小腸腑と手太陽小腸経 『藏腑経絡詳解』より

小腸腑と手太陽小腸経

心の臓と表裏関係にある小腸腑および手太陽小腸経に関する章です。


※『臓腑経絡詳解』京都大学付属図書館より引用させていただきました
※下記の青色枠部分が『臓腑経絡詳解』の書き下し文です。

小腸の腑、所属の提綱

小腸は心と倶に左寸に候う。蓋し心と小腸と臓腑表裏たり。故に小腸の諸候は心の候と異ならず。火に属し、夏に旺し、赤色を主る。心は鬲上に在り。小腸は下焦に在り。故に心病は上部に見(あらわ)る。小腸の病は下部に見る。下部とは二陰〔大小便の道をいう〕なり。蓋し小腸は水穀倶に受け、下口に於いて水穀分れて二陰に伝う。是を以て小腸病むときは則ち二陰倶に病みて、大小便之が爲に和さざるなり。其の源清からざるときは則ち其の流れ濁るの理なり。猶(なお)(しりえ)の小腸の腑象と互いに考うべしなり。。云々。

小腸の腑補瀉温涼の薬

[補]蠣(牡蛎)鹹寒  斛(石斛)甘温  禾甘(甘草の梢)

[瀉]海(海金砂)甘寒  虎(大黄) 隨(続随子)辛温  葱(葱白根・ひともじのしろね)甘温  茘(茘枝実)甘温   蘓(紫蘇)辛苦温

[温]戟(巴戟)  茴(茴香)  大茴(大茴香)  烏(烏薬)  益(益智)

[涼]通(木通)  芩(黄芩)  滑(滑石)  栢(黄柏)  草(通草) 梔(山梔子)  茅(茅根)  猪(猪苓)  澤(沢瀉)  芒(芒硝)  車(車前子)

東垣先生 報使引経の薬

(藁本)苦辛微温 経に引く
(羌活)上行
(黄柏)下行

小腸の腑の象り

小腸腑の絵図。本記事では不掲載。『臓腑経絡詳解』を参照のこと。

小腸の長さ三丈ニ尺。径(わたり)八分(と)分の少半〔三分にして一分なり〕。大(めぐり)二寸半。臍上に当りて左に廻運(かいうん)畳積(じょうしゃく・たたみつむ)すること十六曲〔一曲の長さ二尺ずつなり〕、其の重さ二斤十四両。
其の象り帯の如し。其の上口は胃の下口と重り蔽うて幽隠(ゆういん・かすか)なり。胃の下口を幽門とするもの、是の理なり。其の下口は臍上一寸水分の地に当る。

(『素問』)霊蘭秘典論に、小腸は受盛の官、化物(かぶつ)出づ。
夫れ人の飲食胃に入りて、脾これを尅化す。化する所の水穀倶に小腸に受盛る。小腸の下口水分の位にして、水濁は膀胱に注ぎ、糟粕は大腸に伝う。然るときは則ち胃中消化の水穀、小腸に受盛り、下(しも)膀胱大腸に伝う。注ぎて二陰に出づ。故に受盛の官。化物出づと云う。是を以て大小便の病、多くは小腸に出づ。且つ小腸和せざるときは胃も又従うて病を爲す。是亦、末(すえ)(ふさが)るときは則ち本(もと)発せざるの理なり。

或る人問う、背兪は臓腑の位に従うて、序(ついで)を爲す。十六椎の左右は大腸兪。十八椎の左右は小腸兪なり。此れを以て之を考えるときは、小腸は大腸の下にあるに似たり。師が言の如きは小腸は大腸の上に在りと。其の兪と反するものは如何に。

答えて曰く、善(よし)。『難経』五十七難に謝氏が註に曰く、小腸の兪を灸して是なり。穴は第十六椎の下の両傍各一寸五分に在り云々。十六椎の左右は今大腸の兪とす。之に従うときは則ち経兪の名、僦貸季(じゅうたいき)より伝えて、其の来たること既に久し。大小の二字、疑うらくは誤りて上下するか。十六椎の左右は小腸の兪。十八椎の左右は当に大腸の兪とすべし。諸々の髎の字誤りて窌に作るの類(たぐい)、魯-魚、士-土、汗-汙の同じからず。古書のあるところ詳かにして之を正せ。

又問う、小腸の腑は臍に当りて左に環(めぐ)るとは、臍の左の方に有りや。
答えて曰く、此の義、右の大腸の腑象に弁ず。彼を考えて当に之を求むべし。只、左に顧(かえりみ)るを云う。面南するときは則ち左は東方陽位。小腸は心と表裏。心火陽臓の腑たり。故に廻るに左に顧るもの、又陰陽の妙なり。

小腸経の絵図。本記事では不掲載。『臓腑経絡詳解』を参照のこと。

手の太陽小腸経の指南

○手の太陽小腸経は血多くして氣少なし。一歳主氣の令を以て云うに、太陽の気は十月の中小雪より始まりて、十二月の中大寒に終わる。此の時、寒水の令を主りて、寒氣乃(すなわち)(おこなわ)る。寒と水と皆陰なり。陰多くして陽少なきの時なり。故に人身にしても、手足の太陽経は陰血多く陽氣少なきは、蓋し三才一気なればなり。

○(霊枢)経脈篇に曰く、小腸は手の太陽の脉、小指の端に起り、手の外側を循り、腕に上りて踝中に出づ。

[小指之端] 手の小指の外側の端なり。陽経は内を行き、陰経は外を行く。小腸は太陽経なり。故に循るに皆外を行く。
[外側]手の甲を外とし、掌(たなごころ)を内とし、大指の方を内側とし、小指の方を外側とす。
[腕] 臂骨(ひこつ)の尽くるところを腕とす。俗にいうウデクビ。
[踝] 足に内踝・外踝有り。手にも又腕の左右に突骨(とっこつ)ありて、内外の踝とす。手腕の後え大指の後え関部の外の高骨(こうこつ)を手の内踝とす。小指の後え腕下突出の骨を手の外踝とす。此こに所謂(いわゆる)踝は手の外踝なり。
肩胛は臑兪天宗等の処なり。
[肩上] 即ち督脉の大椎の穴の地を云うなり。

○養老の穴より直(ただち)に臂骨の下廉を行き〔腕と肘との間を臂という。臂骨の下廉とは、小指の通りを下廉とす。養老の穴の通りを直ちに上行するときは則ち自ら下廉を行くなり〕、支正の穴を循り〔支正は養老の穴の通り腕後五寸にあり〕、肘の内の側(かたわ)ら臂骨と臑骨と両骨の間に出て、小海の穴を歴(へ)〔小海の穴は手を屈(かがめ)て肘の横文の頭に点して後、手を伸ばして突骨を推しはずして、両突骨の間、陥なる中を穴とす〕、上りて臑外の後廉を〔小海の通りを直(すぐ)に上るときは則ちこれ臑外の後廉なり〕循り、手の陽明大腸、手の少陽三焦、両経の外を行き〔大腸経は、大指の次指の通りを行く。三焦経は小指の次指の通りを行く。此の小腸経は、小指の外の側の通りを上行するときは則ち自ら両経の前を行くなり〕、肩解(かたかい)の肩貞の穴に出で〔肩貞の穴は、肩胛の曲れる骨の下、肩胛と臑骨と両骨解の間にあり〕、肩胛を繞(めぐ)りて臑兪の穴〔肩貞の穴の上、肩胛の下、臑骨の上、陥なる中〕、天宗の穴〔臑兪の穴の後の上、秉風の穴の後え、肩胛の下、陥なる中〕、秉風の穴〔三焦経の天髎の穴の外、大骨の下にあり〕を循り、曲垣の穴〔肩の中央、横に肩井の穴の後えにあり〕に行き、左右に相い奇(よ)りて肩外兪〔肩胛の上廉、脊を去ること三寸〕、肩中兪〔肩胛の内廉、脊を去ること二寸〕歴て、肩上大椎の穴に至りて、左右より奇る所の二経一処に相い交わり合す〔大椎は、督脉の本穴なり〕

○缺盆に入り、心を絡(まと)い、咽を循り、膈に下り、胃に抵り、小腸に属す。
[鈌盆] 詳かにするときは則ち胸上天突の処(ところ)。其の骨凹(なかくぼ)にして、譬(たとえ)ば盆の缺(けつ・かけ)たる形に似たるをいう。総て言ときは則ち肩の下、膺(よう・むね)上の横骨、即ち巨骨の上、陥(くぼか)なる中、通じて皆鈌盆とす。此こに所謂缺盆も通称の缺盆なり。肩より頚根(けいこん)を挟(さしはさみ)て前に下るに、巨骨の上、陥なる中に入るを以て云うなり。
[循咽] 咽は飲食の通道。即ち胃系なり。上(かみ)は口中咽の上口より、下(しも)は胃の上脘〔臍の上五寸にあり〕までの間、総て皆な咽とするなり。此こに所謂る咽は口中の咽口のみに非ず。上脘までの間を総て言いて、咽とする者なり。

或る説に曰く、本文の字疑うらくは誤りて上下するか。当にに缺盆に入り咽を循り心を絡い、膈に下るに作るべし。此の如きときは則ち上下の字理、直(すなお)にして佳(よ)しと爲す。

○既に肩上大椎に於いて二経相い合し、又大椎より左右に別れて頚根を挟み、前に流れて缺盆に入り、胸部に下り、膻中〔両乳の間に当る〕の分に於いて心を絡い、咽〔すなわち胃系なり〕を循り、並びて膈を下り〔鳩尾を下る者を以て云うなり〕、上脘中脘の間に於いて胃の腑に抵り、又下行して臍上二寸下脘の分にして小腸に属し絡(おわ)るなり。

○或る人問いて曰く、『十四経絡発揮』の註に曰く、肩上に交わりてより缺盆に入り、肩を循り腋に向かい、下行して膻中の分に当たりて、心を絡う云々と。今、師が謂う所の者と合せざるに似たり。如何に。
答えて曰く、善(よし)。(滑)伯仁の註解、詳かなるに似て反て明らかならず。按ずるに、「自交肩上入鈌盆循肩(肩上に交わりてより缺盆に入り、肩を循る)」と云べからず。当に「自交肩上入鈌盆循肩(肩上に交わりてより、肩を循り缺盆に入る)」と云うべし。然るときは則ち上下の理或いは通ぜん者か。且つ上の文の直(ただち)に上りて臂骨の下廉を循ると云々の註に、「上會大椎、因左右而相交於両肩之上(上りて大椎に会し、左右に因りて而して両肩の上に相い交わり」とは、また上下せり。当に「因左右相交於両肩の上、上會大椎(左右に因りて両肩の上に相い交わり、上りて大椎に会す)」と云うべし。按ずるに伯仁しいて本文の肩上に交わるの字例を釈せんと欲するが故に、文理隔たりて意明らかならざるなり。

○其の支(えだ)なる者は〔『十四経絡発揮』に別の字あり〕缺盆より頚を循り、頬に上り、目の鋭眥(えいし)に至り、却(しりぞい)て耳中に入る。

[頸] 頭茎(ずきょう)に三名あり。後髪際と大椎との間を項(うなじ)とす。項の左右両耳と肩との間を頚(くび)とす。頤(おとがい)と缺盆の間を結喉(けっこう)とするなり。
[頬] 即ち鳩骨。俗に呼びてホウボネなり。
[鋭眥] 眥は、マジリ、マガシラなり。『入門』に曰く、眥は両目の角なり。マジリを鋭眥とし、マガシラを内眥とす。

○支にして別るる者は、缺盆より頚を循りて、天窓、天容の二穴に上り〔天窓は、頚の大筋、大腸経の扶突の穴の後えの動脉の中。天容の穴は、耳の下、俗にいうミヅスイの後の下にあり〕、猶(なお)頬骨(ほうぼね)に上りて顴髎の穴に抵り〔顴髎の穴は、顴骨(ほうぼね)の尖れる端、陥なる中なり〕、目の鋭眥、瞳子髎〔穴は胆経に出づ〕に至り、瞳子髎より後えにしりぞいて、耳中の聴宮の穴に入りて終るなり〔聴宮の穴は、耳中の珠子の前、動脉の中にあり〕
愚按ずるに、此の交経、本文に支なる者とす。然れども、天窓天容顴髎聴宮の諸穴あるときは則ち支(えだ)にして経と異ならず。惟(ただ)其の交経たるを以て支なるものと称するならんか。

○その支なるものは頬に別れ、䪼(せつ)に上りて鼻に抵り、目の内眥に至り、斜めに顴を絡う〔『十四経絡発揮』、斜めに顴を絡の四字無し〕。

[䪼]目下をいう。

○其の支なる者は、頬の顴髎の穴より別れ出でて、目下の䪼(せつ)に上り、鼻根に抵り、目の内眥睛明の穴に至り、睛明の穴より又斜めに下行して、顴髎の分を再び絡うて終わるなり。然るときは則ち顴髎より上り、又顴髎の分に下り絡て終わること不審(いぶかし)。伯仁、其の「斜絡於顴(斜めに顴を絡う)」の四字を闕(か)くもの最も意あるかな〔睛明穴は膀胱経に出づ〕

小腸の腑、是動所生の病症

○是れ動ずるときは則ち病、嗌痛み頷(おとがい)腫れ、以て顧みるべからず〔『十四経絡発揮』回顧に作る〕。肩抜くに似て、臑折るるに似たり。

[嗌痛頷腫] 経脉咽を循り頚を循るが故に、或いは痛み、或いは腫るること此の如し。
[肩似抜臑似折] 経脉、臑を循り肩解肩胛に行くが故に其の所皆な痛む。抜くに似て、折るるに似るとは、痛みの甚だしきを云うなり。

○是れ液を主として生ずる所の病の者

小腸は水穀倶に受け盛り、清濁を泌(したみ)(わかち)て、大小便に伝う。小腸病むときは則ち水穀分けず、水液流衍(りゅうえん・ながれあふる)して、或いは小便妄行し、或いは大便泄痢す。此れ皆液を主として生ずる所の病をなす也〔按ずるに疑うらくは、液は血の字の誤りか〕

○耳聾(みみしい)目黄(きばみ)、頬腫れ、頚頷肩臑肘臂の外の後廉痛む。

経脉、耳中に入るが故に、耳聾(みみしい)、経脉目の内外の眥に行くが故に目黄なり。頬腫れ頚・頷・肩・臑・肘・臂の後廉は倶に小腸経の流るる所。故に皆痛みをなす也。

○盛んなる者は人迎大なること寸口に於いて再倍し、虚するものは人迎反て寸口に於いて小なり。

太陽は三陽たりと雖も、心と表裏たり。心は少陰とす。少陰は二陰なり。故に小腸の府は心臓の少陰の数に合して再倍す。再倍は二倍なり

臓腑経絡詳解 巻之二終

鍼道五経会 足立繁久

胃腑と足陽明胃経 并びに胃氣脾臓と足太陰脾経心臓と手少陰心経 并びに神気 附 受胎君相の二火 ≫ 小腸腑と手太陽小腸経 ≫ 膀胱腑と足太陽膀胱経

おすすめ記事

  • Pocket
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントを残す




Menu

HOME

TOP