シン・スッポン料理と香辛料の本草学的情報(馬芹・胡菜・鬱金・番椒)

スッポン料理の新しい世界

ちょっと遅くなりましたが、7月のゴケイメシのレポートです。
7月は夏の納涼会として、蒼流庵の庵主 濱口昭宏先生をお招きして「シン・スッポン料理の会」を開催しました。


写真:納涼会にて乾杯!

今回の「シン・すっぽん料理」はなんと【スッポン・カレー】です。
世の中広しといえど、スッポンをカレーに入れるなんて暴挙を行う人はなかなか稀ではないでしょうか。

実は今回のスッポン肉は冷凍モノ。去年にさばいたスッポン肉・甲羅およびスッポン出汁を冷凍したものを解凍して料理に使いました。なので、冷凍モノには香辛料でパンチを効かせた料理が適しているのではないか?と考えカレーを選択した次第です。

果たしてそのお味は・・・???

と気になるところでしょうが、結論からいうと、満場一致で美味でありました!


写真:見よ!濱口先生のこの笑顔!


写真:スイスワイン(白)とスッポンカレー

ここでスッポン・カレーの簡単レシピをMEMOしておきます。

シン・スッポン料理のレシピ

スッポン・カレーのレシピ

解凍したスッポン肉は塩麹につけて、臭みをやわらげ、お肉を柔らかくしておきます。

■ 材料

A,チャツネ材料
・サラダ油 50cc
・生姜 大さじ1
・タマネギ 1個
・ホールトマト缶 1缶
・塩(少々)

B,使用したスパイス
・クミン 大さじ2
・コリアンダー 大さじ2
・ターメリック 大さじ2
・カイエンペッパー 小さじ2
・カルダモン 大さじ2

C,他の材料
・すっぽん肉(冷凍)
・すっぽんスープ(冷凍)
・塩麹(適量)
・ブラウンマッシュルーム 1パック
・オイスターソース(少々)
・塩 適量
・水 適量

①、チャツネは前日の仕込みで川合先生が用意してくれました。(この場を借りて御礼を申し上げます)
・チャツネはAの材料を用います。
・フライパンにサラダ油、玉ねぎのみじん切り、生姜をいれて飴色になるまで炒める。
・さらにホールトマト缶を入れ、ペースト状になるまで水分を飛ばす。

写真:カレーを調理する川合先生

②塩麹に漬けておいたスッポン肉を炒めます。
さらにブラウンマッシュルームを加え、チャツネを加えてます。
ある程度に火が通ったらスパイス(B)を入れて炒めます。

④全体に絡まったら解凍した「スッポン・スープ(出汁)」を入れて、水を適量加え、塩・オイスターソースで味を整え、煮込めば完成です。

写真:スッポンカレー

以下に今回カレーに用いた各香辛料・スパイスの本草学的な情報を引用・付記しておきます。

クミン・馬芹の薬能

まずはクミンですが、ネット情報では馬芹とあります。
ちなみに「馬芹」で検索すると「当帰の異名」という情報もありますが、本草書では「馬芹」と「当帰」は別種として記載されていますので、本記事では「クミン=馬芹」として話を進めていきます。
さて、この馬芹について『和漢三才図会』には以下のように記されています。以下に『和漢三才図会』『本草綱目』続けて引用文を付記します

『和漢三才図会』

馬斳(うませり) 牛斳 胡芹 野茴香
凡そ物の大なる者、馬(の字)を以て名づく。此の草、芹に似て而して大なる故也。
別に又、野茴香と云う者、湿草部に見る。

『本草綱目』に馬斳は芹と同類にして異種、処処の卑き湿地に之有り。三四月に苗を生じ、一本より叢生し、蒿の如く白毛蒙茸あり。嫰なる時に茹でる可し、葉は水芹に似て微しく小さく、芎藭(川芎)の葉に似て而して色深し。五六月に砕けたる花を開き攅簇(さんそう)したるは蛇牀(蛇床)及び蒔蘿(こういきょう・ヒメウイキョウ)の花の如く、青白色し。実を結ぶも亦た蒔蘿の子の似たり。但だ色は黒にして重きのみ故に野茴香を称す。其の根は、白色にして長き者は尺許(ばかり)、氣も亦た香にして堅硬なり食すべからず。『金光明経』三十二品の香薬にて之を「葉婆你」と謂う。
苗 甘辛・温
脾胃を益し、胸膈を利し、冷氣を去り、茹に作して食す。
▹本文を按するに所謂(いわゆる)馬芹の葉「似水芹而微小」と云う、この「小」の字、疑うらくは當に「大」に作するべし。否(しからざれば)則ち「馬芹」の名、及び芎藭(川芎)の葉に似たるの文に応ぜざる也。

■原文 馬斳(むませり) 牛斳 胡芹 野茴香
凡物大者、以馬名。此草似芹而大故也。別又有野茴香と云者、見于濕草部。本綱馬斳與芹同類而異種、處處卑濕地有之。三四月生苗、一本叢生。如蒿白毛蒙茸。嫰時可茹、葉似水芹而微小、似芎藭葉而色㴱。五六月開碎花攅簇如蛇牀及蒔蘿花青白色。結實亦似蒔蘿子。但色黑而重爾、故稱野茴香。其根、白色長者尺許。氣亦香而堅硬、不可食。金光明經三十二品香藥謂之、葉婆你。
苗 甘辛温
益脾胃、利胸膈、去冷氣、作茹食。
▹按本文所謂馬芹葉、似水芹而微小、之小字疑當作大。否則不應馬芹之名、及似芎藭葉之文也。

※濕草部にある「野茴香」には特に薬能は記されていない。参考にまでに引用しておく。

野茴香 真茴香見葷草下
農政全書云、野茴香生田野の中、苗初搨地、生葉似柨娘蒿葉、微細小後于葉間、攛葶分生莖叉、稍頭開黄花、結細角、有黑子、葉味苦。

『本草綱目』 馬斳

上記『和漢三才図会』は『本草綱目』の内容をほぼ引用しているため書き下し文は省略する。
しかし馬斳子(すなわちクミンシード)に関する情報は『和漢三才図会』には記載されていないため、馬斳子の部分のみ書き下し文を記載する。

馬斳子
[氣味]甘辛、温、毒無し
[主治]心腹脹満、胃を開き氣を下し食を消す、味を調えるに之を用う。(唐本)
炒り研て醋にして服する、卒心痛を治し、人をして睡を得せしむ。(孟詵)
中を温め脾を暖める、反胃を治する。(時珍)

■原文…(略)…
[集解]恭曰、馬斳生水澤旁。苗似鬼針菾菜等、嫰時可食。花青白色。子黄黑色、似防風子、調食味用之、香似橘皮而无苦味。
保升曰、花若芹花、子如防風子而扁大。尓雅云、茭、牛斳也。孫炎釋云、似芹而葉似鋭、可食菜也。一名茭、一名馬斳子、入藥用。
時珍曰、馬斳與芹同類而異種、處處卑濕地有之。三四月生苗、一本叢出如蒿、白毛蒙茸。嫰時可茹、葉似水芹而微小、似芎藭葉而色㴱。五六月開碎花、攅簇如蛇床及蒔蘿花青白色。結實亦似蒔蘿子。但色黑而重爾、其根白色、長者尺許。氣亦香而堅硬、不可食。蘇恭所謂鬼針、即鬼釵草也。方莖椏葉、子似杈脚、着人衣如針、與此稍異。


[氣味]甘辛温
[主治]益脾胃、利胸膈、去冷氣、作茹食。(時珍)


[氣味]甘辛、温、無毒
[主治]心腹脹滿、開胃下氣消食、調味用之。(唐本)
炒研醋服、治卒心痛、令人得睡。(孟詵)
温中暖脾、治反胃。(時珍)
…(略)…

『和漢三才図会』ではクミン・馬芹は地上部の効能を記しています。茹でて食するという表現からは“セリのお浸し”などを連想します。
しかしカレー料理などでは、クミンは香辛料・スパイスとしてタネ・種子の部分(クミンシード)を使用しますので、『本草綱目』記載の「子(種子)」の効能を参考にすべきでしょう。地上部と種子ともに薬能の方向性は似ているのですが、種子(クミンシード)では「開胃下氣消食(胃を開き、氣を下し、食を消す)」といった性質に注目です。

次にコリアンダーについてみてみましょう。

コリアンダー・胡菜の薬能

コリアンダー 香菜 (和名:こえんどろ;胡荽)

『本草綱目』 胡菜

[釈名]香菜、『拾遺』胡荽、『外臺』蒝荽…(略)…

根葉
[氣味]辛温、微毒
孟詵曰く、平、微寒、無毒。生菜食と和すべし。これ是葷菜、人の精神を損なう。華佗の云う、胡臭(腋臭)、口臭、䘌歯、及び脚氣、金瘡の人は、皆な食すべからず、病更に加わり甚し。
藏器の曰く、久しく食せば人をして多忘せしむ。根は痼疾を発する。邪蒿(717)と同じくすべからず、食せば人をして汗臭く難産せしむ。
時珍の曰く、凡そ一切の補薬を服する、及び薬中に白朮・牡丹の有る者、此れ(香菜)を食するべからず。伏石鍾乳。
[主治]穀を消し、五臓を治し、不足を補い、大小腸を利し、小腹の氣を通じ、四肢の熱を拨し、頭痛を止め、療沙疹、豌豆瘡の出でざるを療する、酒に作して之を噴せば、立ちどころに出づる。心竅を通ずる。(嘉祐)
筋脉を補い、人をして能く食せしむ。腸風を治す、熱餅を用い裹みて食するに甚だ良し。(孟詵)
諸々の菜食に合わせ、氣香しく、人をして口爽せしめ、飛尸、鬼㾏、蟲毒を辟く。(呉瑞)
魚肉の毒を辟くる。(宇原)
[発明]
時珍が曰く、胡荽、辛温、香竄、内は心脾に通じ、外は四肢に達し、能く一切不正の氣を辟く。故に痘瘡の出でず爽快ならざる者、能く之を発する。諸瘡皆な心火に属す、営血は内は脾に於いて摂する。心脾の氣、芳香を得れば則ち運行し、臭悪を得れば則ち壅滞する故のみ。按ずるに楊士瀛の『仁斎直指方論』の云う、痘疹快ならずは、宜しく胡荽酒を用い之を噴すべし、以て悪氣を辟くる。床帳の上下左右にも皆な之を挂ける、以て汗氣、胡臭(腋臭)、天癸、淫佚の氣を御する。一つに穢悪の無きべからざる所に応ずる。若し児が虚弱で、及び天時陰寒に、此れを用いて最妙なり。如し児が壮実、及び春夏晴暖、陽氣の発越の時に、酒油を以て加えて虐を助け、火を以て火を益す、胃中に熱熾ん、毒血の聚畜するときは則ち変じて黒陥を成す、慎まずんばあるべからず。
…(略)…


[氣味]辛酸、平、無毒。(炒めて用う)
[主治]穀を消し能く食する(孫思邈)
蠱毒五痔、及び肉を食して毒に中る、血を吐下するに、煮汁を冷服す。又、油煎を以て、小児の禿瘡に塗る。(陳藏器)
痘疹を発す、魚腥を殺す。(李時珍)
…(略)…

■原文
[釋名]香菜、拾遺胡荽、外臺蒝荽…(略)…
根葉
[氣味]辛温微毒
詵曰、平、微寒、無毒。可和生菜食。此是葷菜、損人精神。華佗云、胡臭、口臭、䘌歯及脚氣、金瘡人、皆不可食、病更加甚。
藏器曰、久食令人多忘。根、發痼疾。不可同邪蒿食、令人汗臭難産。
時珍曰、凡服一切補藥及藥中有白朮牡丹者、不可食此。伏石鍾乳。
[主治]消穀、治五藏、補不足、利大小腸、通小腹氣、拨四肢熱、止頭痛、療沙疹、豌豆瘡不出、作酒噴之、立出。通心竅。(嘉祐)
補筋脉、令人能食。治腸風、用熱餅裹食、甚良。(孟詵)
合諸菜食、氣香、令人口爽、辟飛尸、鬼㾏、蟲毒。(呉瑞)
辟魚肉毒。(宇原)
[發明]
時珍曰、胡荽辛温香竄、内通心脾、外達四肢、能辟一切不正之氣。故痘瘡出不爽快者、能發之。諸瘡皆屬心火、営血内摄于脾、心脾之氣、得芳香則運行、得臭惡則壅滞故爾。按楊士瀛直指方云、痘疹不快、宜用胡荽酒噴之、以辟惡氣。床帳上下左右皆挂之、以御汗氣、胡臭、天癸、淫佚之氣。一應穢惡、所不可無。若兒虚弱、及天時陰寒、用此最妙。如兒壮實、及春夏晴暖、陽氣發越之時、加以酒油助虐、以火益火、胃中熱熾、毒血聚畜、則変成黑䧟矣、不可不慎。


[氣味]辛酸、平、無毒。(炒用)
[主治]消穀能食(思邈)
蠱毒五痔、及食肉中毒、吐下血、煮汁冷服。又以油煎、塗小兒禿瘡。(藏器)
發痘疹、殺魚腥。(時珍)
…(略)…

謎のパクチーブームを振り返る…

料理界では、コリアンダーは種子部を、地上部(葉茎)をパクチーと呼び分けています。パクチーといえば2016年頃にブームを引き起こした香味野菜です。熱狂的なパクチー愛好家など異常なほどパクチーを摂取していたような映像を思い出すことができます。当時の愛好家は今もパクチーを嗜んでいるのでしょうか…。

あの頃の異常ともいえるブームを参考にすると、孟詵の言葉「可和生菜食。此是葷菜、損人精神。」という言葉もあながち荒唐無稽な情報とは言い切れないものがあります。

スパイスとしてのコリアンダーの薬能

さて、コリアンダーの薬能をみてみましょう。
スパイスとしてのコリアンダーは、その種子をパウダー状にしたものです。ですので種子部の薬能をみておきましょう。

孫思邈の説「消穀能食」に注目です。前述のクミンシードの薬能「開胃下氣消食」と同じ方向性にあることが分かります。

ターメリック・鬱金の薬能

ターメリックの生薬名は鬱金。ウコンといえば鬱金、姜黄の二種の生薬が知られています。
また『本草綱目』では蒁薬・姜黄・鬱金の三種を挙げて、この三者は似ているが別物である…と注意しています。とは言いつつも「姜黄・鬱金・蒁薬の三物は形状・功用みな相い近し」とも記しています。(※蒁薬は「蓬莪荗」の名で『本草綱目』に記載。莪朮と同じ。)それでは『本草綱目』における鬱金の情報をみてみましょう。

『本草綱目』 欝金

鬱金

…(略)…


[氣味]辛苦、寒、毒無し
張元素が曰く、氣味俱に薄し、純陰なり。
獨孤及が曰く、灰を砂子に結すべし。
[主治]血積 氣を下し、肌を生じ血を止め、悪血を破り、血淋尿血、金瘡(主治する)。(唐本)
単用すれば、女人の宿血氣心痛、冷氣結聚を治す、温醋に摩すりて之を伝す。亦た馬脹を治する。(甄権)
心を涼する(張元素)
陽毒入胃、下血頻痛を治する。(李杲)
血氣心腹痛、産後敗血、心を衝きて死せんと欲する、失心、顛狂、蠱毒を治する。(李時珍)
[発明]
朱震亨が曰く、鬱金は火と土に属して、水有り。其の性は軽揚にして上行す。吐血衄血、唾血血腥、及び経脈の逆行を治する、并びに宜しく鬱金の末に韭汁、姜汁、童尿を加えて同服すべし。其の血自ずと清する。痰中に血を帯びる者は、竹瀝を加う。又、鼻血上行する者には、鬱金韭汁に四物湯を加え之を服す。
李時珍の曰く、鬱金は心及び包絡に入りて、血病を治する。『経験方』失心顛狂を治するに、真鬱金七両、明礬三両を用い末と為し、薄糊にて梧子大に丸する、毎服五十丸を白湯にて下す。婦人の顛狂すること十年あるに、至人、此れを授く。初め服するに心胸の間に物の有る脱去して、神氣洒然たり。再服して甦える。此れ驚憂、痰血の心竅に絡聚して致す所に、鬱金が心に入りて悪血を去り、明礬の頑痰を化する故也。…

…(略)…

■原文 欝金
…(略)…

[氣味]辛苦、寒、無毒
元素曰、氣味俱薄、純陰。
獨孤及曰、灰可結砂子。
[主治]血積下氣、生肌止血、破惡血、血淋尿血、金瘡。(唐本)
單用、治女人宿血氣心痛、冷氣結聚、温醋摩傳之。亦治馬脹。(甄權)
涼心(元素)
治陽毒入胃、下血頻痛。(李杲)
治血氣心腹痛、産後敗血冲心欲死、失心顛狂蠱毒。(時珍)
[發明]
震亨曰、欝金屬火與土、有水、其性輕揚上行、治吐血衄血、唾血血腥、及經脉逆行、并宜欝金末加韭汁、姜汁、童尿同服、其血自清。痰中帯血者、加竹瀝。又鼻血上行者、欝金韭汁加四物湯服之。
時珍曰、欝金入心及包絡、治血病。經驗方治失心顛狂、用真欝金七兩、明礬三兩為末、薄糊丸梧子大、毎服五十丸、白湯下、有婦人顛狂十年、至人授此。初服心胸間有物脱去、神氣洒然、再服而甦。此驚憂痰血絡聚心竅所致。欝金入心去惡血、明礬化頑痰故也。…
…(略)…

スパイスとして使用されるターメリックは鬱金の地下茎部を用いることはよく知られています。鬱金の根部の薬能は上に引用したとおり。

しかしその薬能は、前述のクミン(馬芹子)・コリアンダー(胡菜子)のそれとは趣きが異なるようです。

「破悪血(唐本)」「(単用)治女人宿血氣心痛(甄権)」「治血氣心腹痛(時珍)」といった記載から血分への影響力が強いのが鬱金の特徴といえるのではないでしょうか。

カイエンペッパー・トウガラシ・番椒の薬能

カイエンペッパーとは完熟した赤トウガラシを乾燥させたもの…とのこと。
そしてトウガラシ(唐辛子)は明代の『本草綱目』には記載されていません。そもそもトウガラシは中南米原産の植物です。つまり大航海時代に西洋に持ち帰られ、それから中国に伝わったのですが、西洋から中国に伝わるルートに幾つかの説があるようです。これもまた興味深いものがありますね。

さて、舶来モノの植物に関して日中の本草書がどのような情報を記していたのかをみておきましょう。本草書ではトウガラシは番椒・蕃椒・辣茄などと記載されています。

『和語本草綱目』(岡本一抱 1698年)
『和漢三才図会』(寺島良安 著 1712年)
『本草綱目拾遺』(趙学敏 著 1765年)
以上の年代順に引用文を列記しておきます。

唐我羅志(トウガラシ) 辛甘温
五臓を通じ、諸竅に達す、寒を除き、汗を発す、留血を傷り(破り)、滞氣を散ず、膈を通じ、胃を開く、蚘蟲寸白を殺す。
○病家虚人、(之を)食うところを禁ず、尤も陰虚火旺す。瘡家の腫れ痛む者も口に近づくるを禁ず。過食久食すれば則ち陰を傷り熱を生じて元氣を敗り、腫毒を発す。
▹案ずるに、唐我羅志(トウガラシ)は近代の菜物にして、本邦の世俗は好みて多食すると雖も、本草家の書に於て考うる所なし。古杭高濓藝花譜に云う、番椒は叢生して白き花、子(実)は禿毫頭(とうごうとう・筆の先)に似てに、味は辣(から)く、色紅なること甚し、と。此れ今の所謂(いわゆる)唐我羅志(トウガラシ)に近き者也。
又『本草綱目』十三巻に紫金牛あり。蘇頌が曰く、福州に生じて葉は茶葉の如く、上は緑で下は紫、実を結ぶに圓(まる)く紅色なるは丹朱の如し、根は微紫色なり、と。此れ亦た今の謂う所の酸漿様(ほおずきで・かがみご)の唐我羅志(トウガラシ)に近し。然れども其の根の氣味効能を記して、子(実)を食するの義なし。況んや此れが氣味功能に於いてをや未だ記さず。
○以上の両説を考うるに、番椒を以て今の唐我羅志とすべきか。且つ天上守(てんじょうまもり・ヤツブサ)、酸漿様(ほおずきで)、江戸唐我羅志(エドトウガラシ)等あり。皆な一種同類にして土地の異種のみ。別物には非ず。

■原文 唐我羅志 辛甘温
通五藏、達諸竅、除寒、發汗、傷留血、散滞氣、通膈、開胃、殺蚘蟲寸白。
○病家虚人禁食、尤陰虚火旺。瘡家腫痛者禁近口、過食久食、則傷陰生熱敗元氣、發腫毒。
▹案に唐我羅志は近代の菜物に乄、本邦の世俗好て多食と雖も、本艸家の書に於て考ふる所なし。古杭高濓藝花譜云、番椒叢生白花、子似禿毫頭、味辣、色紅甚と。此今の所謂唐我羅志に近き者也。
又本綱十三巻、紫金牛あり。頌曰、生福州葉如茶葉、上緑下紫結實圓紅色如丹朱、根微紫色と。此亦今所謂酸漿様の唐我羅志に近し。然𪜈其根の氣味効能を記て、子を食の義なし。況や此が氣味功能に於をや、未記。
○以上の兩説を考るに、番椒を以て今の唐我羅志とすべき歟。且天上守、酸漿様、江戸唐我羅志等あり。皆一種同類に乄土地異種のみ。別物には非ず。

『和漢三才図絵』

番椒

番とは南番(南蛮)の義也。俗に云う、南蛮胡椒、今に云う唐芥子(唐辛子)。

…(略)…
按ずるに番椒は南蛮に於いて出づる、慶長年中に此れと煙草、同時に将来(招来)する也。中華も亦た大明の末に始めて之有り。故に『本草綱目』には未だ之を載せず。今、椒薑の右に立てる。二月に種を下とす、葉は柳の如くして小さく、亦た胡椒の木の葉に似て、而して柔なり。叢生して、枝は脆し。処処に多く之を栽(う)え、或いは盆中に栽えて、之を玩賞す。五月に小白花を開き、子を結ぶこと数品有り、筆頭の如く、椎子(椎の実)の如く、櫻桃(ゆすら)の如く、椑柕(さるかき)の如し。或いは攅生(すずなり)、或いは上に向き、皆な生は青く熟せば赤し(或いは黄赤色の者もあり)。中子(種)は茄子仁の如く、甚だ辣く唇舌を麻(しびれ)させ、或いは噎(むせる)。火を得れば則ち愈(いよいよ)烈し。生熟を用いて少しく羹中に投ず、或いは未醤(味噌)に和えて之を食せば、微香有りて能く食進む(性大温なるに多く之を食えば、火を動じ瘡を発し胎を堕とす)、能く行人の胝胼(まめ)を治する(番椒を焼き末を飯糊に拌て傳)
又、能く小鳥の病を治する。樊(かご)の中にて養う者、或いは脹、或いは糞閉して餌啄せざる者、急ぎ番椒を用い剉(きざ)みて水に浸す。其の水を吞ましめれば則ち活く(屡(しばしば)之を試めして効有り)。番椒は近来の物、誰人が始めて之を用いるや。殊に理の推す所ならず。
番椒を食して噎(むせる)者、急ぎ沙糖を吃すれば則ち之解す、或いは濃い未醤(味噌)汁を吃するも亦た佳し。

■原文 『和漢三才図絵』
番椒 番者南番之義也。俗云、南蠻胡椒、今云唐芥子。
…(略)…
按番椒出於南蠻、慶長年中此與煙草同時將來也。中華亦大明之末始有之。故本草綱目未載之。今立于椒薑之右。二月下種、葉如柳而小、亦似胡椒木葉、而柔叢生、枝脆。處處多栽之、或栽盆中、玩賞之。五月開小白花、結子有數品、如筆頭、如椎子、如櫻桃、如椑柕、或攅生、或向上。皆生青熟赤(或有黄赤色者)中子如茄子仁、甚辣麻唇舌、或噎。得火則愈烈。生熟用少投羹中、或和未醤(味噌)食之、有微香能進食(性大温多食之、動火發瘡堕胎)、能治行人胝胼(番椒焼末拌飯糊傳)
又能治小鳥之病、養樊中者、或脹或糞閉不餌啄者、急用番椒剉浸水、令吞其水則活(屡試之有効)。番椒近來之物、誰人始用之耶。殊不理所推。食番椒噎者、急吃沙糖則解之、或吃濃未醤(味噌)汁亦佳。

『本草綱目拾遺』

辣茄
人家園圃に多く之を種する、深秋に山人ら市に挑入して貨売する。取りて熬するを以て辣醤及び洗いて凍瘡に之を用う。用うる所は甚だ広し、而して『本草綱目』に其の功用を載せず、
陳靈堯『食物宜忌』に云う、食茱萸が即ち辣茄なり、陳なる者良し。其の種類、大小方円黄紅にして一ならず。唯、一種尖長なるもの象牙辣茄と名づく。薬に入れて用う。
又、一種、大にして本(直の意か?)なる者あり、番姜と名づく。范咸『臺灣(台湾)府志』に、番姜は大にして本なり、種自荷蘭、白い瓣(花弁)を開花させ、緑の実は尖長なるに、熟する時に朱紅となり目を奪う。中に子(種)有りて辛辣なり。
番人(南蛮人)は殻を帯び(実・殻ごと)之を啖う、内地では番椒と名づく。更に一種有りて結実させるに円く微しく尖る、奈種に似て、咬吧(ジャガタラ・現在のジャカルタ)より出づる、内地には無き所なり。
『薬検』に云う、辣茄、一名を臘茄という、臘月に熟する故に名づく。亦た食料に入れる。苗葉は茄葉に似て小さし、莖の高さは一尺許(ばかり)、夏に至りて乃ち開花す、白色五出(?)、倒垂すること茄花の如し、結実して青色、其の実は柿形の如きもの、秤錘形の如きもの有り、小なるは豆の如き者、有大なれば橘の如き者有り、仰生すること頂の如き者有り、倒垂して葉下る者有り、種種にして一ならず。
薬に入るるは惟だ細長きこと象牙の如くなるもの、又は人指の如くなる者を取る。食料に作するものは皆な用いて可なり。
『食物宜忌』に云う、性は辛苦大熱にして、中を温め氣を下す、寒を散じて湿を除く、鬱を開いて痰を去り食を消す、蟲を殺し毒を解す。嘔逆を治し、噎膈を療し、瀉痢を止め、香港脚(水虫)を祛る。之を食せば風を走らせ火を動ず、目を病み瘡痔を発する、凡そ血虚して火の有る者は服するを忌む。
『薬検』に云う、味辛、性大熱。口に入れれば即ち舌を辣す、能く風を祛り血を行らす、寒を散じ鬱を解く、滞を導き瀉を止む、癬に擦(ぬ)る。

■原文 『本草綱目拾遺』
辣茄
人家園圃多種之、深秋山人挑入市貨賣、取以熬辣醤及洗凍瘡用之。所用甚廣、而綱目不載其功用、
陳靈堯食物宜忌云、食茱萸即辣茄、陳者良。其種類大小方圓黄紅不一。唯一種尖長名象牙辣茄。入藥用。
又一種大本者、名番姜。范咸臺灣府志、番姜大本、種自荷蘭、開花白瓣、緑實尖長、熟時朱紅奪目。中有子辛辣。番人帯殻啖之、内地名番椒。更有一種結實圓而微尖、似奈種、出咬吧、内地所無也。
藥檢云、辣茄、一名臘茄、臘月熟、故名。亦入食料。苗葉似茄葉而小、莖髙尺許、至夏乃花、白色五出、倒垂如茄花、結實青色、其實有如柿形、如秤錘形、有小如豆者、有大如橘者、有仰生如頂者、有倒垂葉下者、種種不一。
入藥惟取細長如象牙、又如人指者。作食料皆可用。
食物宜忌云、性辛苦大熱。温中下氣、散寒除濕、開鬱去痰消食、殺蟲解毒。治嘔逆、療噎膈、止瀉痢、祛香港脚。食之走風動火、病目發瘡痔、凡血虚有火者忌服。
藥檢云、味辛、性大熱。入口即辣舌、能祛風行血、散寒解鬱、導滞止瀉、擦癬。

トウガラシは食用品種から園芸品種まで実に多くの種類がある。加えてさらに薬用品種があることも改めて知ることができる。外見的な特徴として「尖長」なる形の「象牙辣茄」と呼ばれる個体が薬用品種として『本草綱目拾遺』に記載されている。

さてトウガラシ・番椒(蕃椒)の薬能をいくつかピックアップしてみましょう。

①「傷(破)留血、散滞氣、通膈、開胃」(『和語本草綱目』)
②「開鬱去痰消食」(『食物宜忌』より引用)
③「能祛風行血、散寒解鬱」(『薬検』より引用)

①の薬能に含まれる「留血を破る」は鬱金と共通した性質を感じます。また①②にある「散滞氣」と「開鬱」の行氣能、および「通膈・開胃」と「消食」の健胃能は香辛料・スパイスとしての性質に共通するものであり、クミン・コリアンダーとも好相性であるといえます。

カルダモン・小豆蔲の効能

カルダモンは生薬名を「小豆蔲」といい、健胃薬として使用されることもあります。また白豆蔲の代用として用いられることもあったようです(『ウチダ和漢薬』サイト情報による)
しかし、小豆蔲の詳しい薬能を記載する本草書を見つけられなかったため、白豆蔲の薬能を載せておきます。(白豆蔲と小豆蔲は同効能ではないが、あくまでも参考のため。)
カルダモン(小豆蔲)はショウガ科アモムム(Amomum)属またはショウガ科ショウズク(Elettaria)属に分類され、白豆蔲はショウガ科ビャクズク属に分類されているとのこと。

『本草綱目』草部三 白豆蔲

白豆蔲 仁

[氣味]辛、大温 無毒
王好古、大辛熱、味は薄く氣は厚し、軽清にして升、陽也、浮也。手太陰経に入る。

[主治]積冷氣、吐逆反胃を止め、穀を消し氣を下す(開宝本草?)
肺中の滞氣を散じ、膈を寛げ食を進む、白睛翳膜を去る。(李杲)
脾氣を補い、脾胃を益し、元氣を理して、脱氣を収する。(王好古)
噎膈を治し、瘧疾寒熱を除き、酒毒を解する。(李時珍)

[発明]
蘇頌が曰く、古方は胃冷、喫食すれば即ち吐せんと欲し、及び嘔吐を治する。六物湯に、皆な白豆蔲を用う。大抵、胃は冷を主り、即ち相い宜し也。
張元素が曰く、白豆蔲の氣味は俱に薄し、其の用は五也。専ら肺経に入るの本薬、一也。胸中の滞氣を散ずる、二也。感寒腹痛を去る、三也。脾胃を温暖する、四也。赤眼暴発を治し、太陽経の目内大眦紅筋を去るに、少し許(ばかり)用う、五也。
李時珍の曰く、按ずるに楊士瀛が云う、白豆蔲は脾虚瘧疾、嘔吐寒熱を治し、能く消し能く磨する、三焦を流行させ、営衛一転して、諸証自ら平らぐ。
…(略)…

■原文 白豆蔲 仁
[氣味]辛、大温 無毒
好古、大辛熱、味薄氣厚、輕清而升、陽也、浮也。入手太陰經。
[主治]積冷氣、止吐逆反胃、消穀下氣(開寶)
散肺中滞氣、寛膈進食、去白睛翳膜。(李杲)
補脾氣、益脾胃、理元氣、収脱氣。(好古)
治噎膈、除瘧疾寒熱、解酒毒。(時珍)
[發明]
頌曰、古方治胃冷、吃食即欲吐、及嘔吐六物湯、皆用白豆蔲、大抵胃主冷、即相宜也。
元素曰、白豆蔲氣味俱薄、其用五也。専入肺經本藥、一也。散胸中滞氣、二也。去感寒腹痛、三也。温暖脾胃、四也。治赤眼暴發、去太陽經目内大眦紅筋、用少許、五也。
時珍曰、按楊士瀛云、白豆蔲治脾虚瘧疾、嘔吐寒熱、能消能磨、流行三焦、営衛一轉、諸證自平。
…(略)…

繰り返しますが、小豆蔲と白豆蔲は別種です。しかし、白豆蔲の代用として小豆蔲が用いられたという情報から、白豆蔲の薬能を上記に引用しました。

上記内容からいくつかの薬能をピックアップしましょう。

「消穀下氣」(『開宝本草』より)「寛膈進食」(李杲)の薬能はやはりスパイスとしての役割りを果たすものがあります。この薬能が小豆蔲とも共通する性質だと仮定すると、スパイスとしての馬芹・胡菜・番椒・小豆蔲と共通するものがあります。カレーなどのスパイスの効いた料理で食欲がそそられるのも納得いくものがあります。

ちなみにスッポンカレーの主たる具材、スッポンの効能については記事『スッポンの効能-日本の本草書から-』にて紹介しています。

鍼道五経会 足立繁久

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