大脈と小脈『診家枢要』より

大脈はどのような実脈なのか?

さて大脈と小脈の回です。今回も大・小セットで紹介します。
脈大というと純粋に100%実証のイメージを持ちやすいですが、どうでしょう?
まずは滑伯仁先生の大脈論をしっかり読んでみることにしましょう。

大脈とは、小ならざる也。
浮にてこれを取れば浮にして洪なるが若し、沈めてこれを取れば大にして無力。
血虚し気 相入れること能わざる也。
(「之を虚と為す。気 相入れること能わざる也。」の説もあり。)
経に曰く、大なるは病進と為す。

大脈の持脈(脈の取り方)について詳細に説明してくれています。
浮位にては浮にして洪なるがごとし、沈位にては大にして無力。
大脈の説明に大を用いるのは不可解な点もありますが、それは置いておいておくとして、脈の2層構造における力の比率とそのベクトルが良くイメージできる説明文です。

「血虚し気を相入れること能わず」というのが文の解釈は少し難しい所ですね。
血虚のため、血氣が相い入れることができないという状態。
血虚というよりも大きく陰虚とする方が脈の形状にマッチするように個人的には思う所です。(人によって陰虚の解釈が大きく異なると思うので、あくまでも個人的にとさせていただきます)

脈における浮沈陰陽、そして人体における氣血陰陽の偏差が大きいということを伝えたいのでしょう。陽明病に大脈がみられるという説があるのもうなづける脈診人体観です。

また「之を虚と為し、(それがために)氣が相い入れること能わざる」という説もあります。これも氣における陰陽の偏差としてもみることは可能か…ちょっと無理があるかもしれません。「氣が相い入れること能わず」とは双方の氣が交流することができない、という意の言葉でしょうが、対比となる氣といえば衛気と営気、営衛不和の状態が大脈を示すというのは少し無理があるかもしれませんね。

ジブリ絵にみる陰陽対立のイメージ

上記 大脈の表現に「虚するゆえに氣を相い入れること能わず(一方の虚のために他者を許容することができず反発してしまう)」という表現がありました。
(これを正しい大脈の理解表現とするには賛否両論あるでしょうが一旦置いておくとして)

Q1、以下のジブリ絵には3つの対立シーンを挙げています。それぞれの陰陽対立のイラストと自分の思う大脈イメージにマッチするものを選んでみてください。

イラストa,山犬の姫サンとエボシ様が刃を交え戦うシーン

スタジオジブリの作品静止画『もののけ姫』より

イラストb,ただのワンパク小僧だと思っていたカンタに突然 傘を差しだされちょっと戸惑うサツキちゃん(※イラストはカンタ君のみのシーン)


スタジオジブリの作品静止画『となりのトトロ』より

イラストc,気になる魔女子さんに積極アプローチするトンボと、ちょっとツンな感じのキキ

スタジオジブリの作品静止画『魔女の宅急便』より

Q2,各イラストのイメージに相応する脈状をそれぞれ考えてみてください。

このような思考トレーニングをすると、脈診は決して「脈状を覚える」といっただけのものではないことを理解してもらえると思います。
大事なのは、脈状の裏側にある陰陽・氣血水・正気と邪気…などの動きやベクトル、さらに言うとそれらのストーリーを観るもの、それが脈診だということです。

以下に原文を付記しておきます。

■原文 脉陰陽類成 大

大、不小也。
浮取之若浮而洪、沈取之大而無力。
為血虚氣不能相入也。(「為之虚、気不能相入也。」の説もあり。)
経曰、大為病進。

次は小脈といきましょう。小脈は脈の形状とその性(証)、そして具体的な病症が記されているので、大脈に比べて解釈しやすいかと思います。

小脈とは、大ならざる也。
浮沈にしてこれを取るも、悉く皆な損小す。
陽に在りては陽不足と為し、陰に在りては陰不足と為す。
前大後小なるときは則ち頭疼目眩。
前小後大なるときは則ち胸満氣短。

小脈は大脈の対極にある脈状です。
浮位・沈位にて脈を取っても、ともに小である。
陽(浮や寸)における小脈は陽不足、陰(沈や尺)における小脈は陰不足である。

文中の「前大後小」とは寸大尺小とも解釈できます。
寸口脈大は上半身の陽実所見であり、尺中脈小は下半身の陰虚所見であります。
寸口大が頭疼を示し、尺脈小が眩暈(の本体や根っこ)を示しています。

このような脈初見にて往々にして誤りやすいのは、寸口大脈のみに注目してしまうこと。さらに問診で「頭痛がある…」と聞き、上の実症のみに対して治療することで誤診誤治に至る可能性も十分にありますので注意を要します。

次の「前小後大」も推して知るべしですね。
前後と上下、陰陽、そして虚実の組み合わせは他にもいろいろな応用パターンがあります。
陰陽を理解すれば、我々鍼灸師は陰陽を自在に駆使して臨床にて治療を組み立てることができるのです。

鍼道五経会 足立繁久

以下に原文を付記しておきます。

■原文 脉陰陽類成 小

小、不大也。浮沈取之、悉皆損小、在陽為陽不足、在陰為陰不足。
前大後小、則頭疼目眩。前小後大、則胸満氣短。

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