【漢方メモ】理中湯(人参湯)および理中丸

漢方MEMOについて

湯液(漢方薬)の方意を勉強するための備忘録です。
漢方薬には方意(方剤の意味・構成生薬の意図)があります。しかしこの方意は医家によって異なります。鍼灸でも同様のことがみられます。同じ治穴でも鍼灸師によってその意図が違ったりします。「これが
正しい!それは間違いだ!」という考えは「以管窺天」な考えです。様々な方意・術理を広く知り解することが視野を広げ、自身の糧となるのです。

※『漢方MEMO 』は各講座の教材として使っています

『傷寒論』記載の理中湯及理中丸条文

『傷寒雑病論』(張仲景 著) 理中湯

辨霍乱病脉證并治

386)霍乱、頭痛、発熱、身疼痛、熱多欲飲水者、五苓散主之。寒多不用水者、理中丸主之。
理中丸方(下有作湯加減法) 人参、乾薑、甘草、白朮(各三両)
右(上記)四味、擣篩、蜜和為丸、如鶏子黄許大。
以沸湯数合、和一丸、研碎、温服之。日三四、夜二服。
腹中未熱、益至三四丸。然不及湯。
湯法、以四物依両数切、用水八升、煮取三升、去滓、温服一升、日三服。
若臍上築者、腎氣動也。去朮加桂四両。吐多者、去朮加生薑三両。下多者還用朮。悸者、加茯苓二両。
渇欲得水者、加朮、足前成四両半。腹中痛者、加人参、足前成四両半。寒者、加乾薑、足前成四両半。
腹満者、加附子一枚。服湯後、如食頃、飲熱粥一升許、微自温、勿発掲衣被。

396)大病差後、喜唾、久不了了、胸上有寒、當以丸薬温之、宜理中丸。
理中丸方 人参、乾薑、甘草、白朮(各三両)
右(上記)四味、擣篩、蜜和為丸、如鶏子黄許大。以沸湯数合、和一丸、研碎、温服之。日三服。

辨胸痺心痛短氣病脉證并治

5)胸痺、心中痞、留氣結在胸、胸満、脇下逆搶心、枳實薤白桂枝湯主之、人参湯亦主之。
人参方 人参、甘草、乾薑、白朮(各三両)
右(上記)四味、以水八升、煮取三升、温服一升、日三服。

江戸期の医家たちのご意見を拝見

『古方節義』における理中湯解説

『古方節義』(1771年 内島保定 著) 理中湯

○理中丸及湯
人参、甘草、白朮、乾姜(已上各三両)
右(上記)四味、搗き篩い末と為し、蜜に和し丸し、鶏黄大の如く。
沸湯数合を以て一丸を和し、研碎(すりくだき)之を温服す。日に三服す、夜二服。
腹中未だ熱せずは、益して三四丸に至り。然るに湯に及ばざる。
湯法、四物を以て両数に依りて切り、水八升を用いて、煮て三升を取り、滓を去りて、一升を温服す、日に三服。

按するに、此の方、夏月外風冷に感じ内冷物に傷られ停滞して化せず、嘔逆泄瀉、脉沈細、或いは伏する者は太陰に属して是、霍乱の症也。
裏寒するゆえに食滞りて化せず。故に乾姜を用いて内を温めて邪を散ず。参朮甘草湯を扶けて氣を益す。甘辛を得て滞らず燥かずなり。
此の方、本(もと)外寒邪に内冷物に傷られ霍乱をなす者の為に設けり。
後世活して温補の總司とする也。此の方、内外の邪を理する方にて理の字と補の字とちがいあり。
理中湯もとより温補の剤なれども、仲景 霍乱に用いられたは、外風寒の邪、内冷食の邪を理する為に建立(こんりゅう)したる方也。
理は治と同じく、内外の邪を治むる合点にて指し出て補中の意にてはなし。
然れども薬は至極の補薬也。後人、附子を加えて附子理中湯と名づく。手足厥冷する者の主方とす。手足厥冷は四逆湯甚だ勝れり。急に温むる時、前にも云う通り、白朮の緩き物、反て邪魔になることあり。されども附子理中湯、温補の重劑と云うものにて、立方の本意は各別の法と心得るべし。
扨又、霍乱と云うものは風寒暑濕、飲食生冷の邪、交雑(こもごもまじわ)りて一時に吐瀉霍乱をなす。表に甚しき時は発熱悪寒し、裏に甚しき時は吐瀉而して腹中大いに痛む。或いは轉筋、厥冷して冷汗出づ。暑甚しき時は大いに渇して引飲して不已(やまず)に、病因同じからざる故に治方も亦 各異なり。惟、其の因を詳らかにすべし。一概に誤り混ずべからず。
熱多く水を飲んと欲する者は飲熱也。五苓散を以て其の飲熱を両解すべし。若し水を飲むこと欲せざる者は是れ中寒する也。理中湯を以て其の中を温むべし。

※『古方節義』京都大学付属図書館より引用させていただきました。

『医経解惑論』における理中湯解説

『医経解惑論』(1776年 内藤希哲 著) 仲景補虚樞要六方論

理中湯、一名人参湯

論に曰く、理中とは胃を理する也。夫れ胃は陽土なり。脾と合して表裏を為す。胃は水穀を納れ之を腐熟し、以て氣血津液を生じることを主る。脾は其の精微を運行し、以て臓腑百体に於いて分布する。
東垣の曰く、胃は乃ち脾の剛、脾は乃ち胃の柔、表裏の謂い也。
飲食不節するときは則ち胃は先ず病み、脾は禀る所無く而して後に病む。労倦するときは則ち脾が先に病み、胃は其の津液を行らすを為すこと能わず、而して後に胃が病む。其の生ずる所の前後異なると雖も、而して禀る所の邪は則ち一つなり。夫れ飲食は節せず、労倦は度を失いて、胃の陽一たび衰ろうときは則ち受納腐熟すること能わず。陰陽は乖戻し、胃中に濁乱れ、臓腑経絡は皆な其の養を失い、内外の邪に傷感(傷れ感ずる)に於いて易し、百病は此れに由りて起きる。故に仲景は此の湯を制し以て之を理する。

人参、甘草の甘温は、以て脾胃を養う。
白朮の苦温は、以て胃土を固め、水溼(湿)を燥かす。
乾薑の辛熱は、以て胃陽を補い濁陰を去る。
溼(湿)去れば濁除く。胃は陽壮を固めて百邪を伏すべし。
夫れ胃陽の虚する者、腹満心痞、心腹疼痛、胸脇逆槍、嘔吐噦噫、腸鳴泄利、臍上築動、心下悸煩、小便不利、渇好熱湯、不思飲食などの証あり。
凡そ諸病に此れらの候の一二でも見れる者は、何れの病かを問わず、先ず之を用いて當と為す。此の方、小建中湯と並び立つこと車に両輪の有るが如し。其の用、博く多し。其の効は神の如し。世の病を患い、飲食労倦に由りて起る者には、十のうち常に八九居る。
仲景、此の二方を設け、以て之を建理す。所謂(いわゆる)調理脾胃を調理するは、医中の王道、是也。更に炙甘草湯、桂枝湯を設けて、以て上焦心肺の陰陽を補う。腎氣丸、四逆湯、以て下焦腎中の陰陽を補う。六方を柱立して聖人は本を務めて民を仁(にん)じるの意を備うなり。其の他、温涼寒熱、汗吐下滲の諸方のごとく、皆な之を輔相すること裁成する而已(のみ)。惜しむかな、王叔和が妄りに撰次を作して、此の方論を遺亡す、僅かに霍亂篇 理中丸方後に於いて寄録す。
後の諸賢、或いは桂枝麻黄青龍を以て方の大意を為し、或いは汗吐下三法を以て書中の眼と為さしむる。此れ余の已むを得ざる所以なり。

■原文)
論曰、理中者理胃也。夫胃陽土也。與脾合為表裏。胃主納水穀而腐熟之、以生氣血津液、脾運行其精微、以分布於藏府百體。東垣曰、胃乃脾之剛、脾乃胃之柔。表裡之謂也。飲食不節則胃先病、脾無所禀而後病。勞倦則脾先病、不能為胃行其津液、而後胃病。其所生之前後雖異、而所禀之邪則一也。夫飲食不節、勞倦失度、胃陽一衰則不能受納腐熟。陰陽乖戾、胃中濁亂、藏府経絡皆失其養。内外之邪易於傷感、百病由此起。故仲景制此湯以理之。
人参甘草甘温、以養脾胃。白朮苦温、以固胃土、燥水溼。乾薑辛熱、以補胃陽去濁陰、溼去濁除。胃固陽壮、而百邪可伏。夫胃陽虚者、有腹満心痞。心腹疼痛、胸脇逆槍、嘔吐噦噫、腸鳴泄利、臍上築動、心下悸煩、小便不利、渇好熱湯、不思飲食等証。凡諸病見此候一二者、不問何病、先用之為當。此方與小建中湯並立、如車有両輪。其用博多。其効如神。世之患病、由飲食勞倦起者、十常居八九。仲景設此二方以建理之。所謂調理脾胃者、醫中之王道、是也。更設炙甘草湯桂枝湯、以補上焦心肺之陰陽。腎氣丸、四逆湯、以補下焦腎中之陰陽。六方柱立而聖人務本仁民之意備矣。如其他温涼寒熱、汗吐下滲諸方。皆裁成輔相之而已。惜乎。王叔和妄作撰次。遺亡此方論、僅寄録於霍亂篇理中丸方後、使後諸賢或以桂枝麻黄青龍為方之大意、或以汗吐下三法為書中之眼。此余之所以不得已也。

※『医経解惑論』京都大学付属図書館より引用させていただきました。

『腹證奇覧翼』における人参湯解説

『腹證奇覧翼』(1808年 和久田叔虎 著) 人参湯(一名、理中丸)

人参湯の證(一名、理中丸)

右図(下図)の如く、胸中痞ぎ、心下を按するに鞕く、胸腹若しくは腰脚冷え、小便しげく、大便くだり、或いは常に䳱溏(ぶとう・やわらにいる)し、或いは心腹痛み、或いは胸痺し、或いは喜みて唾はき、胸中心下こころよからざるもの、人参湯の証なり。

此の証、心下痞鞕を以て主とすといえども、一躰腹状、大柴胡などとちがいて力なく、満すといえども、按して痛み引きつらず、臍下は殊に力なく覚うべし。

是れ中焦冷えて、胃上の寒飲さばけず、胃陽衰えて尅化の利 乏しく、因って胸中心下の患いを致すものとす。故に霍乱吐瀉して渇せざるの類、いずれ脾胃の運転健やかなるざるを以て、見証に対察して之を知るべし。

此の方や、人参、朮、乾姜、甘草、其の分量を等しくして、痞を開き、飲を退け、冷を温ため、水を利し、急を緩めて、以て胃陽を盛んにす。是に於いて水穀分利して、穀化して飲停まらず、中焦の理化を得るに以て、理中の名あり。
其の能を別ち、材を論ずるに、痞塞を開き停水を去るは参朮の主る所にして、冷を温め急を緩くするは乾姜、甘草の力を戮(あわ)すにあり。而して其の病の在る所を審らかにすれば、主として胃口に痞塞す。是れ人参、之が先鋒をなすに非ざれば、其の功を得べからず。因りて又、人参湯の名あるもの、其の将師の任を示すものなり。

乾姜甘草湯、冷を温め、急を緩め、下焦に達す。其の意、彼の方下に於いて之を辨ず。

論に曰く、傷寒、湯薬を服して下利止まず、心下痞鞕し、瀉心湯を服し已(おわり)、復た他薬を以て之を下して利止まず。毉、理中を以て之を與うるに、利益々甚し。理中は中焦を利す。此の利は下焦に在り。赤石脂禹余糧湯之を主る

傷寒、初め誤り下して止まざるもの、湯薬を服して止めんとすれども、下利止まらず。心下に痞鞕するを見て瀉心湯の証として、之を服すれども下利止ず。因って又、實邪攻むべきものとみて、復(ふた)たび他薬を以て之を下すに、下利止まず。
一毉、前の誤治、中焦虚冷を致すものとして、理中を以て之に與えて、中焦を調理せんとすれども、利止まず。却って益々甚しきに至る。理中と名づくる所以は、中焦を理するの義にとるものなれども、此の利は中焦にあらずして、下焦にあり。赤石脂禹余糧湯の下焦に達するものに非ざれば、主治すること能わざるとなり。
瀉心湯は甘草瀉心湯なるべし。復の字、初に誤下あるの意を見、理中以下は論者の判断、補中といわずして理中というもの、蓋し古義ならん。

右の一章、理中丸の主治を論ずるに非ずして、却て、理中を用いるの辨、甚だ明らかなり。之を呉茱萸湯、上中二焦の辨と併せ読みて、病毒一なりといえども、其の在るところの位に隨って、各々其の主薬と異にするの義を見るべし。

又曰く、霍乱、頭痛、発熱、身疼痛。熱多く、水を飲まんと欲する者は五苓散之を主る。寒多くして水を用いざる者は理中丸之を主る。

霍乱は揮霍撩乱の病名。揮霍は“ふるう”なり。繚乱は“とりみだす”なり。此の病、吐利轉筋す。是の名を称する所以なり。
頭痛、発熱、身疼痛して、渇するもの、表証多くして、熱勝つ。五苓散、桂枝を主として、利水の薬を伍す。表を和し、水を治するの劑なり。寒多きものは吐利、逆冷、轉筋等の証を発して、水を飲むことを欲せず。理中丸、之を主るなり。是れ、霍乱、吐利、寒熱の治法を幷論するもの、其の別あきらかなり。

又曰く「大病差(いえ)て後、喜(このんで)唾し、久しく了了たらざる者は、胃上に寒有り。當に丸薬を以て之を温むべし。理中丸に宜し。」

了は埒の付くことなり。大病は一段差(いえ)て後、喜んで唾(つばき)をはき、久しくあとのさっぱりと埒のつかざるは、胃上に寒飲あるものとす。是は温劑の丸薬にて、漸々あたためて愈ゆべし。其の丸薬は理中散が其の場に宜しきを得るなりと也。
喜唾は、俗にいう“なまつばき”をはくこと。胃上は、即ち心下の位にして、人参の主るところなり。

証に曰く「胸痺、心中痞し、留氣結んで胸に在り。胸満、脇下逆して心を搗く。枳実薤白桂枝湯之を主る。人参湯も亦た之を主る」

胸痺は、胃前の皮しびれ、胸中痞がり痛むところの病名なり。千金論に言う「胸痺の病、人をして心中堅痞、急痛、肌中痺を苦しみ、絞急(すること)刺すが如く、俛仰するを得ず。其の胸前の皮、皆痛み、手犯すことを得ず。胸中幅々(ふくふく)として満つるが如く。咽塞がり習々として痒く、喉中乾燥して時に嘔吐せんと欲し、胸満短氣、欬唾引痛、煩悶、自汗出で、或いは背腹に徹引して痛む。即(ただち)に之を療せざれば、数日にして人を殺す、と。此れ詳らかなりというべし。
又、徳本云う「胸中に冷え、痰結宿飲ありて痛むもの、是れ胸痺なり。理中散によろし」と。併せ考うべし。

此の本文に胸痺というもの、右の意を以てみるべし。心中痞を覚えるは、鬱留の氣が結んで、胸に在るが故なり。是を以て心中痞して、つまるようになり。胸中一はい(いっぱい)にはりふくれていきだわしく(張り膨れて息急しく)、脇下よりは逆して心をつくもの、鎗(やり)などにてつくごとくに痛むなり。衝心と書かずして、搶心と書きたる意を見るべし。是れ胸中冷えて痰結宿飲あり。加うるに氣、鬱結して散ぜず、却て逆するものと知るべし。枳実薤白桂枝湯も、痞を開き、痰を退け、冷を温して、逆氣を下すものにして、其の異なるところは喘息咳唾の証あるを別とす。人参湯は涎を吐せども、喘息咳唾せずして、逆冷急迫等、較(やや)冷寒の証多きを以て分別すべし。

右(上記)諸章の意を審らかにするに、中焦を理すといい、胃上の寒を温(あたた)むといい、寒多くして水を用いずといい、胸痺というもの皆、此の方の主る所にして、其の患うる所、或いは下利、或いは吐利、或いは吐利併せ至り、或いは喜く唾し、或いは胸痛等の証を発するもの。要するに是れ寒飲冷水、胃陽を犯し、中焦の理化を妨害するもの。痞を開き、冷を温め、飲を去り、急を緩めて、諸証自ら愈ゆるの意、明らかなり。
是の故に、所謂、中寒、痼冷、疝氣、積聚、諸嘔吐の証、噦逆、噯氣、心腹痛、滞食、不食、泄瀉䳱溏(ぶとう)、遺溺、小便不利、吐酸呑酸、癇証等、及び小兒の魃病(きびょう)、疳証、滞頤(たいい)、顖陥の病、中焦の虚寒に属して、胸中痞塞、心下痞鞕等の腹証あるものを対察して、此の方の証を定むべし。

或(あるひと)曰く、飢えて食を欲し、却て多く食すること能わざるもの、俗に“ちかがつえ”という。世毉、以て積の致すところとす。人参湯の証多し。若しくは飢えて食を貪り、多食して止まざるものは、所謂“藏燥”にして、甘麦大棗湯の証なり、と。

又曰く、諸病、卒(にわか)に心下に迫り、痞閉、急痛、短氣の者を治す、と。
又、徳本に曰く、心痛、背に徹して、乍ち冷え、汗出、脈結し、少氣(いきぎれする)の者、甘草湯にて、理中散を送り下して妙なり、と。是亦、急迫の証、多きものを考うべし。

附方 四方(略す)


※『腹證奇覧翼』京都大学付属図書館より引用させていただきました。

『勿誤薬室方函口訣』における理中湯解説

『勿誤薬室方函口訣』巻上(1878年 浅田宗伯 著) 

理中湯

此の方は、理中丸を湯にする者にして理は治也。中は中焦、胃の氣を指す。乃ち胃中虚冷し、水穀化せず、繚乱吐下して譬えば線の乱るが如くを治する故に、後世 中寒及び霍乱の套薬とす。

余が門にては太陰正治の方として中焦虚寒より生ずる諸症に活用するなり。
吐血下血崩漏吐逆等を治す、皆此の意なり。

『勿誤薬室方函口訣』京都大学付属図書館より引用させていただきました。

各医書に関する詳しい考察はここでは控えます。当会では各講座にて皆と共に方剤・方意について考察し学び、そして鍼灸の術と治療に活用します。

鍼道五経会 足立繁久

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