葉天士の『温熱論』その10 癍疹について

熱病における斑疹とは?

『温熱論』本文では「論舌白如粉」に続いて(?)記載されているが、内容を考慮して別記事として紹介させていただきます。
斑疹とは熱邪が余勢を駆って皮膚表面に発出した現象であり、それと同時に身体が自然に行う解肌のような現象でもあると個人的には理解しています。葉天士先生は温熱病・瘟疫における斑疹を如何にみているのでしょうか?勉強させていただきましょう。

写真は『温熱湿熱集論』福建科学技術出版社より引用させて頂きました。
以下に書き下し文(黄色枠)と原文(青枠)を記載します。
『温熱論』は『温熱湿熱集論』福建科学技術出版社および『葉天士医学全書』山西科学技術出版社を参考および引用しています。
書き下し文に訂正箇所は多々あるでしょうがご容赦ください。現代語訳には各自の世界観にて行ってください。

書き下し文・斑疹について

凡そ癍疹の初めて見れるは、須らく紙燃を用いて胸背、両脇を照らし看るべし。
点大にして皮膚の上に在る者を癍と為す。
或いは雲頭隠隠、或いは瑣碎にして小粒なる者を疹と為す。①
又、宜しく見んとして宜しく見えざること多し。
按ずるに、方書に謂う 癍の色紅なる者は胃熱に属し、紫なる者は熱の極み、黒なる者は胃爛す。
然るに亦た必ず外症を看て合する所、方に之を断ずるべし。
然して春夏の間、湿病に俱に発疹すること甚しと為す、且つ其の色を辨することを要とす。
如(も)し淡江色、四肢清して、口甚だ渇せず、脈は洪数ならずは、虚癍に非ず即ち陰癍。
或いは胸に微かに数点見われ、面赤し足冷え、或いは下利清穀する、此れ陰盛格陽の上に於いて見われるなり、當に之を温すべし。
若し癍の色紫、小点なる者は、心包熱也。点大にして紫なるは、胃中熱也。
黒癍にして光亮なる者は、熱勝ちて毒盛ん。不治に属すると雖も、若し其の人 氣血充つる者は、法に依りて之を治す、尚(なお)救うべし。
若し黒くして晦き者は必ず死す。
若し黒くして隠隠たり、四旁赤色なるは、火鬱の内に伏す、大いに清涼透発を用い、間(まま)転紅成ること有り救うべき者、若し癍を夾み疹を帯びるは、皆是(これ)邪の一ならず、各々其の部に随いて泄する。
然るに癍は血に属する者は恒に多く、疹は氣に属する者は少ならかず。②
癍疹は皆是(これ)邪氣の外に露われる象り③なり、(癍疹)発出して宜しく神情清爽すべし、外解裏和の意を為す。
如(も)し癍疹出て昏する者、正氣が邪に勝たず、内陥して患と為す、或いは胃津内に涸れるの故なり。

まずは斑疹の診かたから

紙を燃やして明るい環境で胸背脇をみよ、と書かれています。当時は照明などなかった時代。視覚を介して色をみるにはクリアすべき条件があります。

また診る部位も腹背脇と指示しているのも意味があると思われます。
熱後の発疹は腹背脇に出やすいことは一般でも知られています。しかし、これを経絡流注でみると、腹部は陽明胃経・太陰脾経、脇には少陽胆経・厥陰肝経、そして背部には太陽膀胱経が流れています。

これら経脉の性質を考えると、熱邪を排出・発出しやすい部位でもあるといえるでしょう。

癍と疹の見分けかた

下線部①「点大にして皮膚の上に」出てきている斑状の皮膚所見を癍とします。そして「或いは雲頭隠隠、或いは瑣碎にして小粒なる者」つまり隠れるように微かに出ているもの、ポツポツ小さく現れる皮膚所見を疹としています。

また下線部②では、癍は血に属するもの、すなわち血症であることが多く、また疹は氣に属するもの(氣症)が多いと分類しています。
皮膚所見から、その火熱・湿熱が気分にあったのか、はたまた血分にあったのか?が弁別できるのは非常に臨床において有用です。
新型コロナウイルス感染症では、川崎病に類似した皮膚所見がみられたという報告が話題にあがりました。
これも『瘟疫論』『温熱論』の病理観でみると、血分に侵攻した熱邪が皮膚に発出した病態であると考えることは可能であると思われます。
(『瘟疫論』では「伝変不常」を参照のこと)
また、瘟疫・疫病に限らず、発熱後に皮膚に発疹や発斑が生じるのはしばしば見受けられることです。特に小児はりでは発熱に付随してよくみられます。その際に熱の病位を皮膚所見から判断することで治療方針を立てやすくなります。

出し切ればOK

下線部③「癍疹はみな邪氣が外表に露われる象りである」として、「神情清爽」つまり精神も病情も共に爽快・良好となればOK!なのです。

このことは発熱と皮膚所見がセットになっている病気の病型をみると凡そ理解できると思います。

突発性発疹、麻疹、風疹、水疱瘡、手足口病…などが是に該当すると思います。
これらの病気では、まず先に発熱が生じます。発熱のピークを越える、又は熱が下がり始めると共に皮膚症状が現れます。
このように皮表に現れる斑・疹によって熱邪が発表・駆邪されたかどうかの目安となるのですね。

しかし本書は『温熱論』、すなわち瘟疫・疫病がテーマです。そう簡単に駆邪されるような病邪ではないケースがあるのですね。それが「癍疹出て昏する者」の記述です。
癍疹は現れたものの、神情清爽にならないどころか昏昏となる、もしくは昏睡してしまうケースです。この場合は正氣が邪に負けてしまい裏に内陥した状態。または胃氣胃陰の枯渇であるとしてのいます。どちらも悪証ですね。

熱病と癍疹

以上の内容から「熱病と癍疹の概略」を学びました。
強い熱邪は内向する勢いが非常に強く、スムーズに発汗して発表解肌に至らない病態が多いと考えます。
追い出しきれない熱邪は皮下に留まり、不発弾のような状態となってくすぶることで癍疹となります。

この強く内向する病勢を持つものが疫病であるといえるでしょう。この点、葉天士の書を読むと瘟疫のみならず痘瘡(天然痘)についても詳しく記されています。
天然痘はすでにWHOにより撲滅宣言(1980年)が為されていますが、強い病勢を持つ熱病と癍疹の関係を学ぶことは、今の時代においても重要であると考えています。

「発熱と発疹の因果関係」の概略について、温熱病・瘟疫を基に学びました。
私自身、臨床では(特に小児はり)以上のように考え臨床に応用しています。(COVID-19の治療は未経験ですが)

鍼道五経会 足立繁久

原文【論舌白如粉】

若舌白如粉而滑、四辺色紫絳者、温疫病初入膜原、未帰胃腑、急急透解、莫待傳陥而入為険悪之病。
且見此舌者、病必見凶、須要小心。

凡癍疹初見、須用紙燃照看胸背。両脇、点大而在皮膚之上者為癍。或云頭隠隠、或瑣碎小粒者為疹。又宜見而不宜見多。
按方書謂癍色紅者属胃熱、紫者熱極、黒者胃爛。
然亦必看外症所合、方可断之。然而春夏之間、湿病俱発疹為甚、且其色要辨。如淡江色、四肢清、口不甚渇、脉不洪数、非虚癍即陰癍、或胸微見数点、面赤足冷、或下利清穀、此陰盛格陽于上而見、當温之。
若癍色紫、小点者、心包熱也。点大而紫、胃中熱也。
黒癍而光亮者、熱勝毒盛、雖属不治、若其人氣血充者、依法治之、尚可救。
若黒而晦者必死。
若黒而隠隠、四旁赤色、火鬱内伏、大用清涼透発、間有轉紅成可救者、若夾癍帯疹、皆是邪之不一、各随其部而泄。
然癍属血者恒多、疹属氣者不少。
癍疹皆是邪氣外露之象、発出宜神情清爽、為外解裏和之意。
如癍疹出而昏者、正不勝邪、内陥為患、或胃津内涸之故。

鍼道五経会 足立繁久

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