第44章 大便【瘟疫論】より

これまでのあらすじ

前回までは薬理論がテーマでした。

本章は大便が主役です。
二便のうち大便の情報は、陽明腑の状態を知るためにも必須のテーマです。
熱結傍流、協熱下利、大便秘結、大腸膠閉といった症状・症候について詳しく学びます。

(写真・文章ともに四庫醫學叢書『瘟疫論』上海古籍出版社 より引用させていただきました。)

第44章 大便

大便

熱結傍流、協熱下利、大便秘結、大腸膠閉、これを総べるに、邪、裏に在り。それらの証、同じからざる者も、通塞の間に在るのみ乎。

協熱下利とは、その人 大便 素より調わず、邪氣忽ち胃に乗じて、便ち煩渇を作す。
一に平時に稀糞を泄瀉して色敗せず、その色但焦黄のみ。
これ伏邪、裏に傳て、胃に稽留するに、午後に至りて潮熱し、便ち泄瀉を作す。
子の後、熱退き、泄瀉も亦た減じ、次日に潮熱を作さず、利も亦 止み、病愈ると為す。
潮熱、未だ除かれず、利止まざる者は、小承気湯に宜し。以てその餘邪を徹して、利自ずと止む。
利止みて二三日の後、午後忽ち煩渇、潮熱、下泄を加え、仍お前證の如くなるは、これ伏邪、未だ盡きず、復た轉じて胃に到る也。治法は前に同じ。

大便秘結なるは、疫邪 裏に傳えて、内熱壅鬱し、宿糞行せず、蒸して結と為す。漸に黒硬に至る。これを下して結糞一たび行せば、瘀熱、自ずから除かれ諸證悉く去る。

熱結傍流なるは、胃家實し内熱壅閉するを以て、先ず大便秘結し、続けて下利、純臭水を得て全し、然れども糞無く、日に三四度、或いは十数度なるは、大承気湯に宜し。結糞を得て、利 立ちどころに止む。
湯を服して、結糞を得ず、仍お下利するは、純臭水并びに進むる所の湯液、大腸の邪勝ちてその傳送の職を失するに、邪 猶在るを知る也。
病、必ず減ぜず。宜しく更にこれを下すべし。

大腸膠閉なるは、その人、平素より大便實せず。
設し、疫邪 裏に傳えるに、但 蒸して極臭の物を作して、粘膠の如くして然り。
死に至りて結せず。
愈(いよいよ)蒸して、愈閉じる。
以て胃の氣の下行すること能わずに致り、
疫、路無くして出ること無く、下らざれば即ち死す。
但、粘膠一たび去ることを得れば、下證自ら除かれ、霍然として愈える。

瘟疫、愈て後、三五日 或いは数日、反て腹痛、裏急する者は、前の病原に非ざる也。
これ下焦、別に伏邪有りて発する所、滞下(痢疾)より作さんと欲する也。
氣分に於いて発するときは則ち、白積と為し、
血分に於いて発するときは則ち、紅積と為す。
氣血倶に病むときは、紅白相い兼ぬ。
邪 盡きて、利 止む。未だ止まざる者は、芍薬湯に宜し。(芍薬湯方は前(戦汗の章)に見る)
愈えて後、大便数日行せず、別に他證無し、これ足の三陰不足す。以て、大腸虚燥を致す。
これ攻むべからず。
飲食、漸に加わり、津液流通して、自ずから能く潤下する也。
穀道夯悶することを覚えば、宜しく蜜煎導を作すべし。
甚しきときは則ち六成湯に宜し。
病愈えて後、脉遅細而弱、黎明或いは夜半の後に至る毎に、便 泄瀉を作するは、これ命門眞陽の不足す。
七成湯に宜し。
亦、雑證 實に属する者有れば、宜しく大黄丸に之を下すべし。立ちどころに愈ゆ。(この證、萬中に一のみ)

六成湯・・・當歸(一銭五分)、白芍薬(一銭)、地黄(五銭)、天門冬(一銭)、肉蓯蓉(三銭)、麦門冬(一銭)
常を照らして煎服す。
日後、更に燥する者は、六味丸から少し澤瀉を減じて宜し。

七成湯・・・破故紙(炒香搥碎 三銭)、熟附子(一銭)、遼五味(八分)、白茯苓(一銭)、人参(一銭)、甘草(炙五分)
常を照らして煎服す。
愈えて後、更に発する者は八味丸に附子を倍加するに宜し。

今回は大便というテーマ。
大便の情報を知ることは、陽明腑のコンディションを知る上で非常に重要です。

協熱下利という言葉はこれまで何度か登場しました。『傷寒論』でも協熱下利はしばしば登場します。
『瘟疫論』本章でいう協熱下利と『傷寒論』でいう協熱下利の病理を比較して理解しておくと良いと思います。

熱結傍流は熱結膀胱ではありません。腸胃に熱邪が結ぼれて大便秘結してしまうのですが、便と秘別された水だけが排出されます。
しかし下痢ではないので、純臭水と表現されています。秘結された便は邪熱とともに腸胃に居ますので承気湯にて攻下せよとあるのです。

他の大便秘結、大腸膠閉といった症候も読めば分かると思います。

六成湯、七成湯の方剤構成が書かれていますが、構成生薬からその方意を考察すると良いでしょう。

第43章【妄投寒涼薬論】≪ 第44章【大便】≫ 第45章【小便】

鍼道五経会 足立繁久

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