葉天士の『温熱論』その8 舌黒黒苔

いろいろな舌苔・黒苔

ベースの舌が無苔、そして烟(けむり)煤(すす)という文字から、舌に付着する黒苔の性状をイメージしやすくなると思います。
黒苔は極証(陰陽の極み)を表わす舌証として知られています。
本文でもその旨が記されています。

写真は『温熱湿熱集論』福建科学技術出版社より引用させて頂きました。
以下に書き下し文(黄色枠)と原文(青枠)を記載します。
『温熱論』は『温熱湿熱集論』福建科学技術出版社および『葉天士医学全書』山西科学技術出版社を参考および引用しています。
書き下し文に訂正箇所は多々あるでしょうがご容赦ください。現代語訳には各自の世界観にて行ってください。

書き下し文・舌に烟煤有り

若し舌無苔にして烟煤の如くなるもの有りて隠隠たる者、渇せず肢寒えるは、陰病を挟むを知る。
口渇し煩熱するが如く、平時の胃にして燥舌也、之を攻むべからず。
若し燥なる者は、甘寒にて胃を益す。
若し潤なる者は、甘温にて中を扶く。
此れは何の故か?
外に露れて裏に無き也。

極証の治法は見極めが必要

舌無苔であることから陰分の消耗が前提にあり、さらに「烟煤の如き」苔が附着していることで病態がさらに一段階進んでいることが分かります。「口渇が無く四肢の寒(冷え)」などの陰証所見が確認できれば陰病が加わっていると判断します。
これが「口渇」が有って、四肢が冷えるどころか「煩熱」するような状態で、胃は平時(如故ということでしょうか)にして燥舌が確認される場合、これは下法で攻めてはならず、胃津を消耗してはならない。燥に対して甘温にて胃を益すべし。とあります。(潤なる場合は省略)

何故このような治法を取るのでしょうか?

口渇、煩熱であれば清熱するべきしょう。しかも舌には乾燥がみられる…ということは熱邪により津液が傷れていることが分かります。
これに対し、甘温で益胃すると余計に熱が増すのではないでしょうか?
この問いに、葉天士は「外露而裏無(症状は外表に露われているが、裏氣が無い状態)」だからだと答えています。

原文【舌有烟煤】

若舌無苔而有如烟煤隠隠者、不渇肢寒、知挟陰病。如口渇煩熱、平時胃燥舌也、不可攻之。
若燥者、甘寒益胃。
若潤者、甘温扶中。此何故?外露而裏無也。

黒舌(黒苔)についてもう少し続きます。以下本文には四つの舌証が記されています。

書き下し文・舌黒を論ずる

若し舌黒にして滑なる者①、水来りて火を剋す、陰症と為す、當に之を温むべし。
若し短縮の見わる②は、此れ腎氣の竭きる也、難治と為す。之を救わんと欲すれば、人参、五味子を加う、勉めて万に一を希む。
舌黒にして乾する者③は、津枯れ火熾ん、急急にして南を瀉し北を補う。
若し燥し中心は厚にして㾦の生じる者④は、土燥き水竭る、急ぎ鹹苦を以て之を下す。

①「舌黒(舌苔黒?)にして滑なる」これは黒い舌にせよ黒苔にせよいずれにしても悪証であることは間違いありません。
ただ、証としては水来剋火、これを五藏に言い換えると腎水と心火の関係性が破綻している状態ともみることができます。

さらに②の舌証の短縮(短縮舌)は腎氣が尽きる所見であり難治である、とあります。
「万に一を希(のぞ)む」という言葉から、如何に逆証であるかが分かります。

③黒舌にして乾燥舌、もう陰津液の枯渇が舌にしっかり現れています。しかし治療方針が急ぎ瀉南補北とあり、「万に一つ」とも書かれていません。もしかしたら急症として生じた腎陰津液の枯渇の可能性もありますね。
ちなみに瀉南補北とは難経七十五難にある「東方實、西方虚」に対する治法として記されています。しかし本章では「津枯火熾」に対する治法ですの同一の意味ではないと思われます。

そして最後の舌証④は興味深いですね。舌黒という表記はありませんが【論舌黒】の中に分類されていますので舌黒という前提で読んでいきます。
「舌燥であり、舌の中心は厚苔で㾦が生じている」という舌証ですが、㾦の説明は次の章に「小粒にして水晶の色の如き(小粒如水晶色)」とあります。この舌証は土(脾胃)の津液を失い尽きてしまった病態であるとのこと。やはり舌の中央(土の位)の乾燥や傷津は温熱病の診断に於いて重要なのです。

鍼道五経会 足立繁久

原文【論舌黒】

若舌黒而滑者、水来剋火、為陰症、當温之。
若見短縮、此腎氣竭也、為難治。欲救之、加人参、五味子、勉希万一。
舌黒而乾者、津枯火熾、急急瀉南補北。
若燥而中心厚㾦者、土燥水竭、急以咸苦下之。

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