栄衛相生図解『博愛心鑑』上巻 その⑩

本章もまた栄衛と痘疹・痘毒の話です。本記事では蓍亀(しき)についても紹介しています。


※『痘疹博愛心鑑』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

書き下し文・栄衛相生図解

栄衛相生図解

血生ずる之を栄と謂い、氣守る之を衛と謂う。栄の性は静を好み、衛の性は動を好む。
動ずれば則ち情随い(陰血の性、氣の情に随えば、則ち氣を体するの道至るを言う也。)、静なれば則ち性順。(陽氣の性、血の情に順えば、則ち血を成すの功効を言う也。)順なれば則ち血生じ、随えば則ち氣守る。血生すれば則ち内固、氣守れば則ち外旺す。
故に血は心に向いて生じ、氣は肺に従いて主る(※主は當に生に作するべし)。
血栄氣衛、各々相生の道を盡す。人身の栄衛、即ち天地の乾坤。

乾坤は天地の徳を施す也。栄衛は血氣の徳を施す也。是に由りて尊卑の位有り、動静に常有り。
造化の一機に於いて合し、而して差うこと無し。之を譬えるに栄衛は氣血の先鋒也。痘毒は氣血の敵人也。
知者は必ず栄衛に滋養を加え以て其の賊を攻む。誠に万全の策也。
其の内の交会得失を窺うに及びて、必ず外の形色の善悪に於いて応ずれば、則ち痘に枯栄変易あり。信(まこと)に験(こころ)むるべし也。
蓋し痘、皮膚の間に出て稀処は必ず栄へ、密処は必ず枯れる。(これは)亦た滋養の及と不及との応のみ。惟だ人の氣血を身に受けて是の処に之有るは、猶(なお)天に風有り地に水有るが如し。二つの者は天地の間に於いて、往として在らざること無き也。夫れ萬物を開落するは風に頼り、萬物を滋養するは、水に頼る。
如(も)し天が風に応することを失えば、則ち開落すること成らず。地が水に応することを失えば、則ち滋養及ばず。栄衛は痘に応するに正に此こに在るなり。痘発するが若(ごと)き光沢は必ず先づ栄衛の盛んなる者に応じ、枯陥は必ず先づ栄衛の弱き者に応ずること有り。信(まこと)なるか!
栄衛は即ち痘の蓍亀(しき ※1)也。苟しくも形色の正しき者に応せざること有れば、治を加えざること得ず。
氣血は以て充溢を待ち、然して後に栄血は以て氣の情に随い、内に於いて根を培することを得。衛氣は以て血の情の順いて、外に於ける障(ふせぎ・へだて)を保つことを得る。
血入り氣出でて、交会順徳なれば、痘は必ず克応すること、桴鼓の若(ごと)し。
保元湯に非ずんば、得て而して其の功美を済し、以て其の滋養開落に応ず可けんや!
是の方の功効の力、氣を守るに在り。氣守れば則ち能く血を拘て位に附く。是に於いて痘形善にして変化応ずる。否なれば則ち栄衛相い背き交会は徳に逆して、血は載すること能わざれば則ち塌し、氣は拘すること能わざれば則ち陷す。
一つでも乖離抗して矛盾の若(ごと)きこと有れば、則ち痘毒悪形す。亦ら必ず中に感じ、而して外に応ずる也。彼の氣血守らざれば、猶(なお)風水の泮渙するが如し。理の自然、其れ何ぞ疑わんや!於乎(ああ)大いなる哉、保元は奏効の玄微にして能く太極の大道に順うことを効する。得て言う可からざる也。

栄衛は痘疹の蓍亀とは

本章「栄衛相生図解」も栄衛の性質を述べつつ、痘疹における栄衛のはたらきとそれを如何に治療に活用するか!?について論じられています。やはり前章「栄衛相生図序」と同様に、再び贅する必要はなく、それまでの章を参考にすべし、といったところでしょう。

余談ながら本文には「栄衛は即ち痘の蓍亀也。」という言葉が登場します。この蓍亀(しき)という言葉は『易経』繋辞伝上に登場します。

『易経』繋辞伝上
…(略)…
賾(ふか)きを探り隱(かく)れたるを索(もと)め、深きを鉤(つ)り遠きを致し、以て天下の吉凶を定め、天下の亹亹(びび)たるを成す者は、蓍龜(しき)よりも大いなるは莫(な)し。

■原文
…(略)…
探賾索隱、鉤深致遠、以定天下之吉凶、成天下之亹亹者、莫大乎蓍龜。……

蓍亀という言葉には、蓍(めどはぎ)を易占、亀を亀卜(きぼく)の意があります。この繋辞伝の言葉は「賾隱を探索し、天下の吉凶を定めるには易占と亀卜よりも偉大なるものはない」ということでしょうか。
本書『博愛心鑑』では「栄衛は即ち痘の蓍亀なり」とのことですので、痘疹という病の軽重吉凶を候う上で、より確かな存在が栄衛ということなのでしょう。

ちなみに『抱朴子』には「蓍の下には亀が埋まっている」という逸話があります。その逸話は『本草綱目』にも確認できます。これも一応、以下に引用しておきます。

『本草綱目』水龜
…(略)…
[集解]
時珍が曰く、甲虫三百六十にして神亀は之が長為(た)り。亀の形は離に象り、其の神は坎に在り。上は隆にして文(綾)あり以て天に法る、下は平にして理あり以て地に法る。陰に背き陽に向う。蛇頭龍頸、外骨内肉、腸は首に属し、能く任脉を運う。広肩大腰、卵生思抱す、其の息は耳を以てし、雌雄尾交す、亦た蛇と匹(たが)う。
或いは云く、大腰に雄無きと云う者は謬り也。今の人は其の底甲を視て、以て雌雄を弁す。亀は春夏を以て蟄を出で甲を脱す。秋冬は穴に藏れ導引す、故に霊にして多寿なり。
『南越志』に云く、神亀の大きさ拳の如くにして色は金の如し。上甲の両辺は鋸歯の如し、爪は至りて利し、能く樹に縁て蝉を食する。
『抱朴子』に云く、千歳して霊亀は、五色具する、玉の如く石の如く、変化すること測り莫し。或いは大或いは小、或いは蓮葉の上に游して、或いは蓍叢の下に伏する。
『張世南質』亀論に云く、…(略)…。

■原文
[釋名]
……
[集解]
時珍曰、甲虫三百六十而神龜爲之長。龜形象離、其神在坎。上隆而文以法天、下平而理以法地。背陰向陽。蛇頭龍頸、外骨内肉、腸屬於首、能運任脉。廣肩大腰、卵生思抱、其息以耳。雌雄尾交、亦與蛇匹。
或云大腰無雄者謬也。今人視其底甲、以辨雌雄。龜以春夏出蟄脱甲、秋冬藏穴導引、故靈而多壽。南越志云、神龜大如拳而色如金、上甲兩邊如鋸齒、爪至利、能縁樹食蟬。
抱朴子云、千歳靈龜、五色具焉、如玉如石、變化莫測、或大或小、或游於蓮葉之上、或伏於蓍叢之下。
張世南質龜論云、…(略)…

とても逸話めいた話ですが『抱朴子』にある霊亀は、五色を具えており、その姿は大小・玉石の如くと千変万化して陰陽不測に近いものがあります。そしてその霊亀は蓍(メドハギ)の下に伏しているとのこと。
また冒頭で李時珍がいう「亀の形神は離坎であり、上隆下平・文理は天地に法る」というのもなかなか古代中国的な物の見方だな~と思いう次第です。

さて、次回は『博愛心鑑』下巻の原痘に移ります。

栄衛相生図序 ≪ 栄衛相生図解 ≫ 順逆險三法図 ≫≫ 原痘

鍼道五経会 足立繁久

原文 『博愛心鑑』榮衛相生圖解

■原文 『博愛心鑑』 榮衛相生圖解

血生之謂榮氣守之謂衛。榮性好靜、衛性好動。動則情隨(言陰血之性隨氣之情、則體氣之道至也。)、靜則性順。(言陽氣之性順血之情、則成血之功効也。)順則血生、隨則氣守。血生則内固、氣守則外旺。故血向心生、氣從肺主。血榮氣衛、各盡相生之道。人身榮衛、即天地之乾坤。乾坤者施天地之徳也。榮衛者施血氣之徳也。由是尊卑有位、動靜有常。合造化於一機、而無差矣。譬之榮衛者氣血之先鋒也。痘毒者氣血之敵人也。知者必加滋養榮衛以攻其賊、誠萬全之策也。及窺其内之交會得失、必應於外之形。色善惡則痘有枯榮變易。信可驗也。葢痘出皮膚間稀處必榮密處必枯。亦滋養及與不及之應耳。惟人受氣血於身是處有之、猶天有風焉地有水焉。二者於天地間、無往而不在也。夫開落萬物賴乎風、滋養萬物賴乎水。如天失應於風、則開落不成。地失應於水、則滋養不及。榮衛應痘正在此耶。有若痘發光澤、必先應於榮衛盛者、枯陷必先應於榮衛弱者。信乎榮衛即痘之蓍龜也。苟有不應乎、形色正者、不得不加治。氣血以待充溢、然後榮血得以隨氣之情、培根於内。衛氣得以順血之情、保障於外。血入氣出交會順徳、痘必克應、若桴鼓焉。非保元湯、可得而濟其功美、以應其滋養開落乎。是方功効力在守氣。氣守則能拘血附位。於是痘形善而變化應矣。否則榮衛相背交會逆徳、血不能載則塌、氣不能拘則陷。一有乖離抗若矛盾、則痘毒惡形。亦必感於中、而應於外也。彼氣血不守、猶風水之泮渙。理之自然其何疑哉。於乎大哉、保元奏効之玄微、而能効順太極之大道。不可得而言也。

 

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