心包絡と手厥陰心包経 『藏腑経絡詳解』より

心包・胞絡を理解する

現在では「心包」という表記で学ぶ心包絡ですが、本書では「心包絡」「心包」「心主」「胞絡」「包絡」といった多様な表現が記載されています。心臓(真心)と心包との違いを理解するにはこれらの言葉の意味することを理解し、自身の心包像を構築することが重要であると思います。


※『臓腑経絡詳解』京都大学付属図書館より引用させていただきました
※下記の青色枠部分が『臓腑経絡詳解』の書き下し文です。
※書き下し文の下に足立のコメントを添えている章もあります。

心包絡の臓、所属の提綱

心包は心を包むの脂絡(しらく)なり。故に其の脉、真心(しんしん)と俱(とも)に左寸に見(あらわ)る。其の平と病の脉侯、真心に同じ。『診家枢要』の書に、右尺は命門心包の脉部と爲す者は誤り也。心包は膈上の陽分にありて、心と相連なり居る。何ぞ下焦命門の位に侯うや。心包は相火たり。相火は火の質。質は重くして下に位すなり。心包は真心の外郭(がいかく)、心と異ならず。故に諸侯皆な心と同じ。(『素問』)「痿論」に曰く、悲哀太甚(はなはだ)しきときは胞絡絶すと。胞絡は心包なり。悲哀太甚しきときは上焦の真陽耗損して胞絡虚絶す。(『霊枢』)「邪客篇」に曰く、諸邪の心に在る者、皆な心の心包絡に在りと云々。心は一身至尊の臓。君主之官。補気の舎なり。故に諸邪の心に在りと云う者は、皆な心の外郭たる心包絡に在ることを得て、本心、妄(みだり)に邪を受けること有るべからず。若し本心、直(ただ)ちに邪気を受けること有るときは必ず死す。真心痛の由、是なり。

上記には「心包の脈位を右尺中」であることを例に挙げて、心包と真心との違い、相火の性質を示しています。
さらに『素問』痿論第四十四の記述「悲哀太甚、則胞絡絶、胞絡絶則陽氣内動、発則心下崩、数溲血也。」を挙げて、上焦(真心)と胞絡との関係を示唆しています。この観点は『素問』評熱論第三十三にある「月事不来者、胞脉閉也。胞脉者、屬心而絡於胞中。今氣上迫肺、心氣不得下通。故月事不来也。」からも心包がただの“真心(心臓)を包む膜”ではないということが分かるかと思います。
このような人体観は重要で、李東垣が提唱した陰火学説の基盤となる観かたです。

また『霊枢』邪客にある「諸邪之在于心者、皆在于心之包絡。包絡者、心主之脉也。」の記述は、鍼灸治療において手少陰心経を治穴に用いない根拠として、しばしば引き合いに出されます。
このような記述から、なぜ少陰心経に鍼灸治療を行わないのか?もしくは心経に鍼灸治療を行うべき場合は…?などを考えることになるかと思います。

心包絡の臓、補瀉温涼の薬

[補]
(黄耆)  参(人参)  桂(肉桂)  蓯(肉蓯蓉)甘温  蘆(胡芦巴)苦温  鹿血  沈(沈香) 紙(破故紙・補骨脂)苦温  狗肉(狗肉)甘平  酉(酒)  絲(菟糸子)甘平

[瀉]
(大黄) 芒(芒硝)  殻(枳殻)  栢(黄柏)寒  藥(烏藥)  梔(山梔子)

[温]
(附子)  乾(乾薑)  桂(肉桂)  沉(沈香)  腽(膃肭臍・海狗腎)鹹大熱  芎(川芎)  益(益智仁)  蔲(肉豆蔲)  補(補骨脂)  狗肉(狗肉)  茴(茴香)  硫(硫黄)  藥(烏薬)  鍾(石鍾乳)  焼(???)  佰(柏子仁)

[涼]
(黄柏)  知(知母)  連(黄連)  芩(黄芩)  粉(玄明粉)  寒(寒水石)  膏(石膏)  滑(滑石)  雪(臘雪)冬至の後、第三の戌を臘と爲

東垣先生 報使引経の薬

(柴胡)上に行く
(川芎)上に行く
(青皮)下に行く

心包絡の臓象

『心包絡の図』本記事では不掲載。『臓腑経絡詳解』を参照のこと。

『難経』二十五難に曰く、心主と三焦表裏たり。俱(とも)に名有りて形無し云々。心主とは心包絡を云う。故に心主を臓とし、三焦を腑として表裏を爲す。心主と三焦と両(ふたつ)ながら空(むな)しく名のみ有りて形無しと。
『類経附翼』三巻「三焦包絡命門の弁」に曰く、形無しというときは非なり。夫れ名は形に従(よ)りて立つ。若し果たして名ありて形無きときは則ち『内経』の言と鑿空(さっくう)と爲す云々。
又曰く、其の心包絡に在るときは則ち『霊枢』「邪客篇」に曰く、心は五臓六腑の大主。其の臓堅固にして邪容(いれ)ること能わず。之に容(いる)るときは則ち心傷(やぶ)る。心傷るときは則ち神去る。神去るときは則ち死す。故に諸邪の心に在る者は皆な心の包絡に在りと。凡そ此れは是の経旨。夫れ既に形無しと言うときは則ち心に代わりて邪を受ける者は心の包絡に在りて其の形無からしむ。又、当に之を何れの所に受けんや。此の経文に即して有無を見るべし。

夫れ『難経』は内経の難を発明することを爲す。故に『難経』に曰く、而して『難経』は実に『内経』に出づ。今『内経』には其の名状を詳にし、『難経』には形無しという。将に『難経』の無きに従わんや。抑々(そもそも)内経の有るに従わんや云々。
又曰く、心の包絡は文に於き、義に於きて、猶(なお)(さと)すべしと爲す。而して古今の諸賢、歴(あまね)く指して其の心を褁(つつ)むの膜となす。固(まこと)に疑い無し云々。然るときは則ち難経に所謂る形無しとは、真説ならざるに似たり。

一切の名を命(なづく)る。皆な其の形を象(かたど)りて後、必ず名有り。空しく名のみ有りて形無しと云わば、其の名本(もと)何に従て命ぜるや。名有るときは則ち何ぞ形無きことを得んや。夫れ心は肺下膈上に有りて神を蔵(かく)すの君主たり。是を以て其の臓独り倮(あらた・あかはだか)に見(あらわ)れず。別に細き筋膜ありて、真心の臓外を包褁(ほうか・つつむ)する者有りて、此れを心包絡と云う。其の細き筋絡を以て、心を包むが故に名づく。是れ名は形に従りて出るの義なり。其の包絡の色、亦た赤くして相火に属す。是を以て相火の腑たる三焦と表裏を爲す。固(ここ)に此の包絡有りて真心君主の外衛(がいえ・ほかのまもり)と爲る。猶(なお)帝官の重廓(じゅうかく・くるわ)有りて之を護(まも)るに似たり。然れども其の躰(たい)(もと)真心と一連にして、手の少陰真心よりして之を主る者なり。故に亦た称して心主という。

或いは曰く、心包は相火たり。本心は君火たり。君(きみ)は自ら動ずべからず。心包の相火、之に代わりて事を主る。故に心主と云うも亦た通ず。
「三焦包絡命門の弁」に曰く、心包絡は君主の外衛と爲す。猶(なお)夫の帝闕(ていけつ)の重城の如し。又曰く、包絡は少陰君主の護衛(ごえ・まもる)なり。又曰く、心主は心の主る所なり云々。『十四経絡発揮』に滑氏の曰く、手の厥陰は君火に代わりて事を行う用を以て而して言う。故に手の心主と曰う云々。諸症に心病と云い、心邪と云う。皆な此の包絡を指す。世の麤工(そこう)、真心・心包の分ちを知らず。妄りに云て皆な心病とす。故に補瀉温涼の方剤相混雑して治験を得ること少(まれ)なりとする也。

○或る人問うて曰く、六臓六腑とは、五臓五腑に心包三焦を合して十二とす。(『素問』)「霊蘭秘典論」に十二官有りて、心包の一官を少(か)き、膻中は臣使の官、喜楽出づと云う一節多き者は何ぞや。
答えて曰く、心包の臓は膈膜の上、心と並びて膻中におり、心の君火に代わり事を行う相火たり。此れ実に真心の臣使なり。心包の陽気膻中に和するときは則ち上焦開発して喜楽出づ。然るときは則ち「霊蘭秘典論」に謂ゆる臣使の官、喜楽出づとは、明らかに心包を指していうの官か。

『臓腑経絡詳解』には手厥陰心包経の図あり 本記事では不掲載。『臓腑経絡詳解』を参照のこと。

手の厥陰心包絡之経の指南

○手の厥陰心包絡の経は血多くして氣少なし。
心包は手の厥陰の経なり。主の六気を以て云う。厥陰は初の気とす。十二月の中大寒より二月の中春分に至る。此の時、陰寒の気盛んにして温陽の令(れい)甚だ少し。(『難経』)七の難に曰く、厥陰の至る、沈短にして敦(とん)〔沈重なり〕云々。三脉皆な陰なり。故に手足厥陰の脉は陰血常に多くして、陽気常に少きことを知るべし。

(『霊枢』)「経脈編」に曰く、心主は手の厥陰心包絡の脉。胸中に起こり、出でて心包絡に属し、膈に下りて三焦を歴絡(れきらく)す。〔『十四経絡発揮』手の厥陰の脉は胸中に起こり出でて心包に属し膈に下りて三焦を歴絡すに作る)。

是、裏にして深く流るる者なり。手の厥陰心主包絡の脉は胸中真心の外面より自然に起こり出で、心の外を包む所の心包絡に属し、此れより膈膜を下りて上中下の三焦を盡(ことごと)く歴絡す。蓋し心包と三焦と表裏の象りあり。上焦は鳩尾以上、中焦は臍(ほぞ)以上、下焦は臍以下を云う。外(ほか)穴を以て云うときは則ち上焦は臍上五寸、中焦は臍上四寸、下焦は臍下一寸陰交の分に有り。皆な任脉の本穴なり。

○其の枝なる者は胸を循り脇の腋を下ること三寸に出で、上って腋下に抵(いた)り臑内(じゅない)を循り(『十四経絡発揮』腋下を下りて循るに作る)太陰少陰の間を行きて肘中に入る。

[腋]  脇肋の上際、肩の下を腋と云う。俗にわきつぼ。
[臑]  肩と肘の間をいう。
[太陰少陰之間] 手の太陰肺経は中府雲門より下りて尺沢を経、大指の内廉(ないれん・うちかど)に行く。手の少陰心経は、極泉より少海を経て小指の内廉に行く。此の厥陰心包絡は二経の間を行きて中指の内廉に至るなり。

○支(えだ)なる者は胸部に自然に起こりて胸を循り、脇肋の腋を下ること三寸天地の穴に出でて〔天池は直ちに乳後一寸、腋下三寸にあり〕上りて曲腋(わきつぼ)の下廉に抵り、腋より臑内に下り、天泉の穴を循り〔穴は尺沢の通り、曲腋の下二寸にあり〕て、手の太陰と手の少陰の二経の間を行きて、肘の中(うち)曲沢の穴に入る〔穴は、肺の尺沢と心の少海との間にあり〕

○以上は(『霊枢』)経脈編の本旨、此の如し。又、伯仁の意は然らず。前の経の胸中心の外面(そとつら)心包に属する所より別れ上り胸を循りて脇肋に出て、腋三寸天池の穴に下るとす〔他は右と同じ〕。然るときは則ち本文の下腋の下の字、経行として之を見る。経意は寸の三寸下るを以て云う。故に読(とう)を分つこと同からざる者は左(下記)の如し。

胸を循り脇の腋を下ること三寸に出づ(循胸出脇下腋三寸) 〔経の点〕
胸を循り脇に出でて腋を三寸下り(循胸出脇下腋三寸) 〔滑氏の点〕

○臂(ひじ)を下り両筋の間に行き、掌中(たなごころ)に入り、中指を循りて其の端に出づ。
[臂]  肩と肘との間を云う。
[両筋之間] 曲沢より太陵に至るの間、大筋有りて手の厥陰の経はこの二筋の間を流れ行く也。

○既に肘の中曲沢の穴に入りて、此れより臂内(ひない)に下り、郄門の穴〔直(ただち)に曲沢の通り大陵の上五寸〕、間使の穴〔郄門の下三寸陥中〕、内関の穴〔間使の下二寸〕の三穴を経て、両大筋の間を流行し、大陵穴を循り〔穴は掌の中、労宮と曲沢とに引きて腕の横文両筋の間に有り〕、大陵の穴より、掌中の労宮の穴に入り〔穴は掌中に有り。中指と食指とを屈(かが)めて、二指の頭の間に取るなり。此れ中指本節の後えに当たる〕。中指の内の側(かたわ)らを行きて中指の端、爪甲角の内の傍らを去ること一分、中衝の穴に出でて終わるなり。

○其の支なる者は〔『十四経絡発揮』支別に作る〕掌中に別れ〔『十四経絡発揮』従に作る〕、小指の次指を循りて其の端に出づ。

[小指次指]  は無名指なり。手の大指を将指と爲す。大指の次指を食指と爲す。食指の又、次指を中指と爲す。中指の又、次指を無名指と爲す。無名指の又、次指を小指と爲す。

○其の支(えだ)にして別るる者は、掌の中、労宮の穴より外に別れて、小指の次指、無名指の外の側(かたわ)らを循りて、無名指の端外の旁(かたわ)ら、爪甲角を去ること一分、関衝の穴に出て、三焦経と交わり終わるなり〔関衝の穴は三焦経に見えたり〕

心包絡の臓、是動所生の病症

○是れ動ずるときは則ち病、手心熱し臂肘(ひちゅう)攣急(れんきゅう)し腋腫る。甚だしきときは則ち胸脇支満、心中憺々〔『十四経絡発揮』澹澹に作る〕、大いに動じ面赤く目黄ばみ喜笑(きしょう)して休(や)まず。

[手心熱]  手心は、掌中を云う。心包経の行く所也。熱するは火病なり。
[臂肘攣急] 攣は屈(かが)まりて伸びずを云う。急は強(こわばり)て、軟らかならざるを云う。臂肘は心包経の行く処なり。
[腋腫]  又、経の行く所なり。腫は火病なり。
[甚則胸脇支満]  胸脇は経の行く処なり。故に心包経の病甚だしきときは則ち胸脇に気支(ささ)えて満悶す。
[心中憺々大動]  心包は心の外衛なり。故に心胸膽々として大いに動乱す。憺々は動じて寧(やす)からざる㒵(貌)なり。
[面赤目黄]  面赤きは相火炎上の病なり。目は心気の使なり。心包は本心と異ならず。故に心包病みても目色黄なり。
[喜笑不休]  喜ぶは心の情。笑うは心火の声なり。皆な陽の情聲(じょうせい)なり。心包と心と連(つら)なるが故に、心包病みてもまた妄(みだ)りに喜笑して休止の度なき也。

○是れ脉を主として生ずる所の病は、心と心包と本(もと)一つにして相い離れざる者なり。心は南方の離火、離中の一陰心血と爲す。故に心は身の血脉を主る者なり。手の少陰経に於いては直ちに心を主として生ずる所の病と云い、此こには脉の主として生ずる所の病と云うは、文を互いにする者なり。

○煩心、心痛、掌中熱す。

心包は胸中に有りて心を絡う故に心煩(むねいきれ)、心痛む。掌中熱するは経の及ぶ所なり。其の煩、其の痛、其の熱、皆な火病なり。

○盛んなる者は寸口大なること人迎に一倍し、虚する者は寸口反りて人迎より小なり。
心包は手の厥陰経なり。厥陰は一陰なり。故に心包経に邪盛んなる者は、寸口大なること人迎に一倍し、正気虚する者は寸口反りて人迎よりも衰小(すいしょう・おとろう)なり。蓋し陰経は寸口を以て主とす。心包は手の厥陰たればなり。

○或る人問うて曰く、手の厥陰心包と手の少陽三焦と、陰陽の表裏を爲す者は『内経』の中、何(いずれ)の篇にか然るや。
答えて曰く、『素問』の巻の三「気血形志篇」に曰く、手の太陽と少陰と表裏を爲す。少陽と心主と表裏を爲す。陽明と太陰と表裏を爲す。是れを手の陰陽と爲す云々。少陽とは手の少陽三焦を云う。心主は心包の一名なり。此れ即ち手の厥陰心包は、手の少陽三焦の腑と表裏合配を爲すこと、此の篇を以て当に証と爲すなり。

 

鍼道五経会 足立繁久

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