湯本求真の処方の変化から学ぶこと

湯本求真 先生のことば

湯本求真先生の処方に関して、名著出版の『近世医学書集成10 吉益東洞集』の解題(大塚敬節先生による)の中に次のような逸話が記載されていました。

「吉益東洞の晩年と湯本求真先生の晩年」
湯本求真先生は「僕が死に臨んださいには、死ぬまで、大黄、芒硝、石膏等で死ぬまでどんどん攻めてくれたまえ。いくら攻めてもよいから、遠慮なく攻撃剤を用いてくれたまえ」。先生は私にこのように云って、生ぬるい治療や温補の剤を決して用いてはならぬぞと再三にわたって、私に注意された。
先生が福島県からの往診の帰途に、半身不随になったとき、附子剤を用いるように進言した時、「僕は徹頭徹尾の実証だから攻める以外にないのだ」と云われた。
先生は平素に、大黄、芒硝を一〇g、二〇gの大量に三黄瀉心湯、石膏二〇〇gというような薬方を持薬として用いられた。
吉益東洞が半身不随になったとき、梅肉散で攻める一方で、さっさと治してしまって、弟子達にどんなものだと云って、みせしめにしたという話とよく似ている。
このような厳しい治療をしていた東洞も「東洞先生配剤證録」を一覧すれば気付くであろうように、晩年には穏当な薬方を頻繁に用い、激しいものを用いることを減じている。
あの豪傑医とよばれた東洞のような人も、晩年は穏当な治療に移ったように、湯本求真先生も晩年になると、大建中湯のような温補剤を大柴胡湯に合方して、しきりに用いている。例えば東京大学の名誉教授朝比奈泰彦先生の胆石には、大柴胡湯に大建中湯を処方せられた。」
原文まま(「復古の旗幟をひるがえして医学を革新せんとした吉益東洞」 大塚敬節 著より)

※写真は名著出版『近世医学書集成10 吉益東洞集』の解題より引用

この逸話から学ぶことは2つある

ひとつは「治療者の素体(体質)が治療スタイルに少なからず影響する」ということ。
もうひとつ「年代によって適する治法が異なる」ということです。

後者の「年代により適する治法は異なる」は、当会講座の「生老病死」にも通ずるものがあります。が、まずはひとつめから…

術者の体質が治療スタイルに影響する

これは鍼灸師はイメージしやすいのではないでしょうか?
虚の傾向が強い人(敏感な体質の人)は、繊細な鍼を好みますし、人(患者さん)に鍼する際にも、きつい鍼を好みません。というよりも、きつい鍼をすることに不安を感じることが多いです。
反対に実証傾向の人は、比較的 強い鍼・強い刺激を施すことに恐怖や不安を感じることは少ないです。
(もちろん、私の今までの印象に基づいた話ですので、当てはまらない人もいるかとは思いますが。)

とはいえ、豪傑医と呼ばれた吉益東洞先生の体質もやはり湯本求真先生に似ていて、攻撃の剤が適した実証であったのではないでしょうか。
文中にある梅肉散という方剤も、軽粉・巴豆・梅肉・山梔子が使われており、攻撃剤に類する方剤であります。
と、このように各医家が好む治法から、各々先人の体質を類推するというのも興味深いことだと思います。

吉益東洞は万病一毒説を提唱しました。全ての病は体内に居座る毒(邪)を起点に生じる現象であると思います。しかし、その毒(邪)を排除するためには、強い力=激しい作用が必要となります。当然ながら、それに耐えられる体力(正気の充実)が絶対条件となります。この条件を満たしす医家は毒(邪)を排除しようとするでしょう。しかし、その条件を満たしていない(つまりは虚傾向の人)は、毒(邪)を排除するためにも正気を補おうとするでしょう。この違いが各家の違いの一つの要因としてあったのでは?・・・と、考えが膨らみます。

そして もうひとつ…

年代によって治法が変わる

ひとつめの治療者の体質が治療スタイルに影響することにもつながることなのですが、術者の年代・経験によっても治法が変わりますし、患者さんの年代によって選択すべき治療が変わります。

当然と言えば当然のことなのですが、患者さんの年代によって体質は変わります。この人は陽実証だから・・・と言って、死ぬまで陽実証ということはありません。(もちろん、その人の宿として持っている証はあります。その宿を見据えながら、本証を見分ける診断が必要となります。)

年代別で大きく比較すると、幼少期の体質は陽実傾向にあり、高齢の方には陰虚陽虚にして実が隠れ潜む体質であることが多いです。

もちろん、これを細かいステージでみると、産前産後の体質・証、月経前後の証…はたまた、発熱の前後の証にも違いがあります。
当然のことながら、治療方針もこれにしたがって変えないといけません。

診断には“大きな時間軸(長い時間軸)”と“細かい時間軸(短い時間軸)”の2つの視点で情報を整理しないといけないということですね。これを宇津木昆台先生の八条目でいうと、宿と本ということになるかと考えます。

この辺りの年代によって選択する証が変わり、治法も自ずとそれに従う…ということは講座「生老病死を学ぶ」でも学んでいくテーマでもあります。

鍼道五経会 足立 繁久

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