霊枢 海論第三十三 の書き下し文と原文と

霊枢 海論第三十三のみどころ

人体には4つの海がある。
多くの鍼灸師がもつ人体観は十二経絡・奇経八脈、五臓六腑…で止まっていることが多いのではないだろうか。しかし、これら四海を理解することは臨床的に非常な意味がある。それでは本篇を読みすすめてみよう。


※『霊枢講義』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

霊枢 海論第三十三の書き下し文

海論第三十三(『甲乙経』巻一 四海第八、『太素』巻五 人合 四海合、『類經』巻九 経絡類 32人之四海)

黄帝、岐伯に問うて曰く、余、刺法を夫子に聞く。
夫子の言う所、営衛血氣を離れず。
夫れ十二経脈なる者は、内は府藏に属し、外は肢節に絡す。夫子乃ち四海に合するか?
岐伯答えて曰く、人は亦 四海十二経水有り。
経水なる者は、皆 海に注ぐ、海には東西南北有り、命けて四海と曰う。

黄帝曰く、以て人の之に應ずること奈何?
岐伯曰く、人には髄海有り、血海有り、氣海有り、水穀の海有り。
凡そ此れら四者を以て四海に応ずる也。

黄帝曰く、遠き哉!夫子、人の天地四海に合する也、願くば之が応ずることを聞かん、奈何?
岐伯答えて曰く、必ず先に明かに陰陽表裏、營輸の所在を知りて、四海定まらん①

黄帝曰く、之を定むること奈何?
岐伯曰く、胃なる者は、水穀の海、其の輸は上は氣街に在りて、下は三里に至る。
衝脈なる者は、十二経の海と為す、其の輸は上は大杼に在りて、下は巨虚の上下廉に出る。
膻中なる者は、氣の海と為す、其の輸は上は柱骨の上下に在りて、前は人迎に在り。
脳は髄の海と為す。其の輸、上は其の蓋に在り、下は風府に在り

黄帝曰く、凡そ此れら四海の者、何くにして利し何くにして害せん?何くにして生じ何くにして敗せん?
岐伯曰く、順を得る者は生き、逆を得る者は敗るる。調を知る者が利し、調を知らざる者が害す。

黄帝曰く、四海の逆順は奈何に?
岐伯曰く、氣海の有餘なる者は、氣が胸中に満ち、悗息して面赤し。
氣海の不足なるときは則ち氣少なく、以て言うに不足す。

血海の有餘なるときは則ち常に其の身の大なることを想いて、怫然として其の病む所を知らず。
血海の不足なるも、亦た常に其の身の小なることを想い、狭然として其の病む所を知らず。

水穀の海の有餘なるときは則ち腹満す。
水穀の海の不足なるときは則ち飢えて穀食を受けず。

髄海の有餘なるときは則ち軽勁多力にして、自ら其の度を過ぐ。
髄海の不足なるときは則ち脳轉じて耳鳴る、脛痠して眩冒す、目に見る所無く、懈怠安臥す。

黄帝曰く、余已に逆順を聞く。之を調すること奈何?
岐伯曰く、審らかに其の輸を守りて、其の虚実を調え、其の害を犯すこと無かれ。
順なる者は復することを得、逆なる者は必ず敗する。
黄帝曰く、善し。

四つの海とは…

四海には「氣海」「血海」「髄海」「水穀の海」がある。
言うまでもないことだが、経穴の氣海(任脈の経穴)血海(足太陰脾経の経穴)とは別モノである。

氣の海は膻中穴あたりがこれに相当する。膻中は内丹学では中丹田にも相応するとされ、ヨガにおいても重要なチャクラにも相当する。
膻中周囲は氣を聚めて練るにおいて適した処であり、病的にも氣が聚まり滞りやすい部位でもある。
気滞の反応としても膻中を圧痛は臨床でよく確認できる。但し、膻中の圧痛は鋭い痛みとしてあらわれることがしばしばであり、押圧の加減には注意を要する。

血海は文脈からみて衝脈とみて良いだろう。本文では「衝脈即是血海」といった語句は見受けられない。後代の医家、李時珍はその著書『奇経八脈攷』において「衝為経脉之海、又曰血海」と記している。

衝脈は血脈であり、十二経脈の海である。衝脈に関する記述は他にも『素問』骨空論、挙痛論、『霊枢』では五音五味篇、順逆肥痩篇、動輸篇、百病始生篇などに散見される。

下線部②、髄海は脳である(脳為髄之海)。血海と衝脈の関係とは裏腹に、髄海に関してはこのように直接的な表現をしている。又、その輸(兪穴)として「兪はその蓋と風府に在り(其輸上在於其蓋、下在風府)」と記しているのが興味深い。蓋とは頭蓋であり巓である。自ずと経穴の名も分かるだろう。(参考記事「『霊枢』寒熱病-奇経と脳の関係-」

水穀の海が胃腑であることは異論のないことであろう。その輸(兪穴)は氣街と三里に在り、という記述もまたむべなるかな、である。水穀の海に関しては今後も触れることが多いであろうため、これ以上のコメントは控えておく。

このように四海を通覧すると、奇経と海の関係は非常に密接であることが分かる。
髄海は督脈と関係し、氣海は任脈と関係し、血脈は衝脈と関与する。そしてその輸(兪穴、治する穴処)まで指定している。この記述は『奇経八脈攷』にも記載されており、鍼灸師にとっては重要な情報である。
特に衝脈の兪処が大杼、上下巨虚であるとの情報は、私個人としては臨床にて使う機会が多いものである。

冒頭にも書いたが、東洋医学の人体観には、五臓六腑、正経、奇経だけではなく、これら四海も加えるべきであろう。
海とは何か?を考えると、波そして周期という特性を考慮する。経絡にも波があるが、海の周期は経絡のそれとはまったく異質である。いずれにせよ藏腑経絡は恒常性を旨とする存在である。
この微妙な差異に目を向けることで、東洋医学における人体の複雑性を立体的に構築することができる。
この内容は講座【生老病死を学ぶ】にて解説した内容なので、これ以上は控えておく。

平人絶穀第三十二 ≪ 海論第三十三 ≫ 五亂第三十四

原文 霊枢 海論第三十三

■原文 霊枢 海論第三十三

黄帝問於岐伯曰、余聞刺法於夫子、夫子之所言、不離於營衛血氣。夫十二経脈者、内属於府藏、外絡於肢節、夫子乃合之於四海乎?
岐伯答曰、人亦有四海十二経水。経水者、皆注於海、海有東西南北、命曰四海。

黄帝曰、以人應之奈何?
岐伯曰、人有髄海、有血海、有氣海、有水穀之海、凡此四者以應四海也。

黄帝曰、遠乎哉!夫子之合人天地四海也。願聞應之奈何?
岐伯答曰、必先明知陰陽表裏營輸所在、四海定矣。

黄帝曰、定之奈何?
岐伯曰、胃者、水穀之海、其輸上在氣街、下至三里。
衝脈者、為十二経之海、其輸上在於大杼、下出於巨虚之上下廉。
膻中者、為氣之海、其輸上在於柱骨之上下、前在於人迎。
脳為髄之海、其輸上在於其蓋、下在風府。

黄帝曰、凡此四海者、何利何害?何生何敗?
岐伯曰、得順者生、得逆者敗。知調者利、不知調者害。

黄帝曰、四海之逆順奈何?
岐伯曰、氣海有餘者、氣満胸中、悗息面赤。氣海不足、則氣少不足以言。
血海有餘、則常想其身大、怫然不知其所病。血海不足、亦常想其身小、狭然不知其所病。
水穀之海有餘、則腹満。水穀之海不足、則飢不受穀食。
髄海有餘、則軽勁多力、自過其度。髄海不足、則脳轉耳鳴、脛痠眩冒、目無所見、懈怠安臥。

黄帝曰、余已聞逆順調之奈何?
岐伯曰、審守其輸、而調其虚実、無犯其害。順者得復、逆者必敗。
黄帝曰、善。

 

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