5月の講座とゴケイメシ ~スズキ(鱸)の食物本草能~

5月の講座【医書五経を読む】は…

昨日の第2日曜日は定例講座【医書五経を読む】の日でした。


写真:脈診書『切脈一葦』を読むの講座風景

『切脈一葦』も下巻「邪正一源」その2まできました。その内容も実に実践的な複雑な読み取り方が必要となってきています。この点、前回・今回ともに非常に有意義な講座となりました。次回も楽しみであります。

さて、勉強会後の打ち上げ・ゴケイメシに関するネタです。
今回のゴケイメシのメインは「土鍋ごはん」と「スズキ(鱸)の酒蒸し」「カツオ(鰹)のたたき」でした。

5月のゴケイメシの内容は…

最初『スズキか…。スズキなら塩焼きか…。どうしよう…」と、あまり気が進まなかったのですが、ふと『そういえば!』『島根県の宍道湖では“スズキの奉書焼き”って料理があったな~』と思い立ち、奉書焼きが美味しいならメスティンを使った酒蒸しもできるだろう!と、身の厚いスズキ切り身を購入。

また、メスティンを活用するようになってから「酒蒸し」という選択肢が増えました。スズキの前にプリップリ海老の酒蒸しもいただきました。

写真:メスティン(ダイソー購入)を使ってエビの酒蒸し、サラダセロリを添えて


写真:スズキ(鱸)の酒蒸し。


写真:土鍋で鯛めし

スズキの白身肉と土鍋で炊いた白米は実によく合いました。そして最後に、エビとスズキの酒蒸しで採れた出汁にお味噌を溶いて、みそ汁にしていただきました。お酒を飲んだ後にちょうど良い〆となりました。

さて、食レポの後は、食物本草のお勉強です。今回はスズキ(鱸)の食物本草能を紹介しましょう。

スズキ(鱸)の食物本草情報

まずは読みやすい『日養食鑑』(石川元混 著 1819年)からです。

『日養食鑑』に記される鯛の効能

すずき  鱸魚  小なる魚を松江(せいご)と云う。
甘平、小毒あり
肌肉を潤し、筋骨を益し、腸胃を和し、水氣を逐う。或いは羹膾(なます)となし、味美なり。多く食えば瘡腫を発す。
病人、并びに妊婦に宜しからず。
○松江(せいご)小なる者は毒なり。
○子 甘温毒あり。小児、病人に宜からず。乾して唐墨(からすみ)に造る。毒なし。

■原文
すヾき  鱸魚  小なる魚を松江(せいご)と云
甘平、小毒あり
肌肉を潤し、筋骨を益し、腸胃を和し、水氣を逐ふ。或は羹膾となし、味美なり。多く食へば瘡腫を發す。
病人并、姙婦に冝からず
○松江(せいご)小なる者は毒なり。
○子 甘温毒あり。小兒病人に冝からず。乾して唐墨に造る。毒なし。

とあります。

『閲甫食物本草』に記されるすずき(鱸)の効能

寸寸㡬(すずき)

甘平、無毒。諸病に之を忌まず、常に食して可なり。(閲甫)

閲甫が曰く、寸寸㡬(すずき)は鱸の字を用いて而して、順(源順)の『和名集』、羅山の『多識篇』共に其の訓は同じ。然れども『本草』に説く所を訳するに、四五月に出で、長さ僅か数寸、状類は鱖に似、而して色白く黒点あり、巨口、細鱗にして、四鰓有り。又、晋の張翰の「秋風起思松江鱸魚鱠(『晋書』張翰傳の一節)」、此れ等を以て之を考れば、則ち決して今の俗間に謂う寸寸㡬(すずき)なる者は、鱸魚に非ざる也。鱸魚は皆な言く小毒有りと。今云う寸寸㡬(すずき)なる者は有毒に非ざる者。憶(おもう)に鱸魚は、俗間に謂う保天(ほて・ぼて)ともいう者とも略(ほぼ)似たり。凡そ俗間に謂う和名の審かざる者は甚だ多し。状と性味とを以て、之を順(源順)が『和名集』の訓に合す。之を(このように)考るときは、則ち百に一つも髣髴たる者も有ること無きときは何ぞや!?仮令、鱸魚を以て寸寸㡬(すずき)と訓ず、寸寸㡬は即ち鱸魚の訓。憶うに古を振(きわめ)れば、此の如く誤らざることを、後世民間に誤りて寸寸㡬を以て他物を訓ならん!然るときは則ち但だ和名を以て、其の性を言うときは則ち太だ違う。学者夫れ之を審にせよ。

■原文
甘平無毒諸病不忌之常食可也。(閲甫)
閲甫曰寸寸㡬用鱸字而順。和名集羅山于多識共其訓同。然譯本艸㪽説、四五月出、長僅數寸状類似鱖而色白有黒㸃、巨口細鱗有四鰓。又晉張翰、秋風起思松江鱸魚鱠、以此等考之、則決今俗間謂寸〱㡬者、非鱸魚也。鱸魚皆言有小毒。今云寸〱㡬者非有毒者。憶鱸魚、俗間謂保天者略似。凡俗間謂和名不審者甚多。以状性味、合之順和名集訓考之、則百一無有髣髴者何也。假令以鱸魚訓寸〱㡬、寸〱㡬即鱸魚之訓。憶振古、如此不誤。後世民間誤以寸〱㡬訓他物矣。然則但以和名言其性則太違。學者夫審之。

とあります。
どうやら名古屋玄医は「本草書の「鱸」は巷でいうスズキとは別物である」と主張しているようですね。その主張内容として「本草書にある“鱸は小毒”とあるが、今の民間で食されているスズキは決して有毒のものではない。よってこの鱸と世間で食されているスズキは別の魚だ!」というわけです。

ですから、スズキ(寸寸㡬)の氣味は「甘平、無毒。諸病に之を忌まず、常に食して可なり。」とあり、『日養食鑑』や後述の『魚鑑』の内容とは異なります。
両書は「小毒あり」としつつも、「肌肉を潤し、筋骨を益し」「水氣を逐う」といった効能が共通点です。また「多食すれば瘡腫を発する」点も共通しています。
しかし、名古屋玄医が指定したスズキ(寸寸㡬)の性質を再度引用してみましょう。「甘平無毒」「諸病に忌むことはない。常食するも可。」とあります。この記述内容の注目ポイントは“薬能的な特徴がほぼ失われている点”です。これはほぼ全ての食材に共通する食事としての性質ですが、食物本草能としては「毒にも薬にもならない」という性質になります。
また「スズキは毒の無い魚だから…」という主張ですが、本草書の毒の有無は一般的にいう毒性とは異なる観点だと思います。ちなみに『閲甫食物本草』で「小毒」と指定されている食材には「芋(さといも)」「胡瓜(きゅうり)」「蒜(にんにく)」「鯨肉」などがあります。この「小毒」も同様に判断すると、巷で食されているものとは別物だ!というわけにもいきません。以上から『閲甫食物本草』におけるスズキ(寸寸㡬)の氣味効能については素直になれない感想でありました。

『魚鑑』に記されるすずき(鱸)の効能

すずき

『和名抄』に出づ。漢名、鱸魚。『綱目』に出づ。小なるを“せいご”という。俗に鮬の字を用ゆ。少しく大なるを“ふっこ”。雲州にて“ちうはん”という。下総銚子の産をよしとす。然れども角田川の下に、養うときは水の清きに腴(肥)え、潮の鹹からざるに化して、終に善美兼盡す。その肉は即ち玉鱠にして、夏月の珍、これに過るものなし。唐にも呉の松江の産を、天下の珍とす。或いは四腮魚とよぶ。淞江のもの、其の腮四枚なりという。此方にも雲州松江の産、是なり。又、関西の第一とす。只だ雲州の東都に殊なるは、冬月を珍とす。
又、します一にもふっこという。状(かたち)すずきに似て、頭少く扁し。海錯䟽(かいさくそ)の繁魚(はんぎょ)、是なり。
氣味 甘微温・小毒あり。
主治 肌肉を潤し、筋肉を強し、水氣を治す。多く食えば痃癖・瘡腫を発す。

■原文
すヾき
和名抄に出づ。漢名、鱸魚。綱目に出づ。小なるをせいごといふ。俗に鮬の字を用ゆ。少しく大なるをふつこ。雲州にてちうはんといふ。下総銚子の産をよしとす。然れとも角田川の下に、養ふときは水の清きに腴へ、潮の鹹からさるに化して、終に善美兼盡す。その肉は即玉鱠にして、夏月の珍、これに過るものなし。唐にも呉の松江の産を、天下の珍とす。あるひは四腮魚とよふ。淞江のもの、其腮四枚なりといふ。此方にも雲州松江の産、是なり。又、関西の第一とす。只雲州の東都に殊なるは、冬月を珍とす。又志ます一にもふつこといふ。状す〱きに似て、頭少く扁し。海錯䟽の繁魚、是なり。
氣味 甘微温小毒あり。
主治 肌肉を潤し、筋肉を強し、水氣を治す。多く食へは痃癖瘡腫を発す。

とあり、「小毒あり」、「肌肉を潤し、筋骨を益し」「水氣を逐う」といった効能。そして「多食すれば瘡腫を発する」といった情報が、『日養食鑑』との共通点です。

「スズキの旬は夏」と言われており、これから美味しくなります。そんなスズキの食物本草能を知った上で料理し、食するのもまた楽しいと思います。

ちなみに夏が旬である魚には他にもカツオがあります。カツオ(鰹)の食物本草能に関してはコチラの記事に載せています。「食物本草からみたカツオの効能」(2023.07執筆)

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