葉天士の『幼科要略』その1 小児だからこそ

葉派医学は『温熱論』で十分か?

温病学派を学ぶべく、最近まで葉天士の『温熱論』を記事にしていましたが、どうもスッキリしない点が残されています。
確かに衛気営血弁証や舌診・癍疹など熱病に対する診察と診断の有為性は分かりました。が、『温熱論』だけ読んで葉家医学を理解できるとは到底思えません。『温熱論』自体もボリュームの少ない書ですから、本来ならば『臨床指南医案』だけでもじっくり目を通さないと葉天士の医学を記事にすることも失礼に当たるというもの。

しかし、それはそれで壮大すぎるボリュームなのものあり、また思うところがありまして葉天士が説く小児科を学ぼうと思い『幼科要略』を記事に挙げてみようと思います。

以下に書き下し文(黄色枠)と原文(青枠)を記載します。
『温熱論』は『温熱湿熱集論』福建科学技術出版社および『葉天士医学全書』山西科学技術出版社を参考および引用しています。
書き下し文に訂正箇所は多々あるでしょうがご容赦ください。現代語訳には各自の世界観にて行ってください。

書き下し文・幼科要略の第1章(前)

古呉 葉桂 天士先生 著
滸関 李大瞻翰圃
錫山 華南田岫雲  同校
卲銘新甫
【按】

襁褓(むつき)小児、体は純陽に属し、患う所 熱病が最も多い①
世俗の医者は、固(もと)より六氣の邪は皆 火化に従い、飲食は停留し、鬱蒸して熱に変ず、驚恐は内に迫り、五志動じ極まるは皆陽であると謂うことを知る②
奈(いかん)今時の治法、初なるときは則ち発散解肌し、以って表熱を退く、仍(しばしば)消導を混入す。継ぎて清熱苦降を用い、或いは下奪を兼ねる③
再び病家にして乳食を禁絶せしめ、毎(つねに)胃氣を索然と致す、内風来たりて乗じ、変じて驚癇を見(あら)わし、斃を告げること甚だ多し④ 世俗の通套の方薬を下に附記す。知らずんばある可からず、取法の足らざる也。

防風、荊芥、葛根、前胡、桔梗、木通、赤芍、蔔子(萊菔子。大根を萝卜、蘿蔔という)、厚朴、陳皮、山楂子、麦芽、枳殻、神曲(神麹か)釣藤鈎、
夏佐香薷(夏季は香薷を佐とす)、冬佐麻黄(冬季は麻黄を佐とす)⑤、羌活。

両三日 熱の解せざるときは、柴胡、前胡、黄連、黄芩、山梔子、連翹、薄荷、葛根、木通、釣藤鈎、厚朴、枳実、括蔞実。
丸剤には必ず大黄を用う。

四五日 (熱が)解せざるときは、但だ食滞の未だ尽くせざるを言う、表裏和せず、総じて柴苓小陥胸を以てす。
若し嘔逆煩渇するは、竹茹、黄連、半夏を用う。
若し痰多く喘促するは、即ち葶藶子、杏仁、紫蘇子、蔔子(萊菔子)、胆星(天南星の細末と牛羊猪の胆汁を発酵させたもの…らしい)貝母を用う。甚しき者は牛黄を加う。
此れ皆(みな)套法、當に戒めるべき所也。

屡(しばしば)清消(清熱消導)して愈えず、便(すなわ)ち方法無し。苟くも驚に変ぜずも、必ず骨蒸孩勞と曰う。用いる薬餌の所、氣血陰陽を分けず、但だ見症を知りて治を施す。
早涼暮熱の如きは、必ず地骨皮、牡丹皮、生地黄、元参(玄参?)、甘草、北沙参、石斛、知母を用う。
有痰には紫蘇子、杏仁、貝母、橘紅、胆星、桔梗、其釣藤鈎、石斛、茯苓、穀芽之属を加え、毎剤に必ず用う。
之を総じて、無故の疲薬を取り、其の自愈を待つ。倘(もし)変証有れば、掩飾して已むことを希冀(こいねがう)。

小児科医学の現状を説く

と、ここまでは世俗の小児科医の現状を述べることで、従来の小児の熱病の治法の問題点を説いています。

下線部①小児の体は本質的に純陽である。小児科、小児はりを実践する者であれば当然知っておくべき基本体質というものがあります。
「小児は純陽」であり「五行では木に属す」そして「胎毒」という体質を理解しておくことは必須の知識であるといえましょう。
これら基本体質が基盤となって、下線部②の症状群を引き起こすことになります。

下線部③「病の初期には発散解肌して表熱を処理し、時に消導も加える。次いで清熱苦降を用い、或いは下法を兼ねる。」という意味でしょう。まずは表に対する治法を基本とし、加えて宿食内実を処理する表裏双解を示唆、さらに表熱が陽明位に侵攻すれば経に対して清熱、もしくは腑に対して攻下する…といった熱病治療の傷寒論医学の治療戦略が書かれています。

下線部④では間違った病後指導の弊害を指摘しています。
「乳食を禁じて胃氣を空虚な状態にする。この虚によって内風が生じて、驚癇のような変証が起こり危険な状態となる。」
熱化を防ぐため乳食を禁止させるのですが、度を過ぎると胃氣が索然(空虚)となります。小児の身体は未完成であり脆く弱いもの、簡単に虚に転じるのです。しかし小児の基本体質は純陽の性を持ちます。裏虚に陥ると簡単に陽が上亢して内風を生じます。ここで警戒すべきは驚風・驚癇(ひきつけ)です。

この驚風・驚癇までの病理ストーリーは、小児科医書であれば必ずと言って良いほど記されています。ひきつけ・痙攣の治療法を学ぶ必要があるのか否か…ではなく、小児の体質を理解するためには、この病理を理解しておくことが重要なのです。

ちょっと一息・香薷のお花


写真:ナギナタコウジュ(薙刀香薷)の花。2020年10月「金匱植物同好会 第四回薬草見学会」にて撮影

「夏佐香薷、冬佐麻黄」(下線部⑤)という言葉が登場しました。
「夏月之用香薷,猶冬月之用麻黄(夏月の香薷を用いるは、猶 冬月の麻黄を用いるが如し。」という言葉あるようです。
「夏月の受冷飲冷により陽気が陰邪に阻遏されて生じる、頭痛・形寒・発熱・無汗と腹痛吐瀉などの「陰暑」に対する主要な解表薬」であると『中医臨床のための中薬学』(医歯薬出版株式会社 刊)には記されています。

なるほど、陽性の強い小児であるからこそ陥りやすい病理でもあります。形寒飲冷により陽気が圧迫を受けて生じる病態というのは現代日本では大いに起こり得ることです。鍼灸師は知っておくべき病態像の一つでしょう。

下線部⑤以下はちょっと端折りまして次に進みます。

書き下し文・幼科要略の第1章(中)

愚按ずるに、嬰児の肌肉は柔脆にして、風寒に耐えず、六腑五藏は氣弱く、乳汁を化すること難し。内外二因の病自ずと多し。然るに風寒に非ずして竟(つい)に外感を致し、停滞せずして已に内傷に属すこと有り。其の故は何ぞ?
嘗(かつて)思う、人は氣交の中に在り、春夏は地氣の升、秋冬は天令の降、呼出吸入、時とともに消息す。間(まま)穢濁を吸入すること有り、即ち是(これ)三焦が邪を受ける。募原を過ぎて中道に直行して、必ず発熱煩躁す①
倘(もし)幼医、但だ前薬に執り、表散消導し、清火通便して、病軽ければ或いは幸いに成有り、病重ければ必然として顛覆す②
銭仲陽云う、糞履襁褓 小児に近づくべからず。余言う、無据に非ざるなり。四十年来、治効頗る多し、其の概云を略述す。

小児熱病だからこそ温熱論の病伝は適用される

冒頭では小児特有の体質を再度示すことで小児科における熱病治療の難しさを説いています。

そして下線部②に注目しましょう。
「従来の治法に執着し、表散消導、清火通便」するというのは上記下線部③の治法です。
この従来の治法に拘ってしまうと、軽症であれば幸いにしてそれなりの効果はあるが、重症に対しては無効などころか、悪化させ危症に陥ってしまうゾと警告しています。

そして従来の治法が無効である理由として、葉天士は新たな病理を提示しているのです。『温熱論』でも学んだことですが、もう一度確認しましょう。
「邪は口鼻から入り、三焦が邪を受け、募原を経て中道に直行する」とあります。
ここでも“募原”が登場しますが、中道という言葉も併せて使われています。これは葉家医学を理解するチャンスかもしれません。
ということで“中道”をキーワードに『臨床指南医案』を通覧してみましょう。

『臨床指南医案』巻五 湿(湿熱穢氣阻竅)より
「時令湿熱の氣は、口鼻より触れ、募原より以って中道に走りて、遂に清粛不行なるを致し、飢えず食せず。但だ湿熱の化熱の漸なること、機窮の霊動なること為さざることを致す、形質と滞濁に別有り。…」
(李 時令湿熱之氣、触自口鼻、由募原以走中道、遂致清粛不行、不飢不食。但湿熱乃化熱之漸、致機窮不為霊動、與形質滞濁有別。…)

『臨床指南医案』巻五 疫(癘邪入膻漸于心胞)より
「疫癘の一症は、都(みな)口鼻よりて入り、中道に直行し、三焦に流布する、此れ傷寒の六経に非ず、表(表発)す可し、下す可し。…」
(疫癘一症、都従口鼻而入、直行中道、流布三焦、非此傷寒六経、可表可下。…)」

『臨床指南医案』巻十 痘(肝腎蘊毒悶症)より
「痘瘡の病中に復た温邪を感じ、口鼻より触入すれば、中道より以って絡脈に布及す。目泛失明し、左肢挙らず、少腹は突起腫満し、両足皆痿する。…
(卲 痘中復感温邪、口鼻触入、由中道以布及絡脈。目泛失明、左肢不挙、少腹突起腫満、両足皆痿。…)」

『臨床指南医案』では上記のように“中道”という言葉が用いられています。
「温邪・疫癘の氣は口鼻から侵入する」ことは既に学んだ通り。ですが、上記には3つの病伝が示唆されています。
①募原を経由して中道に行く(由募原以走中道)という病伝。
②口鼻から中道に直行し、そこから三焦に流布する病伝。
③口鼻から中道に、中道から絡脈に布及する病伝

募原(膜原)・三焦・絡脈の三者に介在する存在として中道が記されています。

ちなみに③の病伝に登場する絡脈ですが『霊枢』百病始生第六十六にある絡脈(※)とは少し趣きが違うように感じます。

『霊枢』百病始生第六十六
「留りて去らざれば、則ち伝えて絡脈に舎す、絡に在るの時、肌肉に於いて痛む、その痛の息する時、大経乃ち代する。」
(…留而不去、則傳舎於絡脈、在絡之時、痛於肌肉、其痛之時息、大経乃代。)

葉天士の書を見ると“絡脈”という言葉は「経絡の絡脈」としても用いられていますが、それよりも深い層にある存在としての“絡脈”という言葉も用いているようです。詳しくはまたの機会としましょう。

中道に病邪が至ることで「発熱煩躁」「清粛不行、不飢不食」といった病態・病症が起こります。陽明胃経や胃腑に位置的にも機能的にも近しい存在であることが推測できます。

いずれにせよ、小児熱病にも『温熱論』の病伝は適用されることが分かります。
いえ、ここは敢えて言い換えて強調しましょう。純陽の体を持つ小児だからこそ『温熱論』の病伝は適用されるのであって、葉派医学を理解するには『幼科要略』を学ぶことは重要であると考えています。

書き下し文・幼科要略の第1章(後)

夫れ春温夏熱、秋涼冬寒、四時の序也。
春 温に応じて反て大いに寒、夏 熱に応じて反て大いに涼、秋 涼に応じて反て大いに熱、冬 寒に応じて反て大いに温。
皆 不正の乗氣也。病 外より感ずるは、治は陽分に従う。
若し口鼻が氣を受けるに因り、未必ずしも恰(ちょうど)足太陽経に在らず。
大凡(おおよそ)吸入の邪は、首先に肺を犯し、発熱咳喘す。口鼻均入の邪、上を先にして中に継ぐ、咳喘は必ず嘔逆䐜脹を兼ねる。外邪に因ると雖も、亦(また)是(これ)表中の裏。
設し世医の宗とする陽経を発散す、汗すと雖も解せず。
幼稚は質薄く神祛し、日期多延すれば、病変じて錯綜す、茲(ここ)に四氣の常法を以て列下す。

その1では従来の小児熱病に対する治療法の問題点を主張
その2では葉氏が提唱する温熱病病理を小児にも適応可であることを提示
その3では四季における天氣の動き・四時の序と人体・病との関与を示唆しています。

最後にある「四氣の常法」とはこの後に続く「伏氣」「風温」「夏熱」…「秋燥」「冬寒」のことでしょう。
熱病の本質的な理解に挑戦していきましょう。

鍼道五経会 足立繁久

■原文

幼科要略按、襁褓小兒、体属純陽、所患熱病最多。世俗醫者、固知謂六氣之邪皆従火化、飲食停留、欝蒸変熱、驚恐内迫、五志動極皆陽。奈今時治法、初則発散解肌、以退表熱、仍混入消導。
継用清熱苦降、或兼下奪。
再令病家禁絶乳食、毎致胃氣索然、内風来乗、変見驚癇、告斃甚多。附記世俗通套之方薬于下、不可不知、不足取法也。防風、荊芥、葛根、前胡、桔梗、木通、赤芍、蔔子、厚朴、陳皮、山楂子、麦芽、枳殻、神曲、釣藤鈎、夏佐香薷、冬佐麻黄、羌活。両三日熱不解、柴胡、前胡、黄連、黄芩、山梔子、連翹、薄荷、葛根、木通、釣藤鈎、厚朴、枳実、括蔞実、丸剤必用大黄。四五日不解、但言食滞未尽、表裏不和、総以柴苓小陥胸。若嘔逆煩渇、用竹茹、黄連、半夏。若痰多喘促、即用葶藶子、杏仁、紫蘇子、蔔子(萊菔子)、胆星、貝母。甚者加牛黄。此皆套法、所當戒也。屡清消不愈、便無方法。苟不変驚、必曰骨蒸孩勞。所用薬餌、不分氣血陰陽、但知見症施治。
如早涼暮熱、必用地骨皮、牡丹皮、生地黄、元参(玄参?)、甘草、北沙参、石斛、知母。
有痰加紫蘇子、杏仁、貝母、橘紅、胆星、桔梗。其釣藤鈎、石斛、茯苓、穀芽之属、毎剤必用。
総之、取無故疲薬、待其自愈。倘有変証、希冀掩飾而已。

愚按、嬰児肌肉柔脆、不耐風寒、六腑五藏氣弱、乳汁難化。内外二因之病自多。然有非風寒竟致外感、不停滞已属内傷。其故何歟?
嘗思人在氣交之中、春夏地氣之升、秋冬天令之降、呼出吸入、與時消息。間有穢濁吸入、即是三焦受邪、過募原直行中道、必発熱煩躁。
倘幼医但執前薬、表散消導、清火通便、病軽或有幸成、病重必然顛覆。
銭仲陽云、糞履不可近襁褓小兒。余言非無据矣。四十年来、治効頗多、略述其概云。

夫春温夏熱、秋涼冬寒、四時之序也。春應温而反大寒、夏應熱而反大涼、秋應涼而反大熱、冬應寒而反大温、皆不正之乗氣也。病自外感、治従陽分。若因口鼻受氣、未必恰在足太陽経矣。
大凡吸入之邪、首先犯肺、発熱咳喘。口鼻均入之邪、先上継中、咳喘必兼嘔逆䐜脹。雖因外邪、亦是表中之裏。設宗世医発散陽経、雖汗不解。幼稚質薄神祛、日期多延、病変錯綜、茲以四氣常法列下。

 

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