【漢方メモ】当帰四逆湯

漢方MEMOについて

湯液(漢方薬)の方意を勉強するための備忘録です。
漢方薬には方意(方剤の意味・構成生薬の意図)があります。しかしこの方意は医家によって異なります。鍼灸でも同様のことがみられます。同じ治穴でも鍼灸師によってその意図が違ったりします。「これが
正しい!それは間違いだ!」という考えは「以管窺天」な考えです。様々な方意・術理を広く知り解することが視野を広げ、自身の糧となるのです。

※『漢方MEMO 』は各講座の教材として使っています

『傷寒論』記載の当帰四逆湯条文

『傷寒論』(張仲景 著) 当帰四逆湯

辨厥陰病脉證并治

手足厥寒、脉細欲絶者、当帰四逆湯主之。
当帰四逆湯方 当帰(三両)、桂枝(三両去皮)、芍薬(三両)、細辛(三両)、甘草(二両炙)、通草(二両)、大棗(二十五枚擘。一法十二枚)
右(上記)七味、以水八升、煮取三升、去滓、温服一升、日三服。

辨不可下病脉證并治

下利、脉大者、虚也。以強下之故也。設脉浮革、因爾腸鳴者、属当帰四逆湯。
当帰四逆湯方 当帰(三両)、桂枝(三両去皮)、細辛(三両)、甘草(二両炙)、通草(二両)、芍薬(三両)、大棗(二十五枚擘)
右(上記)七味、以水八升、煮取三升、去滓、温服一升半、日三服。

江戸期の医家たちのご意見を拝見

『腹證奇覧翼』における当帰四逆湯解説

『腹證奇覧翼』(1808年 和久田叔虎 著) 当帰四逆湯の證

図の如く拘攣すること桂枝加芍薬湯、小建中湯の腹状に似たり。
且つ左の臍傍 天枢の上下に攣痛するものあること、当帰芍薬散、当帰建中湯の證に似たり。
右の少腹腰間に於いて結聚するものあり。手足冷え、脉細にして力なきもの当帰四逆湯の證とす。

案ずるに、此の方は桂枝湯方中、生姜を去りて細辛に代え、更に當歸、通草を加え、大棗を増したるものなり。
下焦の寒氣上りて心下にあり、正氣抑塞せられて、肌表に充たずして四肢に及ばず。血脈渋滞して駃流の勢なきものとす。
細辛 能く中焦の冷氣を散じ、胃口に抑塞せる水氣を排(おしひらき)、
通草 能く其の水を引いて小便に利し、関節を通じて陽氣を導くに便(たより)す。

餘は血脈を和し、正氣を滋達すること、桂枝湯の旨意なるものと知るべし。但、當歸は之が主となりて、芍甘の二味に和し、腹中の結血攣引するものを解くことを能くす。

論に曰く「傷寒、手足厥寒、脈細にして絶えんと欲する者、当帰四逆湯之を主る。」
これは平素 氣虚のもの、外邪襲い入りて心胸にあり。正氣之が為に抑遏せられて、四肢より厥逆し、脈細にして絶えんと欲するもの、此の方を以て心胸間の寒邪を排(おしひら)き、水氣を下に導きて、正氣を舒暢すれば、厥寒復(ま)た温まり、脈に陽氣を帯びて愈るなり。
三味の四逆湯との別は、彼は既に内に在りて、下利清穀の証をあらわすものとす。故に四肢に於いても厥冷をいう。冷はつめたきなり。内に屬する詞(ことば)とす。寒はさむきなり。外より来たる氣のさむきを覚ゆることなり。外に屬する詞とす。
此の証、心胸に在りて、未だ腹内の變をあらわさず。故に文を變じて厥寒と書き、其の異を示すなり。
細は幅のなく絲のごとき脈なり。故に絶えんと欲すという。きれそうに思うなり。

又曰く、下利、脈大なる者は虚なり。其の強く下すを以ての故に、設し脈浮革し爾(しかる)に因りて腸鳴する者は、当帰四逆湯之を主る。

脈大とは所謂、洪大無倫の謂いなり。浅く按すときは大(ふと)く幅あれども、深く按すときは細くして蜘蛛絲のごとくなる脈なり。革は弦大にして芤なる脈をいう。芤は中のうつろにして葱(ひともじ)の切口に指をあつるごとしといえり。虚寒の候なり。
さて此に言う「下利脈大者虚也」の一句は例なり。
「以其強下之」以下が此の方の証をいうものなり。言うこころは、凡そ下利の脈大なるものは虚寒の例なり。今、病人其の強く之を下すを以ての故に、胃陽衰えて、設し脈に浮革をあらわさば以て實とすべからず。
「因爾(爾(しかる)に因りて)」とは、強く下すに因りてなり。強く下すに因りて下利はせずとも、脈浮革にして腸中水鳴するものは虚寒とすべし。
「此方主之」なり。此の証、前章と脈、細大相反するがごとくなれども、其の歸は一なり。而して此の脈(大脈のこと)、彼(細のこと)よりは一等虚の甚しきものとす。

愚、案ずるに、凡そ虚寒の証にして脈浮大なるもの、腹候、動氣心下に迫りて浮大の状あり。誤りて陽証とすべからず。
又、案ずるに、三味の四逆湯は下すに因りて下利清穀を致すもの、此の方は下すに因りて但だ腸鳴り、脈に虚証をあらわすもの。亦 内外の異るなり。

加呉茱萸生姜湯

又曰く、若し久寒ある者、当帰四逆加呉茱萸生姜湯之を主る

久寒は水毒の寒をなしたるものなり。乃ち下焦の虚寒、疝毒、宿飲の類、胃口にあつまり、陽氣を抑塞して飲食剋化の利を妨げるもの是れなり。此の証、但だ久寒とのみ言いて、其の証を詳らかにせざるを以て、或いは吐利を指すの説あれども、今、余が試験するところを以てするに、或いは宿飲中焦に滞りて、吐酸、呑酸等の証を成すもの、或いは冷氣衝逆して心下に迫り胸脇を攻め、乾嘔涎沫を吐するもの、或いは腹痛、或いは吐利、或いは轉筋、婦人の積冷血滞、経水短少、腹中拘攣、時に心下脇下に迫り、肩背強急、頭項重痛の類、概するに久寒の致すところなり。其の脈証を審らかにして、外(ほか)手足寒く脈細なるを得ば、本方を用いて効あらずということなし。
呉茱萸、生姜、細辛、力を戮(あわせ)て胸膈の宿飲停水を排(おしひら)き胃口を豁(ほがらか)にし、冷氣を散じ衝氣を下して、桂枝諸薬の氣血を調化し、陽氣を宣達するものにして、其の用を利せしむるもの考うべし。

湖南老翁、浪華の堂洲(どうじま)に僑居(きょうきょ)するの日、一夕轉筋を患う、其の証、胸腹拘急、背膊強ばり、頭脳痛、口舌乾燥す。舌を弄して唇を濡さんとすれば、忽ち轉筋し脈直にして死せんと欲す。
門生の傍らに侍するものをして方を處せしむ。桂枝加芍薬、或いは括蔞桂枝湯を作りて進むと雖も寸効なし。因りて鶏屎白二銭を服す。亦、効なし。近隣に湯村生なるものあり。招きて診せしむ。
生が曰く、脈澁(しぶ)りて轉筋す。当帰四逆加呉茱萸生姜湯を用うべし、と。
其の口舌の燥くものは舌筋轉ずるによつて、血分動いて津液をかわかすもの、以て熱候とすべからず。乃ち本劑を作りて服さしめ且つ鍼治を加えて病勢をすこしくゆるむ。續服一昼夜、翌夕にいたりて愈(いえ)て常に復す。
翁、大いに湯村生の偉効を称嘆して、以て予に語れり。因って其の事を附記して参考にそなう。

○或(あるひと)曰く、腹皮一面にすじはり、板のごとくにして一點の間隙なく、四肢冷え脈澁るものは当帰四逆湯の方内に烏頭一銭を加う、効ありと。
又、療治茶談に云く、年久しく疝を病む人。脾胃虚寒すれば多くは反胃膈噎となる。疝氣の反胃は毉書に方論なし。此の見分けは、腹中雷鳴して心下へさしこみ、少腹へ横すじかいに下り、腰に陥りて止(とどま)る。当帰四逆湯を用う、と。
愚、案ずるに、これ亦 久寒というべし。呉茱萸生姜を加うを可とすべし。
或(あるひと)曰く、凡そ呉茱萸を用うべきの腹状は、両の脇下、章門の行、引きつり之を按して痛む、と。これ亦、一案に備うべし。


※『腹證奇覧翼』京都大学付属図書館より引用させていただきました。

『勿誤薬室方函口訣』における当帰四逆湯解説

『勿誤薬室方函口訣』巻上(1878年 浅田宗伯 著) 

当帰四逆湯

此の方、柴胡附子と伍すること古方の意に非ざれども、姑(しばらく)四逆散の變方と見做して腹中二行通りに拘急あり。腰胯に引きて冷痛する者を治す。此の方の一等甚しく腰脚冷痛する者を止痛附子湯とする也。 『勿誤薬室方函口訣』京都大学付属図書館より引用させていただきました。

各医書に関する考察はここでは控えます。当会では各講座にて皆と共に方剤・方意について考察し学び、そして鍼灸の術と治療に活用します。

鍼道五経会 足立繁久

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