霊枢 決気第三十 の書き下し文と原文と

霊枢 決氣第三十のみどころ

本篇決氣には人体を構成する六つの要素について記されている。
一般的には「氣・血・水」といった三要素がよく知られている。この分類は東洋医学をよく知らない人でもイメージしやすいのが長所である。当会でも「氣への鍼・氣の治療」「水への鍼・水の治療」「血への鍼・血の治療」と分類整理している。
本篇本文では氣血水をさらに「精・氣・津・液・血・脈」とさらに細分化していることが興味深い。


※『霊枢講義』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

『霊枢』決氣第三十の書き下し文

『霊枢』決氣第三十(『甲乙経』巻一 陰陽清濁精氣津液血脉第十二、『太素』巻二 摂生 六氣、『類經』巻四 藏象 25精氣津液血脉脱則為病)

黄帝曰く、余聞く、人に精・氣・津・液・血・脈有り。
余の意(おもう)に以て一氣為(た)る耳(のみ)。今乃ち辨じて六名と為す。余、其の然る所以を知らず。

岐伯曰く、両神相搏ち、合して形を成す、常に身に先んじて生ずる、是を精と謂う。

何をか氣と謂う?
岐伯曰く、上焦開発し、五穀の味を宣べ、膚を熏じ、身を充たし、毛を澤し、霧露の漑ぐが若し、是を氣と謂う。

何をか津と謂う?
岐伯曰く、腠理発泄し、汗出でること溱溱たり、是を津と謂う。

何をか液と謂う?
岐伯曰く、穀入りて氣満つる、淖澤として骨に注ぐ、骨属屈伸、洩澤し、脳髄を補益し、皮膚潤澤す。是を液と謂う。

何をか血と謂う?
岐伯曰く、中焦、氣を受け汁を取り、変化して赤し、是を血と謂う。

何をか脈と謂う?
岐伯曰く、営氣を壅遏して、避くる所無からしむる、是を脈と謂う。

黄帝曰く、六氣なる者、有餘不足、氣の多少、脳髄の虚実、血脈の清濁、何を以って之を知らん?
岐伯曰く、精脱する者は、耳聾し。
氣脱する者は、目明ならず。
津脱する者は、腠理開き、汗大いに泄れる。
液脱する者は、骨属屈伸利せず、色夭し、脳髄消し、脛痠して、耳数(しばしば)鳴る。
血脱する者は、色白く、夭然として澤せず、其の脈は空虚なり、此れ其の候也。黄帝曰く、六氣なる者の貴賤は何如?
岐伯曰く、六氣なる者、各々に主る部有る也。其の貴賤善悪、常主と為るべし、然して五穀と胃とを大海と為す也。

気血水×2

冒頭でも書いたが「氣水血」の三要素は専門知識を詳しく知らない人であってもイメージしやすい表現である。
なぜなら自然界の理に通ずるものがあるからだと考えている。

「氣水血」という表現は、小中学校の理科で習った「物質の三態」を髣髴させる。
すなわち無形である「氣」は気体に相当し、「水」が液体であるのは言うまでもない。そして血は病態化するとより有形の要素を強める。瘀血や瘀血塊などはその例である。

さて本篇では、これら氣水血の三要素をさらに陰陽に分けてバリエーションを増やしているようにも見える。
氣は精と氣に、水は津と液に、血は血と脈に…といった具合である。

このように氣水血×2(陰陽)と考えることで、思考の固定化を防ぐことにもつながり、臨床で活かせるのではないだろうか。

氣はどちらの氣?

本篇における気に関しては衛気・営気・宗気の分類でみるならば、どの氣について言及しているのだろうか?

「上焦開発宣五穀味、熏膚、充身、澤毛、若霧露之漑、是謂氣」そして「氣脱者、目不明」の記載が本篇にはある。平人絶穀の内容「上焦泄氣、出其精微、慓悍滑疾」とも合わせると、とある氣の性質を連想させる。

ここで再び衛氣と営氣のトリセツを確認しよう。
衛気は「衛氣者、水穀之悍氣也。其氣剽疾滑利、不能入於脈也。故循皮膚之中、分肉之間、熏於肓膜、散於胸腹。」であり、
営気は「営者、水穀之精氣也。和調於五臓、灑陳於六府、乃能入於脈也。故循脈上下、貫五臓、絡六府也。」である。
これらの情報を比較すると、決氣篇における「氣」は衛気と営気、両者の性質を折衷して述べているようにも見受けられる。

他にも海論と関係している要素「氣」「脳髄」「血」が散見され、こちらの方面から考察を深めるのも面白いかもしれない。

師傳第二十九 ≪ 決氣第三十 ≫ 腸胃第三十一

鍼道五経会 足立繁久

原文 霊枢 決氣第三十

■原文『霊枢』決氣

黄帝曰、余聞人有精氣津液血脈。余意以為一氣耳、今乃辨為六名。余不知其所以然。
岐伯曰、両神相搏、合而成形、常先身生、是謂精。
何謂氣? 岐伯曰、上焦開発宣五穀味、熏膚、充身、澤毛、若霧露之漑、是謂氣。
何謂津? 岐伯曰、腠理発泄、汗出溱溱、是謂津。
何謂液? 岐伯曰、穀入氣満、淖澤注於骨、骨属屈伸、洩澤補益脳髄、皮膚潤澤是謂液。
何謂血? 岐伯曰、中焦受氣取汁、変化而赤、是謂血。
何謂脈? 岐伯曰、壅遏営氣、令無所避、是謂脈。

黄帝曰、六氣者、有餘不足、氣之多少、脳髄之虚実、血脈之清濁、何以知之?
岐伯曰、精脱者、耳聾。
氣脱者、目不明。
津脱者、腠理開、汗大泄。
液脱者、骨属屈伸不利、色夭、脳髄消、脛痠、耳数鳴。
血脱者、色白、夭然不澤、其脈空虚、此其候也。

黄帝曰、六氣者、貴賤何如?
岐伯曰、六氣者、各有部主也。其貴賤善悪、可為常主、然五穀與胃為大海也。

 

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