大腸腑と手陽明大腸経『臓腑経絡詳解』より

臓腑経絡のキホンを学ぶ【経絡の正奇双修】

講座【経絡の正奇双修】2021’がスタートしました!
今期は奇経八脉について主に学んでいます。
が、十二正経の復習する目的で過去に使用したテキスト『臓腑経絡詳解』(岡本一抱 著)の書き下し文を紹介します。
岡本氏特有の懇切丁寧すぎる程の説明で、臓腑と経絡のキホンについて学びつつ、医古文にも馴染むことができると思います。


※『臓腑経絡詳解』京都大学付属図書館より引用させていただきました
※下記の青色枠部分が『臓腑経絡詳解』の書き下し文です

大腸腑所属の提綱

○大腸の脉は、肺と俱(とも)に右寸に見(あらわ)る。肺と大腸は表裏たり。臓腑其の氣を通ず。故に大腸の諸候(もろもろのうかがい)は肺と同じ。肺は上部とす。その候は上(かみ)に有り。大腸は下部とす。その候、下に有り。然ども、腑病は臓に及び、臓病また腑に及ぶ者なり。故に肺病みて大便泄利(せつり)し、大腸病みて咳喘(がいぜん)を発す。将(まさ)に此れの謂いなり。

○(素問)霊蘭秘典論に曰く、大腸は伝導(でんどう)の官。変化出づるなり云々。大腸は胃中の穀食の糟粕(そうはく)を受けて、下 大便に伝導(でんどう)するの官なり。故に変化出づと云う。ここを以て大腸の平と病 大便に候い、肛門に見(あらわ)るるなり。

大腸の腑 補瀉温涼の薬

[補]
(牡蠣)鹹寒  訶(訶子)苦澁温  肉(肉豆蒄)辛温  倍(五倍子)苦酸  象(罌粟)酸澁微寒  竜(龍骨)甘平  菂(蓮肉)甘平  木(木香)辛温

[瀉]
(枳殻)苦微寒  洞(枳実)苦微寒  嬰(桃仁)苦甘平  广仁(麻子仁)甘平  巴(巴豆)辛温  芒(芒硝)苦寒  淲(大黄)苦大寒  丒(牽牛子)苦辛微寒  梹(檳榔)苦寒  斛(石斛)甘平  葱(葱白)辛温  隨(続随子)辛温  榧(榧子)甘渋平

[温]
乾(乾姜)  官(肉桂)  呉(呉茱萸)  丁(丁香)  椒(胡椒)  田(半夏)

[涼]
(黄芩)  槐(槐角)  丹(山梔子)  連(黄連)  堯(連翹)  苦(苦參)  淲(大黄)  膏(石膏)

東垣先生 報使引経の薬

(葛根)甘辛平 熱を去る
(白芷)辛温 滞を通ず
(升麻)甘苦平 升提
(石膏)辛甘寒 火を去る

大腸の腑の絵図


写真:『臓腑経絡詳解』の大腸の腑の絵図 京都大学付属図書館より引用(一部改変)させていただきました

大腸の腑

大腸の上口、小腸の下口に近し。水穀の糟粕、これより大腸に入る。
直腸即ち大腸の下口なり。
肛門、穀道、後陰とす。また、魄門と名づく。

大腸の腑象

○大腸一名は廻腸 難経、回腸と作る
上口より下口に至りて、長きこと二丈一尺。径 さしわたし也 一寸。寸の少半 一を三分にして、その一分なり。則ち一寸三分零か 内の広きこと四寸 大(めぐり)四寸なり 。
その象(かたち)長くして帯の如く、臍下一寸。水分の辺に当りて、折れ畳みて重積(じゅうしゃく・かさねつむ)すること十六曲(きょく)なり 一曲の長さ一尺三分余り

故に(霊枢)腸胃篇に曰く、廻腸は臍(ほぞ)に当りて、左環廻周(かいしゅう)葉積(ようしゃく)して下る。廻運(かいうん)、環反(かんはん)十六曲。大(めぐり)四寸。径(わたり)一寸。寸の少半。長さ二丈一尺と云々。
『類経』に曰く、廻腸は大腸なり。葉積は葉の積むが如し。また畳積(じょうしゃく)の義と云々。

客 問うて曰く、(霊枢)腸胃篇に曰く、廻腸は臍に当りて左環(左の方にめぐる)と。『難経』、『十四経(十四経絡発揮)』、『鍼灸聚英』に臍に当りて右に廻(めぐ)ると云う。その臍に当るとは、臍の傍らに有りや。また左と云い、右と云う者は、何れか是(ぜ)なるや。明らかに以て我に告げよ。

答えて曰く、臍に当るとは、臍の傍らに有るには非ず。大腸の上口は、小腸の下口。臍下一寸、陰交の辺、小腹の中(うち)に蔵(かく)れて、臍下に当るを云うなり。その左に環(めぐり)、右に廻(めぐる)とは、十六に曲折する者、左に顧(かえり)み、右に顧みるを云う。臍の左右に偏なるには非ず。

肺は西方金に位す。南面する時は、右は西とす。大腸は肺の腑。故に右めぐりに十六曲す。
(霊枢)営衛生会篇の馬氏が細註に曰く、廻腸は臍に当りて左とは、義を以って之を推すに、臍に当りて右に応ずべし、其の左の字、疑うらくは誤りと(原文…廻腸當臍左、以義推之、應當臍右、其左字疑誤)。一説に六腑は陽なり。大腸は手の陽明経なり。陽道は左を行く。故に左の方に環ると云う者もまた通ず。

又、問うて曰く、大腸は何れに受けて、何れに導くや。

答えて曰く、胃中穀食の化物。小腸の下口水分の辺に於いて、水を泌(したた)り、糟粕を大腸に受け、下肛門に通ず。即ち大便なり。膀胱の化して、水氣能(よ)く通ずる時は大便堅く。若(も)し水氣大便にも交わり入る時は、大便泄瀉す。然るに、経に謂わゆる、大腸は穀を盛ること一斗。水七升半と。此の水七升半の四字不審(ふしん)なり。右(上記)に述ぶるが如く、大腸は糟粕(そうはく)の腑。水を受けず。受ける時は泄利の病を患(うれ)うなり。大腸十六曲の終る所、長く下りて竹管(ちくかん)の如し。此れを肛門とも、直腸とも、糞門(ふんもん)とも、下極(かきょく)とも、魄門(はくもん)とも云う。大便の道路なり。

経に曰く、肛門の重さ十二両。大(めぐり)八寸。径(わたり)二寸、寸の大半 三分にしてその二分得るを云う 長さ二尺八寸。穀を受けること九升三合八分、合の一 一合を八に分かちて、その一分を得るを云う

○手の陽明大腸の経、氣血倶(とも)に多し。

大腸は手の陽明の経なり。陽明の氣は三月四月に旺す。この時春温の氣令有り。且つ旧冬の残寒もまた行われて、寒温倶に見る 故に手足陽明の経、陽氣陰血倶に多きなり 。

手の陽明大腸経 指南


写真:『臓腑経絡詳解』の大腸の腑の絵図 京都大学付属図書館より引用(一部改変)させていただきました

○(霊枢)経脉篇に曰く、大腸は手の陽明の脉。大指の次指の端に起り、指の上廉を循り、合谷両骨の間に出で、上りて両筋の中に入る 馬本、間に作る 。

[大指次指]とは、手の大指の次指、則ち食指。俗に云うヒトサシユビなり。
[指上廉] とは、食指の上廉(うわかど)なり。類註に上廉は上側(うえのかたわら)なり。
[合谷」 とは、手の大指と次指との間、俗に云う虎口(ここう)の地、即ち合谷の穴の処なり。
[両骨] とは、大指骨と食指骨との岐骨(きこつ)の両間なり。
[両筋] とは、合谷の通りの腕中、即ち陽谿の地なり。この所に直(ただち)に大筋の両(ふた)つ流るるなり。凡(およ)そ経脉の行(めぐり)、陽経は外を行き、陰経は内を行く。故に肺経は手の太陰経なり。臑臂(じゅひ)の内を流る。大腸は手の陽明経なり。臑臂の外を流る。下の諸経みなこれに倣(なら)え。

○手の陽明大腸経は、手の大指の次指の端、内の側(かたわら)、爪甲角を去ること一分許(ばかり)、商陽の穴に起り 此れに於いて肺経の交りを得 て、食指の上廉を循りて、二間 手の食指の本節(もとぶし)の前、内の側らなり 、三間 食指の本節の後(しりえ)、内の側なり に上り、虎口合谷の地を行きて、合谷の穴を循り 合谷の穴は、手の大指と次指との岐骨(きこつ)の間なり を両骨の間に出で、腕に上りて両筋の中、陽谿の穴に入るなり 陽谿は、腕中の上の側ら合谷の通り、両筋の間、陥(くぼか)なる中なり 。

○臂の上廉を循り、肘の外廉に入り、臑外の前廉に上り 『十四経絡発揮』に循に作る 肩に上る。

[臂肘臑] 詳義肺経に見えたり。

○腕中両筋の間、陽谿より上りて、臂 腕と肘との間なり 外の上廉 即ち上側なり を行きて、偏歴 曲池を目的に陽谿の後三寸なり 温溜 偏歴の後二寸。小児は三寸とす。口傳 下廉 曲池の下四寸、陽谿を目的に取る 上廉 曲池の下三寸 三里 手の三里と号(なづ)く。曲池の下二寸 曲池 肘を屈曲して曲れる骨の中、横文の頭らに近し を循り、肘の外廉のは肘髎 肘の輔骨の外廉、曲池の外、三焦経の天井に并(ならび)て、去ること一寸四分 に入り、上りて臑外の前廉 即ち上廉の云いなり を行きて、五里 顴髎を目的に、曲池の上三寸、肘髎の穴は、外に有り。五里は内に向うて付くなり 臂臑 曲池の上七寸なり を循り、肩に上りて肩髃に至る 肩の端、臂を挙げて、穴有る中、臑骨と肩骨と関節、凹(くぼ)かなる中なり 也。
按ずるに、『十四経絡発揮』に謂(いわゆ)る五里臂臑を行きて肩に上る間に於いて、手の少陽三焦の臑会の穴を絡うとは誤りなり。経文を考うるに、この説有ることなし

○髃骨の前廉に出で、上りて柱骨の会上に於いて 『十四経絡発揮』に於の字無し 出づ。

[髃骨] とは、肩端臑骨と肩骨との両骨の関節の處(ところ)を髃骨と云う。即ち肩髃穴の地なり。
[柱骨の会上] 『十四経絡発揮』に云う、肩胛(けんこう)の 膏肓の穴の左右に有る片骨を云うなり 上際 会する處を天柱骨となす。 この註義分明ならざるに似たり

『類註』に曰く、肩背の上、頚項の根を天柱骨となす。六陽みな督脉の大椎に於いて会す。これを会上と為す云々。督脉瘂門より下、第一椎に至るまでの脊骨を天柱骨とす。会上とは、即ち督脉の大椎穴の地を云うなり。

肩髃穴より髃骨の前廉に出て、巨骨の穴 肩髃の上、少し後に向かう両骨の間なり を行り上りて柱骨の会上、大椎の穴 督脉 に出て左右より上る者、是(ここ)に於いて相会す。

○下りて鈌盆(けつぼん)に入り、肺を絡(まと)い、膈を下り、大腸に属す。

大椎より又 分れ出て、頚根(けいこん)を挟(さしはさ)みて、前に流れ下りて、足の陽明胃経の鈌盆(けつぼん)穴に入り、此れより亦(また)陽明胃経 任脉を去ること四寸の流れなり の外を循り、下って肺に入り、肺の臓を絡繞(らくぎょう・まといめぐる)し、また膈を下り 膈膜の注義、肺経に詳なり 天枢 胃経の本穴なり。臍の傍らを去ること二寸 の分に当たりて、裏に入り、大腸に会属す。

○右(上記)は『十四経絡発揮』の説なり。経意は此の如くならず。凡(およ)そ鈌盆とは胸膺(きょうよう)の上、天突の地より、巨骨 穴名にあらず。膺上の横骨(よこたわるほね)也 の上、肩の下、陥(くぼか)なる中を皆 呼んで鈌盆 任脉天突の穴の條下に詳かなり とす。

陽明胃経の鈌盆の穴は、其の間に有るなり。此こに謂(いわゆ)る鈌盆は、直に鈌盆の穴を指すに非ず。亦(また)胃経の外を下りて天枢に流れず。大椎より分れ出て、頚根を挾みて前に流れ、肩を下りて、鈌盆陥かなる中に入り、胸に下り、会して肺を絡う 任脉 華蓋の辺に当る て、肺大腸表裏の象(かた)ちを為す。任脉の外を挾みて膈を下り、臍下一寸水分の辺に当りて、裏に入り、大腸に会属するなり。

○其の支(えだ)なる 『十四経絡発揮』に別の字有り 者 鈌盆 従(よ)り頚を上り、頬を貫き、下歯の中に入る 『十四経絡発揮』に縫中(ほうちゅう)に作る 。

[頚] とは、頭茎(ずきょう)の名なり。頭茎に三つの名有り。後髪際の下、大椎に至るまでを項(こう)となす。頤(おとがい)の下、天突に至るまでの間を喉嚨(こうろう)とす。項の左右、耳辺の下を頸とす 俗に、こくびと云う 。
[頬] とは、耳の下の前、曲れる處(ところ)を云う 俗に水すいと号(なづ)く 。
[歯] とは、前歯を云う。人の前歯、上歯は、前に並ぶ者の大にして、後なる者小なり。下歯は、前に並ぶ者小にして後なる者大なり。

○此の支なる者は、鈌盆より別れて、頸を挟みて、直に天鼎 頸の大筋の内、扶突の下一寸 扶突 人迎の後一寸半 を循り、上りて曲頬(きょくきょう)を貫き 凡そ経絡の行、起骨(きこつ・たかきほね)を歴(ふ)るときは則ち骨の上を行かず。起骨の下を貫き行くなり。故に今 曲頬骨の下を行くを以って、貫くと云う。下の諸経 皆これに倣へ 、左右より上り行きて、下歯の縫中(ほうちゅう)に入りて相会すなり 縫中は歯断(はぐき)を云うなり 。

○還(かえ)りて出て口を挟み、人中に交り、左は右にゆき、右は左にゆき、上りて鼻孔を挟む。

[人中] とは、鼻柱の下、上唇の上 俗に云う鼻溝(はなのみぞ)なり 。蓋し鼻を天門となし、口を地戸となす。この処天地の間なるをもって人中とす 老子釈略に出づ 。
既に下歯の縫中に入りて、二経相会してまた還りて縫中より分れ出て、両の口吻を挟み、上唇に従い上り、人中の分に於いて二経相交りて、左より来る者は右の鼻孔の下に出、右より来る者は左の鼻孔の下に出て、禾髎 任脉の水溝の傍ら五分なり を循り上り、鼻孔を挟み、迎香 鼻孔の傍ら五分なり を循りて終わるなり 『十四経絡発揮』には、迎香の穴に於いて、胃経と交り終わると云うなり 。

大腸の腑 是動所生の病症

○(霊枢)経脉篇に曰く、是(これ)動ずる時は、病む。歯痛み、頚 『十四経絡発揮』に梺と作るは誤りなり 腫る。

大腸の経脉、下歯の縫中に入り、頚の天鼎 扶突を行る。故に歯痛み、頚腫るることを爲す也。

○目黄ばみ、口乾き、鼽衄(きゅうじく)、喉痺(こうひ)、肩前臑痛み、大指次指痛みて用いられず。

[目黄] とは、大腸経の支別(しべつ)なる者、迎香に於いて、胃経と交わりて、其の氣を宗脉(そうみゃく)に合す。故に目の色黄なり。馬氏が曰く、目黄することを爲すは大腸の内熱と云々。
[口乾く]とは、経脉の行、下歯に入りて口唇を循るが故なり。
[鼽衄]とは、経脉の行、鼻孔を挟む故なり。鼽(きゅう)は鼻氣塞がりて水洟(みずばな)を流すなり。衄は 俗に云う鼻血なり みな大腸経の熱に属す。
[喉痺] とは、経脉頚を行り、口を挟む故なり。蓋し痺(ひ)は閉(へい)なり。咽喉腫脹(しゅちょう)閉塞す 即ち俗に云う、こうひなり 。亦(また)大腸経の壅熱(ようねつ)に属す。
[肩前臑痛 大指次指痛不用]とは、みな大腸経の歴る處なり。用いられず とは、挙動すること能(あたわ)ざる也 即ち俗に云う、はたらかず 。

○氣有餘(ゆうよ)するときは則ち脉の過ぎる所に當(あた)る者 熱腫す。虚するときは則ち寒慄(かんりつ)復せず。

△邪氣盛んに有餘する時は、大腸の経脉の過ぎ行くの分に當(あた)る處(ところ)、皆 熱して腫るなり。蓋(けだ)し陽経に陽熱重なるが故なり。又 元陽不足して虚する時は、身惡寒戦慄して、身体温氣に復(かえ)らず。『類註』に曰く、復らずとは温に易(かえ)らず也。

○盛んなる者は、人迎大なること寸口に於いて三倍し、虚する者は人迎 反(かえりて)寸口より小なり。

陽明は二陽なり。然れども太陰肺と表裏す。太陰は三陰なり。故に陽明に邪盛んなる者は、人迎大いなること寸口に三倍するは、太陰に従う也。

鍼道五経会 足立繁久

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