葉天士の『幼科要略』その16 疳について

これまでのあらすじ

前回は小児に起こりやすいとされる驚風(ひきつけ・痙攣)について、今回も同じく小児科ではおなじみ疳症についてです。
疳については『その5 疳・口疳について』でも簡単に触れました。小児はりでは「疳の虫(かんのむし)」という症状名(俗名)を目にすることが多いですが、この「疳の虫」と小児医書でみる「疳」とは全く異なります。
この点は注意を要します。では本文を読んでいきましょう。

以下に書き下し文(黄色枠)と原文(青枠)を記載します。
『幼科要略』は『温熱湿熱集論』福建科学技術出版社および『葉天士医学全書』山西科学技術出版社を参考および引用しています。
書き下し文に訂正箇所は多々あるでしょうがご容赦ください。現代語訳には各自の世界観にて行ってください。

書き下し文・疳

稚年(幼児)には五疳あり、猶(なお)大方はこれ五勞の如し。方書には五藏の分が有ると雖も、是の症、夏令に多しと為す、固(もと)より脾胃に従う。
蓋し小児は乳食雑(まじ)えて進みて、運化及ばず。初めて断乳した後は、果腥雑えて進む。氣は傷れ滞聚し、熱を致して裏に蒸して、肌肉消痩し、腹大肢細す、名を丁奚と曰う。
或いは善く食べ、或いは食を嗜まず、或いは渇して飲むこと度無し、或いは便瀉して白色、久延して已まず、多くは凶危を致す。
宜しく生冷腥肥凝滞を食することを忌む。

治法、初めは清熱和中分利を用い、次なるは則ち疏補佐運。
常に継病有りて、之を治して効無し、妊婦産過して自愈する者を待つ(※)。
夏季の霍乱吐瀉には、藿香正氣散を通用す。
水瀉には宜しく分利すべし、四苓散。寒には姜桂(乾姜肉桂か)を加え、熱には黄芩黄連を用う。
腹痛には宜しく疏氣、調氣すべし、木香青皮を用う。
有滞には炒山楂肉、厚朴を加え、重なるときは則ち萊菔子檳榔を加う。
腹痛して熱有るは、黄芩芍薬枳実を用い、寒有るときは則ち草果砂仁呉茱萸を用う。
吐瀉後、能く食し便は反て秘結する者は愈える、食すること能わず神祛し色萎なる者は、慢驚を防ぐ、治法は調中温中なり。
若し餘熱煩渇有れば、甘寒或いは甘酸にて津液を救う。故に木瓜の酸、制暑を通用要薬とす。

※「常有継病、治之無効、待妊婦産過自愈者」此の文義は通ぜず、疑らくは錯文か。周本に注を加えて曰く「継」を亦た「魅」に作す、或いは参考すべきか…。

疳の原因となるのは、やはり…

疳の症状は「肚膨(腹満腹脹)し、泄瀉し易く、頭熱、手足心熱、形体は日に痩せ、或いは煩渇し善く食し、漸に五疳積聚を成す。」といった症状です。(「その5  疳・口疳」を参照のこと)
虚弱体質児のようなコンディションをイメージすると分かりやすいのではないでしょうか。虚弱体質ともいえる疳は脾胃虚損を病因とします。これもまたイメージしやすいですね。

本章では「小児がなぜ脾胃を損ないやすいのか?」を丁寧に説明してくれています。
『その5  疳・口疳について』では「夏熱暑熱のせいで起こる脾胃虚」の病理が提示されていました。
本論「その16 疳」では「小児だから起こってしまう脾胃虚」について説明されています。
シンプルな文章ですが、治療にも小児養生指導にも活用できる実践的な指南書だと思える内容です。

ちなみに前回と今回は内容として連続している、もしくは対になっています。
前回『驚』では小児ならではの木風症を説き、今回『疳』は小児ならでは脾胃虚の経緯を説く…と、このような意図を感じながら読むと良いのではないでしょうか。

鍼道五経会 足立繁久

■原文 疳

稚年五疳、猶大方之五勞。雖方書有五藏之分、是症夏令為多、固従脾胃。
蓋小兒乳食雑進、運化不及、初断乳後、果腥雑進、氣傷滞聚、致熱蒸于裏、肌肉消痩、腹大肢細、名曰丁奚。
或善食、或不嗜食、或渇飲無度、或便瀉白色。久延不已、多致凶危。
宜忌食生冷腥肥凝滞。治法、初用清熱和中分利、次則疏補佐運。
常有継病、治之無効、待妊婦産過自愈者(※)。
夏季霍乱吐瀉、通用藿香正氣散。
水瀉宜分利、四苓散。寒加姜桂、熱用芩連。
腹痛宜疏氣、調氣、用木香青皮。有滞加炒楂肉厚朴、重則加萊菔子檳榔。
腹痛有熱、用芩芍枳実、有寒則用草果砂仁呉萸。
吐瀉後、能食便反秘結者愈、不能食神祛色萎者、防慢驚、治法調中温中。
若有餘熱煩渇、甘寒或甘酸救津、故木瓜之酸、制暑通用要薬。

※「常有継病、治之無効、待妊婦産過自愈者」此文義不通、疑錯文。周本加注曰「継」亦作「魅」、或可参。

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