李時珍の『奇経八脈攷』総説と八脈

何度も奇経八脈攷を読むのはナゼ?

これまで『難経』における奇経、『十四経発揮』(元代 滑伯仁)、『奇経八脈詳解(経穴密語集)』(江戸期 岡本一抱)と奇経の情報を集めて考察してきました。
『これだけ読めば、奇経については十分じゃない?』と思う人もいるでしょう。

しかし実際に各書を読むほどに、奇経八脈の本来の姿・主旨について触れられている書は少ないように感じました。
特に『奇経八脈詳解』(岡本一抱氏 著)は『奇経八脈攷』を下敷きにしているようでいて、ある側面は全く欠いている内容とも思えます。もちろん『奇経八脈詳解』は医学面に於いて欠けている点は少ないと思います。
では何が欠けていたのか?本質的に奇経を理解するには何が足りないのか?この点について理解を深めたいと思います。そこで!満を持しての李時珍『奇経八脈攷』(明代)です。しばらくは『奇経八脈攷』のシリーズ記事を続けていこうと思います。


※『奇経八脈攷』(『重刊本草綱目』内に収録)京都大学付属図書館より引用させていただきました
※下記の黄色枠部分が『奇経八脈攷』の書き下し文、記事末青枠内に原文を引用しています。

奇経八脈攷
蘄人 瀕湖李時珍 撰輯

書き下し文・奇経八脈總説

凡そ人の一身に経脈絡脈有り。直行するを経と曰い、旁支を絡と曰う。
経に凡そ十二、手の三陰三陽、足の三陰三陽是(これ)也。絡に凡そ十五、乃ち十二経に各々一つ別絡有り、而して脾に又一つの大絡有り、并びに任督の二絡にて十五と為す也。(難経には陽絡陰絡と為す)
共に二十七氣、相い随い上下して、泉の流れの如く、日月の行の如く、休息することを得ず。
故に陰脈は五藏を營し、陽脈は六府を營する。陰陽相い貫き、環の端の無きが如し、其の紀を知ること莫し、終りて復た始まる。
其の流溢の氣は、奇経に入りて、轉じて相い灌漑し、内は藏府を温め、外は腠理を濡す。
奇経は凡そ八脈あり、十二正経に於いて拘制せず、表裏の配合無し、故に之(これ)を奇と謂う。
蓋し正経は猶(なお)夫れ溝渠の如く、奇経は猶(なお)夫れ湖澤の如し。
正経の脈隆盛なるときは、則ち奇経に溢れる。故に秦越人これに比して、天雨降下し、溝渠溢満、霶霈妄行して、湖澤に流れる。此れ霊素の未だ発せずの秘旨を発する也。
八脈(について)群書に散在する者は、略して悉せず。醫は此れを知らずして、病機を罔探す。仙は此れを知らずして、炉鼎を安ずること難し。
時珍不敏にして、諸説を参考し、左(下記)に萃集し、以って仙醫を学ぶ者に備えて筌蹄の用を云う。

書き下し文・八脈

奇経八脈なる者、陰維也陽維也、陰蹻也陽蹻也、衝也任也督也帯也。
陽維は諸陽の会に起き、外踝由り而して衛分に上行す。
陰維は諸陰の交に起き、内踝由り而して營分に上行す。
一身の綱維為(た)る所以也。
陽蹻は跟中に起き、外踝を循りて身の左右に上行す。
陰蹻は跟中に起き、内踝を循りて身の左右に上行す。
機関の蹻捷を使しむる所以也。
督脈は会陰に起こり、背を循り而して身の後を行く、陽脈の總督と為す。
故に陽脈の海と曰う。
任脈は会陰に起こり、腹を循り而して身の前を行く、陰脈の承任と為す。
故に陰脈の海と曰う。
衝脈は会陰に起こり、臍を夾み而して行く、直に上に於いて衝く、諸脈の衝要と為す。
故に十二経の海と曰う。
帯脉は則ち腰を横囲す、状は束帯の如し。諸脈を總約する者たる所以也。
是故に陽維は一身の表を主り、陰維は一身の裏を主る。以って乾坤を言う也。
陽蹻は一身左右の陽を主り、陰蹻は一身左右の陰を主る、以って東西を言う也。
督は身後の陽を主り、任衝は身前の陰を主る、以って南北を言う也。
帯脈は横に諸脈を束ねる、以って六合を言う也。
是故に醫して而して八脈を知るときは、則ち虎龍升降し、玄牝幽微の竅妙を得る矣。

奇経の本質とは

上記にも書きましたが「岡本氏の『奇経八脈詳解』はその名の通り『奇経八脉攷』を正確に詳解しているのか?」と思うようになりました。
実際に『奇経八脈攷』と『奇経八脈詳解(経穴密語集)』とを比較するとやはりボカシている感じを受けるような受けないような…。
上記文章に相当するのがコチラ『奇経八脈詳解・その1』『奇経八脈詳解・その2』。それぞれ本記事の「総説」と「八脈」に当たる内容です。
比較しながら読むと分かりますが、ほぼ同文であります。

前半部の「総説」の末文「八脈について群書に散在するが、省略して詳しくない…」という文以下、「医師は奇経の本質を知らないため、盲目的な診断となり、仙道道士は奇経の真意を知らないため、炉鼎を安定させることが困難となる。」この内容が『奇経八脈詳解』では「云々」との一言でカットされています。

鍼道五経会 足立繁久

奇経八脉攷
蘄人 瀕湖李時珍 撰輯

■原文 奇経八脉總説

凡人一身有経脉絡脉。直行曰経、旁支曰絡。
経凡十二、手之三陰三陽、足之三陰三陽是也。絡凡十五、乃十二経各有一別絡、而脾又有一大絡、并任督二絡為十五也。(難経作陽絡陰絡)
共二十七氣、相随上下、如泉之流、如日月之行、不得休息。
故陰脉營於五藏、陽脉營於六府、陰陽相貫、如環無端、莫知其紀、終而復始。
其流溢之氣、入於奇経、轉相灌漑、内温藏府、外濡腠理。
奇経凡八脉、不拘制於十二正経、無表裏配合、故謂之奇。
蓋正経猶夫溝渠、奇経猶夫湖澤。
正経之脉隆盛、則溢於奇経。故秦越人比之、天雨降下、溝渠溢満、霶霈妄行、流於湖澤。此発霊素未発之秘旨也。
八脉散在群書者、略而不悉。醫不知此、罔探病機。仙不知此、難安炉鼎。
時珍不敏、参考諸説、萃集於左、以備学仙醫者筌蹄之用云。

■原文 八脉

奇経八脉者、陰維也陽維也、陰蹻也陽蹻也、衝也任也督也帯也。
陽維起於諸陽之會、由外踝而上行於衛分、陰維起於諸陰之交、由内踝而上行於營分。
所以為一身之綱維也。
陽蹻起於跟中、循外踝上行於身之左右。陰蹻起於跟中、循内踝上行於身之左右。
所以使機関之蹻捷也。
督脉起於会陰、循背而行於身之後、為陽脉之總督。
故曰陽脉之海。
任脉起於会陰、循腹而行於身之前、為陰脉之承任。
故曰陰脉之海。
衝脉起於会陰、夾臍而行、直衝於上、為諸脉之衝要。
故曰十二経之海。
帯脉則横圍(囲)於腰、状如束帯。
所以總約諸脉者也。

是故陽維主一身之表、陰維主一身之裏。以乾坤言也。
陽蹻主一身左右之陽、陰蹻主一身左右之陰、以東西言也。
督主身後之陽、任衝主身前之陰、以南北言也。
帯脉横束諸脉、以六合言也。

是故醫而知乎八脉、則虎龍升降、玄牝幽微之竅妙得矣。

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