Japanese Acupuncture abroad-study tour で脈診をレクチャー

鍼道五経会の足立です。

3月30日(金)はJapanese Acupuncture study-abroad tour の一日講師を務めてきました。
アメリカやカナダの鍼灸師の方々が京都に一週間滞在し、日本の伝統鍼灸を学ぶツアーです。

その中の一講座を足立が担当させていただきました。

アメリカの鍼灸師に脈診を指導

当日は脈診の基本を紹介し、それら技術の習得を通じて日本鍼灸の根底にある歴史背景や東洋思想も紹介できたかと思います。

実際に講師を務めて感じたことは「みなさん真剣で素直」です。
【脈診講義の一風景】

さらに強く印象に残ったのは、単にスキル・テクニックではなく、技術の裏にある思想や理論を一生懸命に理解しようとする人が多いということです。

鍼灸勉強会で感じた日本人とアメリカ人のニーズの違い

日本の鍼灸勉強会で往々にして求められるのは「答え」です。(単純に比較できないかもしれませんが)

日本人鍼灸師の多くが勉強会で求める「答え」とは治療の仕方・効果の出し方・鍼の打ち方・経穴の選び方など、方法を求められることが多いです。

しかし、今回のアメリカン鍼灸師たちのニーズと感じたのは「理論や思想・原理」です。

彼らは答え・方法よりも、理論や思想に強く興味を示し、これらに関する質問も非常に活発でした。そのため方法・答え(=マニュアル)を話すまでになかなか至らず、休憩時間が無くなるくらいでした。
【習った脈診についてプレゼンを行う受講者もいるほど積極的かつ優秀だ。】

両者を“部屋の照明”に例えると、「どのスイッチをONにすれば、どの部屋が明るくなるのか?」を教えて欲しい…これは日本人鍼灸師に多くみられるニーズ(と、今までの講義経験から筆者が感じている)。

アメリカン鍼灸師たちが熱心だと感じたのはスイッチではなく「電気系統・配線・回路の成り立ちと設置の仕方を教えて欲しい」…といったニーズ。私が勉強会で重要視しているテーマがまさにこれです。

前者のようにスキル・テクニックをマニュアル的に覚えると、初めての疾患に弱いです。未知の状況に対するマニュアルを教わってないのでどうしていいのか分からない…と、さながら現代日本の教育に似ています。

しかし基本を通じて理論・背景・思想を学び、その原理を会得すれば、未知との遭遇にも強くなります。マニュアルで対処するのではないので、状況を理解し分析することで適切な対応を自分で考えて実行できるのです。

アメリカン鍼灸師は陰陽をどのように理解しているか?

欧米人だからといって、陰陽論のように物事や視点が相対的に変化する見方、抽象的なものの考え方が通用しないのか?というそうではありませんでした。

「陰陽太極図は一であり、二であり、三であり、四であり、五である…」という話をしても、むしろ納得してもらえたくらいです。これが日本人鍼灸師だったらどうだったか…。

このように陰陽の理解度は予想以上に進んでいましたので、感覚の共有が実にスムーズにでした。

ですので脈診の話も基本に留まらず、かなり応用に広がりました。

実際には寸関尺・浮中沈の3の脈診から広がり…
寸関尺に加え、関前一分・関後一分(菽法脈診はすでに学習済であった)の5の脈診を紹介することができました。

それに気を良くしたのもあって、我流ながらも秘密脈診「九九の脈診」も紹介する流れになりました。

幽霊の治療を話す…ゴーストバスター!?

また、陰陽や気の話があまりにも通じるので、午後のつかみには「幽霊に悩まされる女性のお灸治療」のエピソードを話してみました。

すると、これまた受けが良く、それでいてしっかりと“陰と陽”、“気”の概念が伝わっている…!と、そんな手応えを感じました。

ブログでは「お灸で幽霊の治療」を簡単にあらましだけ書きますね。

心身疲労で来院された女性の鍼灸治療。よくよく話を聴くと旦那さんがいわゆる霊が視える人。
しょっちゅう「肩の辺りに(霊を)憑かれている。」「また(霊を)連れてきたね。」と言われる。
また、自宅にもよく霊が集まる特定の場所があるという。
この案件にも精神的に参っているとのこと。
この話を聴いて、私がアドバイスしたのは「そこ(霊が集まる場所)にお灸したら良いんですよ。」
さらに色々なアドバイス(例えば、お花、線香、蝋燭、音楽、お水、塩、酒…等)したが、
つまるところ、陰の気と陽の気なんですよ…といった話で説明した。
すると次の診療日、その女性はアドバイスの中から2つ3つ実際に試したと明るい表情。
2診後はそれ以降落ち着いているとのこと。
3診後は幽霊の話題も出てこず。
4診後には近々復職するとのこと。

と、こんなエピソードから私が考える気についての話をしました。

普通はこんな話を他の講義で話しても、どこまで分かってもらえるか…心配になります。
むしろ「この人、危ない人じゃないの?」なんて思われそうで会外で話すのは大いに不安です。


【一日通訳してくれた前田先生、その通訳には安心と信頼を感じた】

しかし、このような話を初対面のしかも日本人ではなく欧米鍼灸師の方々に話して、かつ理解してもらえた理由として、前田先生の存在が大きかったです。

前田先生が私の言葉をすべて通訳してくれたのですが、その通訳が『東洋医学的に理解してくれた上で、私の意を汲んで英語に訳してくれている』といった安心感が常にありました。

前田先生の支援・助けがあったからこそ、思うことをそのまま話にできたと感謝しています。

アメリカの鍼灸学校で教えていること

その前田先生から聞いた話です。

アメリカの鍼灸学校では「まず道教の思想から勉強する」とのこと。
また気功の実技も行われていて「小周天まで行うカリキュラム」があること。
そのため「自分の体の気を意識する」ことができ、
「人に鍼する前には必ず自身の気を安定させてから鍼治療を行う」といった教えを受けるのだとか…。

小周天を教え、生徒全員に完成・体験させることってすごいことだと思いますが…。
少なくとも、天地の陰陽と人体の陰陽、気についての概念は、日本の鍼灸教育以上の水準だと見ます。

そして最後にもう一つ前田先生が重要なことを仰っていました。

それは「“日本人だから東洋医学を分かっている”…そのような考えは危ない」「日本の鍼灸師・鍼灸学生は危機感を持つべき」であると。

私も講義を通じて同じ印象を持ちました。この点においては、私自身が良い勉強をさせてもらったと感謝しています。

【講義後、前田先生と私】

【講座終了後、皆で記念撮影】

彼らはまだあと二日間の講義を控えている。休日は中一日、あとは講義詰めのスケジュール。全員がタフである。

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