保元済会図『博愛心鑑』上巻 その⑦

本章「保元済会図」からはいよいよ治法の話に入ります。あの天然痘に対抗する秘策、保元湯とはどんな方剤なのか!?これは目が離せませんね。


※『痘疹博愛心鑑』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

書き下し文・保元濟會圖

保元濟會圖

惟れ人の栄衛は、元氣に根ざす。元氣が固なれば、即ち脉の内外を栄衛し、陰陽相済い、周流息まずして間断無きなり。蓋し痘毒の患いを為すこと、薬の神品霊性に非ざれば、奚んぞ以て氣血を平らげて而して治道を収むるに足らん也。
是れ故に人参を君と為し、中を守り徳を修む。是に由りて元氣は以て滋養を得る。
甘草を鼎鼐の臣と為し、造化を参じえ賛(たす)く。是に由りて陰陽は以て和平を得る。
黄耆は藩籬の臣と為し、宣を承け時を済う。是に由りて衛氣は以て補益を得る。
官桂を使令と為し中外を行らし、四維を通運す。是に由りて栄血は以て開導を得る。
然れば此の方、君臣の協恭、上下相済の道あり。故に総べて之を名づけて、元慧を得て生霊に及び、大功を建て大患を禦ぐと曰う。誠に王道の大なる、豈に虚語ならん哉!


※『痘疹博愛心鑑』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。

保元済会図

君臣済会は天道不息の機を体す / 氣血復元、薬性回生の力を全うす

君臣の道済う

人参甘草は元氣の内を補益す / 黄耆官桂は栄衛の間を出入す

〔元氣〕人参 〔肺・大腸・胃・脾・心・小腸・膀胱・腎・包絡・三焦・胆・肝〕
※〔肺・大腸・胃・脾・胆・小腸・膀胱・腎・包絡・三焦・心・肝〕と心胆の逆転した順の版本あり。
桂の氣味は、衛を開き栄を調う
甘草の氣味は、氣血交会の処に至りて陰陽を分理するを主る
黄耆來至表貞勝理備

栄衛相い生ず
元氣
栄は脉中を行き / 衛は脉外を行く

保元湯の方意について

本章は元氣と栄衛の解説から始まります。「栄衛は元氣に根ざす」とあり、元氣は中氣であり、栄衛の元である氣であることが分かります。中氣である故に、人参・黄耆・甘草・桂から成る保元湯で補益することができるのでしょう。

とくに人参・甘草・黄耆は、清暑益気湯においては君薬として機能します。『内外傷弁惑論』暑傷胃氣論では「以黄芪、人参、甘草、補中益氣為君。」とあり、中焦を補い氣を益す薬能を持ちます。
もちろん補中益気湯にても黄耆・人参・甘草は中心的な役割を果たします。君薬との表記はありませんが「飲食労倦論 立方本旨」では、黄耆が最も多く用いられ、次に人参甘草がそれに次ぐ…とあります。

中焦を起点に胃氣・中氣を益し、その氣を官桂によって四方に通達運行します。その氣に乗せて栄血を行らすことができるのです。これを本文では「栄血が開導を得る」と表現されています。

次章「保元済会図説」でもこれら四薬の薬能について詳しく記されています。

氣血交会不足図説 ≪ 保元済会図 ≫ 保元済会図説

鍼道五経会 足立繁久

原文 『博愛心鑑』保元濟會圖

■原文 『博愛心鑑』 保元濟會圖

惟人之榮衛、根乎元氣。元氣固、即榮衛於脉之内外、陰陽相濟、周流不息、而無間斷矣。葢痘毒之爲患、非藥之神品靈性、奚足以平氣血而収治道也。是故人參爲君、守中修徳。由是元氣得以滋養。甘艸爲鼎鼐之臣、㕘贊造化。由是陰陽得以和平。黄耆爲藩籬之臣、承宣濟時、由是衛氣得以補益。官桂爲使令行中外、通運四維、由是榮血得以開導。然此方有君臣協恭、上下相濟之道。故總而名之、曰得元慧及生靈、建大功禦大患。誠王道之大。豈虚語哉。

保元濟會圖

君臣濟會體天道不息之機 / 氣血復元全藥性囘生之力

君臣道濟
人參甘艸補益元氣之内 / 黄耆官桂出入榮衛之間
〔元氣〕人參 〔肺・大腸・胃・脾・心・小腸・膀胱・腎・包絡・三焦・膽・肝〕
※〔肺・大腸・胃・脾・膽・小腸・膀胱・腎・包絡・三焦・心・肝〕と心膽逆転した順の版本あり。
桂氣味開衛調榮
甘艸氣味主至氣血交會處分理陰陽
黄耆來至表貞勝理備

榮衛相生
元氣
榮行脉中 / 衛行脉外

 

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