆上、傷寒、不下食。凡虚而多夢紛紛者加之。(甄權)
止煩躁變酸水(李珣)
消食、開胃、調中、治氣、殺金石藥毒。(大明)
治肺胃陽氣不足、肺氣虚促短氣少氣。補中緩中、瀉心肺脾胃中火邪。止渇生津液(元素)
治男婦一切虚證發熱自汗眩運頭痛反胃吐食痎瘧滑瀉久痢小便頻數瘰癧勞倦内傷中風中暑痿痺吐血嗽血下血血淋血崩胎前産後諸病。(時珍)
[發明]
〔弘景曰〕人参爲藥切要與甘草同功。
〔杲曰〕人参甘温能補肺中元氣、肺氣旺則四臓之氣皆旺、精自生而形自盛。肺主諸氣故也。張仲景云、病人汗後身熱兦血脉沉遅者、下痢身涼脉微血虚者、並加人参。古人血脱者益氣。蓋血不自生、須得生陽氣之藥、乃生。陽生則陰長血乃旺也。若單用補血藥、血無由而生矣。素問言、無陽則陰無以生、無陰則陽無以化。故補氣須用人参、血虚者亦須用之。本草十劑云、補可去弱、人参羊肉之属是也。葢人参補氣、羊肉補形。形氣者有無之象也。
〔好古曰〕潔古老人言、以沙参代人参、取其味甘也。然人参補五臓之陽、沙参補五臓之陰。安得無異、雖云補五臓亦須各用本臓藥、相佐使引之。
〔言聞曰〕人参生用氣涼、熟用氣温。味甘補陽、微苦補陰。氣主生物本乎天、味主成物本乎地。氣味生成陰陽之造化也。涼者高秋清粛之氣、天之陰也、其性降。温者陽春生發之氣、天之陽也、其性升。甘者濕土化成之味、地之陽也、其性浮。微苦者火土相生之味、地之陰也、其性沈。人参氣味俱薄、氣之薄者、生降熟升。味之薄者、生升熟降。如土虚火旺之病、則宜生参涼薄之氣、以瀉火而補土。是純用其氣也。脾虚肺祛之病、則宜熟参甘温之味、以補土而生金。是純用其味也。東垣以相火乗脾、身熱而煩氣高而喘頭痛而渇、脉洪而大者、用黄蘗佐人参。孫眞人、治夏月熱傷元氣、人汗大泄、欲成痿厥、用生脉散、以瀉熱火、而救金水。君以人参之甘寒、瀉火而補元氣、臣以麥門冬之苦甘寒、淸金而滋水源。佐以五味子之酸温、生腎精而収耗氣。此皆補天元之眞氣、非補熱火也。白飛霞云、人参錬膏服回元氣於無何有之郷。凡病後氣虚及肺虚嗽者、並宜之。若氣虚有火者、合天門冬膏對服之。
[正誤]……(後略)……

人参の性味はいろいろな説があります。たとえば性は微寒(小寒)、微温、温などの意見があり、また味も甘と苦(微苦)に分かれています。実際に人参をかじると苦味が主で、ほんのりと甘味が混じるのが分かります。張元素がいうように味甘微苦という表現になるほど…と感じるものがあります。

とはいえ、氣にせよ味にせよ、直接的に食した感想というより、効能とその結果としてみるべきでしょう。
実際に食べた感覚でいえば、まさしく“性温”です。脾胃・中氣を補い、営衛の氣が盛んに行るので(生姜・大蒜・番椒の効果も含めますが)、体がポカポカするのはでしょう。
しかし、性微寒という効能や結果も頷けるものがあります。これは李東垣の学説を理解することで、大いに理解できます。脾胃・中氣を補うことで陰火が鎮められます。いわゆる人参がもつ瀉火能ですね。。

烏骨鶏(ウコッケイ)の食物本草情報

『本草綱目』(李時珍 著 1590年序)から以下の引用です。

『本草綱目』烏骨鶏

[氣味]甘平、無毒
[主治]虚労羸弱を補い、治消渇・中悪・鬼撃・心腹痛を治する。産婦を益し、女人の崩中・帯下・一切の虚損、諸病大人小児の下痢禁を治する。並びに煮て食い汁を飲むも亦た可なり。搗きて丸薬に和す。(時珍)

[発明]時珍が曰く、烏骨鶏には白毛烏骨なる者、黒毛烏骨者、斑毛烏骨なる者あり。骨肉俱に烏なる者に肉白骨烏なる者あり。但だ鷄舌の黒き者を観れば、則ち肉骨は俱に烏なり。薬に入れて更に良し。
鶏は木に属す、而して骨反して烏なる者は、巽の坎に変ずる也。水木の精氣を受ける故に肝腎血分の病に宜しく之を用うべし。男は雌を用い、女は雄を用う。婦人方科に烏鷄丸あり、婦人百病を治するに、鶏を煮て爛に至りて薬を和す。或いは并びに骨研ぎて之を用う。
按するに太平御覧に云く、夏侯弘、江陵に行きて一大鬼に逢う。小鬼数百を引きて行く。弘、潜みて末後の一小鬼を捉えて之に問う。
(小鬼)曰く、此れ広州大殺する也。弓戟を持ちて荊揚二州を往きて人を殺す。若し心腹に中るは死す、余処猶救うべきがごとし。
弘が曰く、之を治するに方の有りや?
曰く、但だ白烏骨鶏を殺し心に薄して即ち瘥える。時に荊揚(二州)に心腹を病む者甚だ衆し。弘、此れを用いて之を治するに、十に八九は愈す。中悪に烏鶏を用いること、夏侯弘より始まる也。此の説は迂怪に渉ると雖も、然るに其の方は則ち神妙なり。謂ゆる神伝に非ずんば不可也。鬼撃卒死に其の血を用いて心下に塗るも亦た効あり。

■原文 烏骨鶏
烏骨鶏[氣味]甘平無毒[主治]補虚勞羸弱、治消渇中惡鬼撃心腹痛、益産婦、治女人崩中帯下一切虚損、諸病大人小兒下痢禁口。竝煮食飲汁亦可。搗和丸藥。(時珍)
[發明]時珍曰、烏骨鶏、有白毛烏骨者、黑毛烏骨者、斑毛烏骨者、有骨肉俱烏者、肉白骨烏者、但觀鷄舌黑者、則肉骨俱烏、入藥更良。
鶏屬木、而骨反烏者、巽變坎也。受水木之精氣、故肝腎血分之病宜用之。男用雌、女用雄。婦人方科有烏鷄丸、治婦人百病、煮鷄至爛和藥、或并骨研用之。…
按太平御覧云、夏侯弘行江陵、逢一大鬼引小鬼数百行、弘潜捉末後一小鬼問之。
曰、此広州大殺也。持弓戟往荊、揚二州殺人。若中心腹者死、餘處猶可救。
弘曰、治之有方乎。
曰、但殺白烏骨鶏薄心即瘥。時荊揚病心腹者甚衆。弘用此治之、十愈八九、中悪用烏鶏、自弘始也。此説雖渉迂怪、然其方則神妙、謂非神傳不可也。鬼撃卒死、用其血塗心下、亦効。

烏骨鶏の主治は「虚労羸弱を補う。産婦を補益し、一切の虚損」に佳し。「煮て食い、汁を飲むも亦た可なり。」とのこと。虚証の病人食によさそうです。また一年の疲れを癒す忘年会メニューにも最適な食材といえますね。
また、烏骨鶏が1500年代にはすでに飼育されていた家禽だったことにも少し感動。

さらに『太平御覧』にある夏侯弘と鬼(疫病)の逸話も面白いですね。この手のプロットは日本の昔話などでもみられるような気がします。こうして物語として伝承されていくのですね。

鳩(ハト)の食物本草情報

『日養食鑑』鳩

『日養食鑑』(石川元混 著 1819年)から以下の引用です。

『日養食鑑』 はと 鳩 總名なり

甘平。毒なし
氣を益し、腎を補ひ、食の噎するを治し、目を明にす。
○鳩の類、品多し。山林に棲むもの味ひ美なり。

■原文 はと 鳩 總名なり。
…甘平。毒なし
氣を益し、腎を補ひ、食の噎するを治し、目を明にす。
○鳩の類、品多し。山林に棲むもの味ひ美なり。

鳩(ハト)がもつ補氣・補腎といった薬能ならぬ食能について全面的にプッシュされています。
記載内容「山林に棲むもの」という点では、キジバトに相当するでしょうね。

とはいえ気になるのが「鳩の類、品多し」です。鳩といえばドバトとキジバトしか知りません。なので調べてみました。
どうやら現在、日本には亜種を含め13種類の鳩が生息しているようです。(『日本のハトの種類』を参考にしました)
日本に生息する主なハトは7種類、ドバト(カワラバト)・キジバト・カラスバト・キンバト・アオバト・ベニバト・シラコバトが挙げられます。しかし現在最もよく見かけるドバトは外来種だそうで、地中化沿岸~中東から通信用(伝書バト)として持ち込まれたそうです。

『閲甫食物本草』

『日養食鑑』より150年ほど遡って『閲甫食物本草』(名古屋玄医 寛文9年(1669年)自序)をみてみましょう。

『閲甫食物本草』

鳩 和名集 夜万八止(ヤマハト)。又曰く此の鳥種類甚だ多し。鳩は其の㧾名也。

按ずるに鳩の字に順じて夜万八止(ヤマハト)と訓ずると雖も、俗に謂う豆知久禮登八止(マチクレドバト?)皆な鳩の類にして鴿(どばと)に又た別に一種なり。
俗に謂う夜万八止(ヤマハト)は其の翼に班(斑)なり。本草には班鳩と為す、則ち順が
夜万八止(ヤマハト)の訓に当たれり。
然れども時珍が曰く、今鳩は小にして灰色、大なるに及ぶ而して班(斑)は梨花の点の如し、則ち豆知久禮登八止と見るべし。㧾じて鳩と為す也。

氣味、甘平無毒
目を明にす、多食すれば氣を益し、陰陽を助く(嘉祐)
久病虚損の人、之を食して氣を補う(宗奭)
之を食して人して噎せざらしむ(時珍)
時珍が曰く、范汪方に目を治するに班鵻丸あり。総録に目を治するに錦鳩丸あり。
倪惟賢氏が謂うに班鳩は腎を補う、故に能く目を明にすと。竊かに謂く、鳩は能く氣を益す則ち能く目を明にするなり。独り腎をのみ補わず

■原文 鳩 和名集 夜万八止。又曰此鳥種類甚多。鳩其㧾名也。
按鳩字順按鳩字順雖訓夜万八止、俗謂豆知久禮登八止皆鳩類而鴿又別一種矣。俗謂夜万八止者其翼班也。本艸為班鳩、則順夜万八止之訓當矣。然時珍曰、今鳩小而灰色及大而班如梨花點則可見豆知久禮登八止㧾為鳩也。
氣味甘平無毒
明目多食益氣助陰陽(嘉祐)久病虚損人食之補氣(宗奭)食之令人不噎(時珍)
時珍曰、范汪方治目有班鵻丸、緫録治目有錦鳩丸。倪惟賢氏謂班鳩補腎、故能明目竊謂鳩能益氣則能明目矣。不獨補腎已爾。

『閲甫食物本草』でも鳩の種は多いとありますね。当時はキジバト以外の鳩も頻繁に見かけたのでしょう。(ドバトは外来種とのことなので論外として)
ヤマバトとあるので、やはりキジバトがおススメ食材として指定されています。この豆知久禮登八止(マチクレドバト?)がなにものなのか?気になりますね。

さて、鳩の薬能・食能としてはやはり「補氣能」が挙げられています。また目に関する効能(目を明にする)が挙げられており肝腎を補する能があるのでしょうか、眼精疲労にもよさそうですね。『日養食鑑』では挙げられている「補腎能」についてですが、名古屋玄医先生は、広く補氣作用があるので、補腎だけに限定されるものではない、と指摘しています。

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