運動と発熱は同じ

運動と発熱は同じである。

「運動と発熱は同じこと」なんて書くと奇異に感じる人もいるかもしれません。

しかし、東洋医学で(特に漢方・湯液医学の視点から)治療している先生からはある程度の共感を得られるかと思います。

☞ 運動によって体内に熱が産生され、その余剰の熱を放散するために発汗する。
☞ 発熱も病をきっかけに生じた熱を発汗によって発散・発表する。
 
両者の違いは、人為的な発汗によって放熱するか、病をきっかけとして発汗・放熱するかの違いです。
共通点をもう一つあげるならば、両ケースともに「疲れる・しんどい」ということでしょうか。

諺(ことわざ)「夏に日焼けすると冬にカゼひかない」は本当か?

こんな諺(ことわざ)があります。
「夏に日焼けすると冬にカゼをひかない」

おばあちゃんの知恵袋などで見たこと聞いたことのある人はいないでしょうか。

夏に日焼けすると冬にカゼひかない、とは言っても、
一般的な感覚だと「医学的根拠はありません」という回答で終わってしまいそうですね。

しかしこの言葉は「日焼け=カゼをひかない」という図式を言っているのではないと思われます。

ここで「夏に日焼けをするということは…?」そして「発汗するということは?」という現象についてもう少し考えてみましょう。

夏に日焼けするということは、屋外に出て体を動かしているということです。
この時、体はしっかりと汗をかいて体温調整をしています。

【運動→発汗→放熱】という体の使い方を 夏の間に覚えている、ということです。
スムーズな発汗機能を身につけるということは…

常日頃から発汗しているということは、
①体温上昇時にスムーズに発汗できる
②発汗がスムーズ=解熱もスムーズ(or 高熱化・重篤化を避けやすい)

つまり治癒への転機が実にスムーズに起こるのです。

これに対して運動していない、汗も出していない人が、体の異常事態に際して
速やかに発汗し、スムーズな体温調整ができるのか?ちょっと疑問ですよね。
なので、桂枝湯や麻黄湯や葛根湯などのサポートを必要とするのでしょう。

もっと東医的にみると、普段から運動をしているということは、
表気(衛気)を皮表まで日常的に行らせている証拠でもあります。
結果、風寒の邪が侵入しやすい体作りにもつながります。

 

このようにみると「夏に日焼けすると、冬にカゼひかない」はあながち迷信的な諺ではないようにもみえてきますね。
「冬にカゼをひかない」→「冬にカゼをひきにくい、譬えカゼをひいても治すのが上手くなる」と言い換えると、
実に有効な健康法・養生法だといえるのではないでしょうか。

運動を東洋医学でみると…

もう少し外感病について説明を続けます。

日頃から運動して発汗している人は、体内にくすぶる熱をこまめに発散していることになります。
つまり内熱・鬱熱を強制的に発散・処理していることなのです。

また、発汗することで、不要な水(湿痰)を追い出すことにもなります。
運動することで気滞・鬱熱の解除にも結び付きます。

このような内在伏在する邪を処理しておくことは、熱病の長期化や高熱化の可能性を低下させることにもなります。

もちろん、予防にもなり得ます。
というのも、無形の風邪・寒邪が体に居つくには、足がかりが必要です。
その外邪にとっての足がかりとなるのが、湿痰や気滞・内熱だともいえます。

外邪の侵入マニュアルを書くならば…
(外邪が)人体に接近・侵入します。衛氣の防衛ラインをかいくぐって、内在の伏邪と協力、衛気と戦い侵入経路および足場を確保します。このとき衛氣と戦うことで熱化し熱病となるのです。
内在の伏邪が、熱邪であれば鬱熱化・高熱化しやすく、湿邪であれば粘着質に居座りやすくなります。

もちろん、外邪が侵入するためには“正気の虚”があることも必要条件です。
同時に病として立派に成長するためには“体の内邪伏邪と協力し合うこと”も重要な条件なのです。
(※邪氣視点で書いています)

邪氣視点ついでに、もう一つ。
足場・拠点についても把握しておいた方がいいでしょう。

邪氣にとって人体に侵入することはひと苦労です。
表は衛氣(防衛軍)がウヨウヨしています。

特に太陽病位は衛氣だらけ、見つかればすぐさま戦闘が始まり、汗まみれになって体外に排除されます。
陽明病位は、血の気が多くて、高熱を発してコテンパンにやられます。
陽明腑位に侵入しようものなら、吐下という下痢まみれ、ゲ●まみれ(吐しゃ物として)になって排除されます。

邪氣も大変なのです。

まだ少陽病位は穏やかかもしれません。なので往来寒熱といった比較的穏やかな熱型での表現になるのでしょうね。

さて、運動とカゼ予防の関係についての考察を紹介しましたが、
その中で鍼灸師ができることって、意外とあるものですね。

なにも熱病を治せる鍼灸師が凄いのではないのです。

普段から、こまめに正しく運動を薦めることができ、
湿痰・湿熱が蓄積しない生活習慣を指導することできて、
それでいて、普段の臨床にて“内邪・伏邪”の処理をキッチリできる…そんな仕事こそ、鍼灸師に向いているといえるでしょう。

 


「酷暑だ・猛暑のため熱中症が怖い」とばかりに
クーラーにこもり、水分補給を推奨することは熱中症対策の話であって、次の季節の対策になりません。

治未病どころか、病邪蓄積・病産生に直結することです。

※全ての人が夏季の発汗すべきであるとは言いません。
個々の証や状況により発汗の適・不適は変化します。
それらの条件を見極めたうえで、生活指導することも鍼灸師のお仕事だと言えるでしょう。

※上記のカゼ・発熱・熱病を、「痛み・疼痛」に置き換えても、大きな差異はないとも考えています。
(もちろん、痛みの質・種類にもよります)

鍼道五経会 足立繁久

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