第45章 小便【瘟疫論】より

これまでのあらすじ

前章は大便がテーマでした。腸胃に実熱の邪が蓄積することで、前章記載の諸症状が見られます。注意を要するのは、下痢とみて安易に補法を選択しないことです。

特に陽明腑に本位を置く急性熱病にはこの選択は致命的といっても過言ではないでしょう。

さて、今回は小便がテーマです。膀胱腑に熱が結ぼれるとどうなるか?これも勉強になる章です。

(写真・文章ともに四庫醫學叢書『瘟疫論』上海古籍出版社 より引用させていただきました。)

第45章 小便

小便

熱、膀胱に到れば、小便赤色なり。
邪、膀胱に到り、氣分を干せば、小便膠濁なり。血分を干せば、溺血、畜血する。
留邪、出んと欲すれば、小便数急なり。膀胱が約せざれば小便自遺す。
膀胱熱結すれば、小便閉塞する。
熱、膀胱に到る者とは、その邪 胃に在りて、胃熱 下焦を灼する、
膀胱に在りて、但、熱有りて、邪無ければ、惟だ小便をして赤色ならしめるのみ。
その治は胃に在り。

邪、膀胱に到る者は、乃ち疫邪、下焦に分布する。
膀胱 實にこれが邪有り、熱止まざる也。
胃家従(よ)り来たるは、治は胃に在り。兼ねて膀胱を治せよ。
若し純ら膀胱を治せば、胃の氣、勢いに乗じ、擁して膀胱に入りて、その治に非ざる也。
若し腸胃に邪無ければ、獨り小便急数、或いは白膏にして馬遺の如く。
その治、膀胱に在り、猪苓湯に宜し。

猪苓湯方・・・邪、氣分を干す者は之に宜し。
猪苓(二銭)、澤瀉(一銭)、滑石(五銭)、甘草(八分)、木通(一銭)、車前(二銭)
燈心煎服す。

桃仁湯方・・・邪、血分を干す者は之に宜し。
桃仁(三銭 研如泥)、丹皮(一銭)、當歸(一銭)、赤芍(一銭)、阿膠(二銭)、滑石(五銭)
常を照らして煎服す。
小腹痛、これを按じて硬痛し、小便自ら調うは、畜血有る也。大黄三銭を加える。
甚しきときは則ち抵當湯。薬を三等に分け、その病の軽重に隨いて治を施す。

これまでの章では、疫邪・熱邪が陽明腑に病伝するパターンが多く紹介されていました。

本章では、同じ腑ではあるものの、太陽膀胱の腑に邪が病伝したケースについて説かれています。

膀胱の腑なので、症状としては尿に異変が現れます。
・尿頻数、もしくは淋癃閉
・色黄赤、もしくは色白濁
・排尿時痛
・・・といった症状はイメージしやすいでしょう。

いわゆる急性膀胱炎の症状と共通項が多く、
言うまでもなく膀胱炎は急性であろうと、慢性であろうと、鍼灸で治療できる症状です。

しかし、そのためには詳細に診断できることが必須条件です。
ポイントはやはり病位です。

1つは気分にあるのか?血分にあるのか?
膀胱腑を対象としても、気分と血分に分けてみる必要があります。
当たり前ですが、気分と血分の違いで治療法が異なるからです。

もう1つ重要なのは、本当に病位は膀胱腑にあるのか?
陽明胃腑に本体があり、膀胱にその熱が波及することで、膀胱腑熱が現れているのか?を見極めなければいけません。

膀胱腑熱における気分と血分の鑑別は『傷寒論』においても指摘されていると思われます。併せて読むと勉強になります。

ちなみに猪苓湯ですが、本章で紹介されている猪苓湯は、傷寒論方とはその構成がやや異なります。

『傷寒論』陽明病編に記載されている猪苓湯方は次の通り。

猪苓湯方・・・猪苓(去皮)、茯苓、沢瀉、阿膠、滑石(碎 各一両)

『瘟疫論』猪苓湯方では、茯苓と阿膠を去って、甘草・木通・車前子を足しています。

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鍼道五経会 足立繁久

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