『奇経八脈攷』の脈診法 気口九道の脈

『奇経八脈攷』気口九道の脈のみどころ

『奇経八脈攷』の末には脈診法が記されています。この脈診法はかなり特殊で、本文では(ほぼ?)失伝した脈法と記されています。現代でもこの脈診法を使う鍼灸師はかなり少数派でしょうし、この脈法を指導している団体は数えるほどではないでしょうか。

2018年日本伝統鍼灸学会ではシンポジウム「気口九道を語る」が開かれ、2日にわたり学術発表と治療実技が行われました。その際に登壇した団体が、座長 利川先生の【漢方苞徳之会】、鹿島先生の所属される【中華伝承医学会】、そして当会 【鍼道五経会】となります。(懐かしい…)また私が気口九道脈診を学んだのは馬場先生のもとでしたので和魂漢才鍼灸でも現在も気口九道脈診を指導しているのではないでしょうか。

学会・シンポジウムでもこの気口九道脈診の特性を発表しましたが、『奇経八脈攷』本文をザっと通覧するだけでも、気口九道脈診の特殊性がお分かりになるだろうと思います。では「氣口九道の脈」を読みすすめてみましょう。

※『本草綱目』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

奇経八脈攷 氣口九道脈診

書き下し文・氣口九道の脈

手検図に曰く、肺は五臓の華蓋と為す、上は以て天に応じ、萬物を解理し、精氣を行らすを主り、五行に法り、四時に応じ、五味を知る。
氣口の中に陰陽交会す、中に五部有り。前後と左右、各々に主る所有り、上下中央に分かちて九道と為す。
之を診るときは則ち病邪の所在を知る也①

李瀕湖が曰く、氣口の一脈は分ちて九道と為し、十二経并びに奇経八脈を総統して各々診法を出す。。
乃ち岐伯が黄帝に秘授する訣也。
扁鵲は之を推し、独り寸口を取りて以て死生を決す。
蓋し氣口は百脈流注朝会の始め為(た)る故也②
三部伝わると雖も、而して九道は淪隠す。故に奇経の脈、世に人の知ること無し。今撰して図を為し、并びに其の説を後に附し、以て泄千古の秘蔵を泄すと云う。

診左手九道圖


※手検図 『本草綱目』収録 京都大学付属図書館より引用させていただきました。

岐伯曰く、前部外の如き者は、足の太陽膀胱也。
動(ややもすれば)、目眩し、頭項腰背の強ばり痛むを苦しむ。男子は陰下湿癢し、女子は少腹痛 命門に引く、陰中痛み、子臓閉じ、月水は利せず。
浮(脈)は風と為し③、濇は寒と為し、滑は労熱と為し、緊は宿食と為す。

中部外の如き者は、足の陽明胃也。
動すれば頭痛、面赤に苦しむ。
滑は飲と為し、浮は大便不利と為し、濇は嗜臥、腸鳴、不能食、足脛痺を為す。

後部の外の如き者は、足少陽(※胆の字無し)也。
動すれば、腰背胻股肢節の痛みに苦しむ。
浮は氣と為し、濇は風と為し③、急は転筋を為し労と為す。

前部の内なる如き者は、足の厥陰肝也。
動(ややもすれば)、少腹痛の腰に引き、大便不利に苦しむ。男子は莖中痛み、小便難く、疝氣、両丸上入す。女子は月水利せず、陰中寒え、子戸閉じ、少腹急する。

中部の内なる如き者は、足の太陰脾也。
動すれば苦腹満し、胃中痛み、上管に寒有り、食は下せず、腰上の状は水中に居るが如きに苦しむ。
沈濇は身重く、足脛寒え痛み、煩満して臥すること能わず、時に欬唾有血し、洩利、食化せざるを為す。

後部の内なる如き者は、足の少陰腎也。
動すれば少腹痛み、心と相い引き、背痛み、小便淋に苦しむ。女人は月水来り、上りて心を搶く、胸脇満ち、股裏拘急す。

前部の中央直なる者は、手の少陰心、手の太陽大腸也。(※表記では大腸となっているが、手太陽とあるため小腸である)
動(ややもすれば)心下堅痛し、腹脇痛に苦しむ。
実急する者は感忤を為し、虚なる者は下利、腸鳴を為し、女子は陰中癢痛す、滑なるは有娠と為す。

中部の中央直中する者、手の厥陰心主也。(※中央のみ直者ではなく直中者として表記される)
動すれば心痛、面赤、多く喜怒し、食すれば咽び苦しむに苦しむ。
微浮なれば悲傷 恍惚に苦しむ。濇は心下寒を為し、沈は恐怖を為し、人将に之を捕えんとするの状の如し、時に寒熱して血氣有り。

後部の中央直なる者は、手の太陰肺、手の陽明大腸也。
動すれば欬逆、氣 息することを得ざるを苦しむ。
浮は風と為し、沈は熱と為す、緊は胸中積熱を為し、濇は時に欬血を為す。

以上、ここまでが気口九道脈診の正経の病脈を記す文です、ここで一端区切りましょう。

脈位は病位

気口九道脈診の特徴は、脈の区分・セクションが圧倒的に多いことです。通常?多くの場合、(広義の)寸口脈を分けて、寸関尺の浮中沈で3×3の9区分です。また菽法の脈診でも5区分です。
気口九道脈診では「前後左右…上下中央分為九道」とあるように、寸関尺と内中外の9区分、そして浮沈の明示こそありませんが、文意からみて浮沈は使われていますので、浮沈を入れて18区分となります。(当会では27区分として講義はしていますが)

つまり脈位を細分化することに特化した脈診法と言えます。
では何のために脈位を区分するのでしょうか?本文には以下の言葉が続きます。
「診之則知病邪所在也」
病邪の所在を知るため、これが気口九道脈診の区分特化の理由であり最大の長所でもあります。
シンポジウムでも発表しましたが、気口九道脈診は経脈の異常を診る脈法です。経脈の病だけを脈で判定する脈診法はかなりレアです。

そして脈位はすなわち病位です。病位が詳細に分かるということは、治療に移るまでの過程がかなりスムーズになります。
もちろん、病は経脈だけではないので、治療すべきは腑か臓かをしっかりと診断する必要はあります。

寸口脈だけで全身をみるという特殊性

下線部②とその前後の文
「扁鵲はこれを推し、独り寸口を取りて以て死生を決す。蓋し氣口は百脈流注朝会の始めたる故也。三部伝わると雖も、而して九道は淪隠す。」

扁鵲(秦越人)以前は、広義の寸口脈のみで脈診を行うことは王道ではなかったようです。身体の各部位の脈を診る『素問』の三部九候脈診がその例ですね。
しかし扁鵲は広義の寸口脈に焦点を当て、さらに細分化して診る脈法論を展開しました。五難の菽法脈診や十八難の三部九候脈診、五行連環脈診などは有名です。簡単にいうと、広義の寸口(氣口)脈のみで全身を診るというコンパクト化された診法を提唱したわけです。

下線部②は小を以て大を診る、個で以て全を診るという扁鵲の技術革新に、寸口のみで全身、すなわち十二正経と奇経八脈を診るという気口九道脈診を重ねていると思われる文です。

各々主る所あり

手検図(写真)以下は各論ですね。

細かな点にはなりますが、下線部③ 太陽経部の浮脈は風(邪)でしたが、同じ風(邪)でも少陽経においては濇脈として現われるようです。これは記述だけでみると【脈状=病態・病症】ではないという例でもあります。表現を変えますと、同じ病邪でも病位によって病症は異なると解釈することも可能でしょう。

脈の内側(内なる如きの者)は足三陰経脈の異常を表わします。この足三陰経の記載では、脈状にあまり触れられていません。
と同時に、外邪侵入の設定が記されていないことにも注目すべきでしょう。


※手検図 『本草綱目』収録 京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

世にも珍しい奇経病を診る脈診

書き下し文・奇経脈診

前部、寸口に於いて横りて丸丸たる者は、任脈也。
動すれば少腹痛み、逆氣して心胸を搶き、拘急して俯仰すること得ざるを苦しむ。
脈経に云う、寸口の脈、緊細実長の下りて関に至る者は、任脈なり。
動すれば少腹 臍に繞いて痛むを苦しむ。
男子は七疝、女子は瘕聚す。(※瘕聚は癥積ではないことに留意)

三部倶に浮、直上直下なる者、督脈なり。
動すれば苦腰脊強痛し、俯仰すること得ざるを苦しむ。
大人は癲、小兒は癇。

三部倶に牢、直上直下なる者は、衝脈なり。
動すれば胸中に寒疝有ることを苦しむ。
脈経に曰く、脈の来たること中央堅実にして、径(ただち)に関に至る者は、衝脈なり。
動すれば少腹痛み、上りて心を搶く、瘕疝、遺溺有るを苦しむ。女子は絶孕す。

前部の左右弾する者は、陽蹻なり。
動すれば腰背痛み、癲癇、僵仆、羊鳴、偏枯、𤸷痺、身体強ばるを苦しむ。

中部の左右弾する者は、帯脈なり。
動すれば少腹の痛み命門に引くを苦しむ。
女子は月事来らずして、絶えて継ぎて復た下る、人をして子無さしむる。男子は少腹拘急す、或は失精す也。

後部の左右に弾する者は、陰蹻なり。
動すれば癲癇、寒熱、皮膚強痺、少腹痛み、裏急し、腰胯相い連て痛むことを苦しむ。男子は陰疝、女子は漏下して止まず。

少陰より斜めに太陽に至る者は、陽維なり。
動すれば顚仆、羊鳴、手足相引き、甚しき者は、失音して言うこと能わず、肌肉痺癢するを苦しむ。

少陽より斜めに厥陰に至る者は、陰維なり。
動すれば癲癇、僵仆、羊鳴、失音、肌肉痺癢、汗出悪風するを苦しむ。

古典上、奇経の異常を捕捉する診法はかなり稀有であると思います。

そもそも奇経八脈の特性と病症を専門的に収集した書というのも、本書『奇経八脈攷』以外にはあまり例を見ないのではないかと思います。
もちろん、奇経八脈の基本情報は各鍼灸書に記載されています。その上でもう一度いいます、奇経の病を診断する方法として、この奇経脈診を含む気口九道脈診はかなり貴重な脈診法であると言えるでしょう。

奇経八脈、そして正経十一脈を診るという点で、まさに経脈に特化した脈診法であるといえるでしょう。

ちなみに、本文には『脈経』(王叔和 著)に記載されている奇経病脈も一部 附されています。衝脈と任脈の病脈がこれに当たります。この病脈も任脈・衝脈の特性を理解すると大いに有りではないかと個人的には思います。

鍼道五経会 足立繁久

帯脈 ≪ 氣口九道の脈

原文 霊枢 氣口九道脉

■原文 氣口九道脉

手検圖曰、肺為五藏華蓋、上以應天、解理萬物、主行精氣、法五行、應四時、知五味。
氣口之中、陰陽交會、中有五部。前後左右、各有所主、上下中央分為九道。
診之則知病邪所在也。

李瀕湖曰、氣口一脉、分為九道、總統十二経并奇経八脉。各出診法、乃岐伯秘授黄帝之訣也。
扁鵲推之、獨取寸口以決死生。蓋氣口為百脉流注朝會之始故也。
三部雖傳、而九道淪隠、故奇経之脉、世無人知。今撰為圖、并附其説於後。以泄千古之秘蔵云。

診左手九道圖

(手検圖)

岐伯曰、前部如外者、足太陽膀胱也。
動苦目眩、頭項腰背強痛、男子陰下湿癢、女子少腹痛引命門、陰中痛、子臓閉、月水不利。
浮為風、濇為寒、滑為勞熱、緊為宿食。

中部如外者、足陽明胃也。
動苦頭痛、面赤。
滑為飲、浮為大便不利、濇為嗜臥、腸鳴、不能食、足脛痺。

後部如外者、足少陽也。
動苦腰背胻股肢節痛。
浮為氣、濇為風、急為轉筋為勞。

前部如内者、足厥陰肝也。
動苦少腹痛引腰、大便不利、男子莖中痛、小便難、疝氣、両丸上入。女子月水不利、陰中寒、子戸閉、少腹急。

中部如内者、足太陰脾也。
動苦腹満、胃中痛、上管有寒、食不下、腰上状如居水中。
沈濇為身重、足脛寒痛、煩満不能臥、時欬唾有血、洩利、食不化。

後部如内者、足少陰腎也。
動苦少腹痛、與心相引、背痛、小便淋。女人月水来、上搶心、胸脇満、股裏拘急。

前部中央直者、手少陰心手太陽大腸也。
動苦心下堅痛、腹脇痛。
實急者、為感忤。虚者、為下利、腸鳴、女子陰中癢痛。滑為有娠。

中部中央直中者、手厥陰心主也。
動苦心痛、面赤、多喜怒、食苦咽。
微浮、苦悲傷 恍惚。濇為心下寒。沈為恐怖如人将捕之状、時寒熱有血氣。

後部中央直者、手太陰肺手陽明大腸也。
動苦欬逆氣不得息。
浮為風、沈為熱、緊為胸中積熱、濇為時欬血。

前部横於寸口丸丸者、任脉也。
動苦少腹痛、逆氣搶心胸、拘急不得俯仰。
脉経云、寸口脉緊細實長、下至関者、任脉也。
動苦少腹繞臍痛、男子七疝、女子瘕聚。

三部倶浮、直上直下者、督脉也。
動苦腰脊強痛、不得俯仰、大人癲、小兒癇。

三部倶牢、直上直下者、衝脉也。
動苦胸中有寒疝。
脉経曰、脉来中央堅實、径至関者、衝脉也。
動苦少腹痛、上搶心、有瘕疝、遺溺、女子絶孕。

前部左右弾者、陽蹻也。
動苦腰背痛、癲癇、僵仆、羊鳴、偏枯、𤸷痺、身体強。

中部左右弾者、帯脉也。
動苦少腹痛引命門、女子月事不来、絶継復下、令人無子、男子少腹拘急、或失精也。

後部左右弾者、陰蹻也。
動苦癲癇、寒熱、皮膚強痺、少腹痛、裏急、腰胯相連痛、男子陰疝、女子漏下不止。

従少陰斜至太陽者、陽維也。
動苦顚仆、羊鳴、手足相引、甚者、失音不能言、肌肉痺癢。
従少陽斜至厥陰者、陰維也。
動苦癲癇、僵仆、羊鳴、失音、肌肉痺癢、汗出悪風。

 

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