裏位はどこにある?
本段では裏結について述べられています。温熱病において裏位とはどこに当たるのか?を明確に意識して読むと良いでしょう。
当たり前ですが、表と裏を始めとする病位が不明瞭だと治療方針が立てられないからです。このことは鍼灸治療も全く同じことがいえます。
写真は『温熱湿熱集論』福建科学技術出版社より引用させて頂きました。
以下に書き下し文(黄色枠)と原文(青枠)を記載します。
『温熱論』は『温熱湿熱集論』福建科学技術出版社および『葉天士医学全書』山西科学技術出版社を参考および引用しています。
書き下し文に訂正箇所は多々あるでしょうがご容赦ください。現代語訳には各自の世界観にて行ってください。
書き下し 温熱論④-ⅰ
三焦を再び論ず、外より解くことを得ざれば、必ず裏結を成すことを致す。
裏結とは何か?
陽明胃と腸に在る也。亦須らく下法を用うべし。以て氣血の分 可ならざれば、就づく下す可らざる也。(※)
但、傷寒の熱邪 裏に在れば、津液を刧爍す、之を下すこと宜しく猛にすべし。此れ多く湿邪の内に搏つは、之を下すこと宜しく軽にすべし。
傷寒の大便溏は邪已に尽きると為す、再び下すべからず。
湿温 病みての大便溏は邪未だ尽くさずと為す。
必ず大便硬なれば、慎みて再び攻むべからざる也。屎の燥を以て湿無しと為す矣。
(※『温証論治』では「氣血の分を以てすること可ならざれば、其れ下す可らざると謂う也。」(不可以氣血之分、謂不可下也。)とある。)
下痢を鑑別することの大事
温熱論における裏結とは陽明腸胃に邪が実することを意味します。
腸胃に侵入した邪の出口は口か肛門のどちらかです。結果として吐法か下法になります。今回は下法にフォーカスを当てて話を進めています。
傷寒では侵入した寒邪は正気と搏ち合うことで熱化します。特に多気多血の陽明は熱量が盛んであり、そのため陽明位では激しく熱化します。この盛大となった熱は陰分・津液を消耗させます。便の性状も硬便や兎糞状便となります。熱邪が腸内の潤いを飛ばすからです。これを下して熱邪を駆除する必要があります。
しかし、熱邪が去れば下してはいけません。下すことで津液を損耗させてしまうからです。下痢ともなればなおさら下すべきではありません。これが傷寒論における下法の見極めです。
一方、温熱論における下法はどうでしょう?
温熱病においては、下法の対象を湿邪を主にみているようです。温熱病に限らずとも、湿熱下痢という形で便から湿熱を排除していることはよく見受けられます。
下法を用いて湿邪に乗せて熱邪を駆邪しているのでしょう。それだけに湿邪に偏った排便は下痢という形で出てきます。そのため例え便の性状が軟便下利であっても下法をかけます。まだ駆邪すべき湿邪が残っていると判断するからです。
便の硬軟をみて湿邪の有無を判断するのです。
書き下し 温熱論④-ⅱ
再び(論ず)人の体、脘は腹上に在り、其の地位は中に於いて処する。
之を按じて痛む、或いは自ら痛む、或いは痞脹し、當に苦泄を用い以って其の腹近に入れるべき也。
必ず之を舌に於いて験みる、或いは黄、或いは濁、小陥胸湯、或いは瀉心湯を與(与)うべし、症に随いて之を治す。
若し白苔の燥ならず、或いは黄苔白苔の相い兼ねる、或いは灰白苔 渇せざるは、慎みて苦泄を乱投するべからず、
其の中に外邪有りて未だ解せず裏に先ず結する者、或いは邪鬱して未だ伸びず、或いは素より中冷に属する者、脘中に痞痛有りと雖も、宜しく従りて開泄し、気滞を宣通し、以って肺に達し帰するべし。
如近俗の杏仁、肉荳蒄、橘皮、桔梗等、軽苦微辛、流動を具えるの品も可なり。
「脘は腹上に在り」という言葉は意味深ですね。
経穴では上脘・中脘・下脘の三脘がありますが、文脈からみて『温熱論』の上記本文でいう「脘」は膈や心下を指しているのではないでしょうか。「脘は腹上にあり」という表現からも、又 小陥胸湯・瀉心湯を用いる点、文末に用いられる生薬からも、心下やその近傍を病位としていると思われます。
そして膈を開くことの大きな目的は、中焦と上焦の間の閉塞を解くことことです。
なぜか?
中気・胃気を上焦・肺に到達させるためです。熱病は肺に病伝してしまうと厄介なことになります。肺は嬌藏であり、火剋金の賊邪パターンも考えられる肺臓への病伝は大いに防ぐべきであるからです。
前段では下法について論述していただけに、今段では中焦を守ることで上焦肺を養う(五行的には培土生金ともいえる)治療戦略を説く段であると読み取ります。
鍼道五経会 足立繁久
■原文
再論三焦不得従外解、必致成裏結。裏結于何?在陽明胃與腸也。亦須用下法、不可以氣血之分、就不可下也。但傷寒熱邪在裏、劫爍津液、下之宜猛、此多湿邪内搏、下之宜軽。
傷寒大便溏為邪已尽、不可再下。湿温病大便溏為邪未尽、必大便硬、慎不可再攻也。以屎燥為無湿矣。
再人之体、脘在腹上、其地位処于中、按之痛、或自痛、或痞脹、當用苦泄、以其入腹近也。必験之于舌、或黄或濁、可與小陥胸湯、或瀉心湯、随症治之。
若白不燥、或黄白相兼、或灰白不渇、慎不可乱投苦泄、其中有外邪未解裏先結者、或邪鬱未伸、或素属中冷者、雖有脘中痞痛、宜従開泄、宣通氣滞、以達帰于肺、如近俗之杏、蔲、橘、桔等、軽苦微辛、具流動之品可耳。