6月9日、第2日曜日は講座【医書五経を読む】の日ですが、
この日は「鍼灸師の遠足」ということで、第2回金匱植物同好会に参加してきました。
生薬探偵こと濱口昭宏先生にナビゲートしていただき初夏の奥河内を歩いてきました。
下写真はサワギク(薇銜)について説明される濱口先生
濱口先生のブログはコチラ「蒼流庵随想」
車を降りるやいなや始まった!
第2回の金匱植物同好会の参加メンバーは総勢12名。(内、一名は現地集合)
遠くは名古屋から参加された先生もおられました。
ちなみにこの名古屋から来られた先生は「伊吹山の主」の異名を持つこれまた薬草に詳しい専門家である(株)松浦薬業の加藤久幸先生。
加藤先生もまた伊吹山にて薬草見学会を定期的に主宰されているのだそうな。
今回の遠足では、2人の薬草博士の存在が心強かった!
南海高野線の千代田駅に集合し、そこから車3台に分乗し現地に向かいました。
途中いろいろあるも無事に全員合流。さて、現地合流メンバーを待つ間に自己紹介でも…
…と思いきや、すでに駐車場周りの植物をみて濱口先生が薬草解説を始めているじゃありませんか!
『こ、これはプロの仕事だ・・・』と驚かされました。
私の最初の獲物(採ったではなく撮った薬草)はゲンノショウコ。
登山口に入るなりたった数歩の地点で・・・
登山口に入るなり生薬探偵が立ち止まる。「これは・・・」とおもむろに手にして解説されたのがこの植物だった。
アオツヅラフジ(木防已)を発見!
ちょっとピンボケなので下にもう一枚。
上写真がアオツヅラフジ(木防已)
下写真がオオツヅラフジ(防已)
木防已と防已の写真提供 中川憲太 先生
この違いが分かるだろうか…。
虚者即癒。実者三日復発。
復與不癒者、宜木防已湯去石膏加茯苓芒硝湯主之。木防已湯方 木防已(三両)、石膏(十二枚鶏子大)、桂枝(二両)、人参(四両)東洋学術出版社『傷寒雑病論』(通称 赤本)より引用
防已は防已黄耆湯、防已茯苓湯、防已地黄湯などに使用されている生薬である。
余談ながら、一般的に知られている再春館製薬の痛散湯にも防已が使われている。
痛散湯は『金匱要略』痙湿暍病編にある麻黄杏仁薏苡甘草湯(麻杏薏甘湯)に防已を加えたものとのこと。
風湿に用いる麻杏薏甘湯に防已の活血止痛効果を加える狙いだったのだろうか…。
薬草の解説をされる生薬探偵 濱口先生
次々と薬草を見つけては解説される濱口先生。
普通ならスタスタ通り過ぎてしまう登山道がまさに宝の山だ。
これは秋海棠(シュウカイドウ)の葉っぱ、アシンメトリーな構造が面白い。
少し歩けばこのように秋海棠がいっぱい。
これはウワバミソウ(赤車使者)の葉っぱ。漢字名を耳にして皆口々に「セキシャ…」と唱えていましたね。
ウワバミソウは別名、ミズともいい「山菜の王様」的な存在とのことです(詳しくはコチラのサイト)。
ウワバミソウの群生
ミズヒキ(金線草)の写真。
ミズヒキの名はお祝いに用いられる水引から。ミズヒキは夏季に紅い花をつけるが、下からみると白くもみえ、紅白の水引に見立ててミズヒキの名になったとのこと。
また、葉には黒い斑があり、この模様からコウボウノフデフキ(弘法の筆拭き)という別の名も。
アオキ。写真右下に赤く色づきかけた実が生っている。
加藤先生「薬草的な効能はしられていないが、地域によっては陀羅尼助丸のツヤ出しに使われることがあるとか」
濱口先生「添加物ですね」
考えてみると、他の生薬の薬能を邪魔しない存在というのも興味深いものがあります。
ちなみに陀羅尼助丸は役行者(えんのぎょうじゃ・役小角)が伝えたといわれる和漢薬のひとつ。
オウバク(黄柏)、ガジュツ(我朮)、ゲンノショウコなどが含まれている。
当院の待合室に展示してある陀羅尼助丸(銭谷小角堂 発売)
オオナルコユリ。ナルコユリよりも大きな品種。
根は黄精という生薬になる。
この山にはナルコユリ系の植物が多種類見られた。
半日陰にひっそりと佇むニシノヤマタイミンガサ。
ハナイカダについて解説される加藤先生。
タイミンガサとハナイカダは薬草ではなかった…かな。
これはジャノヒゲ(麦門冬)写真下部に根塊がみえる。
牡丹皮は牡丹ではなかった?
ヤブコウジをみて「これが本来の牡丹皮です。通常の牡丹皮は牡丹の根とされていますが、本来はヤブコウジの根だったと言われています」
久保 輝幸先生「牡丹・芍薬の名物学的研究(1) : 牡丹とヤブコウジ属植物の比較」薬史学雑誌 46(2), 83-90, 2011-12-3(コチラを参照のこと)
足元に生えるヤブコウジ。赤い実をつけ日陰でも丈夫なヤブコウジは園芸でも重宝される。
ヤブコウジの赤い実。
ヤブコウジは古来より日本人に愛された植物のひとつであると言われ、『万葉集』では山橘との名で登場する。
『しかし、こんな小さな植物だと、根っこもさぞかし小さくて、根っこの皮は剥ぎにくかろう…』と、当時の薬師さんの苦労を想像せずにはいられない。下にヤブコウジの根部(牡丹皮)の写真(写真提供 田村先生)
だがしかし!
実際に根っこを引っ張ると根部の皮が驚くほどカンタンに剥げるではないか!
『なるほど牡丹皮として使われていたことも納得できる!』と思えた瞬間でした。
マムシグサ(天南星)は毒草として知られているが、根部を修治して生薬に使う。
マムシグサを愛でる中川先生。
中川先生は私 足立の同期の鍼灸師であるが、キノコに詳しい山のスペシャリストだ。
八合目あたりで見つけた銀竜草。幽玄な佇まいからユウレイタケの別称もある。
銀竜草の写真を愛でるように撮影される加藤先生。
今回の目玉のひとつはコレ!人参
今回の遠足の目玉といえるのがコレ!人参です。
人参は補中益気湯や四君子湯、六君子湯、理中湯に使用される生薬として知られています。
一般的には人参といえば、補薬として印象が強いですが、それは御種人参のこと。
今回、観察している人参は竹節人参またはトチバニンジンという種類です。
竹節人参の性質についてかの宇津木昆台は以下のように述べています。
・・・
陽気を救い、虚脱を復するは韓参、最も優れり。
堅を砕き、渇を止めるは直根、竹節、大いに功あり。」(『古訓医伝―薬能辨』より)
人参の性質を持ちつつも、瀉的な性質を帯びているようです。
かの吉益東洞はこの竹節人参を好んで用いたと言われています。
このように『薬徴』に記されている人参の効をみると、
『神農本草経』の「味甘、微寒。主補五臓、安精神、定魂魄。止驚悸、除邪氣。明目、開心益智。久服軽身延年。…」といった補益の功とは一線を画すように感じられます。
なぜ竹節というのか?という問いに対して、濱口先生はこのように答えてくれました。
「通常の人参は直根ですが、竹節人参の根部は横に伸び、竹のように節があります。そのため竹節人参なのです。」とのこと。
目が慣れてくるとあちこちに竹節人参の幼株が…
以上、ここまでの写真は八合目くらいまでのもの。
このコースですでに相当数の薬草のレクチャーを受けました。
生薬探偵・濱口先生にかかるとアラ不思議!
ただの登山道がとんでもなく薬草豊かな観察フィールドになるのです。
そんな感動を参加メンバー全員が折り返し地点にも着かないこの時点で味わっておりました。
・・・と、ここでいったん休憩。
後半の山頂〜復路編に続きます(続きはコチラ)。