4月の講座とゴケイメシ ~鹿肉の食物本草能~

4月講座【医書五経を読む】ではお花見を堪能

4月の講座【医書五経を読む】ではお昼休みにお花見としゃれこみました。


写真:近くの願照寺さんにて枝垂れ桜をお花見


写真:桜もイイけど、この時期は楓の新緑も美しい。

脈診書を読むのコーナーでは、『切脈一葦』の「邪正一源」を詳解。病脈の軽・重・極について。その上で当会が推奨する「脈診五要素」のうち“脈数”の重要性について再確認しました。


写真:脈診書『切脈一葦』を読みながら脈診基礎を学ぶ。

さてさて、勉強会後は打ち上げ・ゴケイメシの時間です。今回の宴は蒼流庵 庵主の濱口昭宏先生をお招きしての春の宴であります。
今回のゴケイメシは春なのに「もみじ鍋(鹿鍋)」でした。

春だけど「もみじ鍋」

以下に材料と簡単レシピをメモしておきます。

・エゾシカ肉(1kg・楽天さんにて購入)
・ゴボウ(2本)
・長ネギ(2~3本)
・三つ葉(1p)
・マイタケ(1p)
・エノキ(1p)
・豆腐(1p)
・うどん(7p)

味付けは“市販の旨口醤油ベースの出汁”を使って、川合シェフにお任せ。


写真:エゾシカ肉たっぷりのもみじ鍋

そして今回は蒼流庵易学講座と合同の宴、庵主 濱口昭宏先生をお招きして、新年度の講座スタートに備え、精を付けていきましょう!の回でした。


写真:鍼道五経会と蒼流庵易学講座の鹿鍋パーリー

さてここからは恒例の食物本草のお勉強です。今回は鹿肉に関する食物本草の情報といきましょう。

鹿(シカ肉)の食物本草情報

鹿(シカ肉)の本草学的効能を記す食物本草書の情報を以下に挙げていきましょう。今回の宴で食したのはエゾシカではありますが、シカ肉とエゾシカ肉に大きな差はないという前提で話を進めていきます。

『日養食鑑』に記される鹿肉の効能

本記事では時代順ではなく、低文量順でいきましょう。まずは『日養食鑑』(石川元混 著 1819年)からの引用です。

しか 鹿

肉 甘平。毒なし
中を補い、氣力を益し、陽道を壮んにす。
又、一切の風虚を調え、婦人、腰膝冷える者に宜し。

■原文
しか 鹿
肉甘平。
毒なし
中を補ひ、氣力を益し、陽道を壮にす。又一切の風虚を調へ、婦人腰膝冷る者に冝し

とあります。
「補中益氣」の効能に加え、陽道を壮んにするというのは、鹿茸の効能を彷彿とさせる効能です。これは婦人の腰膝の冷えに対する効能とも重なり、下焦元陽を補する薬能とみてよいのではないでしょうか。

『公益本草大成』に記される鹿肉の効能

次に『公益本草大成』(1698年 岡本一抱)からの引用です。

鹿肉

鹿肉 甘温 中を補し、氣力を益し、五臓を強くし、虚痩弱を助く。血を養い、産後の風虚・中風・口僻を治す。
九月後、正月前に食するに宜しい。他月には食う勿れ。
……(略)……雉肉・蒲白・鮠魚・蝦と同じく、これ(鹿肉)を食えば悪瘡を発する。

■原文
鹿肉 甘温 補中益氣力、强五藏助虚痩弱、養血治産後風虚中風口僻。
九月後正月前宜食。他月勿食。
○豹文者
○鹿肉脯炙之不動者、見水動者、晒不燥者皆殺人。同雉肉蒲白鮠魚蝦、食之發悪瘡。

前述の『日養食鑑』にある「補中益氣」に加えて、「強五臓」「養血」といった食物本草能が記されています。これらの性質については後述するとして、『公益本草大成』で興味深い点は“を食するのに適した時期がある”ということです。
本文には「九月後、正月前に食するに宜しい」とあります。旧暦の九月は9月下旬~11月上旬、正月(一月)は1月下旬~3月上旬と言われていますので、秋から春先が鹿の食べ頃だとのこと。
昔、京丹波に住む地元の古老婦人から聞いたことがあります。「鹿は春先の新芽を食べている時期の季節が臭みが無くて美味い」と。
とはいえ「9月下旬~3月上旬」となると、新芽を盛んに食べる時期でもありません。むしろ越冬前の最も脂ののった時期に食するのが佳し、と考える方が妥当な線でしょうか。また季節を五行的にみて「金季~水季~木季の頃に、補中益気能および下焦元陽を補する薬能をもつ鹿肉を食することの有効性」としても解釈できますね。

『閲甫食物本草』に記される鹿肉の効能

最期に『閲甫食物本草』(名古屋玄医 1669年 自序)からの引用です。

鹿

氣味甘温無毒。
『名医別録』曰く、中を補し、氣力を益し、五臓を強くす。
生なる者(生肉)は、中風口僻を療する。
孟詵が曰く、虚痩弱を補い、血脉を調う。
李時珍が曰く、血を養い、容を生じ、産後風虚邪僻を治す。又曰く、鹿の一身は皆な人を益する。或いは煮、或いは蒸し、或いは脯にし、酒と同じく之を食して良し。大抵、鹿は乃ち仙獣にして純陽多寿の物、能く督脉を通ず。又、良草を食する故に其の肉角は益有りて損無し。……(略)……

■原文
鹿
氣味甘温無毒。別録曰、補中益氣力強五臓。生者療中風口僻。
孟詵曰、補虚痩弱、調血脉。
時珍曰、養血生容治産後風虚邪僻、又曰鹿之一身皆益人。或煮或蒸或脯、同酒食之良。大抵鹿乃仙獸純陽多壽之物能通督脉。又食良艸、故其肉角有益無損。
○閲甫按、畜類穢物而君子㪽不食之者也。貧生者好食之者多。然老人富貴人、好色憂其不及而假之為助、反蒙害者有之。
吁、殺生之咎尤我神國之㪽戒也。如此者神豈不罰之乎。謝肇淛曰、神農嘗百艸以治病。故書亦謂之本艸可見。古之入藥有不過艸根木實而已。其後推廣乃及昆蟲。然殺衆物之生、以救一人之病、非仁人之用心也。況醫之用及昆蟲、又百中之一二乎。
孫思邈道行高潔、法當上昇因著千金方、中有水蛭螻姑為天帝所罰、故能却而不用、亦推廣仁術之一端耳。然今人食之、而為好色不及之助。此好色固喪父母之遺體、天神既咎之、人食戒禁之物、則天神復申罰之、可不速死乎。醫治病不得已不用之可矣。

『名医別録』の引用から、鹿肉がもつ「補中益氣」の効能は古来より認められていたとみてよいようです。また、孟詵や李時珍がいう「調血脉」(孟詵)や「養血」(李時珍)の効能は、単に補益の面ではなく、産後のみならず「風虚」にも良いのです。

また李時珍いわく、鹿肉は煮ても蒸しても干し肉にしても良く、さらに酒の肴としても良いとのこと。確かに鹿肉のジャーキーは美味いと有名ですね。
さらに李時珍の言には「鹿は純陽多寿の生き物であり、督脈を通ずる」ともあります。となると仙道にも好まれた食材なのでしょうか。
近年、鹿による農作物被害や森林被害が問題視される中、このように食物本草からみた鹿にしかない食物本草能にフォーカスを当てたジビエの価値を模索するのも一つの手かもしれませんね。

鍼道五経会 足立繁久

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