革脈とは『診家枢要』より

革脈の時間です。革脈という脈象・脈状は見慣れないな…という人は多いかもしれません。

脈の陰陽類成 革

革脈は、沈伏実大、(これを按じて)鼓皮の如くなるを革と曰う。

氣血の虚寒、常の度に革易す也。
婦人なるときは則ち半産漏下し、男子なるときは則ち亡血失精す。
又は中風寒湿の診と為す也。

革脈の形状

革脈は沈伏実大の脈で牢脈に似ると言われています。牢脈との比較はまた次々回の牢脈の時に触れてみましょう。
また革脈の病症に亡血という言葉があるが、失血の脈である芤脈とはかたや「浮大而軟」の芤脈と「沈伏実大」の革脈では、その脈の形状に大きな違いがあるとみてよいでしょう。

「鼓皮の如くなる」という比喩がありますが、これはどう捉えるべきでしょう。
現代の太鼓であれば、その表面(鼓皮)は滑らかに仕上げられています。しかし当時の原始的?な太鼓の革はどんな手触りだったのでしょう。
ずいぶん昔の話になりますが、海外の民族楽器の太鼓を安く購入したことがあります。その太鼓の打面の革はずいぶんザラザラとしていたことを記憶しています。

元代以前の太鼓の革(鼓皮)がどんな質だったのか?
革漉き鉋などの道具を用いて丁寧に作っていたのか?…等々、そのような点までは調べきれていないのが正直なところです。

また、革の質にのみ注目していますが、太鼓の革のピンと張った様を譬えとして記しているのかも考えないといけません。革脈の証が太鼓の革のように堅く張るような証にはあまり想像がつかないですが…

ということで革脈の証、革脈が表わす体質をみてみましょう。

革脈の証

本文では気血の虚寒であり、常度を革易する…とあります。
革易とは革(あらため)易(かえる)ことです。

「革=あらためる」という見方は、易の革卦(澤火革)や五行の金行の性質、従革を連想させます。

いずれにせよ「常の度を革易する」ということは、通常のレベルを超えて、別のレベルや質に転化する…といった印象を受けます。

気血が虚すことで寒が入るということでしょうか…まずこの前提で考えてみましょう。
気血が虚す…ここまでは、虚脈・微脈・緩脈といった脈状です。しかし、さらにその先を考えてみましょう。
この気血両虚の隙間に乗じて陰邪が侵入します。(※1)
この時、血の位まで虚しているため、かなり深い層にまで陰邪の侵入を許すことになるでしょう。
病位を示すワードは「沈伏」です。そして病邪の侵入を示すワードは「実大」です。

そもそも気血両虚なのに虚系の脈を示していないのが不可思議です(沈伏は脈位であり、脈状は実大です※2)。
革脈の説明文は他の脈状に比べると、二段階の病態理解が必要となる珍しい解説文といえます。

以上の考察にはそれなりに穴がありますので少しフォローを…。
※1、虚寒はただの陽気の虚ではないか?というご指摘もあるかと思います。この考え方は以下の『傷寒論』の寒虚相搏のみかたに近いのかもしれません。
※2、沈脈を示し、裏位に病位がシフトしている時点で表気の虚を示しています。ですので、ある程度の虚証の所見ではあります。

このような表現は『傷寒雑病論』の革脈の条文にも記載されています。

傷寒論における革脈は?

■弁脈法
脈弦而大、弦則為減、大則為芤。減則為寒、芤則為虚。寒虚相搏、此名為革。婦人則半産、漏下、男子則亡血、失精。

脈が弦で大を示す。弦脈は減をあらわし、減とは寒をあらわす。また、芤は虚である。寒と虚が相い搏(う)つ、これを革という。
女性の場合は半産、漏下。男性の場合は亡血、失精の疑いあり。

『金匱要略』血痹虚勞病編に同文が記載されています。

弦と大(大は芤に近似)、いずれにせよ、弦・大・芤はすべて外剛内柔の分類に属する脈象です。これら三脈の要素で構成される革脈もまた外剛内柔に属することになります。
となると困りました…。

なぜなら『診家枢要』における革脈は「沈伏実大」と外剛内柔の趣きがあまり感じられない表現を採用しているのです。唯一、外剛内柔を感じられるのが大です。
現代では、革脈は牢脈や芤脈と似ているという説もあるようですが、その原因はこの点にあるのかもしれません。
次々回の牢脈と前回の芤脈を内容からすると、牢脈と芤脈が似ていると言われてもちょっとよく分からないですね。似てない両脈に似ている革脈って…と思うのは私だけでしょうか。(ま、別の脈診書では牢脈と芤脈が似ているという説もあるのかも?)

では視点を変えてみましょう。『診家枢要』と同じく元代の脈診書『崔氏脈訣』はどのような意見なのでしょう。
『崔氏脈訣』またの名を『崔真人脈訣』は脈診を四言詩の形で伝授しています。

そしてこの書『崔氏脈訣』では革について何と言っているのでしょうか?
ここでは「弦大虚芤、脈曰改革」と表現しています。

ふーむ…。
『傷寒論』と同じく外剛内柔の系統の脈象ですね。

意見が分かれました…。
この点に関しては後代の李時珍も『瀕湖脈学』にて言葉を濁すように記している印象を受けます。(この話もそのうち『瀕湖脈学』の記事にて触れようと思います)
沈伏実大の外剛内柔のあまり感じられない系統か、弦大芤のバリバリ外剛内柔系の革脈か…、また今後の課題ということで!

しかし重要なのは脈の形だけではないのです。
誤解を恐れずにいうと、亡血失精の証を示すのは外剛内柔であっても、そうでなくてもどちらも可です。これは今までの脈状の内容を読めば分かっていただけるかと思います。
大事なのは、気血両虚に到るまでのストーリー、そして気血両虚に到ってからのストーリーを脈から読み解くことです。

ジブリ絵で譬える脈のこと

イラストa、宗介クンとなかよしのポニョ

イラストb、宗介くんと仲良くらーめんを食べるポニョ

※スタジオジブリの作品静止画『崖の上のポニョ』より使用させていただきました。

形は違えどもポニョであることはかわらずやっぱりポニョ。
しかし、じゃあ“魚ver.”と“ヒトver.”のポニョは同じなの?と聞かれると、やっぱり同じではない。
違うのはナニか?と考えることが大事なのです。

 

鍼道五経会 足立繁久

以下に原文を付記しておきます。

■原文 脉陰陽類成 革

革、沈伏實大(※)如鼓皮曰革(※)、氣血虚寒、革易常度也。
婦人則半産漏下、男子則亡血失精。
又為中風寒湿之診也。

※沈伏實大;此慎徳堂本有注文“延按”
此是革脉之象、似宜作牢脉看。原注與牢脉互換、疑未妥。

※革;此下余本有注文“延按”:浮大有力、中沈不可得見。

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